どんぴ帳

チョモランマな内容

ショボい巨塔(その11)

2010-01-14 23:50:14 | 病院
 一時よりも収束した感はありますが、相変わらず風邪やインフルエンザの方々が多いです。もちろん時間外診療で(笑)

「熱があるんです!」
「はい、何度ありますか?」
「測ってないから分かりません!」
「・・・」
 ま、熱はあるんでしょうが、なんで電話をする前に測らないのでしょうか。酷い人になると、
「家に体温計が無いんです!」
 と逆上します。逆上されても困りますし、自慢することでも無いと思います。

「一時間前から熱が上がって来たんで、インフルエンザの検査をして下さい!」
「えー、高熱が出てから12時間ほど経過しないと、一般的には正確な値が出ないんですけどね」
「そうなんですか?」
「そうですね」
「でも念のためにして欲しいんですけど」
「…そうですか、で、ちなみに現在の体温は何度ですか?」
「37.5度です」
「・・・(そもそも高熱じゃないし…)」

 一時はあれほど、
「タミフルで異常行動!」
「リレンザでも同様な症例が!?」
 なんて週刊誌で騒いでいましたよね。
 ところが現在はなんとしても『インフルエンザ感染者』としての称号を獲得し、栄光の『タミフル』や『リレンザ』を、処方されたい方が大勢いらっしゃいます。
「今のところインフルエンザテストの結果はマイナス、つまり感染していないという結果ですね」
 と医師に言われると、非常に残念そうな方が本当に多いです。安心するなら分かりますけど、そんな奇特な方は非常に少ないです。
「分かりました、また明日来ます」
 そう言い残して、さらに自分で車を運転して帰る患者さん、本当に多いです。
 いや、そんな体力があるんだったら、家で寝ていることをオススメします。
 その方が間違いなく早く治ると、私は個人的に思っています。

「もしインフルエンザなら会社に行っちゃいけないんですよ、今すぐ検査をして下さい!」
 と熱望される方もいらっしゃいますが、
「インフルエンザに感染していたら、自宅待機で何日か過ごせるのにぃ…」
 と背中で語ってくれる会社員の方、何人もいらっしゃいます。
 だって、
「インフルエンザじゃないですね」
 って言われた後のガックリ感たるや、まるで病人みたいで見ちゃいられません(笑)

 これは毎年思うことなのですが、なぜコンビニエンスな方々は、
『発熱 = 悪いこと』
 という思考回路なのでしょうか…。ついでに言うと、
『病院のクスリ = ウイルス(あるいは病原菌)を殺す』
 という思考回路もおまけでついています。
 これだけ情報が溢れている世の中なので、ちょっとネットで調べて頂いても十分に解ることなのですが、おおよそ正しくは以下の通りになります。
『発熱 = 人体の免疫(防御)機能』
『病院のクスリ = 症状を緩和する物』
 
 基本的には体内にウイルスが侵入すると、人体は体温を高い状態にセットします。これが発熱です。
「急病なんです、熱が38度もあるんです!今すぐ(なんでやねん…)診て下さい!」
 と深夜3時に電話をしてくる人、冷静になって下さい。それは正常な人体の免疫機能です。
 高い体温はウイルスにとって活動がしにくい環境であり、ウイルスと戦う白血球にとっては非常に活動しやすい温度帯なのです。そして戦いが終了すれば、人体はまた体温を元の状態にセットします。
 つまり体温の上昇が始まったということは、体内でウイルスとの決戦の火蓋が切られ、人体の免疫機能がフル稼働し始めた状況なのです。
 でもコンビニエンスな人たちは、ここで体内にあるものをブチ込みたがります。そーです、アレですね。
「先生、とにかく解熱剤を下さい!」
 おー、入れちゃうんだ、いきなり解熱剤を。せっかくあなたの体はウイルスとの戦いに最適な戦闘状況を作り出したのに、わざわざそれをぶち壊すんですか…。
 確かに体は熱が下がれば楽に感じるでしょう。でもそれは本人が感覚的に楽に感じるだけで、ウイルスにとっても『楽な環境』です。
 熱の上がり始めに解熱剤を使用すると、一説には完治するまでの時間が1.5倍から2倍になるとも言われています。

 それから病院でもらうクスリは、一般的にはウイルスや病原菌を殺したりはしません。例外としてピロリ菌を駆除するクスリなんてのもありますけれど、タミフルとかリレンザもウイルスの『増殖』は抑えますが、すでに体内で活動しているウイルスに対しての殺傷能力はゼロです、つまりありません。
 あくまでもウイルスと戦うのは、自分の免疫機能なのです。
 もう極論を言ってしまうと、実際に戦うのは自分の免疫機能なんだから、病院のクスリなんて飲んでも飲まなくても一緒なんです。
 うーん、香ばしいまでの極論だなぁ(笑)

 深夜二時半、電話が鳴ります。二十代男性からの電話です。
「あのぉ、さっき目が覚めたら、熱があって寒気がするんですよ」
「はい…」
「どうしても明日までに治して、会社に行かなきゃいけないんですよ」
「・・・」
 無茶な注文です。そもそも『明日』って言ってますが、すでに日付は変わって今日です。おまけに深夜二時半だし…。
「それでぇ、点滴して欲しいんっすよ、良く効く奴」
「……」
 ここにも点滴信奉者の方が…。
「嘔吐(おうと、つまり吐くこと)はありますか?」
「無いです」
「口から水分とは取れていますか?」
「それは大丈夫です」
「あの、最終的には医師が判断することになりますけど、水分が口から取れていれば基本的には点滴はしないと思いますけど」
「え、点滴してくれないんですか?」
 そもそも脱水時の点滴なんてポ○リスエットと同じです。いやいや、外国でやむを得ず点滴液を飲んだメーカーの開発担当者が、
「そうだ、飲める点滴液を作ろう!」
 って発想で出来上がったのがポ○リスエットだし。
 
 深夜二時半に電話を掛けてきて、病院に到着するのが大体深夜三時。それから医師の診察を受け、仮に脱水症状だと判断されて500mlの点滴をしたとすると、それから約二時間が必要となります。点滴が終わると朝の五時すぎ、家に帰ったらもうそろそろ普段の起床時間なんじゃないでしょうか?
 さて、飲んでも一緒なポ○リスエットを病人に点滴すると、風邪やインフルエンザは完治するのでしょうか?
 はい、絶対に完治しませんね。

「点滴をすることはお約束出来ませんけど、内科の医師の診察なら可能ですよ」
 私は二十代男性にこう伝えました。そう言わないと医師が必要ないと判断した時に、
「何だよ、なんで点滴をしてくれないんだよ!」
 と激昂する人もいらっしゃいますので、言わない訳には行きません。
「えー、点滴してくれないの?じゃあイイです」
「・・・」

 点滴は別に『魔法の水(奇跡の回復アイテム)』ではありません。
 どっぷりと大量の点滴液が体内に流れこむのを見ると、さも効くような気がするかもしれませんが、大半はポ○リスエットです(笑)
 嘘だと思うのなら、看護師さんに訊いてみて下さい。
「これってポ○リスエットみたいな物ですか?」
 って。
「あ、これには吐き気止めも入ってますけどね…」
 とか言いながら、ほとんどの看護師さんは苦笑いをしながら頷くことでしょう。
    


最新の画像もっと見る

コメントを投稿