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訳し下ろす

2012年02月17日 22時41分51秒 | お仕事・学び
この連載の目次

(前回から続く)

前回は訳し上げの問題点について述べました。訳し上げの問題を検討するにあたって、以下の英文を例に挙げました。

This is the pen with which he wrote the novel.

訳し上げによる問題を回避する方法はあるでしょうか。この程度の長さの文であれば、訳し上げても理解しにくくはならず、文の勢いをそいでしまう懸念も少ないのですが、簡単な例として上記の英文で検討してみます。

訳し上げが問題になる理由は、前回説明したとおり、文を解釈するときの保留事項が増えてしまうからです。保留事項を増やさないようにするには、原文の語順に従って翻訳するのが一番です。上から下へ、という順で翻訳するイメージから、これを「訳し下ろし」と言います。

一口に訳し下ろすと言っても、英語と日本語では文の組み立て方が違います。文をどこで区切るか、語順をどうするかは、状況に応じて何とおりも考えられます。基本的な考え方は以下のとおりです。
原文を翻訳するのではなく、原文が言わんとするところを日本人が日本語で発したら、どのような文になるか。
原文にとらわれないことが肝要です。

例えば、ミステリー小説で、事件を解く鍵が1本のペンであるという伏線を張っているとします。警部が新米刑事に説明する場面で上記の英文が出てきたならば、
これがそのペンだ。これで彼はあの小説を書いた。
これだ。このペンで、彼はあの小説を書いたんだ。
などの訳が考えられます。もちろん、状況に応じて別の語順も考えられます。

一方、ある小説家の記念館で、館員が来館者に小説を紹介し、その小説の隣に展示しているペンを説明する場面であれば、
これは、彼がその小説を書くのに使ったペンです。
と訳し上げても問題はありません。小説を書いたことが既に両者に共通の知識となっているため、「彼がその小説を書」いたことはひとまとまりの情報になっています。実質的に
これは、XXXに使ったペンです。
と同等であり、解釈にあたって頭の中で多くの情報を保留しておく必要はないと考えられます。

注: このような場合、日本語では普通「彼」と言わないでしょうが、「彼」という訳語はそのまま残してあります。「彼」の位置に別の語句 (固有名詞など) が来ても文の構造は変わらないからです。
例: これは、川端康成が「雪国」を書くのに使ったペンです。
今は文の構造を検討しているのであり、訳語が自然か不自然かを議論しているわけではないので、「彼」で代表させます。

(次回に続く)