DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

drop86.切符

2023年09月22日 | 星玉帳-Deep Drops
【切符】


古い切符を


旅の鞄に入れる


線路を辿り


夢を見ては覚め


また夢を見ることだけが


出来ることだった



drop86『切符』






drop85.灯り

2023年09月20日 | 星玉帳-Deep Drops
【灯り】


旅の夜に灯す明かりは小さなものがいい


四方の闇に


何処とも無く消えてゆくものたちを見つめるには


小さく仄かに揺れるものがいい



drop85『灯り』



drop84.月夜

2023年09月18日 | 星玉帳-Deep Drops
【月夜】


月の宿で一夜


言葉を交わした旅人がいた


堕ちてゆく詩をうたっていた


「果ても知らず堕ちてゆくのは悲哀なのか喜びなのか


情けも解らず墜落に溺れるのは破綻なのか望みなのか」


月の光眩しい夜だった


詩人の墜落は誰知ることも無く


溶けてゆくのを見た



drop84『月夜』



drop83.海辺

2023年09月14日 | 星玉帳-Deep Drops
【海辺】


海を眺める人は誰かの帰りを長く祈っているのだと


星間船の船乗りから聞いたことがあった


船乗りと別れた後


海辺の宿で幾季節も過ごし


幾度も別れがあった


いつしか旅に出ては海を探すようになった


朝焼けの刻


日暮れの刻


闇の刻


海を探すようになった



drop83『海辺』



drop82.永遠の

2023年09月09日 | 星玉帳-Deep Drops
【永遠の】



形ないものを求めた



星の光を頼りに



岸を離れた



形ない故に包む言葉もなく



ましてやほどく言葉もなく



追うほどに世界は遠ざかり



永遠に表せない



永遠の美のように



drop82『永遠の』


drop81.船影

2023年09月08日 | 星玉帳-Deep Drops
【船影】


長い旅物語を聞かせてくれた旅人と別れた朝


天は灰色の雲に覆われていた


隙間をぬうように銀色の影が風に乗って遠ざかる


あれは船


あの旅人が乗ると言っていた


旅人は終わりの始まりを教えてくれた


もう会うことはない人との終わりの始まりを




drop81『船影』



drop80.宙の欠片

2023年09月06日 | 星玉帳-Deep Drops
【宙の欠片】


砂丘をいくつか越えると


見えてくる


砂の星を旅する人に伝え聞いた「物語を埋める墓所」だ


旅人は物語の伝え人だった


物語を砂の中に埋める


するとそれは長い時を経て砂に混じり


風に舞い


宙の欠片になるのだと



drop80『宙の欠片』



drop79.灯火

2023年08月30日 | 星玉帳-Deep Drops
【灯火】


夕闇


川の向こう側に灯火が揺れる


あれは岸から離れてゆく魂だと言ったのは


誰だったろう


では誰の


誰の魂



あなたなのかわたしなのか


わたしたちなのか


灯火は彼岸の闇に呑み込まれてゆく


あれは二度とはないものなのだと


誰か言う



drop79『灯火』



drop78.毎夕

2023年08月19日 | 星玉帳-Deep Drops
【毎夕】


深い森に棲む栗鼠は


夕暮れ時になると「石」を抱く


栗鼠は身体を丸めて


すっぽりとそれを包む


遠い星から降ってきた石だという


白濁色をした石は


夜更け


透明に変わってゆく


その様をただ見ていたくて


栗鼠は毎夕毎夜


透明を抱く



drop78『毎夕』


drop77.青い鳥

2023年07月25日 | 星玉帳-Deep Drops
【青い鳥】


空に飛ぶ鳥は青く


空に溶けるのではないかと思うくらいに青く


日を追う毎に青さは増していった


幾時か過ぎ


青は薄れ


太陽を背に飛ぶ鳥は青ではなくなった


空の下


鳥の守人は青を唄う


どこかの星で会えはしないかと


あの青に会えはしないかと



drop77『青い鳥』

drop76.夕空

2023年07月19日 | 星玉帳-Deep Drops
【夕空】


夕刻の丘


絵描きに出会うことがある


カンバスに夕空を映し描く様子を眺めていると


次第に空の色は濃くなり


夜の帳が降りてくる


すると彼は消える


絵も消える


突然消える


だが夕空の記憶は残る


不確かなものだけを抱くのだと


その度に気づき


闇の中


丘の道を下りる



drop76『夕空』



drop75.星風

2023年07月16日 | 星玉帳-Deep Drops
【星風】


雨の時節に吹く風は


青い星の方角から吹いてくる


雨を乗せた風は冷ややかに虚空に向かう


打たれた心を


たおやかに紡ぎ直すことができるならば


星の青さに近づくことが出来るだろうか


過ごした季節の青さに寄せることが出来るだろうか



drop75『星風』


drop74.風の譜

2023年07月05日 | 星玉帳-Deep Drops
【風の譜】


風の谷に棲む楽師は言う


「曲を奏で始めてどれだけの季節が過ぎていったでしょう


何処かに届いているのかいないのか


何もわからないまま……」


楽師はぽろんと音を奏でる


「時たまこれと一緒に連れて行かれそうになるのですよ」


と、風に流れる譜を奏でる



drop74『風の譜』




drop73.青底

2023年07月03日 | 星玉帳-Deep Drops
【青底】


星の宿


青い部屋だった


床も壁も寝台も机も椅子も


シーツもカーテンも飾ってある絵も


みな青かった


遠い海から風が入ってくるのか、


部屋は潮の香りがした


ここで見る夢は淀みなく 青い


青さは底に向かう


深く深く沈むために


青く青くなるために



drop73『青底』





drop72.風船

2023年06月27日 | 星玉帳-Deep Drops
【風船】


空にひとつ


風船が流れていた


眺めていると


同じようにそれを眺める小さな人に出会った


たった今あれと別れてきたのですよ


とその人は言い


目を細めたり潤ませたりしながら行方を追っている


とても尊い魂でした、と


風船の消えた空の果てを探すように


いつまでも


それを


drop72『風船』