ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

東京地下鉄株式会社(東京メトロ) 10月23日に上場する

2024年09月21日 06時00分00秒 | 社会・経済

 朝日新聞社のサイトに、2024年9月20日19時4分付で「東京メトロ、来月23日上場へ 時価総額6400億円規模」(https://www.asahi.com/articles/ASS9N35PGS9NULFA01PM.html?iref=comtop_Business_04)という記事が掲載されていました。

 この話はかなり前から気になっていたので、どうなるのかと思って見ていました。何せ、帝都高速度交通営団から東京メトロに変わったことにより、それまでの東京急行電鉄を抜いて資本金、輸送人員数などがトップという大手私鉄になったのですから。

 東京メトロ(正式には東京地下鉄株式会社です)は、東京証券取引所に対し、プライム市場への上場を申請していました。東京証券取引所が承認したのが9月20日であったということです。その上で、上場予定日が10月23日になるとのことです。

 東京メトロの株式上場は予定路線でした。東京地下鉄株式会社法(平成14年法律第188号)附則第2条は「国及び附則第11条の規定により株式の譲渡を受けた地方公共団体は、特殊法人等改革基本法(平成13年法律第58号)に基づく特殊法人等整理合理化計画の趣旨を踏まえ、この法律の施行の状況を勘案し、できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」と定めていますし、2021年には東京地下鉄株式会社法附則第11条によって帝都高速度交通営団から国および東京都に無償譲渡された東京メトロの株の一部について売却の準備をすることが国と東京都との間で合意されていたからです。

 現在、東京メトロの発行済み株式の保有割合は、国が53.4%、東京都が46.6%となっています。株式上場によって国および東京都が株式を売却することにより、保有割合は国が26.7%、東京都が23.3%になるとのことです(国および東京都が保有する株式が全て売却される訳ではないので、東京地下鉄株式会社法が廃止されるのはまだ先のことでしょう)。また、売却による収入のうち、国の分については「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号。以下、記事に合わせて復興財源確保法と記します)第72条第3項により、東日本大震災に関連する償還費用に充てられることとなります(上記記事には「国の売却分は東日本大震災の復興財源に充てられる」と書かれていますが、不正確です)。参考までに、規定を引用しておきましょう(漢数字の一部を算用数字に替えました)。

 

 (復興特別税の収入の使途等)

 第72条 平成24年度から令和19年度までの間における復興特別税の収入は、復興費用及び償還費用(復興債(当該復興債に係る借換国債を含む。次条、第74条第1項及び附則第18条において同じ。)の償還に要する費用(借換国債を発行した場合においては、当該借換国債の収入をもって充てられる部分を除く。)をいう。以下同じ。)の財源に充てるものとする。

2 平成24年度から平成27年度までの間における第3条の規定による財政投融資特別会計財政融資資金勘定からの国債整理基金特別会計への繰入金及び平成28年度から令和4年度までの間における第三条の二の規定による財政投融資特別会計投資勘定からの国債整理基金特別会計への繰入金は、償還費用の財源に充てるものとする。

3 次に掲げる株式の処分により令和9年度までに生じた収入は、償還費用の財源に充てるものとする。

 一 第4条第1項の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした日本たばこ産業株式会社の株式

 二 特別会計法附則第208条第4項の規定により国債整理基金特別会計に帰属した東京地下鉄株式会社の株式

 三 第5条の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした東京地下鉄株式会社の株式

 四 第5条の2及び特別会計法附則第12条の2の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした日本郵政株式会社の株式

 五 特別会計法附則第12条の3の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした日本郵政株式会社の株式

4 前3項に規定する収入のほか、平成23年度から令和9年度までの各年度において、国有財産の処分による収入その他の租税収入以外の収入であって国会の議決を経た範囲に属するものは、復興費用及び償還費用の財源に充てるものとする。

 

 既に、財務省は国の売却収入が1700億円程度になるという見通しを、2024年度予算の編成時に示していました。想定売り出し価格が1株につき1100円で、上場時の時価総額がおよそ6400億円程度になるとも記事に書かれています。

 ここで、現段階で思い付いたことを記しておきましょう。

 第一に、おそらく上場初日は御祝儀相場ということになると思われますが、このところの平均株価の動きを見ていると、想定通りの売却収入になるか否かという懸念があるかもしれません。それよりも、上場以後の株価の推移が問題になるかもしれません。

 第二に、東京メトロの株式上場により、東京の地下鉄網の統一は完全に夢物語で終わるということです(東京都が筆頭株主になれば話は変わってくるかもしれませんが)。

 元々、帝都高速度交通営団は、当時の東京市にあった東京地下鉄道および東京高速鉄道の地下鉄路線(いずれも現在の銀座線の前身)を一体的に経営するために、昭和16年、西暦に直せば1941年に作られた特殊法人です。この年号からおわかりのように、帝都高速度交通営団は、戦時体制に入っていた日本の経済統制の産物でもありました。戦後、各種の営団は解散しましたが、帝都高速度交通営団のみは存続します。この際に帝都高速度交通営団が解散していたならば、東京の地下鉄は全て東京都交通局が経営することになっていたかもしれませんが、様々な理由なり思惑なりがあって実現しなかったのでした。その後、東京都交通局は自ら1号線(浅草線)などを建設し、運行します。

 このように帝都高速度交通営団と東京都交通局という複数の主体によって地下鉄網が作られていった理由については、今後調べてみたいと考えていますが、私のように東京メトロ線と都営地下鉄の双方を利用する者にとっては、運賃だの何だのが面倒なことになります(もっとも、複数の鉄道会社を利用することによる運賃などの問題は、別に東京の地下鉄に限った話ではないのですが)。東京以外の都市、例えば大阪市、名古屋市などにおいては地下鉄と言えば公営でしたが(現在、大阪市の地下鉄は大阪市高速電気軌道によって運営されています)、他の都市と違い、東京の場合は山手線の中に限定すれば地下鉄網は帝都高速度交通営団、東京都交通局のいずれかに統一しやすかったはずです(現に、路線バスはほぼ都営バスに統一されています)。東京の地下鉄が東京メトロと都営地下鉄に分かれている点は、鉄道に詳しい人を除けば首都圏以外の場所に住む人にとって、あるいは首都圏に住む人にとってもわかりにくいものです。私も何度か他のお客さんに尋ねられたことがあります。外国人観光客にとってはもっとわかりにくいでしょう。やはり、私も何度か尋ねられましたし、駅の運賃表を怪訝な顔つきで眺めている観光客を見たこともあります。

 第二の話が長くなりましたので、第三に移ります。東京地下鉄株式会社法の廃止、すなわち(とは言えないかもしれませんが)完全民営化が実現するかどうかです。あるいは、完全民営化が望ましいかどうかと考えたほうがよいかもしれません。東京メトロの株式上場は、帝都高速度交通営団の解散と東京メトロの発足が行政改革の一環であったことを想起すれば、完全民営化は望ましいことでしょう。しかし、それが交通政策にとって良いことであったということは、全く別の話となります。東京メトロも、御多分に漏れず、COVID-19による極端な乗客減に苦しめられましたが、そのようなことが二度と発生しないとは考えないほうがよいですし、そうでなくとも今後は緩やかながらも乗客は減少していきます。公共交通を誰が支えるかが久しく問われていますが、東京の地下鉄についても妥当する日が来る可能性はあると言えるでしょう。

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