新型コロナ対策として、
「予防と治療が確立すれば人類の勝利」
と言えます。
ワクチンは「mRNAワクチン」という、想定外に有効性の高いものが登場し、
世界中の人々が恩恵を受けていますが、その限界も見えてきました。
一方の治療薬の開発は遅れ、
当初は既存の薬を代用して有効性が検討されましたが効果は今ひとつ、
続いて抗体薬が作られ効果も認められましたが、変異株に対応しきれずトーンダウン、
そして現在、経口抗ウイルス薬の開発が進み、次々と登場しつつある段階です。
先日、2021年12月に日本で認可された新型コロナウイルスに対する経口抗ウイルス薬「モルヌピラビル(ラゲブリオ®)」を紹介しました。このような経口薬が増えて患者さんへの投与が簡便になると、季節性インフルエンザと同じレベルの感染症に近づけます。
今回は、日本で次に認可されるであろう「パクスロビド」の記事を紹介します。
はじめにポイントを押さえておきます;
・パクスロビドはPF-07321332(3CLプロテアーゼ活性阻害薬)とリトナビル(抗HIV薬)の合剤である。リトナビルはPF-07321332の血中濃度を高値に維持する目的で併用される。
・パクスロビドは武漢株以外の変異株にも有効。
・投与対象が重症化リスクのある患者のみか、すべての新型コロナ患者になるかは不明。
執筆者はTVでおなじみの忽那Dr.です。
■ 新型コロナの重症化を89%防いだ ファイザーの新型コロナ飲み薬 パクスロビドはどんな薬?
忽那賢志:感染症専門医(2021/11/6)より一部抜粋;
11月5日、ファイザーより新型コロナに対する飲み薬の抗ウイルス薬であるパクスロビドが重症化を89%防いだ、と発表しました。このパクスロビドとはどういった薬なのでしょうか。
◇ 新規抗ウイルス薬と既存の抗HIV薬を組み合わせた薬剤
このパクスロビドは新しい抗ウイルス薬(PF-07321332)と、既存の抗HIV薬であるリトナビルとを組み合わせた合剤です。
このリトナビルは、プロテアーゼ阻害薬という種類の抗ウイルス薬と併用することで、プロテアーゼ阻害薬の血中濃度を高く維持する効果があり、やや厨二心をくすぐる「リトナビルブースト」という名称がついています。感染症医にとっての「リトナビルブースト」は、世間一般の「界王拳10倍」に相当するとお考えいただいて問題ありません。
抗HIV効果そのものよりも、このブースト効果を期待して使用されることが多く、このリトナビルとロピナビルという抗HIV薬との合剤である「カレトラ」は一時期HIVの治療の中心を担っていました。そして、カレトラは新型コロナにも有効性があるのではないかと一時期新型コロナにも使用されていたことがあります(現在は有効性は否定されています)。
このパクスロビドでも、リトナビルはPF-07321332の血中濃度を高く維持するために用いられています。
一方、PF-07321332という抗ウイルス薬は、コロナウイルスの複製に必要な酵素である3CLプロテアーゼの活性を阻害することでウイルスの増殖を抑えます。
新型コロナウイルスは、ヒトの細胞の中に侵入して自分を複製します。この過程で、複数のタンパク質が一度に繋がって作られますが、これを切り分けて別々のタンパク質にしているのが3CLプロテアーゼです。3CLプロテアーゼを阻害することで、繋がっているタンパク質が切り分けられず、ウイルスの複製がストップします。
中国の武漢市から広がったオリジナルの新型コロナウイルスだけでなく、様々な変異株にも抗ウイルス効果を有するとのことです。
◇ 発症3日以内に内服し重症化を89%防いだ
今回発表された第2/3相試験およびその中間解析結果の概要は以下の通りです。
・2021年9月29日までに1219名の成人の新型コロナ患者が登録
・少なくとも1つ以上の重症化リスクを持つ、発症から5日以内の軽症から中等症の患者が対象
・発症3日以内にパクスロビドを投与された患者のうち登録後28日目までに入院した患者は0.8%(3/389人が入院し、死亡はなし)であったのに対し、プラセボ(偽薬)を投与された患者のうち、入院または死亡した患者は7.0%(27/385人が入院し、7人がその後死亡)であり、パクスロビドは入院または死亡のリスクを89%減少させた。
・発症5日以内に治療を開始された患者でも同様の傾向がみられた。
・有害事象は、パクスロビド(19%)とプラセボ(21%)で同等であり、そのほとんどが軽度のものであった。重篤な有害事象や有害事象による試験薬の中止もプラセボの方が多かった。
まだ詳細なデータは発表されていませんが、この結果からはパクスロビドは非常に効果の高い経口抗ウイルス薬であると考えられます。また副作用についても大きな問題はなさそうであることも安心材料です。
この中間解析の結果を受けて、この研究は追加の登録が中止となり、今後アメリカなどで緊急承認申請が行われることになります。
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飲み薬での新型コロナ治療薬の意義は非常に大きいと言えます。
現在は重症化リスクのある酸素投与を必要としない軽症・中等症患者には抗体カクテル療法(カシリビマブ/イムデミマブ)と、ソトロビマブのモノクローナル抗体が使用できるようになりましたが、どちらも点滴での投与となっています。第5波では入院患者だけでなく外来患者にも、ホテル療養者や自宅療養者にもこのモノクローナル抗体の治療が行えるようになり、重症化を防ぐことができた事例が増えたことは間違いありませんが、点滴での治療は医療へのアクセスの点ではややハードルがあることは否めません。
飲み薬であれば、医療者にとっても点滴準備などが不要となり、診断時に速やかに処方することができるようになります。
Merck社のモルヌピラビルと同様、今回のパクスロビドの第2/3相試験も重症化リスクの高い人が対象であることから、緊急承認される場合も対象患者はこの条件に該当する患者となることが見込まれます。
残念ながら抗インフルエンザ薬のタミフルのように「新型コロナと診断されたら誰も彼もすぐに処方してもらえる」ということにはすぐにはなりません。
しかし、パクスロビドはワクチン接種者を含む重症化リスクのない新型コロナ患者を対象とした臨床研究も行われており、薬価の問題はありますが持病のない若い方でも良好な成績が得られれば今後対象が広がる可能性はあります。
また、家庭内での濃厚接触者を対象とした臨床研究も進められており、抗体カクテル療法と同様の発症予防効果が認められれば、より容易に暴露後予防を行うことが可能となります(あくまで予防の最善の方法はワクチンですが)。
今回のパクスロビドの発表は、そのような治療や予防がそう遠くない未来に行えるようになるかもしれない、という希望をも抱かせてくれるものではないかと思います。