DayDreamNote by星玉

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2019年04月18日 | 創作帳
ぼくの住む町のはずれには高い塔が建っています。

塔は十階建て以上の高さはあるでしょうか。

てっぺんには、おばあさんがひとり、住んでいました。



そのおばあさんに、
毎朝、牛乳をはこぶのが、ぼくの日課でした。


最初、それ(おばあさんに、牛乳をはこぶこと)は、ぼくの、母の日課だったのです。

数年前、母がなくなってから、「牛乳はこび」は、ぼくにうけつがれました。



なぜ、母が、塔に住むおばあさんに、牛乳をはこんでいたのか、ぼくは知りません。

母がむかし、おばあさんに、
とてもお世話になったからだ、と、きいたような気もしますが、

きいたのはぼくがとてもおさないころだったので、よくは覚えていません。

母がいなくなった今では、さだかではないことです。

それに、おばあさんは、耳が遠く、ぼくの問いかけに、答えることはほとんどないのです。


朝、牛乳の入ったびんを二本持ち、ぼくは、塔の階段をのぼります。

ぐるぐるまきの、らせん階段です。

てっぺんにあるとびらを、三回ノックして、ぼくは、部屋に入り、おばあさんに、牛乳をてわたします。

わたすのは、一本だけ。
もう一本は、ぼくのです。



塔のてっぺんの、おばあさんの部屋は、とても見晴らしがよく、

ふたりならんで、まどぎわのいすにこしかけ、町の風景や、遠くの山々をながめながら、牛乳をのみます。



おばあさんは、牛乳をのみながら、きょうの空の色や、風のつめたさや、鳥の声のことなどを、ぽつりぽつりとはなします。

ぼくは、うなずきながら、おばあさんの話をききます。



ぼくがのみおわり、おばあさんがのみおわり、ふたりがのみおわると、
ぼくは、からのびんを、二本持って、ぐるぐるのらせん階段をおります。


これをつづけて、何年になるでしょう。

毎朝毎朝、ぼくは、くりかえしています。


ある朝、ぼくは、いつものように、おばあさんの部屋に入りました。

が……
おばあさんはいません。
部屋のどこにもすがたがありません。


そうです。
いつかこんな日がくることは、
ぼくには、わかっていたような、そんな気がします。


ぼくは、いつものように、まどぎわのいすに、こしかけました。

そして牛乳を、おばあさんのぶんまで、二本のみほし、部屋を出て、
ぐるぐるのらせん階段をおりました。



おりているとちゅう、
遠くから、おばあさんが好きだと言っていた鳥のなき声がきこえてきました。



ぼくは、あしたの朝も、
これをのぼって、おりるのかしら……



そう、たぶん、いえきっと、
ぼくはまた明日の朝も同じことをくりかえすことでしょう。







『塔』fin.






















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