
■ 梅雨の中休みを待つ
東京も昨日から梅雨入りした。これからひと月半ばかりは太陽の光に恵まれない鬱陶しい日が続く。とはいえ、梅雨が嫌いじゃない。年によって梅雨の様相も変わるが、たいてい中休みがあって、そんなときのフィールドはあまり人がいないので一泊キャンプにはもってこいだからだ。
芝草のサイトだと小さな羽虫が異常に湧いたりして往生することもあるが、大人も子供もシツケのできていない人間たちが跋扈する季節よりはるかにましだ。
真夏に比べれば、吸血昆虫もさほどいない。それでも油断するとひどいめにあう。やっぱり、それなりの用心と準備が欠かせない。
ぼくはあまり虫に刺されないタチだが、これからの季節だと蚊取り線香と防虫忌避スプレー、それに、刺されてしまったときのかゆみ止めに「ムヒ」のような外用薬も不可欠だ。救急セットには「ポイズンムーバー」も常備している。
防虫忌避スプレーは、自分で使ったことがないく、同行者のために持参する。「ムヒ」はときたま使っているからけっこう刺されているのかもしれない。
虫刺されは、ぼくの経験だと初心者がやられやすい。不思議なくらい頻度が上がる。刺されたと気づいたときに、ひと言、刺されたといってくれればいいのに、そのときは涼しい顔をしていて、キャンプから帰ったあとに病院へ駆け込んだりしている。
刺された直後はたいしたことがなくても、あとになって化膿がひどくなり、入院までした人もいた。そうなると、すっかりキャンプが怖くなり、懲りてしまってキャンプそのものをやめてしまう。
■ こちらが侵入者なんだから
真夏の時期、灼熱の昼間はまだしも、少し涼しくなってくる夕方近く、肌を露出していないで長袖のシャツを着て長ズボンをはくようにすすめるが、たいてい反応が鈍い。刺されてはじめて、ああしておけばよかった、こうすべきだったと悔やむことになる。しかも、虫を嫌う人のほうがなぜか被害にあいやすい。
もっとも、長ズボンをはいていても太ももを派手に何か所も刺されたり、せっかく長袖のシャツを着ていたのに、腕ではなくて胸のあたりを刺されたりする。ズボンの裾を締めておけ、首のボタンも止めておくなんていうのは、暑い夏のキャンプだと苦行になりかねない。
ヌカカなどは、どんな防備を厳重にしても衣服の奥深く侵入する。彼らのテリトリーにこちらが侵入しているのだからあきらめるしかない。
この20年あまり、ポイズンリムーバーを持参しているが、同行者も含めこれが必要になるほどの深刻な事態になったことがないのは幸運である。
めったに使わないかもしれないが、保険のつもりでアウトドアにはひとつ持参するといいだろう。蚊はもちろんだが、蜂や毒虫に刺されたときに毒や皮膚に残った毒針の吸引という応急措置ができる。

めったにはないはずだが、蛇に咬まれたときも、素人にはそれが毒蛇かどうかを明確に確認する余裕などないはずだ。専門医の治療までの応急処置としてポイズンリムーバーでの吸引も有効だろう。
蛇に咬まれたときは、「まず落ち着いてどんな蛇だったかをみきわめろ」と教わった。毒蛇で知られるマムシでも致死率は低いそうだが、子供や高齢者はそのかぎりではない。いまではヤマカガシも毒をもっていると認識されている。
いちばん、危険なのはパニックだという。都会の人間だと、蛇そのものと遭遇する機会さえほとんどない。まして、咬まれてしまったら、「パニックになるな」というほうが無理かもしれない。それでも、まずはどんな蛇かを確認して医療機関に急ぐことだ。血清は毒蛇によって異なるので蛇の特徴が必要になってくる。
蛇に咬まれることなど、まずないだろうが、それでも彼らの縄張りの中へ入っていくわけである。もしものときのための応急処置は、手元の救急ハンドブックなどで繰り返し確認している。
むろん、蛇に咬まれた場合のみならず、止血など応急処置の基本を知識として知っているだけでも、いざというときに応用できれば無駄ではないはずだ。
■ 蜂に刺された痛い記憶
ぼくは一度、蜂に刺されてひどい目にあった。この体験から、蜂に刺されたらを想定してポイズンリムーバーを持ち歩いている。あれから、25年くらいになるが、幸い蜂の襲撃にあっていない。
もっとも、そのときだって、刺されたのは口の中。ポイズンリムーバーが使えるような状況ではなかった。
そう、すべてぼくが悪いのである。ぼくの油断だった。テントを張りながら、女房が、「ちょっと休んだら」といいながら差し出した甘い乳酸菌飲料を半分飲み、テーブルの上に置いた。テントを張り終えてから残りを口に入れると異物が……。
当時はタバコをすっていたぼくは、とっさに吸い殻を連想して吐き出した。入っていたのは蜂だった。吐き出しはしたがすでに舌を刺されていた。鈍い痛みはあとからジワーッとやってきた。
乳酸菌飲料の甘い香りに誘われて、フタのない容器に蜂が入り込んだのである。溺れかけていたのが幸いした。毒性の弱いアオスジハナバチだったのも幸運だった。
中学のころ、わが家にいた犬が飛んできた蜂をパクリとやって舌を刺され、滑稽なくらい腫れた舌を垂らし、よだれをしたたかに流して喘いでいた姿を思い出してビビった。だが、痛みはそれ以上ひどくならず、ちょっと舌がしびれたくらいですんでくれた。
■ 汚れやすいよりも命が大事
被害に遭ったことはないが、ぼくがこれからのキャンプでいつも恐れているのがスズメバチである。攻撃されたら命にかかわる分、蜂の中でもとりわけ恐ろしいスズメバチは、黒いものを攻撃する習性があるという。
テレビの実験を見てなるほどと思った。夏から秋ののアウトドア用の衣類は、帽子も含め、黒や濃紺は持参しないことにした。汚れやすいが明るい色の衣服でいくことにしている。
乳酸菌飲料に溺れかけた半死半生の小さな蜂でも痛かったのである。それに、ぼくは子供のころ、アシナガバチに悪さをしかけては刺された経験が何度もある。当時、アンモニアはわが家の常備薬のひとつだった。
あの痺れるような痛さはいまも忘れられない。だから使わずにすんでいてもポイズンリムーバーが必需品なのである。