旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

砂漠で水攻め

2017年02月15日 | 旅の風景
 1997年、はじめてUAEデザートチャレンジに出場した際にはとにかく何事も思い通りには行かなかったわけですが、その時、諦めずにバイクを前に進ませようとし続けたお陰で貴重な体験を積むことができた私は、驚くべきことに1998年には結局一度もスタックすることなくUAEの砂漠を攻略し続けることに成功していました。今、記憶を辿ってみたのですが1998年のUAEでは何度か派手に転倒はしたのですが一度もスタックはした覚えがありません。

 1997年にはスタックしては脱出のために手持ちの水を全て飲みつくしてしまって次のチェックポイントで貰えるだけ水をもらうという行動を繰り返して、いつも水に不安を覚えていたのですがスタックしない1998年はそれほど水を消費しません。おまけに非力なバイクでとても遅く走っている私は”楽しみで出場している”レベルの4輪にも毎日抜かれるので不憫に思ったのか追い抜きざまにミネラルウォーターを何本も落としていってくれる車がいたり、わざわざ車を止めて水を手渡してくれる人がいたりして豊富に供給を受けています。スタート前にいっぱいにしたキャメルバック(背中背負う水のバッグ)の水を温存しながら、貰った水を飲んで走っていたわけです。

 酷暑の砂漠。とはいえ、それなりのペースで走り続けていれば風が当たって涼しく感じ、それほど喉もかわかないのですが、道端でミネラルウォーターのペットボトルを掲げて”あげるよ”とジェスチャーしている他のチームのサポートクルーがいたら、念のためにバイクを止めて”サンキュー”って貰ってしまいます。ツーリングとは違ってウエストポーチだけしか持っていないので水を貰っても入れるところがありません。ムダにしないためにはその場でガブ飲み。

 少し砂が細かくなって走りづらくなり、タイヤの空気圧を落としていたら追い越しざまに水を5本ほど落としていってくれたこともありました。その場で2本ほどガブ飲みしましたが、飲めない残り3本を捨てていく勇気は持てませんでした。あとで命に関わるような状況に陥って”あの時の水を貰っておけば死なずに済んだ”と思いながら死んでいくのも嫌ですからね。結局、ジャケットのポケットに1本ずつ突き刺し、1本はジャケットの胸に入れて走ったのです。

 ポケットやジャケットの胸に1.5リットルも水を抱えて走るのはもちろんかなり邪魔です。だから、さっき飲んだ水が体内に落ち着いたらバイクを停められるところを探して(これが砂漠では結構むずかしい)ボトルの水を飲み干します。そんな事を繰り返しているわけですから、砂漠にいるのにいつもお腹がタプタプしていて、そのうち、尿意をもよおします。ところが先程も触れたように砂漠はバイクを安全に停めるのが結構ムズカしいのです。変なところに停めればサイドスタンドが埋まって倒れてしまいますし、もっと変なところに停めたら再スタートする時にスタックしてしまいます。

 ”オシッコ漏れちゃう”と焦りながら血眼になってバイクを問題なく停められる路面を探すのです。

 無事バイクを停めて、後続車に轢かれない程度にコースから外れて地平線へ向かって至福のときを過ごしていると、コース脇に停まっているバイクを見た後続車が、何かトラブルに見舞われているのかと勘違いしたのか、水を落としていってくれたり...やっぱりこの水も捨てていく勇気はありませんから飲めるだけ飲んでポケットやジャケットに詰め込んで..その繰り返し。

 3日目のルートでは、チェックポイント1は舗装道路沿いなので観客が詰めかけていました。チェックポイントでチェックを受けている私にスタッフからも観客からも沢山の水が差し出されます。それを根こそぎもらう私。CPで休憩しながら飲むこともできたのですが興奮状態の観客にバンバン背中を叩かれてスタートせざるを得なくなりました。皆から見えないところまで走ってもらった水を飲み干します。自分のキャメルバックにも詰めなおして一杯にし、それどもポケットにボトルを突き刺して走ります。

 チェックポイント2が近づいたところでバイクを停めてポケットの水を飲み干します。またまたお腹がタプタプです。
 
 チェックポイント2にタプタプでたどり着いた私。チェックポイントのスタッフが私の背中のキャメルバックを手で触れて言いました。
 ”全然水を飲んでないじゃないか。”
 私は
 ”もらった水をいっぱい飲んで来ましたよ。”
 と説明したのですが
 ”嘘つき”
 と一蹴されて、私の目の前に500mlのボトルが2本差し出されました。
 ”この2本を飲むまでスタートさせない”

 UAEデザートチャレンジではライダーの健康にとても気を配っていて、水を飲むのを忘れて走ることに熱中したりしていないかをチェックポイントでチェックされることがありました。私はそれに引っかかったわけです。
 
 お腹はタプタプ。でも、先を急ぐレースの最中。ヘルメットの顎紐を緩めて隙間から2本の水を一気飲み。再スタートはさせてもらいましたが、またそのすぐ先で尿意。バイクを停めていたら後続車が水を落としていってくれて....その水を捨てていく勇気は持てず...砂漠では考えられない水攻めです。

 1998年、UAEデザートチャレンジの現場で最も沢山の水を飲んだエントラントは多分私だと思います。



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