イリアーデの言霊

  ★心に浮かぶ想いのピースのひとかけら★

homme fatal-運命の男- 04

2012年12月19日 09時27分35秒 | 小説

p.197~200

愛を口移しで飲ませるかのように、情熱的なキスが、鷹司から与えられる。「君が無事でよかった。愛しているよ」鷹司の言葉に、桜庭は眸をあけ、彼を凝視(みつ)めずにはいられなかった。失ったはずの愛がまだ鷹司の裡に輝いているのが、視えた。「…わたしを、赦してくださるのですか?」「赦すよ。君への愛情が、わたしを寛容な男にする」下肢の切なさと戦いながら、桜庭はどうしても聞かずにはいられなかった。「もう、わたしは、あなたに愛されるのには値しません。あなたは最初の男ではありませんでしたし、あなたを愛していると判っても、別の男に抱かれれば感じてしまう…。身体には疵が残りましたし、いまも約束を守れませんでした」「わたしを愛していると認めたな?」鷹司は、自分にとって大切な言葉だけを拾って、繰りかえした。「愛しているんだな?」素直に頷き、桜庭は認める。「…え、ええ…でも、わたしは、約束を守れませんでした」ゆっくりと桜庭が高まってくるように、鷹司は上下にだけ動きながら、笑った。「構わないさ」鷹司はあっさりと言った。「守れるはずなどないと、判っていた」唖然と、桜庭は自分の内側を占領し、キスせんばかりに覗きこんでくる男を見た。「約束のために必死になっている君が、たまらなくいとおしかったよ」「非道い人……」眉根を寄せた桜庭に、鷹司はキスを浴びせる。「非道いのは君だ。いつも、わたしを苦しめる。だが、愛しているよ、君だけだ。わたしの最後の人――運命の恋人」「わたしには穢れた過去があるのに?」いつまでも、実父や聖職者たちの性の玩具であった過去が、桜庭の裡から消し去れない。「過去などどうでもいい。君が何人の男と愛しあってこようとも、わたしを最後の男にしてくれればそれでいいのだ。わたしを愛していると、言ってくれ」「ええ、わたしも………」桜庭は、甘く濡れた声で答える。「わたしも、あなたを愛しています。鷹司さん…」「名前を呼んでくれ、鷹司は、母の名字だ」任務のために、鷹司は四ノ宮から母方の姓に移り、桜庭もまた新しい姓を得たのだ。「あなたを愛しています。貴誉彦さん…」鷹司の腰が深く入ってきて、桜庭はのけぞったが、自分からも突き返すように、身をくねらせて応えた。二つの肉体が、欲望の律動をはじめる。「わたしも、愛しているよ、那臣」桜庭は鷹司の首筋に抱きつき、自分にいっそう挿入させると、肉体の内で彼を深く味わった。「ああ…あなたを感じる……」

 


homme fatal-運命の男- 03

2012年12月19日 09時24分42秒 | 小説

p.187~188

舐めとろかされ、指戯を受けた肛襞は、円みを帯びた頭冠(トップ)に触れただけで、歓喜の慄えを放った。自分の秘所が別に意思のある淫らな生き物となってしまった桜庭は、戦きながらも、鷹司の熱と硬さを確かめ、決心をつけた。ベッドに立てた膝で下肢を支えながら、桜庭はしずしずと腰を落とした。花びらがひらくように、肛の環がゆるみ、襞がざわめいて、吸いこみたがるのを制しながら、桜庭はゆるやかな挿入を行おうとする。鷹司から、くぐもった呻きとも吐息ともつかない声が洩れたのを聞いて、桜庭は、自分が彼を追い詰めているのだと感じた。桜庭は慎重に、身体を下ろしてゆき、完全に鷹司のすべてを自分の肛筒(なか)に捉えると、ゆるやかに、腰を揺すってみた。甘苦しいほどの快美感が、鷹司を咥えた秘所から湧きあがり、桜庭の腰を包むように撫でて、じわじわと身体を這いあがった。快美は、腹部の奥をぎゅっと収縮させ、乳嘴(ちくび)を充血で擽るような痛みに慄せてから、眩むほどの陶酔となって思考を犯す。声を洩らさなかったのが、奇跡のようだった。


homme fatal-運命の男- 02

2012年12月19日 09時20分58秒 | 小説

p.178

二月二十一日(土曜日)午後六時

拷問だった。拘束されていた頸(くび)や、手首――、打ち身の痕を、鷹司はひとつひとつ、まるで癒そうとするかのように、口づけて、胸の突起へ辿り着いた。鷹司の口唇が淡色の乳暈(にゅうりん)を捉え、歯で乳嘴(ちくび)を摘み取られると、桜庭はたまらなくなって、普通に息をつごうとしても、喘ぐことしかできなくなった。胸から突起を摘み出し、摩擦するように愛撫し、揉み潰すようにするだけで、桜庭をどう変えてしまうのか、鷹司には判っている。乳嘴の擦淫(いたぶり)だけで、いつでも悦かせることができるのだ。すでに欲情の象(かたち)を整えてしまった桜庭は、叫ばずにはいられなかった。

p.184

蓮華色(ロータスピンク)の肛襞(ひだ)に窄められた繊細な環は、その熟れ具合とは裏腹に、可憐な魅力を漂わせている。


毛皮を敷く理由 -02

2012年12月04日 06時23分18秒 | 小説

homme fatal 運命の男

p.209~210
「二月二十一日(土曜日)午後九時」

四ノ宮の指が、桜庭の疵痕をなぞった。桜庭はビクッと戦いたが、眸(め)を閉じたまま、口唇(くちびる)を開いて吐息を吐いた。閉じた女性器を思わせる妖しい疵痕を養父に撫でられて、桜庭が恐怖以外のものを感じているのが、鷹司には判った。自分には触らせなかった疵痕を撫でさせて、官能を覚えているのだ。四ノ宮の手で、桜庭が官能を満たされはじめたとしたら、鷹司には厄介なことになる。桜庭を奪い返されるかもしれないという恐れを、感じるのだ。現在の四ノ宮康煕は、車椅子での移動を余儀なくされた老人だが、彼の偉大さ、邪悪さは、息子だからこそ誰よりも鷹司には判っていた。この年齢になっても「タリオ」のNo.2と呼ばれていても、鷹司はいまだに実父に気後れを感じてしまうのはそのためだ。そしていま、桜庭を愛撫している父を見ていると、かつて四ノ宮邸で盗み見た光景が、鷹司の脳裡に蘇ってきた。暖炉の前に敷かれた毛皮の上で、桜庭が身体を丸め、蹲(うずくま)るように眠っていたときの光景だ。最近、鷹司はその話を桜庭にしたが、気になる部分は端折(はしょ)っておいた。あの時、眠っていた桜庭は裸身であり、その姿を四ノ宮は凝視(みつ)めていたという部分を――。


毛皮を敷く理由 -01

2012年12月04日 06時23分03秒 | 小説

homme fatal 運命の男

p.24~25
「一月十五日(木曜日)午後二時」

寝台に運ばれた桜庭は、純白の毛皮が敷かれた上へと横たえられると、自分から両脚をひらき、鷹司の居場所をつくった。雪よりも白く、純白の毛皮よりも甘い肌の色が、鷹司を昂(たかぶ) らせる。「なぜ、ベッドに毛皮を敷くのです?」前々から訊きたかった事柄を、桜庭は口にした。とても心地快(ここちよ)くて、素肌で触れているだけで癒やされるのだが、これもまた、恐ろしく不経済だからだ。「憶(おぼ)えていないだろうが、むかし、君に一目惚れして、父に屋敷への出入りを禁じられたことがある」「ええ、前にもそう仰っていましたね」鷹司が、秘密を話す。「禁止された後も、何度かこっそりと入りこんだことがあって、…その時、暖炉の前に敷かれた毛皮の上で、君が眠っているのを見た」その時の光景が感動的であり、鷹司には忘れられないのだ。「お養父(とう)さまの部屋ですね?暖炉の前に毛皮があったのは憶えています…」桜庭は記憶をたぐるように、視線を動かしたが、諦めた。「そこで眠ってしまうこともあったかもしれませんね。あまり自覚がないのですが」「君は本を読んでいて、眠ってしまったのだろうな。近くに車椅子に座った父が居て、君をじっと見守っていた」普段、四ノ宮は車椅子で生活している。杖を使っての移動もできるが、介添えがなければ無料だった。ゆえに、眠ってしまった桜庭を運べなかったのだろう。


凍原 -02

2012年10月30日 18時13分11秒 | 小説

北海道警釧路方面本部 刑事第一課・松崎比呂
凍原 TOGEN Sakuragi Shino
by 桜木紫乃

p.44~45

一着しかない黒のパンツスーツで出勤する。心なしか肩のあたりが窮屈になっている。流行り廃りのないデザインだったので、五年間買い換えていない。仕事に支障が出るようなことでもない。毎日の仕事着は伸縮素材のパンツとシャツ、あとは季節に合わせた数着のジャケットがあれば充分だった。着るものに気を遣ったり金を掛けるという意識はなかった。化粧もチューブのファンデーションとリップグロスで終わり。髪は肩までの長さで、普段はほとんど一本に結わえている。縛る長さがあれば毎月美容院まで行かなくても済み、スタイルを気にする必要もない。

片桐周平が笑った。釧路方面本部刑事第一課強行犯係一係警部補、五十歳、独身。赴任してきたとき、真っ先に声を掛けてきたのが片桐だった。身長は百六十五センチと、比呂とほとんど変わらない。短髪のこめかみに白いものが集中していた。飄々とした風貌と一課の刑事とは思えないほど柔らかな視線は、上下なく「キリさん」という呼び名を許している。


凍原

2012年10月30日 00時51分15秒 | 小説



桜木紫乃


凍原
北海道警釧路方面本部
刑事第一課・松崎比呂

少女は、刑事にならねばならなかった。

釧路湿原で発見された、青い目の他殺死体。捜査行の果てに、樺太から流れ、激動の時代を生き抜いた 顔のない女の一生が、浮かび上がる!


福徳弁財天(十一面観音)の化身か?

2012年09月02日 23時26分51秒 | 小説



目方恵子(めかた・けいこ)


平将門の子孫…相馬本家の分家で「俤(おもかげ)神社」の“巫女”であったが、平将門に見初められて“神女”となり、辰宮洋一郎の許に嫁した。辰宮家の守護聖女であり帝都の守護神として、加藤と対決した。戦いには敗北を帰したが、その身を加藤に捧げる事でその怨念を一時的に和らげ“月落とし”を阻止した。

再び加藤が帝都への憎しみを取り戻した事で東京へ舞い戻ったが、老いた恵子には加藤と戦う力は残っておらず、後事を若き異能者達に託さざるを得なかった。再び怨敵同士に戻った今でも加藤を愛しており、共に滅びる事を望んでいた。

願いは叶わず他界するが、自身の後継として育成した大沢美千代に帝都の守護聖女の役目を託す。実は、美千代は割腹自殺を遂げた“三島由紀夫”の転生である。