「忘れ物を取りに来ました!」
2号店がいきなりドアを開けるなり定番のある童顔で・・・どこかいたずらを企んでいるが、無邪気な子供のような笑顔でドアを勢いよく開く。
私はこれまたいつも通りの・・・あまりにうちに忘れ物をする奴らが多い故・・・そう、まだiphoneのこれまたキレイなデザインの充電器忘れていった奴が居て・・・子供の面倒を見るのに疲れた大人のような定評のある顔で答える。
「なんだよ 何忘れたんだよ・・・携帯コールするか?」
携帯を取りだそうとポケットに手を突っ込むと2号は続ける。
「忘れてました!勝つことを!」
・ 九州漢祭り 2010
「エスポ起きたか」
「スゲーくだらない夢を見ていたような気がするよ かいえだ」
このホテルに滞在しているバーチャロンプレイヤーは現在12名。
一部屋で容易にその人数を超える人数が集い、快適に飲み会を開くことが出来る。
福岡に九州漢祭りが移ってきてから毎年利用しているホテルである。
「女性陣は支度が丁寧だね」
洗面所が開くのを待ちつつ早速MRP(食事の Meal 代わり RePlacement)を溶かしているとかいえだが
「何くってんだよ」
と話しかけてくる。
「究極の食事だよ・・・・健康面 減量面 増量面 ホルモンバランス面 精神安定面・・・ 人間が取るべき "ちゃんとした食事" を粉にしたモンだ」
-エスポの野郎、また大げさなこと抜かしてやがる
かいえだはいつもこういう顔をするのだ。
-いずれ本当に価値が分かるときが来る
私はいつもこういう顔をするのだ。
「人は自分の「全て」を形成するはずの口に含むモノを趣味で選びすぎるようになってしまった」
そう思うと、とたんに寂しくなる事がある。取り返しの つくうちに・・・・
いや、ちょっと待て。
昨日結構飲んじまった。
なんだっけ・・・そう・・・・・なんだっけな・・・・・・
昨日は何話したんだっけ・・・・
前日夜 当ホテル組前夜祭
「今回俺優勝するよ!」
エルムドアがいつも通りの・・・・なんだ・・・?これはどう表現すればいい・・・・"エルムドア顔" で・・・・
(すまない、考えるだけで1日が終わりそうだったんだ)
そう、なんだか、楽しそうな顔だ。
テーブルに座った連中に訴える。
みんな暗い顔だ。
「うーん・・・・・・・・」
2号は決して子供たちの尊敬を勝ち得ない姿形をしている不審者をにらみつける表情。
「いや、エルム君にはまだはやい」
かいえだが軽妙なリズムで突っ込みを入れる。この類の話題を押さえるには手慣れたモノだ。
「てめーはかてねーよ!」
ビタCは高い声ではあるが妙に耳にしっくり来る
総スカンである。
こいつらの気持ちは空気的なモノだ。分からんでも無い。
同じ年頃のビタCが同じ事を言っても
「おお、がんばれよ!」
でスルーされるモノである。
「俺エルムドアが優勝すると思うぜ いやマジでね」
その発言は同情からではない。
ゴトッ
言い終えてテーブルに置いたウイスキーのグラスがやけに響く。
なんかしゃべれよ。おまえら!
2号は自分のおやつだと思っていたかっぱえびせんが遊覧船のカモメのエサになると知って愕然としている小学生の表情。
-エスポの野郎、また大げさなこと抜かしてやがる
かいえだはいつもこういう顔をするのだ。
ビタCは肉食獣の気配を遠くに感じた兎のようにピクリと首をこちらに向ける。
「なんっていうかな・・・・強さとかじゃないんだな・・・・エルムドアはさ もっとこう真摯な・・・・」
テーブルの端っこを人差し指でトントンと叩きながら・・・
「そう、必死なんだよ 諦めね―奴に終点はねーぞ」
自分で言うのも何だが、私は本当にうさんくさい動きをする。
エルムドアはかいえだと正反対の表情だ。
何を考えてるのか分かるはずもないが
「エスポの野郎、わかってやがる」
なのか
「エスポの野郎、勝つ気ねーのか」
なのか
その両方
なのか
そんな感じだ。
OK,わかった。2号たち。
エルムドアだけ良い気にさせるわけにはいかない。そう言ってるんだな?
「確かに司に比べれば戦力はかなり乏しい。まあ明日を待とうぜ」
「俺がエルムをぶっ殺してやる!」
ビタCはモチベーションを上げている。
「そうだ・・・・・・!」
私は写真を顔の箇所だけくしゃっと摘んだような笑顔でビタCを激励した。
負けることは許されぬこの身なれど
勝つばかりとは限らぬ
2号、さっさと負けたら阿蘇くじゅう国立公園だぜ。本当にスゲー所だ。
そんな打ち合わせは出来てる。
続く