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DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

#25.夕暮

2018年03月15日 | 星玉帳-Blue Letters-
【夕暮】


窓ガラスをたたく音がするので



見ると


夕暮れがいた。


夕暮れを部屋に招き


お茶を淹れる。


銀果玉の砂糖煮も添えて。



微笑む夕暮れに


似ていますね、と言うと


夕暮れはさらに微笑んだ。



夕暮れの微笑みは



紫の色だけで絵を描く絵描きの絵に似ていた。




夕暮れは濃く


冷めていくお茶は苦く


砂糖煮はとても甘い。





#24.波

2018年03月13日 | 星玉帳-Blue Letters-
【波】


青玉の実を絞りジュースを作った。


よく冷やして


水玉キツネに持って行く。



水玉キツネは最近引っ越し



海のそばにすんでいる。



「水のような水玉が描きたいのですがなかなか…」



キツネはそう言って


青玉ジュースを飲み干すと



空のコップに小さな水玉模様を描き始めた。



「やがて波になるはずですから」



と何度も言い聞かせては。






#23.笛

2018年03月12日 | 星玉帳-Blue Letters-
【笛】


笛の音をよく耳にする。



Z牧場の羊飼いが


よく吹いていた笛の音だ。



あの羊飼いは


とうに羊を飼うことをやめて牧場を捨て


別の星へ行ったというのに。


聞こえるのはなぜ。






Z牧場まで行ってみた。


やはり牧場は無人だ。


が、笛の音は止まない。




おそらく


羊飼いは、笛の音だけここに残していったのだ。




音は風に乗り


懐かしむ人の耳に運ばれていくのだろう。





#22.疑問符

2018年03月10日 | 星玉帳-Blue Letters-
【疑問符】


シャボン屋でシャボン玉液を買い


宿に持ち帰った。




疑問符をシャボン玉に変えるために



液をストローで吹き



窓から飛ばす。



だが


多くの疑問符は


シャボン玉にはならず


はじけてしまう。



疑問符は疑問符のまま



あちらこちらに散らかる。




風をながめて


空をながめて



消えたシャボン玉を思う。





#21.虹

2018年03月06日 | 星玉帳-Blue Letters-
【虹】

雨後の夕方、


虹が見えた。



土星の人が残した虹色のマフラーを思い出し、


クローゼットや箪笥をさがしたが見当たらない。



前の宿に置き忘れたのかもしれない。




見当たらないことを嘆くと同時に



ほっとしたりもする。



虹が消える前に珈琲を淹れよう。




珈琲に虹を映すと美しい香りが立つのだ。







#20.彷徨

2018年03月05日 | 星玉帳-Blue Letters-
【彷徨】

雨の中


黒ヤギが彷徨っていた。


この星のどこかに何かさがしものがあるらしいのだ。


ヤギはとても疲れたふうだった。


体を拭いてやると気持ちよさそうに震えた。


さし出したミルクに少し口をつけて


すぐに歩き始めた。



「彷徨いさがすことはこの星の黒ヤギの証なのですよ」



そう言い残し。







#19.手紙

2018年03月02日 | 星玉帳-Blue Letters-
【手紙】


届かなかった手紙は


風になると聞いたけれど


まれに風にならないのもあるらしくて、


その手紙は再びわたしのもとに戻ってきた。



「世界は例外と予想外だらけですからね

こういうこともあるのですよ別料金で炎にすることもできますがいかがでしょう」




手紙回収屋の小栗鼠が言う。



手紙は真紅の炎に焼かれ



一瞬で燃え尽きるそうだ。








#18.香

2018年03月01日 | 星玉帳-Blue Letters-
【香】


森の中を歩いていると、


白ヤギに声をかけられた。



「森番の人からことづかったのです」



ヤギはそう言って


草色のとてもよい香りのする小袋をくれ、


「これからすぐ土星便に乗りますので」


と去っていった。



小袋を胸に抱くと


いなくなった人の香りがした。



それはいつも


甘くて苦くて悲しくて懐かしくて


そしてもどかしい。




#17.哲学

2018年02月28日 | 星玉帳-Blue Letters-
【哲学】


水玉キツネを部屋に招いた。


一緒に


壁や床やシーツに水玉を描いた。



「これで完成、という水玉模様はありませんね」


キツネが言う。



「長い作業になりそうですね」



わたしが答える。



「水玉は星であり愛であり過去であり現在であり未来であり自分でありあの人でもあるのです」



キツネの水玉哲学。





#16.夜

2018年02月26日 | 星玉帳-Blue Letters-
【夜】

銀色の糸を握る。


夜宙(よぞら)に水色の球を撒く。


紡いだ綿でシーツを編み


ヤギを隣りに寝かせる。


金星の歌を歌う。



宇宙船が伸ばす一条の光をたどり


鳥を追う。



ささやかな儀式が救うものたちを思う。



夜が開き、


星がひとつ漆黒へ落ちた。








#15.幻燈屋

2018年02月25日 | 星玉帳-Blue Letters-
【幻燈屋】


白を身につけていらしてください


と幻燈屋の扉には、貼り紙がある。




白いブラウスを着て宿を出、幻燈屋に入った。



白いブラウスには青い海の星が映された。



土星の人は幻燈を好んでいた。



わたる星のどこかにも幻燈屋はあるだろうか。



ブラウスは色を帯び青い星で見た色になっていった。










#14.極青

2018年02月19日 | 星玉帳-Blue Letters-
【極青】

海のそばにある絵の具屋を訪ねた。


店に入ると小箱を渡され


五月の一等の思い出をどうぞ


と言われた。



土星の人との思い出を語った。



箱は水でいっぱいになった。



水はわたしの涙だという。



絵の具屋が涙を煮詰めると


極青色になった。



瓶に詰めてもらう。



土星の人と過ごした五月の色だ。







#13.花

2018年02月18日 | 星玉帳-Blue Letters-
【花】


金星火山花を抱き


花パレードに加わった。



この花には


自分の熱で自分を燃やす性質がある。



パレードの終着点は海。


高熱の花は海に流すのがよいと聞いた。



熱はそれを抱いた者に即座にうつされ


パレードの後もしばらく続く。





#12.砂

2018年02月12日 | 星玉帳-Blue Letters-
【砂】


砂が風に乗り窓から入ってきた。



海の砂川の砂森の砂星の砂……



砂は様々な所から来て様々な色乾き方濡れ方をしていた。



一握りの砂に星の牧場の香りがした。



子守唄を歌う羊が住む牧場の砂のようだった。



砂の上に羊に宛てた手紙を書いた。




一瞬の風に上書きされ

消える手紙を

君に書いた。



#11.森番

2018年02月11日 | 星玉帳-Blue Letters-
【森番】


森番をしている女の人をたずねた。




若葉の香りがするお茶の淹れ方を


教わりたかったのだが


彼女は今日からここを留守にするという。


時間がなかった。



季節が来ましたよ会えるのですよやっと。



弾む声。



どこにいくのですか誰に会うのですか。




問うた声は


扉を開けた人に届かないまま。