小児アレルギー科医の視線

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「軽症持続型喘息に対する吸入ステロイド間欠療法の是非」(勝沼俊雄先生)

2014年11月24日 16時13分17秒 | 気管支喘息
 現在、気管支喘息の治療の主流/第一選択は吸入ステロイドです。
 基本は「連日投与」、すなわち調子が良いときも悪いときも毎日使用します。
 一度始めたら最低3ヶ月は継続し、そこで再評価して継続/減量/中止を検討するのが常識でした。

 一時期、乳幼児発症の喘息に吸入ステロイドを早期導入することにより喘息の治癒が期待されたこともありました。
 しかしその検討結果は「吸入ステロイドを止めると喘息がぶり返す」という残念な結果に終わりました。
 つまり、吸入ステロイドは根治療法ではなく、あくまでも対症療法にとどまることが判明したのです。

 そんなタイミングで、吸入ステロイドの「間欠療法」という言葉を最近耳にするようになりました。
 こちらは調子の悪いときだけ(あるいは調子が悪くなりそうなときだけ)使用するという省エネ療法。
 「治らないんだったら悪いときだけ使えばいいんじゃないの」という、今までの常識を覆す考え方です。

 ただ、なかなか文章/論文になっているものがなく、今回小児科系医学商業誌「小児科」(金原出版)2014年11月号に題名の論説を見つけ、読んでみました。
 結論から申し上げると、まだデータは不十分ではあるものの、連日使用と間欠使用で差がないという報告が出てきているとのこと。
 まあ、対象はあくまでも「軽症持続型喘息」(↓)という設定で、中等症以上は連日投与が必要ですので、誤解なきよう。 



メモ
 自分自身のための備忘録。

■ エビデンス2件
MIST trial(Zeigerら):乳幼児喘息(1-5歳)、軽症持続型相当(ステップ2)の長期管理治療としてブデソニド(BUD)連日吸入(500ug/日)の間欠吸入(上気道炎症状が発現し喘息増悪が予見されるときに2000ug/日を1週間施行)に対する優位性を示すことはできなかった。
TREXA study(Martinezら):学童齢(5-18歳)の軽症持続型喘息児におけるベクロメタゾン(BDP)間欠吸入(小発作時にBDP80ug+サルブタモール180ug吸入)の有用性を示唆。連日吸入群において有意な成長抑制が認められた。

■ 吸入ステロイドと成長抑制
 CAMP study(The Childhood Asthma Management Program)によれば、5-12歳の小児が400ugのBUD吸入を4年間継続すると、1年目に-1.1cm/年の有意な成長抑制が認められた。さらにCAMP study の長期追跡調査結果が報告され、結論として最終身長においても-1.2cmの抑制が認められた。

※ 吸入ステロイドの種類による差;
 動物実験におけるステロイドの局所作用(有効性)/全身作用(副作用)の相対力価比は、以下のごとし;
 FP25.0>>BUD1.0>>BDP0.1
 つまり、FPと比較してBDPとBUDは全身性作用を起こしやすい。

■ システマティック・レビューの見解
 MIST、TREXAを含む6試験(対象は未就学児2試験、就学時2試験、成人2試験)の、連日吸入に対する間欠吸入の増悪リスク比は1.07であり統計的に有意な差はないものの、確定するにはまだ根拠不十分と結論。
 


 日本でも著者の勝沼先生が音頭を取って検討が始まっているようです。
 どんな結果が出るか、興味あります。
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