intoxicated life

『戦うやだもん』がお送りする、画日記とエッセイの広場。最近はライブレビュー中心です。

2009年、北上(1)食

2009-01-11 | traveling
列車の旅で食といえば、やはり駅弁。他方、「人類は麺類だ」を格言とするわたくし。大みそかには年越しそば、その前日には調布・深大寺のきのこそば、とそばづくしの年末を過ごした。旅先での駅そばはやはり欠かせない。


東京から仙台までノンストップで北上した1日目。東北本線といえば郡山が名高いが、駅そば初めとなったのは黒磯の「そばうどん喜多」だ。乱切り風の麺にはそこそこコシがあり、6時起きでいつもより進んでいた腹時計の針をすっと戻してくれた。なお、常磐線沿線のチェーン店「喜多そば」とは別モノのようである。【きつねそば・330円】


駅そばという性質上、食べたくても食べられないというケースもしばしばある。乗換え列車との兼ね合いなど、時間的な制限もさることながら、ここには二つの阻害要因がある。


ひとつはNRE(日本レストランエンタプライズ。JR東日本のグループ会社)である。山形、青森などではこのNREが幅を利かせており、首都圏の駅そばチェーン「あじさい」となんら変わらないフニャフニャのそばが味わえるわけだ(いうまでもなく、旅先でチェーン店のそばなど食いたくない)。味の均質化は、今後一層進んでいくだろう。


もうひとつは、ローカル線の衰退である。品川「常盤軒」のように、在来線ホームから追いやられるならまだマシで、いわきや函館のように駅舎改良によって閉店となるケースが後を絶たない。駅弁まで話を広げれば、今回通った羽越本線だけ見ても鶴岡、酒田での駅弁は廃止されてしまった(酒田駅では、昨年より「ががちゃおこわ」(清川屋)が販売開始となったが、一度改札を出ないと買うことができない)。


では、この二つがもたらすものとは何か。


倶知安(くっちゃん)という駅がある。現在、札幌市を中心に我田引鉄する北海道新幹線の新駅予定地で、函館本線のいわゆる「山線」の中間点だ。この駅の待合室に店を構えるのが「清水立売商会」である。


事前に調べたデータによれば、「味覚的には、特にこれといった特徴はなく、平均的」とある。営業時間が14時までなのだが、13:50着/14:14発と絶妙のタイミング。森駅の「いかめし」から早4時間弱、ここがシメ時と判断し、小走りで改札へと向かった。


かつてのターミナル駅らしい広々とした待合室に、背の低い鄙びた店がちょこんと座っている。客もなくヒマそうな店主に「天ぷら」と注文すると、「天ぷらひとつだけでいいのかい?」とおどけてくる。慌てて「天ぷらそばです」と言い直す。


やかんに入っためんつゆを温めながら、「いまの汽車(で来たのか)?」「まだ時間あるねー」などと声をかけてくる。長ネギの効いた天ぷらを噛みながら、「新幹線が来たらどうなりますかね」と尋ねると、彼はこう即答した。


「町はひどい目に遭うでしょう」


来年こそやめる。ここ数年、そう言い続けてきたという親父さん。「車社会でもって、免許も持たずに汽車に乗ってるような人は、ちっと変わってるっていうか変っていうか…」と、駅そば店主としての自分の人生を皮肉っぽく振り返っていた。


じゃあおたくは変な人だな――。「僕免許ないですよ」という問いかけに、あっはっはと大きく笑ってみせた店主の姿を、私はあと何度見ることができるのだろう。決してうまいとはいえない、あのそばの味だけが残るのだろうか。新幹線開通後、「山線」は廃線となることが決まっている。


(倶知安駅 清水立売商会)

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