制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

「ベーシックインカム」と「負の所得税」

2009年10月23日 10時27分51秒 | ベーシックインカム
これから2025年に向かって少子高齢化が進むと考えると、現在ですら危うい社会保障制度は、抜本的な「大手術」が不可避になるだろう。国民は既に気づいている。中小の医療保険者を地域単位で再編したり、年金記録問題の解決に取り組んで「国民の信頼」を取り戻そうとしたりといった「延命を目的とする治療」では、国民の「将来への不安」は払拭できないだろう(延命に延命を重ねて、2045~50年を乗り切れるなら良いのだが)。

昨日、紹介した「ベーシックインカム」は、最低限の生活に必要な額=ナショナルミニマムを決めて、「国民一人あたりいくら」と、無条件で給付する制度である。例えば、仮に「1人あたり月6万円」とすると、1家4人だと月24万円の給付。誰が働いていくら稼いでいるかは問わない。その代わりに、失業保険や生活保護、生活保護、各種手当などの制度が大きく見直される(置き換えられる)。稼いだ所得にかかる税金は増えるが、社会保険料や住民税などは減る。手取り額は大きく減ることになるが、毎月の給付額が加わるので、相殺すると従前とそれほど変わらない、という制度ができるかもしれない。
この制度の良さは、国が最低限の生活に必要な額を保障することで「将来への不安」を払拭でき、思い切ったチャレンジができるようになること(真のセーフティネット)である。ただし、勤労意欲を削いで社会の活力を損なうかもしれないし、世帯主が稼いで家族を養うモデルが崩れていくかもしれないといった副作用がある。

対して、「負の所得税」は、国民の平均的な生活に必要な額=シビルミニマムを決めて、その額より所得が下回れば、所得税がマイナスになる。つまり、その差額を給付する制度である。例えば、その額を「年収250万円」とすると、年収が200万円なら、その差額の50万円に比例した額が給付されて、手取りが増える。その分は、年収が250万円を上回る人の所得税から回されるので、年収300万円の人の手取りは減る。国民全体の手取りの幅がぐっと狭まって「貧富の差」が小さくなり、相対的貧困率は改善される。
年収が0円の「負の所得税額」をナショナルミニマムの額、(仮に)6×12ヶ月=72万円を扶養者数だけ給付するとすれば、「ベーシックインカム」の制度とうまく接合できるかもしれない。

ただし、この制度の最大の難関が、正確な所得の補足である。「ガラス張り」のサラリーマンに対して、自営業者の所得は、いかようにもなるほどの甘さである。「本当の所得」はいくらなのかをきっちりと調査し、「税を免れるだけでなく給付までもらおう」とする人たちを逃さないようにしないと、不公平感が増す。
所得を補足するためには、国民1人ずつに「納税者番号」を付与する必要があり、現実的な方法として、住民基本台帳番号を使えばよいのでは、ということになる。
基本4情報を管理する住民基本台帳ネットワークの導入にあれだけ反対があったのだから、国が所得を補足するための新たなネットワークシステムを構築するとなると、前回の比ではない反対運動が起こるだろう。
この制度は、有力な選択肢の一つではあるが、国民の理解を得るのは容易ではない。また、得られる効果に対して、事務に要する費用が大きすぎるように思える。

「ベーシックインカム」の導入に向けた国民的な議論が始まれば、民主党が「これからの日本を考え、社会のあり方を変えようとしている」と伝わるのではないだろうか。