ペーパードリーム

夢見る頃はとうに過ぎ去り、幸せの記憶だけが掌に残る。
見果てぬ夢を追ってどこまで彷徨えるだろう。

ちょっと山梨まで②~文学館

2010-06-25 16:02:45 | 歌を詠む
100620.sun.


美術館内のこじゃれたカフェ&レストランで
黒富士農園産・地鶏卵がとろけるようなカルボナーラを食べた後、
同じ敷地内にある県立文学館へ向かった。
そもそも今回の目的はこちらなのだ。



「山崎方代展~右左口(うばぐち)はわが帰る村」

岡井さんの講義にもたびたび取り上げられた
「山崎方代(ほうだい)」という歌人に興味を持ち、
関連本や歌集を何冊か読んでいた。
そこへ、今回の歿後25年の展覧会。
行かないわけにはいかないでしょう。

山梨県の右左口村(現甲府市)で生まれ、少年期より短歌を詠み始める。
戦争で右目を失った後、横浜に嫁いだ姉の家や
世話人に建ててもらった鎌倉の小さな家に住んで、
これといった定職もつかずにただひたすら歌を詠む日々。
歌に対して純粋で真摯な反面、とても世俗的でもあり、
そんな人間臭いところに人々は吸い寄せられたようだ。
型にとらわれない自由な歌を詠んだところから
短歌界の山頭火とも尾崎放哉とも言われているよう。
元祖・ホームレス歌人とも?(笑)
(そういえば、朝日歌壇のホームレス歌人はどうされたんでしょうね?)

館内は、方代さんの足跡がわかるよう、
生い立ちから長じて参加していた歌会の資料や写真、書、書簡などを展示。
軍隊時代の写真などなかなか凛々しくて、
後年のぼさぼさ頭に分厚い眼鏡の方代さんを想像するのが難しいほど。
その写真の裏一面に書き留められた短歌や詩。
師についたというわけではない方代さんの書は、豪放。
伸びやかで勢いがあり、なんとも魅力的だ。
『短歌』愛読者賞受賞の記念品である腕時計や眼鏡、万年筆、
ほとんどない視力を補うための大きな拡大鏡、
お気に入りのオーダーメイドの白いジャケットなどからも、
故郷を愛し、淋しがりのくせに生涯独身で、片時も酒を離さず
自ら「方代の嘘のまこと」というように、
どこまでが本当でどこからが嘘なのか、
語りも歌も人を煙に巻いたような「方代さん」が浮かび上がってくる。

『無用の達人 山崎方代』(田澤拓也著)の解説文の中で、
方代さんを看取った友人・山形裕子さんが語っている。
「方代先生の歌には、憎しみ、恨み、怒りを詠んだものはほとんどありません」

完成を見ることなく逝ってしまったが、
最終歌集『迦葉(かしょう)』の装幀は画家・絵本作家の梶山俊夫さん。
抑えた色遣いで描かれた故郷の山を思わせる抽象画である。
山の上に首を伸ばした一羽の鳥。これは方代さんなのか・・・。


[私の好きな十首]

   ふるさとの右左口郷(うばぐちむら)は骨壷の底にゆられてわがかえる村

   このようになまけていても人生にもっとも近く詩を書いている

   笛吹の石の川原をこえてゆくひとすじの川吾が涙なり

   そこだけが黄昏ていて一本の指が歩いてゆくではないか

   ねむれない冬の畳にしみじみとおのれの影を動かしてみる

   息絶えし胸の上にて水筒の水がごぼりと音あげにけり

   茶碗の底に梅干の種二つ並びおるああこれが愛なのだ

   こんなにも湯飲み茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり

   あさなあさな廻って行くとぜんまいは五月の空をおし上げている

   一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております


☆先週の「墨あそび」のお稽古で、一首書いてみました。



<人を恋ひ酒と短歌を身に纏ひ方代さんはかららと笑ふ>(拙歌)