物欲大王

忘れないために。

2009年5月17日Kバレエ「ジゼル」

2009年06月27日 09時32分32秒 | クラシック
またまたKバレエ。
他のカンパニーの公演にも行きたいのだが、それには夫婦共に頑張らなくてはならない。
が、近年希にみる経済不況。まぁ、しょうがない。

チケット発売時のキャスト発表ではジゼルを演じるのがヴィヴィアナ・デュランテ。
英国ロイヤルバレエ団のプリンシパルで、熊川哲也とは公私共にパートナーを組んでいた。
特にジゼルでの評価は高く、演目の特徴である「表裏の表現」には観客のみならず、ダンサーでも一目を置くほどである。
「ジゼルならヴィヴィアナ・デュランテ」と言われていたが、今回その公演が観られる。
実に貴重な体験である。
彼女の演技は数回しか観ていないが、それはまだバレエを観はじめた頃。
今では妻のお陰で大分詳しくなった。
彼女のジゼルを堪能してやろうではないか。

公演当日を数日前に控えたある日、KバレエのHPに見慣れてしまった文章が。

「ヴィヴィアナ・デュランテがケガで降板」

……もう、慣れました。そうですか。降板ですか。
だ、代役は東野泰子さん。まぁ、頑張ってくれや。

会場に到着後、プログラムを購入。開くと「お詫びと訂正」の紙切れが入っていた。
誤植があったらしい。
(誤)第2幕のラストで~
(正)第1幕のラストで~
……おい!ちゃんと校正しろ。

指揮はお馴染みの井田勝大氏。
オケの感想は後ほど。

開演後、まもなく熊川哲也そして東野泰子が登場。
おお!東野ジゼル。実に可愛い。
こんな乙女なジゼルを観たのは初めてだ。
1幕のジゼルは「踊りが大好きな村娘」という設定。
疑うことを知らない純粋な娘で、熊川哲也演じるアルブレヒトに片思いをしてしまう。
しかし、そのアルブレヒトは貴族の王子さまで、しかも婚約者付き。
ジゼルはただの遊びなのだ。
1幕の終盤でアルブレヒトの正体が発覚、そこで「遊びだったんだ」と気付き、ショックで狂乱してしまうジゼル。
もう、可哀想で可哀想で
おじさん。涙が止まらない。
前半で実に楽しそうに踊っていたから、喜と悲の対比が余計強調されてこちらもショックを受けてしまう。
ストーリーは知っていて、そこでジゼルが命を落とすこともわかっているのだが、
「いや!ジゼル死なないで!」「もう逢えないじゃない!」と悲観に暮れてしまった。
実は書いている今でも辛い。俺のジゼル史上、これほど悲しんだジゼルは東野泰子が初めてだ。

悲しみを乗り越え、挑んだ2幕。
ジゼルがウィリという幽霊になって登場。
いやいや、決してホラーではないですよ。バレエです。
ウィリというのは森に現れては通りすがりの男性を死ぬまで踊らせるという幽霊。
幽霊だからといってチェーンソーは持っていない。あしからず。
2幕は松岡梨絵演じるウィリの女王のミルタが率いるウィリ達のコールド・バレエが魅力。
ウィリは若くして死んだ乙女の幽霊。
Kバレエは均整がとれたコールド・ダンスにも定評があるが、特にその魅力が発揮されるのがジゼル。
1幕を暖とすると、2幕では冷。その対比がこのコールド・バレエによってより見事に強調された。
人間臭くないしね。皆、血を抜いて演技をしていた。
2幕で登場する男性ダンサーは2人。主役のアルブレヒトと恋敵のヒラリオン。
その2人もあまり踊らないので、ず~と女性ダンサー達が観られてかなりセレブな気分。
なんか男目線で恐縮だが、美しかった。
キャバクラの様な「暖」ではなく、ぼったくりバーの「冷」ではあるが。
死が待ち受けていても「向こう側」に行きたくなってしまう。
危険が伴う美は何故こんなに魅力的なんだろう。

コールド・バレエばっかり書いてしまったが、東野泰子も素晴らしかった。
殺されても納得できる程の「美の引力」がそこにあった。

ジゼルの特徴は「対比」。まず1幕では「喜と悲」。
そして1幕の「暖」と2幕での「冷」の対比。
これを見事に演じられるダンサーが一流とされるが、評価に値するダンサーはあまり見られない。

ジゼルの評価が高いダンサーは世界に数人だが、東野ジゼルは文句なしにその中に入るだろう。
ヴィヴィアナ・デュランテの降板により、チャンスを実力に変えた彼女の成長を手放しで喜びたい。

もう一つの成長は、オーケストラ。
ここ最近の成長には驚かされる。
オーケストラが成長する要因はやはり出演回数だ。
最近のシアターオーケストラトーキョーはコンサートの開催や、CDの発売など緊張感が増したせいなのか演奏の安定感も増してきた。
今回のジゼルの音楽はBGMとしての役割はもちろんのこと、解説や効果音そしてキャストのセリフまでが詰め込まれていて難しい作品だが、それを見事に攻略。
どこかで読んだが、ヴィヴィアナ・デュランテが1幕で降板し、2幕から代役で東野泰子が出演した際に、指揮の井田勝大氏が慌てず東野泰子が踊るテンポでタクトを振ったらしい。
その様子をバレエ指揮のドン福田一雄氏が「見事だった」と評していた。
オケはもちろんだが、井田氏の成長は目覚ましい物がある。
様々なレパートリーを貪欲に自分のモノにしている。
彼の成長を皆で暖かく見守りたいものである。

約1ヶ月後の第九鑑賞の後、バレエは暫くお休みします。
理由は後ほど書きますが、妻の転職と俺の減給(会社理由)。
誰かチャンスを下さい。驚く程、成長しますよ。夫婦共に。
ではまた。


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