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思い出

2006年08月14日 | 生活

女は途方に暮れていた。

燃費の悪い軽自動車のハンドルをもう何時間も握り続けている。
後部座席には9才の娘と6才の息子が重なり合うようにして眠っている。
もう何時間も誰とも話しをしていない。
はっきりとした行き先も今夜の宿も決めていない。

迫り来る峠のカーブ。
頼りない灯しかない道…

「どうしよう…」

お盆のこの時期、どこの宿も満室で断られた。

そんなとき見つけた山間の山荘。

祈る気持ちで門を叩く。
「布団部屋でよければ…」と気持ち良く泊めてくれた。

しかしてその旅館は見事な露天風呂とおいしい食事がでる素晴らしい宿だった。

気に入った女はそれから数年、夏になると二人の子どもを連れてその旅館を訪れるようになった。

しかし子どもの成長とともにいつの間にか行かなくなってしまった。

…女とは私の母のことであり、後部座席で眠りこけていたのは私と姉である。

5月くらいに昔よく行ったあの旅館の話しが出て一気に盛り上がり、母と姉家族、そして私の家族と行くことになった。

で。

来たよ。来ましたよ。

新穂高、深山荘。
吊り橋、露天風呂。
変らぬたたずまい。

感動したよ。

それにしてもすげぇ遠かった。

母は毎年ひとりでここまで運転していたかと思うと…今ほど道も整備されてなかっただろうし…

母は強し、と改めて思うのだ。