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『中野京子と読み解く 名画の謎 陰謀の歴史篇』

2013-12-25 15:27:02 | 書籍(美術書)


『中野京子と読み解く 名画の謎 陰謀の歴史篇』
文藝春秋
2013

著者中野京子氏による「名画の謎」シリーズ第三弾。
ギリシア神話、聖書に引き続き、今回は「歴史」をテーマとして、様々な絵画が取り上げられている。

本書の大分を占めるのは、「文藝春秋」で今も連載されている「中野京子の『名画が語る西洋史』」の内容に加筆されたものである。

ブリューゲルの時代から、ラファエロやクラナハといったルネサンス期の画家、マニエリスムのエル・グレコ、17世紀のフェルメール、またダヴィッドやジェロームといったアカデミーの画家、そしてロマン派のターナーやゴヤ、果ては20世紀の風刺画家ジョージ・グロスまでを扱っている。

絵画ばかりではない。
デューラーやホガースの手による有名な版画作品も取り上げられている。

西洋史にとりわけ造詣の深い著者だけあって、「名画の謎」シリーズの前二作と比べても、さらに筆が冴えているように感じた。

どの章も興味深く、益するところ多いのみならず、読み物としても充実していた。
第一章で言及されているシェイクスピアの『リチャード三世』の話しかり、ラオコーン群像を巡る白熱した論争の歴史を扱っている第五章しかり。

なかでも個人的に印象に残ったのが、第九章で扱われているデューラーの「メレンコリア I」であった。

「メレンコリア」の後にある「I」は、個人的には大した意味を持たないものとばかり思っていた。
憂鬱を主題としたデューラーの作品のうちで最初のもの、といった程度の含みしかないのだろうと。

しかし実際には、この「I」は重要な意味をもつ。

本書の137頁で述べられているように、当時、憂鬱には三つの「段階」があるとされた。
すなわちデューラーの版画で描かれているのは、その「第一段階」なのである。

142頁には次のようにある。

「憂鬱には三段階あり、最終の第三段階へ達すれば『天使的叡智が得られる』とされた」。

138頁から次の頁にかけては、メランコリーの歴史について述べられている。
おおまかにいって、メランコリーには、肯定的解釈と否定的解釈が伝統的に存在した。
天才の証とみるか、病気とみるか、ということである。

本書で言及されている「憂鬱三段階論」は、デューラーのメランコリー観が肯定的見地の伝統に属するものであることを示す有力な根拠となる。

またメランコリーの擬人化に関する説明について、一点疑問に思うところがあったので、著者のブログ(http://blog.goo.ne.jp/hanatumi2006)のコメント欄に投稿させていただいた。
翌日すぐ、著者から返信を頂いた。

こちらにそのリンクを貼っておく。
http://blog.goo.ne.jp/hanatumi2006/e/b1a251372225583a531c843a4869b4b4#comment-list

一読の価値は十分にある一冊であった。

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