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自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

「安心で信頼できる社会保障制度の確立に向けて」 その2

2009年10月27日 10時05分18秒 | 情報化・IT化
先日に続いて、「ICTを活用した効率的な医療提供体制の基盤整備」について考えてみたい。
レセプトオンライン請求の義務化に続いて、「医療情報のデータベースの構築やネットワーク化などをさらに推進していく必要がある」としている。

レセプトは、基本的には、審査支払機関である47の国保連合会と支払基金を通って医療保険者に渡るので、そこで必要なデータを収集すれば、日本でなされる医療行為のほぼ全てをデータベース化できる。うまく使えば、疾病ごとに一般的に採られている行為が何なのか、要する医療費はどれぐらいかなどを導き出せる。
このデータベースは、診療報酬の包括払い化を進めるものだとか、アメリカのマネージドケアのように医師の判断が軽視され患者に不利益をもたらすものだと反対する声が大きかった。
また、このブログでも書いたように、レセプト病名には多くの虚偽があり、信用できない。わざわざ、キーボードから入力した「ワープロ病名」も多く、データの質は低い。根底には、分析されることへの反発があるのだろうが、質の低さは、「標準的な医療行為」が何であるのかを見えなくし、「標準的な医療行為から外れるべき要件と選択の幅」も不明なままとしてしまう。つまり、データを活用できなくすることで、自ら医療の質を落としているとも考えられる。

レセプトは「請求書」なので、本当の病名も書いてない(詐欺と言われても反論できないだろう)し、治ったのか、病院を変えたのか、引っ越したのか、亡くなったのかもわからない。質が低いレセプトデータベースを分析するぐらいなら、診療録(カルテ)を分析すべきとの意見もある。しかし、日本の多くの医師にとっては、診療録は、「医師である自分の創作物」で、いかに匿名化するとしても院外に持ち出すなど、ありえないし、自分さえ読めればよいのだから、綺麗な字で書く必要もないものである。電子カルテの導入にも反対しているので、ほとんどが紙で管理されている(医師が電子カルテの導入に反対する理由は「メリットがない」である。しかし、患者にとって、診療録が電子化され持ち運べるようになることは、大きな「メリットがある」。医師は、自分の損得だけから反対すべきではない)。
これでは、先に進むことはできない。

結局のところ、日本の多くの医師の「意識改革」なくして、質の高いデータベースの構築は無理である。

また、データベースを構築できたからといって、分析できるとは限らない。
例えば、介護保険制度は、制度のスタート時から、要支援・要介護認定のためのデータ(心身の状態像と要介護度)も、介護保険のレセプトのデータ(利用したサービスの内容と量)も全て蓄積されている。2つのデータば、個人情報への配慮から、あえて別々の機関が保有し、突合できなくしているが、その気になれば、分析用のデータベースをつくり上げることはできる。
介護保険のIT化は、医療保険のIT化のずっと先を行っている。介護分野では、「そのデータベースから見えてくるものがあるのだろうか」、「制度・政策に、あるいは介護の現場に提供できる何らかの発見があるだろうか」といった「分析の視点や考え方」をしっかり論議するフェーズにある。
問題は、技術的な準備ができているにも関わらず、その機運が盛り上がらないこと、「福祉・介護の情報化・IT化」への関心が低すぎることである(医療に比べて福祉・介護は「遅れている」との誤解も根強い)。

医療情報のデータベース化のフェーズは、ずっと手前。そのため、データベース化できれば、すごいことができるとの「夢」をみることができる。しかし、それは「夢」に過ぎない。先行する介護保険の「停滞」から学ぶべきことは多くある。