みぃちゃんの頭の中はおもちゃ箱

略してみちゃばこ。泣いたり笑ったり

手のひらでみるみる溶ける

2012年02月07日 22時36分18秒 | 日常のあれこれ
胸の中に渦巻く思いを伝える言葉が見つからない。

胸の中に渦巻く思いが、言葉では伝わらない。

胸の中に渦巻く思いは、言葉にしなくても伝わる。

思いは波紋となって広がり、相手の心に触れると、その心と混ざり合い、溶け合う。思いは、相手の心と手を取り合ってひとしきり踊ると、また波紋となって返ってくる。

小さな体のまま成長を止めた少年は、誰に語るでもない内緒の物語を、肩に鳩を乗せた少女とともに、熱く、静かに、ゆっくりと紡ぐ。その物語がまとう、かすかなにおい。氷河の厚い壁に閉じ込められて何千年も眠っていた記憶と同じにおい。青白い光の中で、はじける空気の音だけが、いつ果てるともなく響く。忘れた頃を見計らうように開く真っ赤なクレバス。氷の壁が轟音を立て、おびえる記憶をあざ笑う。

Enyaの曲を聞くような、透き通った物語。ガラス細工のように壊れやすい世界。そっと、そっと手のひらに乗せているだけでも、みるみる溶けてしまうほどに。

●猫を抱いて象と泳ぐ (小川 洋子 著、文春文庫)

book0007.jpg: 「猫を抱いて象と泳ぐ」(小川 洋子 著)