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 8/10宵 スピカ食(20:25頃潜入@東京)

吸収型光害カットフィルターの効果

2023-08-16 15:15:06 | 撮影機材

星空の撮影において邪魔になる市街光を軽減するための「光害カットフィルター」というものが市販されています。
本格的な天体撮影用途では、光学ガラス表面に屈折率の異なる材料の薄膜を数多く積層した干渉型のフィルターが
持てはやされてきましたが、その特性により広角レンズを用いた撮影では写野の中心部と周辺部で色味が変わり、
色ムラのある写りになってしまう問題がありました。

一方、3~4年前から市販され始めた色ガラス系の吸収型光害カットフィルターでは広角レンズでも色ムラが出ず、
特に星景写真(地上風景を取り入れた星空写真)や夜景の撮影用途で人気があるようです。但し、干渉型フィルター
よりも光害カット効果はマイルドなようで、どの程度のパフォーマンスを示すのか気になってました。

そこで、国内メーカー2社が販売しているものを入手し、広角レンズではなく敢えて望遠鏡による天体撮影を行い、
その効果を確かめてみました。その撮って出し画像がコレです。


キヤノンEOS Ra+タカハシFSQ-85EDP+レデューサーCR0.73×,F3.8,ISO1600,露出5分,
赤道儀使用(恒星自動ガイド),静岡県東伊豆町にて撮影

撮影対象はカシオペヤ座にある「ハート&ソウル星雲」で、撮影時の地平高度は40度弱。
撮影地からは北東の空に見えていて、伊東市や熱海市の市街光が気になる空域でした。
試したのはマルミ光機製の"StarScape"ケンコー製の"STARRY NIGHT"の2品です。
どちらもフィルター無しの画像と比べてバックが暗く沈んで、カラーバランスが大きく崩れたりせず星雲の
コントラストが良くなることを確認できました。効果は StarScape<STARRY NIGHT という感じでしょうか。
どちらのメーカーもwebサイトに分光透過率チャートを公開しており、主にナトリウム灯による黄色系の光を
抑制しているようですが、その波長帯域の透過率はStarScapeで20%程度、STARRY NIGHTで10%程度と読み取れ、
やはりSTARRY NIGHTの方が同帯域のカット率が大きいことが分かります。また、分光透過率曲線を比較すると
全体的な波形パターンが酷似していることから使用色材は同じものであって、ガラスへの添加量もしくは
ガラス厚の違いがパフォーマンスの差として現れているのではないかと推察されます。

さらにネット上で調査してみたら、具体的な色材はどうやら酸化ネオジム(Nd2O3)という化合物のようで、
工業用途では分光光度計の波長校正用フィルターとして使われてきたものと同じらしいことが分かりました。
元々存在していた所謂"BtoB"の製品を"BtoC"の製品に転換したところ、ちょっとしたヒット商品になったのなら
面白いことですねぇ。ちなみに、ネオジムは100円ショップで売ってる小型強力磁石にも使われている元素で、
なんとハイブリッド車や電気自動車のモーターに不可欠な永久磁石にも用いられているんだそうですよ。
なお、ネオジムはレアアース元素の一つで、産出量は中国がダントツというのが少し気になります。

話が逸れましたが、吸収型光害カットフィルターが主に抑制するのは前述のとおりナトリウム灯が発する光と
いうことになりますが、道路の照明などに使われてきたナトリウム灯は白色LEDにどんどん置き換わっていて、
この手の対光害フィルターはいずれ無意味なものになるかもしれません。LED照明の発光波長は可視光域全体に
渡っているため、天体撮影は今後益々難しくなりそうな気がします。



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