物欲大王

忘れないために。

松尾スズキ「クワイエットルームにようこそ」

2007年10月29日 01時09分02秒 | 読書、書評
クワイエットルームにようこそ (文春文庫 ま 17-3)
松尾 スズキ
文藝春秋

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 脚本家松尾スズキによる、芥川賞の候補作に選ばれた作品。
精神病院で繰り広げられる様々な人間模様を描いた。
一人称の目線で描かれていて明るめに描かれてはいるが、結構重い内容。
とはいえ、暗い印象ではない。しっかり描かれている。
特に人物描写が素晴らしいのは脚本家ならではの筆力だろう。
K病院の真っ白な壁が頭から離れない、清潔感のある小説だった。
評価4★★★★☆(5段階)

業田良家「自虐の詩」下巻

2007年10月29日 00時59分34秒 | 読書、書評
自虐の詩 (下)
業田 良家
竹書房

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 下巻は幸江の幼少時代の話が中心。
父親が借金まみれで家にはしょっちゅう借金取りが訪問。
生活費を稼ぐ為、新聞配達のアルバイトをしてなんとか食いつなぐ。
かろうじて暮らしていたが、父親が銀行強盗をしていまう。
エスカレートする虐め。
ひとりぼっちになってしまったが、ある友人が支えになった。
それから何年たったのだろう。幸江に赤ちゃんが授かった。
貧乏ながらも小さな幸せ。イサオも「稼ごう」と競馬の予想に本気で取り組んでいる。
純粋に働けよとは思うが、それはそれ。
そんな彼女に一本の電話が入る。

小さな幸せ。なんか良い響きだよなぁ。
評価5★★★★★(5段階)

業田良家「自虐の詩」上巻

2007年10月29日 00時30分20秒 | 読書、書評
自虐の詩 (上)
業田 良家
竹書房

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 先日、映画「サウスバウンド」を観に行った時のこと。
上映前の予告編で衝撃的なシーンを目撃してしまった。
パンチパーマの阿部寛。しかも「昭和のパンチパーマ」。
中谷美紀と食事をしていて醤油がこぼれたシーンがあった。
な、なんと阿部寛。
ちゃぶ台をひっくり返す。
な?なんなんだ?この映画は?DV推奨映画?
でも、面白そうだ。観てみたい。とパンフレットを読んでみる。
どうやら夫婦の絆を描いた作品だそうだ。
は?普通逃げるだろ。こんな男。
原作は?あった。4コママンガらしい。早速買ってみた。
因みに私、映画を観る時には先に原作を読むタイプです。

中華料理店で働く幸江には、最愛の夫イサオがいる。
とはいえこのイサオ。かなり曲者なのである。
元ヤクザで、無職。かなりキレやすい。
めしがまずいとちゃぶ台をひっくり返し、ビールがマズイとちゃぶ台を……
趣味はパチンコで金がなくなると幸江の隠し場所からつまんでしまう。
「あんたぁそのお金は~~」ていうあれ。
そんな破天荒なイサオなのだが、幸江は彼の事が大好きなのである。
イサオも口に出さないが、幸江を愛している。
幸江が寝込んでしまえば、「風邪を引くぞ」と大量の布団を掛ける。
また、誕生日には一輪の薔薇をプレゼント。とはいえ、近所の家からパクってきたやつ。
……まあ、彼なりの優しさが幸江には嬉しい。

イサオは幸江に暴力こそ振るわないが、典型的なDV夫。今の時代だったらとっくに裁判沙汰だろう。
でも、昭和の時代にはいたんだよ。こんな夫婦が。
周りは「なんで別れないの?」と思うような2人なんだけど、実は愛し合っているんだよ。
昔、営業をやっていた時にお客さんでもよくいたな。
奥さんがご主人の悪口を言っているんだけど、なんか幸せそうなの。
適当に「そうなんですか~~」と相槌を打ちながら、「へぇ。大好きなんだなぁ。ご主人のこと」と感じていたのを思い出した。
他人には絶対わからない「夫婦の絆の深さ」が羨ましい、笑える4コママンガだった。
評価5★★★★★(5段階)

田村裕「ホームレス中学生」

2007年10月14日 01時28分03秒 | 読書、書評
ホームレス中学生
麒麟・田村裕
ワニブックス

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 妻と本屋に行った時の事だ。
本屋なのにダンボールが置いてある。
いや、本の装丁だ。なんだろう?この本。
タイトルは「ダンボール中学生」。へぇ、面白そうだな。
帯には「麒麟・田村のせつな面白い公園生活!!」と書いてある。
ふ~~ん。麒麟の田村かぁ。
ん?
おお!あれかぁ!
最近テレビで見かける、お笑い芸人「麒麟」の田村氏の本じゃん!
中学生の時にホームレスになってしまい、空腹に耐え切れずにダンボールを食してしまった彼のディープな話を読めるとは……
ナイス!ワニブックス。ありがとうワニブックス。

帯をじっくり読んで見ると、推薦文が書いてあった。
「人々にパンを与えたアンパンマン、ハトからパンを奪った田村くん。どちらの話も、みんなに生きる勇気を与えてくれる」やなせたかし。
ん?
や、やなせたかし?
アンパンマンの作者じゃん。凄いじゃんワニブックス。

内容は文句無しの面白さ。テレビなどで語られている内容が殆どなのだが、本ではそれがじっくり語られている。
普通はこんな人生を送れば大抵グレるものだが、著者はまっすぐな人間として成長していった。
若くして母を亡くし、中学生の時に家が差押えられ、その場で「解散!」と父親が去ってしまい、あっけなく一家離散。そして公園でのホームレス生活。
まさに「どん底のエスカレーター」。かなり悲惨である。
だがそれからは様々な人に助けられる。
いや、「守られている」という表現の方が適切だろう。
兄弟、友人やその親、近所のおじさんやおばさん。みんなが著者を守っているのである。
周りの人々の優しさに触れ、素直に感謝する著者。
どん底の苦しみを経験したからこそ、周りの親切に本心で「ありがとう」と言えるのだろう。
それにしても、よくグレなかったなぁ。不思議な位である。
亡くなったお母さんが守ってくれているのかな?と感じた著者の人生であった。
評価5★★★★★(5段階)

荻原浩「ママの狙撃銃」

2007年10月09日 01時33分51秒 | 読書、書評
ママの狙撃銃
荻原 浩
双葉社

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新聞広告で見て「面白そうじゃん!」と書店にて購入。
購入後、何故か「つまらなかったらどうしよう」とかなり不安になってしまった。
だって「母親が実はスナイパー」という荒唐無稽な設定。
果たして小説として成り立つのだろうか?しかも、著者の作品は一度も読んだことが無い。
不安全開で帰宅。そしてページを開いてみた。

……1時間すぎただろうか?この小説。
すっげ面白いじゃん。
ハマった。日本国民全員にオススメしたい。俺が本屋だったら絶対売りたい小説。
直木賞に推薦します!はい。

かいつまんでストーリーを。
マイホームでガーデニングを楽しむ専業主婦、福田曜子は平凡ながらも幸せな生活を送っていた。
2人の子供、そして夫の4人暮らし。
ある日の午前中、ガーデニングを楽しんでいるところに一本の電話が入る。
25年ぶりに聴くあの男の声。「また仕事をしないか?」……
男の名は「K」。彼は曜子の過去を知っている。
そう。彼女は元スナイパーなのである。

本書を読んで驚いたのが、曜子が「見事に主婦業、スナイパーを両立させている」ということ。
家計が苦しくなり、狙撃銃に手を伸ばしてしまうのだが、それでも「主婦を忘れない」曜子に脱帽。
しかも狙撃の腕は天下一品。主婦バージョンゴルゴ13といった所だろうか?
主婦、スナイパーと2つの顔を持つ曜子なのだが、それぞれの仕事を著者がキッチリと描いているので、一見「ありえね~」設定の小説が、「読ませる小説」に仕上がっている。
さらに唸ったのが、家事をこなしてから狙撃の仕事を終えるまでの描写の流れに違和感が無い。ということ。
主婦とスナイパーという、絶対リンクしないような職業が見事なまでにコラボレートしているのである。
マジで著者の筆力に脱帽である。ホント土下座します。
映像化を是非!主演は森尾由美さんかYOUさんあたりでお願いします。

映画館で観たいよこれ!
評価6★★★★★★(5段階)