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私家版 野遊び雑記帳

野遊びだけが愉しみで生きている男の野遊び雑記帳。ワンコ連れての野遊びや愛すべき道具たちのことをほそぼそと綴っていこう。

本栖湖に描いたささやかな夢

2018-11-09 21:15:19 | Weblog

■ 静かな紅葉の湖を訪ねる
 紅葉の季節ながら平日の本栖湖は静けさの中にあった。
 もうかれこれ20年ほど前、ぼくはこの本栖湖にささやかな夢を描いた時期がある。60代から70代の自分が本栖湖で孤独という無限の自由ににひたりながら過ごす日々のかたちだった。

 ぼくのキャンプという野遊びは、この美しい湖とともにあった。すぐとなりの村営の素朴なキャンプ場が、ぼくのいちばん古いホームグランドである。松林のなかの、伝統的な日本のキャンプ場であり、はるか昔、アウトドア誌で人気キャンプ場のトップをとったこともあった。
 いまでは大きな駐車場ができたりして、昔とはすっかり様変わりしてしまった。それでもキャンプ場は、良くも悪くも素朴なままで残っている。

 30代のぼくにカヌーの面白さを教えてくれたのは、ともにキャンプを楽しんだ若い友人たちだった。お盆休みで混雑する本栖湖キャンプ場で彼らと何日かを過ごし、真夏の日を一艘のグラスファイバー製のカヤックで遊びまくった。
 日暮れとともに、今度はぼくが本栖湖の浜で彼らにルアーフィッシングを手ほどきしたが、魚はまったく釣れなかった。


■ いっとき荒れていった本栖湖
 30年前の5月下旬、嵐のような風雨にさらされた本栖湖でキャンプデビューしたのが、当時40代まもない女房だった。20代のとき、彼女は一度、キャンプを経験しているが、装備の貧しさと予定外の雨にたたられてすっかりキャンプ嫌いになっていた。
 以後、ぼくはのびのびとキャンプという野遊びを、たいていひとりで、あるいは若い仲間たちと楽しんでいた。きっと、ぼくがあまりにも楽しそうだったからだろう、女房が5月の本栖湖キャンプについてきた。

 当時の本栖湖は、いまにして思うと最低の環境だった。朝から龍神丸という観光船の案内に悩まされるスピーカーからの騒音はいまでも耳の奥に響いている。
 少し遅れて対岸にできたモーターボートレースの研修所のおかげで、これも朝から傍若無人のエンジン音に悩まされた。

 ウィンドサーフィンを楽しむ人々や、いまでこそ禁止になっているが、一時期は水上バイクを持ち込んだ人々で、本栖湖そのものとキャンプ場が荒れた。
 サーファーたちの大半は夜になればあらかたが姿を消すが、変わってやってきた暴走族たちが駐車場で暴れていた時期もあった。


■ ロッドもパドルもいらなくなったわけ
 5月の嵐ですっかり懲りたと思った女房が、なぜかどっぷりキャンプにハマっていた。以来、富士の裾野のあちこちで自由度の低いキャンプがはじまった。それでも、真冬も含めて、本栖湖でのキャンプが中心だった。
 だが、素朴で、管理がうるさくないキャンプ場ゆえに本栖湖キャンプ場はマナーがどんどん低下していく。とりわけ連休のときに集団でやってくる連中の傍若無人ぶりには呆れ果てたものだった。次第に嫌気がさしてしまい、60代からこの方、本栖湖でのキャンプはほとんどやっていない。

 それでも、近くを通りかかると必ず本栖湖に寄っているのは、心の聖地だった記憶がどこかに残っているからだろう。
 とはいえ、静かな本栖湖に折りたたみ式のカヌーやカヤックを浮かべ、あるいは、湖畔の浅瀬に立ち込んでルアーのロッドを振る。そんな野遊びの形を実現したいと思っていた年齢になっていたのに、この老後のささやかな夢の片鱗さえ忘れかけていた。

 カヌーやカヤックに関しては、とりわけ、嫌な思い出がついてまわった。
 ともにキャンプを楽しんでいる集団のリーダー格の人間が、ルアーやフライにハマって騒ぎ出したり、中古のカヌーを買って熱くなったりすると、必ずそれに迎合するキャンプ初心者が出てきてベテラン顔でまわりまで巻き込もうとする。
 仲間はずれになりたくない集団は無理をしてでも合わせようとする。いっとき盛り上がるが、たいていすぐに飽きてしまう。そんな事例を50代で何度か見てきた。


■ これからわんこ連れのソロキャンプが楽しめる!
 学校での「いじめ」がクローズアップされる度に、日本人の集団の性格としてこうした「みんなで一緒にやらないと怖いよ」という無言の圧力を思い出す。それが嫌で、ぼくは仲良しごっこの集団からさっさと脱けてきた。
 ルアーやカヌーが嫌いになったのも、何度か不快な出来事に直面してしまったからである。

 秋日和の本栖湖で、フライロッドを振る男性に逢った。岸辺には、折りたたみの椅子に座り、孤独なアングラーの背を見つめるパートナーの女性がいた。女性と挨拶を交わすと、ロッドを振る手をとめた男性が振り向いて笑顔で挨拶を送ってきた。
 彼らはまだはるかに若いが、ぼくも老後はこんな日々を送りたかったのだと久しぶりに思い出した。

 となりにいる女房に、そんな昔の夢の話をして、「また本栖湖でキャンプしようか」と提案したら言下に拒否された。
 ぼくは、一緒に歩いているわが家のわんこに語りかけた。
 「ルイ、今度、ふたりでここへきて、キャンプしながら遊ぼうな」
 ルアーもカヌーもないけれど、久しぶりに自由気ままな楽しいキャンプになりそうだ。思わずしびれるような快感が全身を駆け巡った。


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