小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

抗アレルギー薬の使い分け(アップデート2023)

2023年07月18日 08時24分46秒 | 予防接種
いわゆる“抗アレルギー薬”は近年、種類がどんどん増えてきています。

私には、過去ドル箱だった抗生物質市場が萎んできたので、
その代わりに賑わっている印象があります。

なにせ、日本国民の約50%、つまり2人に1人が花粉症という時代ですから、
それに対応する抗アレルギー薬市場は製薬会社にとって新たなドル箱です。

さて、日本では“抗アレルギー薬”という呼び名が浸透していますが、
海外では使われていません。
世界共通の呼び名は“抗ヒスタミン薬”であり、
その中で第一世代、第二世代、・・・と分類され、
日本の抗アレルギー薬は第二世代抗ヒスタミン薬に相当します。

たくさん種類があるので、どれを選んでいいのか正直迷います。
小児科医の私は幼少児期は効果を優先してオロパタジンやレボセチリジン、
中学生以降で「眠くなるのは困る」という患者さんには、
パイロットにも許可されているフェキソフェナジンやロラタジンを選択しています。

それらを内服しても効果が今一つで、
「もうちょっとなんとかなりませんか?」
という患者さんには漢方薬の併用を提案しています。
漢方というと「苦くて飲みにくい」というイメージが先行し、
嫌がる患者さんも多いのですが、
一部、錠剤が用意されている漢方薬もあり、
それを説明して中高生~成人に処方する機会が多いです。

さて、たくさん種類のある抗アレルギー薬、
内科・耳鼻科領域ではどんなふうに使い分けているのか、
以前から興味がありました。

タイミングよく、「抗アレルギー薬の使い分け」という
WEBレクチャーがあり、大変参考になりました。
講師は高原恵理子先生(調布駅前クリニック耳鼻咽喉科)です。

ポイントを一部、抜粋してみます。

▢ 妊娠・授乳中に対する投薬
・ロラタジン
・レボセチリジン
・セチリジン
・フェキソフェナジン
の4剤が経験的に使用されるが、
製薬会社の添付文書には「有益性投与」
(投与することが投与しないことより有益性に勝る場合は可)
という腰の引けた記述しかなく、推奨はしていません。
つまり、「何かあったら自己責任でお願いします」というスタンスです。
一方、第一世代・第二世代抗ヒスタミン薬は、
ヒトへの催奇形性は報告されておらず、
授乳に関してもほとんどのものが問題ないことがわかっています。
以上を説明して「本人が納得して希望する場合は処方」となります。

▢ 車の運転に注意すべき抗アレルギー薬
添付文書上は・・・

(運転可能)
・フェキソフェナジン
・ロラタジン
・フェキソフェナジン/プソイドエフェドリン配合薬
・デスロラタジン
・ビラスチン

(運転注意)
・エピナスチン
・エバスチン
・ベポタスチン

となっています。
前述したフェキソフェナジンとロラタジンは、
昔から「パイロットにも許可されている薬剤」
として有名でしたので筆頭に記載されています。

「この薬を飲んだら車の運転に注意してください」
と説明しないで(運転注意)の薬を処方し、
もし交通事故が起きたら、
医師の責任が問われるのかな?

▢ 患者さんはどういう薬を希望しているか?
・投薬回数は1日1回、あるいは2回?
 → 1回投与が人気
・内服、あるいは貼付?
 → アレサガという貼付薬が近年登場しました。
・値段は?
 → 1日平均薬価は、
(先発品)40~80円前後
(後発品/ジェネリック)20~40円前後
・眠気の有無
 → 当然、眠くならない方を希望

▢ 眠くなりにくい抗アレルギー薬
・分子量が大きくBBB(脳血液関門)を通過しにくい。
 → ビラスチン、フェキソフェナジン
・抗ヒスタミン薬のH1受容体占拠率が少ない。
 → ビラスチン、フェキソフェナジン、デスロラタジン
・多少眠くなっても許容される抗アレルギー薬
 → 1日1回眠前投与(レボセチリジン、ルパタジン)

▢ よく効く抗アレルギー薬
・早く効く(Tmaxが短い)
 → ビラスチン、レボセチリジン
  ベポタスチン、オロパタジン
・長く効く(T1/2が長い)
 → デスロラタジン、エバスチン
 (経皮吸収)アレサガ

▢ 眠気と効果の比較
・よく効くけど眠くなる
(一軍)アレロック、ザイザル
(二軍)ルパフィン、タリオン
(三軍)アレジオン、エバステル
・そこそこ効くけど眠くならない
 ビラノア>ディレグラ
・眠くならないが効果はいま一つ
 デザレックス>クラリチン>アレグラ

以上より、選択ポイントは、
よく効くけど眠くなる   → アレロック、ザイザル
眠くならないけど今一つ  → アレグラ、デザレックス、クラリチン
よく効くし眠くなりにくい → ビラノア、ディレグラ
と整理できます。
では、ビラノアが最強

(処方例1)眠くなるのは困りますという患者さんへ
① ビラノア → 今一つなら、②ルパフィン
(処方例2)多少眠くなっても効く薬が欲しい!
① タリオン → 今一つなら、②アレロック

▢ 花粉症のよい薬はありますか?
~と聞かれた時のチェックポイント
・常用薬はありますか?
・日常的に車の運転をしますか?
・妊娠・授乳中ですか?
・つらい症状は何ですか?
・効果と眠気はどちらを優先しますか?

▢ 満足できない患者さんへの“次の一手”
① 倍量投与(一部の薬限定)
② 系統の変更:三環系とピぺリジン・ピペラジン系
③ 投薬回数の変更:1日1回 → 2回投与、あるいは貼るタイプ
④ 投薬追加:ロイコトリエン受容体拮抗薬併用、局所療法(点眼・点鼻薬)
⑤その他:経口ステロイド薬、抗IgE抗体

…ここに私が愛用しかつ患者満足度の高い漢方が入っていないのは残念です。

▢ 倍量投与できる薬・できない薬

・倍量投与できる薬
 フェキソフェナジン
 ベポタスチン
 エピナスチン
 オロパタジン
 エバスチン
 セチリジン
 レボセチリジン
以下は条件付き増量可
 ロラタジン(小児は✖)
 アレサガ(8㎎まで)
 ルパタジン(20㎎まで)

・倍量投与できない薬
 デスロラタジン
 ビラスチン
 フェキソフェナジン/プソイドエフェドリン配合薬

▢ 系統の変更

・三環系
 エピナスチン
 オロパタジン
 ロラタジン
 ケトチフェン
 デスロラタジン
 ルパタジン

・ピぺリジン・ピペラジン系
 フェキソフェナジン
 エバスチン
 レボセチリジン
 セチリジン
 ベポタスチン
 フェキソフェナジン/プソイドエフェドリン配合剤
 ビラスチン

▢ 投薬回数の変更

・1日1回タイプ
 エピナスチン
 エバスチン
 ロラタジン
 レボセチリジン
 セチリジン
 デスロラタジン
 ビラスチン
 ルパタジン
 アレサガ(貼付)

・1日2回タイプ
 フェキソフェナジン
 フェキソフェナジン/プソイドエフェドリン配合剤
 オロパタジン
 ベポタスチン

▢ 投薬追加

・ロイコトリエン受容体拮抗薬:効果は開始後1週までに出現
 プランルカスト
 モンテルカスト
・プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬
 ラマトロバン

・噴霧用ステロイド点鼻薬:効果は開始後1~2日で出現
 モメタゾンフランカルボン酸エステル
 フルチカゾンフランカルボン酸エステル
 デキサメタゾンシペシル酸エステル

▢ ステロイド経口投与
・重症例限定
・プレドニゾロン換算で20~30㎎/日
・短期投与が原則:ガイドライン上は「上限1週間」
・ステロイド筋注(ケナコルト)はガイドラインでは非推奨。

▢ 抗IgE抗体(ゾレア)
・スギ花粉症用の注射薬
・処方条件がある(医師なら誰でも処方できるわけではない)
・投与条件もある(重症度、年齢、総IgE値)
・効果てきめんだが高価(3割負担でも1回1~2万円)
(実際の投与法)
 花粉飛散開始後、
 抗ヒスタミン薬などの通常治療を1週間しても改善に乏しい場合、
 4週間毎に3回MAXで投与可能

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