アジア人財事典

アジア人財カンパニー株式会社 井上一幸 がお届けする粋な話題の数々

『漢字を知っている感じ』

2009-06-30 | メールニュース
皆さん、おはようございます。㈱グッドジョブクリエーションズです。本日はメールニュース第25号をお届けにあがりました。
三ヶ月前のこの場で、日本語教師の資格を取るべく勉強していることを発表しましたが、そういう勉強をしていると日本語の根幹部分である漢字についても考える機会があるんですね。そこで今日は、私が最近目にした漢字の「へぇ~そうなんだぁ~!」を披露したいと思います。

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漢字を知っている感じ
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漢字の読み方ってたくさんありますよね。最近、ワープロの発達で難しい漢字でも難なく表記できるせいか、辞書がなければ読めない、いや、読めないから辞書が引けない、という笑えない事態も多いはず。さらに来年には常用漢字が200字程度追加されるとか。でも大丈夫、漢字のことを少し知れば、恐れるに足らずです。

さっそくですが質問。
① 一番読み方が多い漢字はなんでしょう?

答えは「生」と「下」。
私たちが通常、音読み・訓読みというのは常用漢字表を基にしています。これには1945文字の漢字とその読み方が掲載されており、それによると「生」と「下」は音読み2通り、訓読み10通りで見事第一位。「生」は、先生の(せい)、一生の(しょう)、生もの(なま)や生きる(いきる)、生む(うむ)など。「下」は、下流の(か)、下校の(げ)、下見(したみ)、足下(あしもと)などですね。ただし、常用漢字表では(生きる)、(生かす)など同じ「い」の読みでも意味が異なると別の読み方としているので、こういった重複を除くと、両者とも音読み2つ、訓読み6つで計8通りになります。それでも第一位には変わりありません。
ちなみに次点は、「上」で音読み2通り・訓読み5通りの計7通りです。

さらに付け加えると、「生」は常用漢字表外の慣習としての読み方や人名、地名でも頻出し、優に100を超える読み方を持つそうです。生憎(あいにく)、桐生(きりゅう)など、その他は思いつきませんが確かに多そうですね。

それでは次。
上記の例ではどの漢字も音読みが2通りですね。そもそも音読みは呉音、漢音がほとんどで、常用漢字のうち1887字、じつに97%は音読みが2通り以下です。残りは慣用的な音読みを2つ持っていたり、わずかですが宋音とよばれる音を持つ漢字、例えば「行」など読み方を3通り(コウ、ギョウ、アン)持っている漢字があります。
② ここで問題。音読みを5通り持っている漢字はなんでしょうか?

答えは「納」。
ちょっと意外ですが常用漢字表によると、収納(シュウノウ)、納得(ナットク)、納屋(ナヤ)、納戸(ナンド)、出納(スイトウ)の5種類だそうです。ただ真ん中3つはいずれも「ノウ」から派生した慣用音っぽいので、本来は2種類と言ってもいいかもしれません。質問が良くないですね・・・失礼しました。

さて、音読みの種類が少ないのに対し、訓読みはその場に応じて一つの漢字にいろいろな読み方をふったためでしょう、良く使われる漢字は訓読みを多く持っています。前出のとおり訓読み6通りは「生」と「下」、5通りは「上」。
③ では、4通りの訓読みを持つ漢字を2つ上げなさい。

答え:「初」と「後」
初は、初めて(はじめて)、初雪(はつゆき)、初陣(ういじん)、書初め(かきぞめ)。後は、うしろ、あと、おくれる、のち。

さてさて、訓読みの多いこの5文字。「上」と「下」、「初」と「後」は見事に対称をなしていますね。そして「生」。日本人がこの漢字で表現したい状態や状態が、実はたくさんあるということだと思います。


クイズはここまでですが、ここで取り上げた音訓読みの分析は、香港中文大学で日本語教育に携わる兒島慶治先生の研究によるものです。
http://www.cuhk.edu.hk/jas/staffpro/kojima/18-kanji-reader.pdf
こういった研究が、海外で日本語教育を専門とする先生によってなされていることは偶然ではなく(もちろん日本国内でも行われています、念のため)、日本語学習者にどうやって読み方を教えるか、という課題と日々向き合っているからに他ならないと思います。そのたゆまぬ努力にはただただ敬意を感じます。
その「教え方」のヒントとして、上記論文には以下の趣旨のことが書かれています。“読み方が多いとはいっても常用漢字のうち80%超の1605字が一字一読か二読。これはさほど大変とは考えなくてもいいのではないか。これらと残り340字を区別して、教え方を考えるべきである。”

なるほど、たいしたことは無い。
(生)半可な努力では身につかない漢字も、(生)真面目な先(生)の工夫次第で、(生)きた言葉に(生)まれ変わって、一(生)ものになりますよ、きっと。
お後がよろしいようで・・・