
今回のキャンプ場では夏草がほどよい褥(しとね)となってくれたが、それ以上に風流だったのが虫の音(ね)の合唱だった。とにかく、昼間からサイト中に虫の音が満ちていた。
夜、テントのなかで体を横たえるとグランドシートの下で虫たちが鳴いている。まさに耳もとで鳴いているのである。草枕ならぬ「虫の音枕」だった。
この季節にさんざんキャンプをやってきたが、はたしてこんな盛大に虫たちの合唱の歓迎を受けたことがあったろうか。
夏の朝、夜明けとともに聞こえてくる鳥たちのさえずりがうるさいと管理事務所にクレームをつけたキャンパーがいたそうだが、そんな無粋な連中だったら、秋の虫の音も騒音以外のなにものでもあるまい。
子供のころ、夜中に聞こえてくる虫の音はコオロギばかりで、なんとも心細く聞こえたものだった。マツムシやスズムシは夜店の虫籠の中で鳴いていた。スズムシなんていうのは弱い虫で、うっかり放してやるとコオロギたちに食われてしまうのだと教わった覚えがある。
キャンプ場で鳴く虫たちは、コオロギも少なくないが、何種類かの虫たちによる混声合唱だった。
これらの虫たちの声が次第に間遠くなり、やがて掻き消えたとき、よほどの物好きじゃないかぎりキャンプになんかやってこない。草を結んで枕としたくとも、肝心の草さえもう枯れ果てている。

背中が寒くないようにたっぷりのダウンが入ったパーカを着て、火の粉に強い不燃性の生地のブランケットで身体をくりみ、焚火をあじわう季節がやってくる。さぞや星たちもきれいに見えるだろうから焚火もできるだけ控えめにしたい。
聞こえてくるのは焚火の燃焼音だけ。こんなときは、焚火で沸かした湯で作るホットウィスキーがたまらなくうまい。お湯の中に溶け込んだ焚火の香りがウィスキーをワイルドな味わいに引き立てる。「不健康だよな」なんて言いながら、砂糖をたっぷり入れて飲む。凍てる野外ではこれにかぎる。
そんな季節までもうすぐだ。