
☆初秋のキャンプ場
久しぶりに心の底から癒され、浄化されるような素晴らしいキャンプだった。
家人と水入らず過ごせた森の中は天気に恵まれ、ひたすら静かだった。理想的な条件下でのキャンプではあったが、それ以上に予期せぬ素敵な出逢いが待っていてくれた。
先週の9月2日(木)から5日(日)までの4日間、遅い夏休みを過ごしたのは信州のわが家のホームグランドと化している高原である。
当初の予定ではもう何日かよけいに休みをとるつもりだったが、直前になって、さすがに長い休みは困難になり、三泊四日のぼくとしてはありきたりの日程になってしまった。
あらかたの学校の夏休みが終わった直後の平日、朝も遅めの出発だった。のんびりクルマを走らせ、キャンプ場へ向かう途中の地元スーパーでグダグダと買物をしたりして、現地へは午後3時をだいぶまわってからの到着となった。
太陽が西に傾いたキャンプ場には作業をする管理人さんたちの姿しかない。それでも、もうひと組が先に着いているとのことだった。
テントさえ見えないのは、きっと遠く離れた別のサイトに落ち着いているのだろう。結局、夜になっても気配さえなく、翌朝、はやばやと撤収していくクルマをチラリと見ただけだった。
二日目こそ、キャンプ場全体に数組が入ったが、ぼくたちのテントのあるエリアは相変わらず独占状態で、わずかに隣のエリアにソロ用のテントがひと張りあったが、距離があるのでテントの主が若い男性らしいということくらいしか視認できなかった。
三日目は土曜日とあって、さすがに朝から次々とクルマがやってきてにぎやかになったが、大半はただ遊びにきただけの人たちだった。午後も遅めになるとバイクキャンパーが主流になる。それも集団はおらず、1~3人の単位ばかり。ほかに四駆のグループがきていたが、静かなものだった。
やはりこの時期のキャンパーはマナーがいい。
わが家の二匹の老わんこたちもすっかりリラックスして木陰でくつろいでいる。むろん、ぼくたちもまたそれ以上にゆったりとくつろぎの時間を過ごしていた。

☆ステキなカップルがやってきた
午後も早い時間だった。ぼくたちがいるエリアにわんこ連れの若いカップルが現れた。
さすがに週末はぼくたちだけで独占とはならないだろうと覚悟はしていたが、できるなら、しつけの悪い子供連れの、マナーをまるで心得ないファミリーやグループにはきてほしくなかった。
遠目にもなかなかファッショナブルなふたりは、ひとしきりテントサイトを見てまわると、木陰でくつろぎながら彼らを興味津々で眺めていたぼくたちのところへやってきた。
ふたり並んで、「あの木の向こうにテントを張らせていただきますのでよろしくお願いします」と、それは丁寧なあいさつがあった。
思わず面くらった。
キャンプ場へ到着してサイトを決めたとき、いつも先行者にあいさつに回ることはあっても、また、あとからきた人に、「犬がいるのでご迷惑をかけるかもしれませんがよろしく」とわざわざ断ることはあっても、もう何年も絶えて挨拶をされたことなどなかったからである。
挨拶をするというのは、昔のキャンパーには常識だった。だが、いまでは知らん顔をしているのが常識と化しているらしい。こちらから挨拶をすると、うるさそうに逃げ腰になる連中もいるくらいだ。
それにひきかえ、なんともさわやかな、絵にかいたような素敵なお似合いのカップルである。おとなしい二匹のキャバリアたちも愛らしい。
やがて、50メートル以上向こうで彼らの設営がはじまった。手際のよさ、道具のラインナップ、そして、ふたりの身のこなしから、なかなか年季が入っているなと感じた。
あとでまだ初心者だと聞いて「エ~~~ッ!?」と目を剥いたものである。もっとも、ふたりそろって正真正銘の初心者ではなく、ワケアリの若葉マークと聞いて納得。彼のほうはぼくなんかよりはるかにプロフェッショナルなキャリアの持ち主だった。
なによりも、ふたりのセンスのよさが光っている。
一泊二日、彼らも静かにキャンプを楽しんでいた。気になるふたりではあったが、むろん、互いに干渉することなく、目が合えば笑顔で会釈を交わしつつ、お互いに思いおもいのキャンプを楽しんだ。

☆キャンプの楽しみプラスワン
最終日の日曜日、撤収が終わり、どちらからともなく別れの挨拶に歩み寄った。
ぼくたちは、7月のキャンプで大変な渋滞にまきこまれているので、今回は前回よりも早めに撤収作業を開始し、午前10時過ぎにはここを出発するつもりだった。
撤収は予定どおりの時間に完了していた。
だが、キャンプ場をあとにしたのはそれから1時間を少しまわってからの11時過ぎだった。このキャンプでいちばん楽しいひとときだった。話してみると、おふたりとはなぜかいくつもの因縁があった。

次に会ったときの挨拶は、どんなふうになるのだろう。
「もしかしたら、お会いできるかもしれないと楽しみにしてきたんですよ」
できるだけ人けのない、できることならだれもいない場所でキャンプをしたいというのがぼくのキャンプをするときのいちばんの理想だった。だが、もうそれも崩れた。
きっと、ここへくるたびに、いや、これからキャンプのたびに、このステキなカップルと愛らしいキャバリア兄弟との再会を願いながら出かけてくることだろう。
あるいは、こんな人と人との出逢いを期待しながら……。
いまさらながらだが、またひとつ、ぼくのキャンプの楽しみが増えた。