私は現在、名古屋港発、苫小牧行きのフェリーに乗っている。
フェリーの甲板には、多数のトレーラー後部荷台と乗用車、数台のバイク、そして私の自転車が一台積載されている。みんなの乗り物は床のフック用スリット等で固定されているのに、私の愛車は何かの機械に毛布を被せた所に立て掛けられ、トラック用荷締めベルトで固定された。少し寂しい。
自立できない自転車くん。持ち主にも人生のスタンドが欠けている。
トレーラーも自転車も入口は一緒です。
今回はB寝台という単なる二段ベッドの上段が私のスペースだ。せ、狭い。まるで自分が買った山岳用テント並の広さだ。動くとギシギシとベッドが軋むので、なるべく下の乗客に迷惑をかけないように私は気を使っていた。しかし夜中に寝返りをうった際に思わず肛門が緩み、バズーカ砲の様なオナラが出てしまい、下段の人に大変な迷惑をかけてしまった。以後、音のしないオナラを出すように細心の注意を払い、私は周囲の環境に配慮した。
二段ベッドからの風景。外のゴミ箱が良く見えます。
船内ではお客さんを退屈させない為に、ミニシアターで映画を上映したり、ジャズのステージ演奏も行われていた。
ステージ演奏といってもピアノ兼ボーカルとコントラバスの男性二名だけで、こじんまりとした感じだ。お客さんからリクエストを募ると、一人のおじさんが曲名を言った。演奏者が少し困った顔で、
「こんな曲ですか?」
とピアノを弾くと、力強く
「分かりません」
と答えた。
困惑した演奏者は、申し訳無さそうに別のリクエストを募り、他の曲を演奏し始めた。ノリの良い曲で、演奏者の促しもあり、手拍子が始まった。
だがその中に一つだけ異なったリズムが存在していた。裏カウントだ。みんなの手拍子の裏側で叩いている。みんなが『パチ』なら、そのリズムは『ぺち』だ。パチぺちパチぺち、パチぺちパチぺち、延々とそのリズムは繰り返される。その音の発信源は、先程自分でも良く分からない曲をリクエストしてしまったおじさんだった。若干酔っているらしい。パチぺちパチぺち、パチぺちパチぺち。調子を狂わされた正規のリズムのお客さん達の手拍子が次第に弱くなり始めた。
が、そこに挑戦者が現れた。それは私の斜め前にいる四十代の男性だ。恐らくは自称ジャズマニアだろう。ステージが始まった時からの体の揺すり方と、手が刻むリズムで、私が勝手に判断した。彼はおじさんのリズムを打ち消すが如く、力強く手拍子を『バチン』と打ち始めた。だがおじさんも負けてはいない。バチンぺちバチンぺち、バチンぺちバチンぺち、バチンぺちバチンぺち・・・。こうしてジャズと手拍子の競演で、フェリーの夜は更けていくのだった。
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