久々感のある高校野球熱を見て、「なんだ、野球の人気はまだあるじゃないか」と思った人も多かったのではないだろうか。夜7時にテレビの前に座ることがない、都市に住む一部のビジネスマンが大衆を形成しているわけではなく、全体的にみればまだまだ(特に男性の)娯楽の中心に野球はある。それは当然だと思う。たまにしかテレビ中継しない、ルールもよくわからないほかのスポーツより、最近は減ったとはいえ、毎日のようにテレビ放映する、ルールも球団も生活者に定着しているスポーツに人は関心を寄せる。例えば100人いた野球ファンのうち、10人がサッカーのルールや楽しさについて情報収集力を駆使して覚え、野球への関心を捨てたとしても、90人はそんな面倒くさいことはしない。マスコミなどの大きな力が作用して、今の野球中継枠をサッカー枠にでもしない限り。
新しいもの、変化の芽を見ようと追いかけていると、ついうっかりしそうになるが、人は原則保守的なものなのである。人間の本質や嗜好の根拠となるメンタリティやライフスタイルは、そんなに簡単に変わらない。そして今の大方のマスコミは追随型である。
だからといって単に古いものに手を加えず、延々と同じことを続けていても飽きられる。例えば今回早実の投手の異常なほどの人気の背景として、「いまどき珍しいさわやかさ」という言う人がいて、それは間違っていないと思う。でも昔の高校生が試合中に青いハンカチを出したりしなかったし、試合の疲れをとるためにベッカムカプセルに入ったりもしなかった。そもそも顔立ちが今っぽいし、母親ではなく、大学生の兄貴(しかも同じく今風にかっこいい)がせっせと食事の世話をしているところも新鮮な印象を与える。つまりマスコミや企業受けし、人受けする要素、新しさを兼ね備えている。
結局はひたむきさとか純粋さ、もちろん野球の上手さとか、本質の大切な部分は変えずに、部分的に新鮮さやオリジナリティを加味した点が今の時代の空気にフィットしたということだと思う。もちろんご本人やご家族は意識していないだろうが、一つのマーケティングの成功パターンを示したようなもの。
プロ野球もほかのスポーツよりアドバンテージはあるのだから、人気復活の方法や可能性は結構身近なところにあるような気がする。でも個人的には世の中があまり保守的に偏重するのはどうかと思うので、野球人気はこのままでもいい。