
場所にもよるが、ぼくは10月から11月にかけてがキャンプのベストシーズンだと思っている。まさにいま現在である。
日没時刻は早まっているがその分、秋の夜長が楽しめる。ランタンの光と心ゆくまでつきあえる。何よりも焚火がおいしい。暖を取る焚火ではなく小さな炎をぼんやり見つめて過ごすのにちょうどいい。台風のおかげで薪の調達も容易だ。朝はみごとな紅葉にうっとりすることもできる。
夏のキャンプだと用心しなくてはならない吸血昆虫の心配はもうない。ランタンや焚火を目指して飛んでくる虫たちの襲撃さえ鳴りをひそめる。
日曜日、突然、こんな質問を受けた。
「この週末の連休に群馬のほうへキャンプに誘われているのですが、どんな服装をしていったらいいでしょうか」
まだ、30そこそこの若い男性である。はじめてのキャンプながら、バンガローやキャンピングカーを利用するのではなく、テント泊だという。いいかえれば、ベストシーズンのキャンプデビューというわけだ。
ベストシーズンではあるが、はじめてのキャンプとなると懲りるひともいるかもしれない。

「標高はどのくらいのところなの?」と訊ねてもわからなかった。どこのキャンプ場へ連れていってもらうのかも知らないでいる。まあ、群馬で標高が高ければキャンプ場そのものが春まで閉鎖されるだろう。標高はたいしたことがないだろうが、北関東にある群馬なら寒さ対策は真冬に準じておいたほうが無難である。
経験者に連れていってもらうわけだから、スリーピングバッグやらマットなどをあれこれいう必要はない。彼の質問にそった服装の注意点だけでいいだろう。
まず、彼の最初の質問は、「やっぱり、厚手の靴下とダウンのジャケットはあったほうがいいでしょうね?」というものだった。そりゃそうだ。あるにこしたことはない。ほかにはフリースのジャケットもあるといい。
とにかく、帽子をかぶり、首にマフラーを巻きなさい。間違ってもジーンズははきなさんな。冬用のズボンにモモヒキを持参しなさい。シャツはウールがいいけど、なければ100%綿の製品よりも化繊の素材が入っているほうがいい。
寝るときも首回りから外気が入らないよう、スリーピングバックの首回りを着替えなどでガードするといい。もし、寒さが厳しかったら、寝袋の中で暖まった空気が動いて漏れないように着替えなどを引っ張り込んでおくのもいい。思いつくままそんなアドバイスをした。
「それだけやったら寒くないですか?」という質問には、「11月のアウトドアだよ、寒くないわけがないでしょう」と答えるしかない。11月の戸外は東京だってやっぱり寒いじゃないか。
たとえば、スクリーンタープの中に石油ストーブでも持ち込めば、そこにいるだけならTシャツで過ごせるだろうが、一歩でも外へ出れば陽気はやっぱり11月である。夜は冬同様に寒いだろう。

どんなスリーピングバッグなのか、床のマットはどんなものを使うかなど、知りたいことはあるが、それ以上の寒さ対策は彼の友人にお任せしよう。
ただ一点だけ、「テントで寝るとき、地面からの冷えのほうが切実なんだよね。マットは用意してもらえるだろうけど、もし、なかったら段ボールを敷くだけで効果はあるよ」と教えた。
「そうなんですか。ホームレスの人たちがダテに段ボールを使って寝ているわけじゃないんですね」
彼はしきりに感心していた。
群馬でのデビューキャンプから帰ってきてからの彼の感想を聞いてみたい。もし、ハマったとしても、「熱くなってあれこれ散財しなさんな。若い人はたいてい2年か3年で飽きる人が多いから」とたしなめてやりたい。
週末、天気はもちそうである。彼のはじめてのキャンプが、やや寒いながら楽しい思い出となってくれることを祈りたい。