leonardo24

西洋美術関連ブログ 思索の断片
―Thoughts, Chiefly Vague

Desperate Romantics

2013-12-23 22:04:20 | ドラマ


Desperate Romantics
BBC
2009

年明け(2014年)に六本木の森アーツセンターギャラリーで「ラファエル前派展」が開かれる。
私がわりあい積極的に美術展に足を運ぶようになって数年たつが、これほど期待している展覧会はない。

イギリスという国は長らく画家不毛の地であった。

16世紀にはホルバイン、17世紀にはヴァン・ダイクがそれぞれヘンリー八世とチャールズ一世の宮廷画家として活躍した。
しかし、ホルバインはもともとドイツ人であり、ヴァン・ダイクもフランドルの生まれである。

本格的な英国人画家の誕生は18世紀まで待たなければならない。

「英国絵画の父」と呼ばれるホガース。
確かに彼は絵画も遺しているが、その名声は(少なくとも現代の我々の感覚からすると)多分に彼の銅版画によるものだ。

大陸と渡り合える最初の英国人画家となると、ターナーを措いて他にはいない。
同時代のコンスタブルも傑作を数点遺しているが、ターナーに比べれば、その名声はドメスティックなものにとどまる。

西洋絵画の通史において、個人レベルで欠かすことのできない唯一の英国人画家が、ターナーといってよいだろう。

一方、主義や画風といったもう少し広い区分において、西洋絵画史上、特筆すべき活躍をみせた英国発の画家集団もひとつしか思い当たらない。
それが、ラファエル前派である。

ロセッティ、ミレイ、ハント。
アカデミーの学生であった若干20歳の青年たちは、1848年に「ラファエル前派兄弟団」を立ち上げた。

彼らはラファエロ以前の絵画、すなわち自然に忠実な描き方を求め、保守的な画壇の体制に風穴を開けた。

そうした精力的な若者たちの生き様を追ったドラマが、BBC制作のDesperate Romanticsである。

Franny Moyleによる"Desperate Romantics: The Private Lives of The Pre-Raphaelites"を基にして作られたこのドラマの脚本には、少なからず脚色が加えられている。

もっとも顕著な例としては、一種の"composite character"として、Fred Waltersという実在しない人物を持ち出している点が挙げられる。

Moyleの原作には出てこない人物ということもあり、賛否はいろいろあるだろう。
しかし、彼を持ち出したことによって、ただでさえ人物関係が極めて入り組んだこの集団の映像化が、幾分すっきりしたことは確かであろう。

Desperate Romanticsで描かれているのは、ラファエル前派の主要画家三名と、彼らのミューズたる「スタナー」たちを中心とした、美と情熱に満ちた世界である。
それは、DVDの特典映像で、ProducerのBen Evansがこのドラマの本質を"arse for art's sake"あるいは"art for arse's sake"といみじくも述べていることからもわかる。

Wikipediaの該当ページをみる限り、このドラマの評価は必ずしも好意的なものばかりではない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Desperate_Romantics

確かにドキュメンタリー性を求めてこのドラマを観る人は、不満に感じるところがあるかもしれない。
しかし、幾分「ややこしい」人物関係の描写には極めて生き生きと迫ってくるものがあり、なにより青年たちのエネルギッシュな美の追求と狂乱の様は見事に描かれているように思う。

主要な登場人物を挙げると、ロセッティ、ミレイ、ハントはもちろん、エリザベス・シダル(リジー)やアニー・ミラー、ラスキン、エフィー、そして若き日のバーン=ジョーンズやモリス、ジェイン・バーデンまでが描かれる。

Fred Waltersはいわば、主要三人を除いたラファエル前派結成当時のメンバーと、クリスティーナ・ロセッティの要素とを統合させた存在といえる。

ディケンズも何度か登場する。
このドラマにおける彼の存在は、当時ラファエル前派が与えた社会的衝撃の大きさを物語っているだけではない。

ディケンズをもってしても、「アート」の世界においては、ラスキンにかなわない。
現代では想像も及ばないほど、当時のラスキンの影響力はそれほどに圧倒的だったのだ。

少し話は変わるが、英国では2014年5月に、"Effie"という映画が公開予定となっている。

エマ・トンプソンが脚本を務めたこの映画では、ダコタ・ファニングがラスキンの妻エフィーを演じる。

ミレイを含めた、ヴィクトリア朝の有名な恋愛スキャンダルが描き出される。

一日も早く、日本で公開されることを切に願う。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿