旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

禁煙体験談その3=完=

2010年03月31日 | ライフスタイル
買い置きしてあるタバコに手を伸ばす事もなくなった頃、私はここまでの苦しみは全てこれから少しずつ消えていく物と信じて疑いませんでした。実際のところ、タバコを衰退という欲求は日々弱まっていき、それに伴って極端に制御不能な食欲などもすこしずつ消え始め、昼間に気を失うかのように眠くなる事もすこしずつ減っていきました。

ところがある日、自分の精神状態が少し異常なことに気がつきました。タバコを吸えなくてイライラする事はもう無くなっているのですが、少し感情が先走ってしまうのです。ラジオから流れてくる何でもないポップスの歌詞で泣けてきたりする事もありましたし、映画なんかはかなり危険で、ほぼ全て泣けます。

心配事が心から消せない事にも悩まされました。夜、寝床に入ってから、まだ取れていないキャンセル待ちの予約の事を思い出して、今は何もできない事は十分理解出来ているにも関わらずどうしても眠れなくなってしまうようなことが頻繁に起こります。

学生の頃の知り合いで、鬱で病院に入院していた方がいました。退院してきたその人は全く普通の、いや、普通より明るいような性格の人で、私はそういう姿しか知らないわけです。興味本位で”鬱ってどういう症状になるの?”と尋ねた事があります。その時、”例えば、明日、いつもより少し早起きしなければならないとするでしょう?その事を思い出したら、もう起きられるかどうかが心配で、何時でも出かけていって、手に入る限りの目覚まし時計を買ってきて、自分の寝床の周り一面に敷き詰めて、それでも心配で眠れない。そんな症状”と教えてくれた事がリアルに思い出されて怖くなってきました。

涙もろくなるくらいは害のない話なのですが、実は1つ、かなり恐ろしく感じた異変があります。ほぼ自営業の私は、資金繰りで頭を悩ますこともあれば、まだキャンセル待ちの予約が心配で苦慮することもあります。そんな事で頭を悩ませているときに何となく”死”という概念が”ウットリ”と感じられる時が何度かあったのです。もちろん自殺しようと思ったわけではないのですが、何となく漠然とではあっても”死んじゃえばこんな悩みも無いんだよなぁ”とか、”死後の世界には資金繰りはひつようないだろうなぁ”とか、”魂だけなら、席がなくても飛行機乗れるのになぁ”と、そういう風に”死”という概念が少し異常な形で頭に浮かぶわけです。

最初の”計算ができない”時はまだ禁煙してからそれほど日も経っていない頃だったので、再びタバコを吸うこともできましたが、頭が変な具合になったのは随分日もたっており、既にタバコを吸いたい気持ちはあまり無いので、タバコを吸う事で回復する気にもなれません。考えた結果、脳に良いと言われている食品を意識して多く摂るように心がけました。それから、自分があまり冷静に物事を判断できなくなっている事を意識して、他の人と付き合う際には、注意を払うようにしたのでした。

これは後で知ったのですが、禁煙して自分の精神が正常でなくなった体験から、タバコをやめる事を断念した人は私の周囲にも何人か存在していました。私は、いずれ正常になるものと信じて、当面は自分が正常でない事を認識しながら暮らす事を選んだのでありました。そして私はそのまま2年を過ごし、死の世界に取り込まれる事もなく今に至っています。今でも肩や首の異常な凝りに悩まされる事はありますが、こんなときはどういうストレッチが効くかという知識が身について、対処ができるように成長。タバコを辞めて体の調子が良くなったと思う事は少ないですが、ひとつだけ。どういうわけかお酒に強くなりました。今の私には宿酔は無縁です。

私自身ももともとタバコをやめようと思っていなかった事もあって、心の準備ができていなかった分、心に大きな影響が出たのかもしれませんが、私は自分自身の体験に照らし合わせて、今日の少しヒステリックな禁煙強要には危惧を感じます。タバコを辞める事は少し怖いくらい心に影響を与えることがありますから、ただ単に”我慢しろ”とか”やめろ”と強要し続けることは、最悪の場合、相手を自殺にも追い込みかねない行為である事を理解した上で、皆で解決策を考えてみる必要があるのではないかと思います。

私も自分が体験するまでは”嗜好物に過ぎない。我慢すれば良い”と思いましたし、”我慢くらいできる”と思いました。そして、実際、”我慢くらいできました”。でも、その事の影響は想像を絶するほどのモノであったこともまた事実です。だから、今の禁煙ブームは少し単純過ぎるように感じてなりません。

私がタバコをやめたことに真っ先に気がついたのは私の周囲の喫煙者たちです。彼らの何人かは私に”自分もやめた方がいいかな”と相談しましたが、私は全員に”面倒な影響が多いから、問題を抱えていないなら、わざわざタバコをやめて問題を抱える事もないでしょう。”と禁煙しない事を勧めておきました。

終わり


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