小児アレルギー科医の視線

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その青っぱな、抗生物質が必要な副鼻腔炎ですか?

2023年08月13日 18時36分32秒 | 感染症
副鼻腔炎は一般的に「ちくのう症」と呼ばれています。

風邪症状に続く青っぱな、鼻づまり…
耳鼻科を受診すると例外なく「副鼻腔炎」として抗生物質を処方されます。
症状が長引くと、別の抗生物質に変更され、
それでも治らないと、また別の抗生物質へ変更、
それでも治らないと、気がつく元の抗生物質が処方されています。

抗生物質を乱用する開業医は高齢医師に多いとされていますが、
当地域では圧倒的に耳鼻科医が多い印象があります。

さて、青っぱな=ちくのう症、なのでしょうか。
実は「3割は細菌感染ではなく抗生物質無効」という報告があります。

▢ 急性副鼻腔炎の抗菌薬、3割の児で無効なわけ
 米・University of Pittsburgh School of MedicineのNader Shaikh氏らは、小児の急性副鼻腔炎に対する抗菌薬治療において、上咽頭からの細菌検出の有無や鼻汁の色によって有効性が異なるか否かを検討するランダム化比較試験(RCT)を実施。その結果、3割の患児で抗菌薬の有効性が低かったとし、その理由が明らかになったとJAMA(2023; 330: 349-358)に報告した。
◆ 層別ランダム割付で、抗菌薬群とプラセボ群を比較
 急性副鼻腔炎とウイルス性上気道炎は、症状の大部分が重複する。また、急性副鼻腔炎と診断された患児の中には、抗菌薬による治療効果がほとんど認められないケースがある。
 Shaikh氏らは、上咽頭からの細菌検出の有無や鼻汁の色によって、抗菌薬治療を行うか否かを判断できるかについて検討する目的でRCTを実施した。
 対象は、米国小児科学会の臨床診療ガイドラインに従い2016年2月~22年4月に米国のプライマリケア6施設で急性副鼻腔炎と診断された患児のうち、急性副鼻腔炎が持続または増悪した515例(2~11歳)。小児鼻副鼻腔炎症状評価尺度(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale;PRSS、0~40点)の初回スコアが9点以上の者を組み入れた。症状の持続は11~30日間症状(鼻、咳、または両方)が改善しない例、増悪はウイルス性上気道炎から回復したとみられる患児で、症状改善から6〜10日の間に鼻や咳の症状が再燃した例、または新たに発熱が出現した例と定義した。
 対象を、抗菌薬群〔アモキシシリン(90mg/kg/日)+クラブラネート(6.4mg/kg/日)〕とプラセボ群に1:1でランダムに割り付け、10日間経口投与した。色付き(黄色または緑色)の鼻水の有無および咽頭拭い液の細胞培養による細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ菌)の有無で層別化した。
 主要評価項目は、診断後10日間のPRSSスコアに基づく症状の程度とした。
◆ モラクセラ菌検出の有無は抗菌薬の有効性に関連せず
 515例のうち選別基準を満たした510例(2~5歳64%、男性54%)を解析したところ、平均PRSSスコアはプラセボ群(250例)の10.60点(95%CI 10.27~10.93点)に対し、抗菌薬群(240例)では9.04点(同8.71~9.37点)と有意に低かった(群間差-1.69点、95%CI -2.07~-1.31点)。
 症状消失までの期間は、プラセボ群の9.0日に対し、抗菌薬群では7.0日と有意に短かった(P=0.003)。
 上咽頭で細菌が検出された患児は355例(72%)、検出されなかった患児は138例(28%)だった。抗菌薬群とプラセボ群の平均PRSSスコアの群間差は、細菌検出児の-1.95点(95%CI -2.40~-1.51点)に対し、非検出児では-0.88点(95%CI -1.63~-0.12点)と、抗菌薬による治療効果が低いことが示された(交互作用のP=0.02)。
 色付きの鼻汁が出た患児は333例(67%)、透明な鼻汁が出た患児は163例(33%)。抗菌薬群とプラセボ群の平均PRSSスコアの群間差は、それぞれ-1.62点(95%CI -2.09~-1.16点)、-1.70点(同-2.38~-1.03点)で、鼻汁の色の有無で治療効果に有意差はなかった(交互作用のP=0.52)。
 さらに探索的解析の結果、治療効果の大部分はインフルエンザ菌と肺炎球菌の存在によるもので、モラクセラ菌検出の有無と抗菌薬の有効性に関連はなかった
 以上を踏まえ、Shaikh氏らは「上咽頭に細菌を保有していなかった28%の患児では、抗菌薬治療の効果が低かった。急性副鼻腔炎患児における抗菌薬の不適切使用を減らす合理的な方法は、処方を診断時に上咽頭に細菌を保有している患児に限定することである」と結論している。

つまり、副鼻腔炎(ちくのう症)かどうかは鼻水の色ではわからない、
青っぱなの場合でも、3割は細菌感染ではなく、
そのような例に抗生物質を投与しても経過は変わらない(自然に治るので効いた感じはあります)、
ということです。
抗生物質を多用するなら、細菌培養検査を併用すべきでしょうね。

同じ報告を紹介した記事が他にもありましたので引用します。
「抗生物質適正使用」という視点から、注目される内容なのでしょう。

▢ 鼻水の「色」によって抗生物質を使うのは誤り? 米国医師会雑誌が報告
 石原藤樹/「北品川藤クリニック」院長
2023/8/13:日刊ゲンダイ
 風邪症状が長引く原因のひとつが副鼻腔炎、いわゆる「蓄膿症」です。鼻の奥の副鼻腔と呼ばれる空洞に細菌などが増殖して炎症を起こし、膿がたまるのです。 
 蓄膿は鼻詰まりや頭痛の原因になりますし、喉の奥に流れ込んだ鼻汁が、咳や痰がらみなどを起こす場合もあります。長引く蓄膿はぜんそくを悪化させたりすることも知られています。
  通常、細菌感染に伴う蓄膿に対しては抗菌剤(抗生物質など)が使用されます。一番多く使われるのは抗生物質のペニシリンです。 
 ただ、“どういう患者さんに抗菌剤を使用するべきか”という点については、まだ専門家でも見解が分かれています。透明な鼻水に色が付き、黄色や緑色の粘稠(ねんちゅう)な状態になることは蓄膿の特徴のひとつとして考えられています。 
 それでは、そうした症状があれば抗菌剤を使用してよいのでしょうか?
 今年の米国医師会の医学誌に、小児の蓄膿症に対して、鼻水の色で抗菌剤を使用した場合と、鼻汁の細菌培養検査を行って原因となる菌が検出されたときに限って抗菌剤を使用した場合とを比較した、臨床試験の結果が報告されています。 
 それによると、培養で菌が検出された場合に限って抗菌剤を使用すると症状が早く改善しましたが、鼻水の色が変わった場合に抗菌剤を使用しても、そうした改善効果は見られませんでした鼻水の色での診断は、実際にはあまり当てにはならないようです。 

もうひとつ。

▢ 鼻腔ぬぐい液の細菌検査で小児での抗菌薬使用の削減へ
2023年08月07日:Medical Tribune)(HealthDay News 2023年7月26日)
 副鼻腔炎が疑われる小児には、その原因菌であることが多い3種類の細菌の検査をすることで、不要な抗菌薬の処方を回避できる可能性を示したランダム化比較試験(RCT)の結果が報告された。このRCTは米ピッツバーグ大学小児科学およびクリニカル・トランスレーショナル・サイエンス教授のNader Shaikh氏らが実施したもので、詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」7月25日号に掲載された。
 副鼻腔炎は小児に頻発する疾患で、鼻づまりや鼻水、不快感、呼吸困難などの症状が現れるが、治療しなくても治る場合が多い。しかし、現状では、抗菌薬が有効な患児を予測する良い方法はなく、必要のない患児にも抗菌薬が処方されることがある。Shaikh氏は、「抗菌薬の効かない耐性菌は重大な公衆衛生上の問題だ。不必要な抗菌薬の処方を減らすべきだ」と話す。また、「抗菌薬には下痢などの副作用を伴うことがあるが、腸内細菌叢に対する抗菌薬の長期的な影響についてもよく分かっていない。したがって、小児の症状の原因が細菌感染ではない場合、抗菌薬で治療することのメリットよりもデメリットの方が大きくなる可能性もある」と指摘する。
 今回のRCTでは、2016年2月から2022年4月の間に副鼻腔炎に罹患した2〜11歳の小児510人(2〜5歳が64%、男児54%)を対象に、副鼻腔炎の主な原因菌とされる3種類の細菌〔肺炎レンサ球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)〕への感染や、色(黄、緑)の付いた鼻汁の有無で抗菌薬の使用によりもたらされるベネフィットが異なるのかが検討された。対象者は、10日にわたって抗菌薬(アモキシシリン90mg/kg/日・クラブラン酸6.4mg/kg/日)を投与する群(254人)とプラセボを投与する群(256人)のいずれかにランダムに割り付けられた。また、試験開始時と終了時に対象小児から鼻腔ぬぐい液を採取し、3種類の細菌の検査を行った。
 その結果、小児鼻副鼻腔炎症状評価尺度(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale;PRSS)で評価した症状スコアの平均点は、抗菌薬群の方がプラセボ群よりも有意に低く〔9.04点対10.60点、群間差−1.69、95%信頼区間(CI)−2.07〜−1.31〕、また、症状が寛解するまでの時間も抗菌薬群の方が有意に短いことが示された(7.0日対9.0日、P=0.003)。鼻腔ぬぐい液から対象とした細菌が検出されなかった小児(抗菌薬群73人、プラセボ群65人)では、プラセボ群と比較した症状スコアの差が−0.88点(95%CI −1.63〜−0.12)であったのに対し、細菌が検出された小児(抗菌薬群173人、プラセボ群182人)でのスコアの差は−1.95点(同−2.40〜−1.51)であり、細菌が検出されなかった小児に抗菌薬を投与しても、細菌が検出された小児と同程度のベネフィットは得られないことが示された。こうした結果から、鼻腔ぬぐい液を用いた細菌検査は、抗菌薬投与の効果が期待できる小児を特定し、効果が期待できない小児に対する抗菌薬の処方を回避できる、シンプルかつ効果的な方法であることが示唆された。
 さらにShaikh氏によると、医師たちの間では一般的に黄色あるいは緑色の鼻汁は細菌感染のサインと考えられているが、今回の研究では、鼻汁の色の有無により、抗菌薬の効果に有意な差は認められないことが示された。このことは、鼻汁の色を基に抗菌薬の処方を決めるべきではないことを意味する
 Shaikh氏らは、鼻腔ぬぐい液を使って副鼻腔炎の原因菌の有無を迅速に検査できる検査法の開発に興味を示しており、「われわれの研究結果は、診断の向上や抗菌薬処方の削減のために、副鼻腔炎の症状が認められる小児の治療に細菌検査を導入することを支持するものだ」と述べている。
 一方、付随論評の著者の一人で米ジョンズ・ホプキンス大学小児科学教授のAaron Milstone氏は、「現状では、抗菌薬の有効性を判断する上で役立つ、安価で広範に導入できる検査法は存在しない」と話す。また、鼻の中に存在する細菌が、必ずしも重症の感染症の兆候を示すわけではないことを指摘し、「もし、小児の鼻腔ぬぐい液の迅速検査が利用できるのであれば、必要以上に頻繁に検査が行われるようになり、抗菌薬の使用頻度が減るどころか増える可能性がある」との見方を示す。さらに、そのような検査法は、メリットが小さいにもかかわらず医療コストの増大につながる可能性もあるとしている。
 Milstone氏によると、ほとんどの副鼻腔炎は自然に治癒する。また、下痢などの抗菌薬の副作用は、親や子どもにとっては副鼻腔炎の症状よりもつらい場合もある。同氏は、「副鼻腔炎は極めて高頻度に生じる疾患だ。また、抗菌薬の効果が得られたとしても、その効果はさほど大きなものではない。したがって、子どもが副鼻腔炎を発症した場合、親は子どもの回復を辛抱強く待つ必要があり、それには時間がかかることを理解しておくべきだ」と話している。

<原著>

さて、小児科医である私はどの様に治療しているのかを公開します。
私は青っぱなの患者でも抗生物質は基本的に使いません。
その代わりに漢方薬を処方します。
風邪の初期の水っぱな(透明鼻汁)には小青竜湯、
何日か経過し、白く濁った鼻水になったら葛根湯加川芎辛夷へ変更、
それでもよくならなくて、青っぱなになったら小柴胡湯を併用、
小柴胡湯+葛根湯加川芎辛夷を2週間投与しても治りきらない場合は、
辛夷清肺湯を2週間投与。
…全例とは言いませんが、だいたいこれで治ります。
とくに、小柴胡湯+葛根湯加川芎辛夷の組み合わせは著効例が多い印象があります。

あ、漢方薬を飲ませるコツもアドバイスしていますが、
どうやっても飲めない患者さんは、たぶん耳鼻科へ流れていると思われます。



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