私家版 野遊び雑記帳

野遊びだけが愉しみで生きている男の野遊び雑記帳。ワンコ連れての野遊びや愛すべき道具たちのことをほそぼそと綴っていこう。

愛するシュラフたち

2006-10-05 00:10:29 | Weblog
 現在使っているシュラフを引っ張り出してみたら、全部モンベル製だった。
 ある程度の品質をもちながら価格がリーズナブルだし、ぼくが住んでいるすぐ近くにモンベルショップがあったから――その程度の理由に過ぎない。
 これらのシュラフで満足しているわけではない。不満もある。最新のモデルは知らないが、ぼくが使っている古いモデルは必ずしも丁寧なデザインが施されていたわけではないからだ。よくいえばシンプルだけど、率直にいわせてもらうとおおざっぱ。造りが雑だという意味ではない。たとえていうと、シュラフ内にためこんだ体温を逃がさないようなきめ細かい工夫がもっとほしかった。
 
 写真の下段3個がダウンハガー#3、上段左がスーパーストレッチダウンハガー#0、右がスーパーバロウバッグ#3である。ダウンハガー#3は98年、#0は一昨年に買った。バロウバッグはかれこれ10年以上前になるはずだ。いうまでもないが、「ダウンハーガー」のシリーズのフィル(詰め物)はダウンであり、「バロウバッグ」はポリエステルである。

 ダウンハーガー#3をまとめて3個買ってしまったのにはそれなりの理由があったのだが、1個は初夏から初秋に女房が使っているものの、あとの2個はほとんど使っていない。たまにゲストがあると使ってもらっている程度である。
 20年近く前にキャンプに目覚めてしまった女房は、一貫してダウンのシュラフを愛用してやまない。ぼくにはあまり違いがわからないのだが、ダウンのもつ温もりがたまらなく心地いいそうだ。ダウンにくるまれて眠るのがよくてキャンプへいくのだとさえいう。だから、彼女は1年中、ダウンのシュラフを使っている。冬場なら#0を、前述したように夏を中心にした季節には#3を……。

 #0を購入する前の女房は、わたしがまだひとりでのびのびと野遊びを楽しんでいたころに買って、冬用にだけにしか使わず、大切にしてきた「天山」のシュラフを容赦なく使っていた。さすがに真夏以外、10年以上使い続けたので、数年前から保温力が衰えてきた。冬を前にした一昨年、#0に変えた次第。
 #3を使った経験上、#1あたりを買おうと思ったが、型番落ちで#0がバーゲン品に出ていたのでそちらにした。ちょっとオーバースペックじゃないかと心配したが、真冬のみならず晩秋から早春にもちょうどいいそうだ。
 おかげで、冬のぼく用のシュラフに天山が戻ってきた。真冬はシュラフカバーを使って落ちた保温力を補っている。スノーキャンプのようなシビアなキャンプじゃないからこれで十分ぬくぬくと寝ることができる。

 好みとして、真冬以外ならぼくはフィルが化繊のシュラフのほうがいい。ダウンよりもラフに使えるからだ。湿気の多い状況下でも、化繊のシュラフだとおおむねカラッとした寝心地を得ることができる。
 ぼく自身はシュラフを濡らしてしまったことはないが、濡らした経験者の話だと、化繊のシュラフなら吸った水分を絞り、風通しのいいところへ干せば、30分くらいで乾いてしまうという。ちょっと信じがたいが……。ダウンのシュラフだったらそうはいくまい。
 ただ、経験者によると、必ずしも化繊はダウンよりも湿気に対してすぐれているとはいえないそうである。濡れた化繊(ダクロンを例にしたとき)のシュラフにくるまって寝た場合、風にさらされているとすさまじく冷たくなるという。まあ、ぼくの野遊びに、そんな苛酷なステージはないだろうけど……。

 写真のバロウバッグのフィルは「エクセロフト」という速乾性がウリのポリエステル素材である。そこで、夏を中心とした雨の多い季節、ぼくはもっぱらこのシュラフで寝る。あえてこのシュラフを使い続けているもうひとつの理由に女房の存在が密接にかかわっている。
 なんらかのアクシデントで女房のダウンのシュラフが濡れてしまったとき、彼女にこの化繊シュラフを使わせ、ぼくはありったけの服でも着てシュラフカバーにくるまれば一晩くらいはなんとかなるだろうという計算である。だから、冬場でも雨が予想されるとなると、キャンプ地によってはバロウバッグもクルマのルーフボックスに放り込んでいく。
 以上がぼくの使っているシュラフの現状レポである。
 
 シュラフを保管しておくには、専用のスタッフバッグから取り出し、大きめの保管用のスタッフバッグにゆったりと詰めてふくらませたままで乾燥した場所に収納しておかなくてはならないというのは常識である。過去に、フィルが化繊(ダクロンだったが)のシュラフを携帯用のスタッフバッグに詰め込んだままにしておくと悲惨な結果になることも経験した。
 だから、もちろん、シュラフはすべて大きめのスタッフバッグに移して保管している。とはいえ、10個からのシュラフ全部を最適の状態で保管――#0には約53センチ×80センチのコットン製の保管用スタッフバッグがついていた――していたらそれだけで生活の場が侵される。そこでしかたなく、#0以外は53センチ×38センチのエントラント製のスタッフバッグへゆるめに入れ、つぶさないようにしながら保管している。
 よけいなシュラフは持たないほうがいい。しみじみそう思う。
 
 さて、シュラフについて勝手気ままに書き連ねてきたが、まだ、書きたいことは山ほどある。しかし、これだけも書き過ぎてしまったようだ。シュラフについては、とりあえずここでひと区切りつけて、次の機会に今回書かなかったことをぼちぼちと書いてみたいと思う。 

シュラフ遍歴

2006-10-04 22:21:31 | Weblog
 はじめてシュラフを買おうと思い立ったのは、中学生のころだった。
 米軍払い下げのシュラフが安くて、しかも羽毛が使ってあるからすごいのだ――だれかがそんな情報をもってきた。さっそく東京・御徒町(おかちまち)のアメ横へ出かけていったのだが、中学生の小遣いで買える値段ではなかった。
 記憶の中にある米軍のシュラフは、ずいぶん大きく、重量もけっこうあった。当時は、大きいとも、重いとも思わず、「いいなぁ」と憧れの目を向けていたのだが……。

 そのうち、「あれは戦死したアメリカ軍の兵隊を包んできたのを払い下げたんだぜ」とか、「繕ってあるところがほころびたら、血まみれの羽が出てきた」など、怪しげな情報が飛び交ってかなりビビったものだった。朝鮮戦争はとっくに終結していたが、まだ、記憶に生々しかったからこんな噂が飛び交ったのだろう。

 高校で山岳部へ入った友達が冬山へ米軍放出のシュラフを持っていって使ったら、凍えるように寒かったそうである。当時は、まだエンソライトマットなどなかった。雪の上にテントのグランドシートがあって、その上に寝るわけである。それだけでも寒いだろうと思うのだが、彼のシュラフは羽毛が身体の下から動いてしまいなにもない。グランドシートの側にはシュラフの裏表2枚のシェル(外被)があるだけ。いわば雪の上に直接寝ているのに等しい状態だったという。
 フィル(詰め物)だって、ダウンかどうかはわからない。大半がフェザーだったかもしれない。

 ぼくがはじめて手に入れたシュラフは、いまにして思うとひどいシロモノだった。
 紺色のゴワゴワのナイロン袋の中に得体のしれない“アンコ”が申し訳程度に入っているだけの、それこそ“寝袋”という表現がピッタリの製品だった。ジッパーは身体の上部にあった。それでも、筒状に丸めた毛布をザックの上にくくりつけていくよりはマシだった。二十代の後半は、そんなシュラフで過ごした。寒いときは毛布も併用した。
 専門店へいけば、ちゃんとしたシュラフがあったのだろうが、若かったから、遊びは野遊びばかりではなく、ちゃんとしたシュラフにまでカネをまわす余裕がなかった。

 まともなシュラフはモンベルのダクロンホロフィルⅡ・フィル以降だった。
 ぼくも三十代になっていた。モンベルのシュラフは、それまでのいい加減な製品と比べるとデザインもクォリティも本格的な製品だった。寝心地にいたっては天国と地獄ほどの差があった。
 シュラフばかりか、テントも充実し、ウェアー類もその当時ではかなりイケてるものをそろえられるようになっていた。装備が充実すると、野遊びもエスカレートしたくなる。仲間たちととともに「耐寒訓練」と称して冬のフィールドへ繰り出すようになった。

 そうなると、もうひとクラス上のシュラフがほしくなる。あまり高価ではなくて、それなりの性能があるダウンシュラフというと「天山(テンシャン)」だった。日本でデザインされて中国で製造された製品だということだった。
 値段は憶えていない。ひとつだけ記憶に鮮明なのが、天山を手に入れて数年後、アメリカの有名メーカー(シェラデザインズと記憶しているが、ザ・ノースフェイスだったかもしれない)の、それは本格的なシュラフが7万円台で売り出されたことだ。ヒマラヤ遠征や極地探検でもいけそうなほどの品質であるが、値段にため息をついた。たしか、天山の二倍以上していたはずだった。
 
 当時、カタギのサラリーマンをやりながら、サイドビジネスでもけっこう稼いでいたが、まだ三十代も前半だから夜の誘惑がやたら多い。バカな浪費をするたびに、あのシュラフが買えたのにと悔やんだものだった。
 天山が不満だったわけではない。このシュラフにどれだけ助けられたかはかりしれない。フィルが化繊のシュラフを使っている仲間たちが寒さで一睡もできずに震えながら朝を迎えても、ぼくはぬくぬくと惰眠を貪りつづけていた。
 
 山岳部に入っての本格的な登山や、ワンゲル部での苛酷なアウトドア経験などをぼくはまったくやっていない。たいていひとりか、ごく限られた人数の仲間との勝手気ままなキャンピングがぼくにとっての野遊びだった。二十代ではクルマもなく、装備も貧弱だったから、悪天候でも果敢に続けるなんていう蛮勇も持ち合わせていなかった。
 おかげで、シュラフがずぶ濡れになって泣きたいほどつらい思いをしたという類の経験とも無縁だった。そうした悲惨な体験談は高校や大学で山岳部あるいはワンゲル部などで苦労した仲間たちから仕入れた。

 とりわけ、ダウンシュラフが濡れたときの悲劇をさんざん聞かされていたので、天山のシュラフとほぼ同時にシュラフカバーも買った。まだゴアテックスは出現しておらず、素材はナイロン製だった。
 シュラフカバーの有用性がわかったので、スリーシーズン用にもダウンのシュラフを買った。買うときに迷ったが、ダクロンよりもダウンのほうが長持ちするというし、なんとも軽く、コンパクトになるのが魅力だった。「おお、サレワの寝袋かよォ」といって、そのメーカー「SLEWA」がドイツの有名なブランドだというのを教えてくれたのは、クライマー崩れ(?)の男だった。

 ここからさらに、半シュラフのよさなど、いくつかのシュラフ遍歴があるが、冗長になるだけなので、次の稿で、現在、愛用しているシュラフについて書きとめ、シュラフの話題はいったん終わりにしたい。
 
<写真>
 天山のシュラフ。
 下に敷いてある黒い布状のものは、初代のシュラフカバー。ジッパーではなくボタンで閉める構造になっている。

シュラフはお好みでいいけれど

2006-10-03 22:54:49 | Weblog
 前稿で夏用シュラフに懲りてキャンプをやめてしまった友人のことを記した。
 カネをかけて高価なシュラフを持てばいいというものではないが、やっぱり季節に合った品質のシュラフを持っていかないと寒さにふるえる夜がある実例を示したかったのである。
 
 シュラフは人形(マミー)型と封筒(レクタングラー)型に大別される。ぼくは、封筒型を使ったことがほとんどない。
 実は、あまりにも多くの人たちが封筒型を使っているので、そこそこの品質と思われる2組を買ったことがある。一度だけ使ってみたが、二度使いたいとは思わなかった。当時、キャンプをまだ数回しか経験していなかった女房でさえ同じ感想だった。
 封筒型シュラフ信奉者のご機嫌を損ねないようにその理由をきちんとご説明しておくと、まず、とにかくかさばる。さらに、構造上、シュラフの中に体温をためこむ効率がひどく悪い。買った製品の裏地がコットンだったので、湿っぽくて気持ち悪かった。 
 というわけで、封筒型とはさっさとおさらばしてしまったので、以下は、人形型のシュラフに限定しての話になる。
  
 真夏だけしかキャンプに出かけなければシュラフも必要ない。たいていのキャンプ場で、フリースの薄い毛布があればこと足りる。それさえ不要で、タオル地の夏がけですむようなキャンプ場も少なくない。
 だが、オールシーズンとはいわないまでも、春秋もキャンプとなるとそれなりのシュラフがほしい。春や秋も季節が浅いときと深いときとではウェアー類の準備がそれなりに変わってくるように、シュラフも使い分けたくなる。
 
 1枚のシュラフでフィールド遊びをやっちゃおうとするなら、寒いほうにあわせてチョイスする。たいていのメーカーが製品ごとに快適に眠れる外気の温度粋の基準を表記しているが、あまりアテにはならない。同じようなロフト(ふくらみ)であっても素材や縫製で相当違ってくる。
 とりあえずは、使う予定の温度域のもう一段階低いものを選んでおけば間違いない。暑いときにはサイドジッパーでいくらでも調整できるからだ。どうにも不安だったり、人一倍寒がりならもう一段階低い温度域でもいいだろう。
 
 冷え性だからといって、サイドジッパーのない、袋状のシュラフは絶対に避けるべきである。たしかに、寒いときはジッパーの部分から寒気が忍び込んでくるような気がするかもしれないが、もし、そんな時期にもキャンプをやるつもりなら、シュラフカバーを使うことでジッパーからの寒気の侵入は簡単に防ぐことができる。
 同じ秋、あるいは春でも、その時期や天候によって温度は大きく変わってくる。冬の寒さにさらされるときもあれば夏の名残りに悩まされることもある。それに対応してくれるのがサイドジッパーである。
 暑ければ、ジッパーの開閉で調整する。足元を少し開けてちょうどいいとき、全開にしてちょうどいいときなど、ジッパーの開きかげんでその季節、その日、その時間帯にあわせたシュラフになってくれる。
 袋状のシュラフは厳冬期の山岳高所のような極限でこそその能力が発揮される。普通のキャンプで使ったら、暑くて茹で上がり、脱いで寝たら明け方に冷え込んで風邪をひいたなんて笑うに笑えないことにもなりかねない。
 普通のキャンプでは汎用性がないし、着脱も面倒。バーゲンで安かったからと飛びつくと高い買物になる。初心者が陥りやすい失敗である。
 
 ジッパーの有効性は以上のとおりだが、さて、右にするか左にするかという問題が残る。これはお好みだが、原則として、右利きの人はシュラフにくるまったときに左にジッパーがくるほうが楽だとされている。右手で開くときに左側に手を伸ばしたほうが操作が容易だからである。とはいえ、自分が使いやすいほうを選べばいい。
 ぼくの利き手は右だが、持っているシュラフの大半が右ジッパーである。理由は簡単、バーゲン品が多いから選択の余地がなかったことと、右でも左でも使い勝手にそれほど差を感じていないからである。
 
 よく、同じ製品の左ジッパーと右ジッパー2枚を買い、つなげてダブルベッドのごとく使えると自慢する人を見受けるが、聞くだけで顔が赤らむ。よせばいいのに、メーカーも宣伝に使っている。
 いろいろな意味で、ラブラブでいるのは家のだけにしておいたほうがいいだろう。フィールドでは、安眠、熟睡がどれだけ大切か、少し経験すればわかってくる。
 ふたりで抱き合わないと眠れないという色情狂カップルはともかく、2枚つなげたシュラフなんて、想像するだに地獄の寝心地としかぼくには思えないからである。

<写真>
 古いシュラフだけを並べてみた。
 左からドイツ・サレワ社のスリーシーズン用でフィル(詰め物)はグースダウン、中央がモンベルでフィルはダクロンホロフィルⅡ、右もダクロンでICI石井スポーツのオリジナル。いずれも30年近いつきあいになるシュラフたちである。

 モンベルはすでに退役しているけど、処分するのが忍びなくて、家で仮眠するときなどに使っている。
 石井スポーツのヤツはかなり酷使したのと、専用スタッフバッグに入れたままクルマのトランクに常備していたため、数年で劇的にヘタってしまった。フィルにポリエステルを使っているシュラフの耐用年数は5年が目安だそうだ。同じポリエステルでもダクロンは中空繊維素材だからさらに耐用年数が短いといわれていた。そういう意味では寿命をまっとうしたわけである。

 サレワ社のはまだまだ現役を張れる。だが、このシュラフに適した季節だと雨が多く、ここには並べていないが、フィルに化学繊維を使ったシュラフの出番が多くなる。さらに、もう少し保温力のあるダウンのシュラフを導入してしまったために、サレワはいつも予備役にまわったままでいる。

シュラフをあなどると……

2006-10-02 21:47:09 | Weblog
 アウトドアでの生活を快適なものにできるかどうかの鍵を握っている大切なアイテムがシュラフ(スリーピングバッグ)だとぼくは思うのだが、キャンプ場を使ってアウトドアライフを楽しむ方々がお使いのシュラフを見るにつけ、その多くがかなり無神経で驚かされる。
 
 あれはたしかまだ紅葉を楽しむには早い秋、標高600メートルほどに位置するキャンプ場でのことだった。
 その朝、それなりの冷え込みがあった。ぼくは、いつものように、夜明けとともにテントの外へ出た。太陽はまだ山のはるか向こうにあって、空はまだすっかり明け切っているとはいえなかったが、どうやらきょうも快晴のようである。キャンプ場全体を靄がうっすらと包んでいた。
 頬にあたる冷気がなんとも心地いい。焚火が美味しい十分な冷え込みである。シャツはコットンながら、上にダウンベストを着てマウンテンパーカーをはおっているからこの時季ならちょうどいい。

 ふくらんだ膀胱を空にすると、一緒に体温を奪われた身体にゾクッと軽い寒気が走る。はやる気持ちをおさえながら焚火のしたくにかかった。夜明けの焚火がやりたくて、ぼくはキャンプに出かけてくるのである。薪の準備は前の晩にすませてあるし、ガソリンを少し使う強引な着火法なので、一気に炎が上がる。たちまち顔や手が熱くなり、身体に生気がみなぎっていく。まさに至福のひとときである。
 
 焚火に当たっているぼくの背に、靄の向こうからただならぬ気配が伝わってきた。振り向くと、そこかしこのテントの前、あるいはタープの下で、椅子に座り、シュラフを身体に巻きつけてうずくまる人たちがいた。ただならぬ気配の正体は彼らからの射すような視線だった。
 彼らはぼくがテントから出るよりも先にそこにいた。おそらく寒くて眠れず、夜明けとともにテントから逃げ出してきたのだろう。地面からの冷え込みにやられたのか、それとも降るような寒気に眠りを奪われたのか……。

 両方だったのかもしれない。
 彼らがくるまるシュラフはどれもお粗末きわまりないシロモノだった。夏のキャンプだったら、場所によっては邪魔でさえあったかもしれないが、秋や春のキャンプにはかなりつらい。地面からの冷え込みに対してもどれほどの認識をもち、どんな準備をして寝たのかおおよその想像がつく。
 寒さに耐えられずに目が覚め、寝ていられなくてテントから出てきても、焚火の準備なんかしていないから薄いシュラフにくるまってただ震えているしかなかったのだろう。彼らの何人かが、火に当たらせてほしいといってきた。もちろん、快く焚火を譲り、彼らに熱いコーヒーをご馳走するため、ピークワンストーブのポンピングをはじめた。
 
 翌年、学生時代からの友人ファミリーがキャンプデビューした。
 ちょうど、4WDがブームになったころで、それまでアウトドアになどまったく無関心だった男がガラにもなく本格的な4駆を買い、クルマを転がすだけでは飽き足りず、キャンプをやってみたいといい出したのである。当時、ぼくのまわりにはこういうにわかキャンパーがたくさん現れた。
 
 最初は体験キャンプということで、テントやシュラフ、食器類まで全部こちらで準備してやった。季節も初夏だった。彼らは着替えだけ持って、いかにも「どうだ、アウトドア!」といわんばかりのクルマで颯爽とキャンプ場へくるだけでよかった。
 次の体験キャンプが梅雨明けと同時、学校が夏休みに突入した直後だった。やってきた彼らのウェアがすっかりアウトドアの装いになっていた。
 3回目は彼の希望で8月最後の週末をからめてのキャンプだった。驚いたことに、クルマの荷台には新品のキャンプ道具が一式積まれていた。その装備たるや、当時のアウトドア雑誌の「オートキャンプ大全」なんていう特集のグラフから抜け出てきたような品揃えだった。
 「すげえなぁ……」
 そういって、ぼくは言葉を呑んだ。
 
 4回目は10月の朝霧高原だった。
 いくら朝霧高原程度とはいえ、彼らが持っていた夏用シュラフでは耐えられまいと判断し、こちらもそれなりのシュラフを用意していった。だが、彼らはぼくの言葉に耳を貸さず、自分たちのシュラフで寝ると譲らなかった。初回と二度目で使ったぼくのシュラフは窮屈だから嫌だというのである。
 なるほど、彼らのシュラフは封筒型、ぼくのシュラフは人形型だった。慣れないと人形型は窮屈と感じるだろう。慣れたらこの窮屈さまで快適に感じるのだが……。
 
 翌朝、ぼくの焚火を憔悴しきった無言の友人ファミリーが囲んでいた。湯を沸かし、インスタントの味噌汁を作って飲ませ、また、パックご飯で熱々のお粥を作ってふるまった。
 やがて、太陽が昇るとともに気温が上がり、彼らはまた自分たちのテントに戻ってようやくつかの間の安眠を得ることができた。
 
 この日を境に彼らがキャンプに出かけることは二度となかった。