小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「新しい免疫入門〜自然免疫から自然炎症まで」(審良静男/黒崎知博著)

2017年03月08日 15時14分19秒 | 感染症
2014年発行、講談社ブルーバックス

予防接種/ワクチンのことを調べていたら、「アジュバント」というキーワードができてました。
その有無がワクチンの効果に大きく影響すると。
しかし、フローチャートを見ても、知らない物質の羅列で理解不能状態。
・・・TLR、PAMPs、DAMPs、リガンド、etc。

どうやら、私が学生時代に勉強した「免疫学」はもう古いらしい。
知識のアップデートに適当な入門書はないか探しているときに見つけたのが本書です。

著者の審良静男(あきらしずお)Dr.はトル様受容体(TLR)発見の功績でノーベル賞候補にもなった大阪大学の教授。
「自然免疫応答」で検索すると、彼の名前がたくさんヒットします。

さて、一読してみると、私の知りたいことが網羅された内容で、どストライクな本でした。
著者の云いたいことは「20世紀までは獲得免疫が免疫学の中心であり、21世紀に入ると獲得免疫に加えて自然免疫も重要視されるようになった。そして今、免疫と炎症が大きな学問分野を形成しようとしている。」

と同時に、著者の免疫学に対する“愛”を感じました(^^)。
免疫細胞を擬人化したり・・・文章もわかりやすく好感の持てる本。
ただ、専門用語がたくさん出てくるので、一般の方が読破するには集中力と少しの執念が必要かな。
一気に読み進めないと頭の中でいろんな細胞が絡み合って収拾が付かなくなります(^^;)。

自然免疫〜獲得免疫システムがp87に要約されてますので一部抜粋:

侵入した病原体に、まず食細胞が対応する。
食細胞は病原体を認識して活性化する。
食細胞だけで手に負えないようなら、仲間の樹状細胞が抗原提示のためリンパ節に向かい、抗原特異的にナイーブヘルパーT細胞を活性化する。
平行してナイーブB細胞がB細胞抗原認識受容体にくっついた抗原を食べて、先に誕生した活性化ヘルパーT細胞に抗原提示する。
活性化したヘルパーT細胞は抗原特異的にB細胞を活性化し、活性化B細胞はプラズマ細胞となって抗体を作り放出する。
抗体による中和作用が働き、病原体が排除されていく。
末梢に出ていった活性化ヘルパーT細胞は食細胞を活性化し食細胞は最強になっているところでオプソニン化(抗原に抗体がくっついて食細胞の食欲をそそること)が生じる。

・・・以上のように、免疫システムは最初に自然免疫が対応した後に獲得免疫が始動するという単純なものではなく、自然免疫と獲得免疫は相互にかつ複雑に助け合って病原体を排除している。そして最後を締めくくるのは自然免疫である。



【備忘録】
※ イラスト/シェーマは本から引用できないので、類似の物を他から拝借しました(^^;)。

・自然免疫とは
生体防御の最前線で病原体を食べてやっつける食細胞の働きは「自然免疫」と呼ばれている。自然免疫は、下等動物から高等動物まで共通に持つ基本的な免疫の仕組みで、主として食細胞が担当している。
 食細胞(マクロファージ/好中球/樹状細胞)は「相手かまわず何でも食べるだけの原始的な細胞」ではなく、その一部は「免疫の司令塔」の役割を担う大切な細胞である。

・食細胞の活性化とサイトカイン放出
 食細胞が病原体を食べると活性化(消化能力/殺菌能力アップ)し、警報物質(サイトカイン)を放出する。サイトカインには、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、TNF、ケモカインなどのグループがある。
 ケモカインは仲間の免疫細胞を呼び寄せ、呼ばれた食細胞は現場に駆けつける。
 ケモカイン以外のサイトカインは、主として周囲の食細胞の活性化を促す(気合いを入れる)。
 サイトカインの作用により、病原体が侵入した現場には、食細胞が続々と応援に駆けつけて活性化する(炎症)。
 最初に立ちはだかるのはマクロファージで、真っ先に応援に駆けつけるのが好中球、応援のマクロファージは少し遅れて駆けつける。
 好中球は数が多く、強い殺菌作用を持っており、働き出すとマクロファージより強力だが、寿命は2-3日と短い。

・トル様受容体(TLR,Toll-like receptor)とは
 食細胞は病原体を感知するセンサーを持っていて、食べた相手が病原体かそうでないかを認識している(この発見で2011年のノーベル生理学・医学賞受賞)。そのセンサーはトル様受容体(TLR)といい、これに特定の物質(リガンド)が結合することにより細胞内でシグナルが伝わり反応が起きる。
 TLR9は病原体のDNAのCpG配列を認識するが、自己のDNAと病原体のDNAを区別できる。これは、人のCpG配列は「メチル化」されているが、病原体のCpG配列はメチル化されていないからである。





・TLR以外の受容体
RLR(RIG-I like receptor):リグアイ(RiG-I)様受容体。細胞質中に存在し、ウイルスのRNAを認識する。
CLR(C-type Lectin receptor):Cタイプレクチン受容体。細胞膜に存在し、真菌の細胞壁を構成する糖鎖を認識する。
NLR(NOD like receptor):ノッド(NOD)様受容体。細胞質中に存在し、細菌やウイルスの成分を認識する。
cGAS:受容体ではなく酵素。細胞質中に存在し、細菌やDNAウイルスのDNAを認識する。
TLR、RLR、CLR、NLRなどを総称してパターン認識受容体と呼ぶ。食細胞はパターン認識受容体を使って、食べた相手が所属するチームのユニフォームを認識していると考えるとわかりやすい。相手の個人名まではわからないが、チーム名ならわかるというレベル。


( 「自然免疫とウイルス感染」北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子生体防御分野 髙岡晃教Dr. より)


・樹状細胞は食細胞でもあり「免疫の司令塔」でもある
樹状細胞は食細胞ではあるが戦いの前線にはあまりいない。少し引っ込んだところにいて、戦いが局地戦で終わってしまいそうなときは出番がない。自然免疫だけで病原体を退治できそうにないときが、樹状細胞の出番である。樹状細胞は獲得免疫を始動する役割を担っている。
 樹状細胞のもともとの姿はマクロファージとそれほど変わらない。基本的には食細胞としてマクロファージや好中球と同様の働きをしており、パターン認識受容体で病原体を大づかみに認識できる。そのうえ「抗原提示」能力が著しく高いので「免疫の司令塔」としてがぜん注目を浴びる存在となった。

・自然免疫と獲得免疫
 自然免疫は、食細胞が相手構わず何でも食べて、その結果進入した病原体も食べてしまうシステム。しかし全ての病原体の撃退は難しく、人体は次のステップとして病原体をピンポイントで強力に叩く「獲得免疫」を備えるようになった。
 生まれた後、抗原(獲得免疫のターゲット:細菌、ウイルス、真菌、細菌が出す毒素、細菌が死んで出す毒素など)の刺激を受けて初めて獲得される免疫という意味である。
 獲得免疫は「抗原特異的」(抗原に対して個別にピンポイントで対応)である。

・樹状細胞の働き
 抗原となる病原体を取り込んだ樹状細胞は活性化し、細胞内の酵素の力で、病原体の体を構成するたんぱく質をペプチドとよばれる断片にまで分解する。一つのたんぱく質分子は会い量のアミノ酸が何千個、何万個とつながったもので、それが分解されてアミノ酸が2個以上の断片になった物をペプチドと呼ぶ。
 一部のペプチドはMHC(Major histocompatibility complex)クラスIIという分子と結合して細胞の表面に提示される。病原体をまるごと提示するのではなく、病原体のたんぱく質を断片化したペプチドを提示するのがポイントである。
 病原体を食べて活性化した樹状細胞はもよりのリンパ節へ移動する。活性化した樹状細胞は数日しか生きられない。なにかを食べることも一切やめ、確実に訪れる士の足音を聞きながら、抗原提示のためにリンパ節へと急ぐ。
 抗原提示の相手は「ナイーブT細胞」である。

※ T細胞は大きく二つに分けられる;
ヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)
キラーT細胞(CD8陽性T細胞)
・・・まだ抗原に出会ったことがないものをナイーブT細胞と呼ぶ。
 MHCクラスII分子を介した抗原提示の相手は、ナイーブヘルパーT細胞
 MHCクラスⅠ分子を介した抗原提示の相手は、ナイーブキラーT細胞


・ナイーブヘルパーT細胞
 その表面にT細胞抗原認識受容体を持っており、これが樹状細胞の表面に提示された「MHCクラスII+抗原ペプチド」と結合する。
 T細胞抗原認識受容体は、ほとんどのナイーブヘルパーT細胞で異なる形状をしていて、その種類は全部で1000億以上もある。一方、同じ形状のT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞は数えるほどしかおらず、全身で100個程度。なお、一つのナイーブヘルパーT細胞の表面には1種類のT細胞抗原認識受容体しか発現しておらず、たくさんあっても皆同じ形状である。
 ポイント二つ;
1.T細胞抗原認識受容体の形状は1000億種類以上もあるので、樹状細胞がどのような病原体を食べたとしても、それにピタッとくっつくT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞が必ずいる可能性が高い。
2.樹状細胞が自己細胞の死骸を食べても、それにピタッとくっつくT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞はほとんどいない。

・補助刺激分子、CD80/86、CD28
 ナイーブヘルパーT細胞の活性化には「MHCクラスII+抗原ペプチド」とそれに合うT細胞抗原認識受容体だけでは足りない。補助刺激分子と呼ばれる、樹状細胞のCD80/86とナイーブヘルパーT細胞のCD28の結合、さらには活性化した樹状細胞から放出されるサイトカインが必要である。
<まとめ>
 ナイーブヘルパーT細胞が正常に活性化されるために必要なことは次の3点:
1.T細胞抗原認識受容体が樹状細胞の「MHCクラスII+抗原ペプチド」にピタッとくっつく。
2.補助刺激分子の結合(樹状細胞:ナイーブヘルパーT細胞=CD80/86:CD28)
3.サイトカイン
・・・1は獲得免疫の反応であるが、自然免疫のチェックの結果である2と3の条件が揃わないと、ナイーブヘルパーT細胞は活性化しない。活性化したヘルパーT細胞の誕生には、自然免疫と獲得免疫のダブルチェックが必要なのである。

・活性化したヘルパーT細胞の行方
 活性化したヘルパーT細胞は増殖をはじめる。ある形状のT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞は全身で100個ほどしかないが、合致する樹状細胞と出会うと1000〜10000倍に増える(一方で免疫の過剰反応を避けるために余命が設定される)。
 増殖した活性化したヘルパーT細胞の一部はリンパ節に残り、多くはリンパ節を出て末梢組織に向かう。
 末梢組織(感染の現場)では、病原体を食べて活性化し、MHCクラスII+抗原ペプチドを提示したマクロファージがたくさんいる(マクロファージも抗原提示能力があるが、樹状細胞に比べて低く、感染部からリンパ節への移動もほとんどできない。なお、好中球に抗原提示能力はない)。

・末梢組織での活性化したヘルパーT細胞と活性化したマクロファージの出会い;
 感染の現場にいた活性化マクロファージの表面に提示されたMHCクラスII+抗原ペプチドに、リンパ節からやってきた活性化したヘルパーT細胞が抗原特異的に結合する。さらにマクロファージ上の補助刺激分子CD80/86が活性化したヘルパーT細胞のCD28に結合して刺激を入れ、すると今度は活性化したヘルパーT細胞のCD40LがマクロファージのCD40に結合して刺激を入れる。
 その結果、活性化していたマクロファージはさらに活性化し、相当強力な消化能力と殺菌能力を手にする。
<まとめ> 
 マクロファージが活性化したヘルパーT細胞によりパワーアップされる3つの条件:
1.T細胞抗原認識受容体がマクロファージの「MHCクラスII+抗原ペプチド」にピタッとくっつく。
2.補助刺激分子の結合(マクロファージ:活性化ヘルパーT細胞=「CD80/86:CD28」と「CD40:CD40L」)
3.サイトカイン

・サッカーに例えれば、自然免疫でユニフォームを、獲得免疫で個人の顔を認識する
 食細胞はユニフォームを見て敵(病原体)か味方(自己)かを認識している。それに対してT細胞は、敵(病原体)とみなすべき無数の相手の「顔型」を備えて、相手の顔を認識している。そして、ユニフォームを見ても敵、顔を見ても敵である場合に限り、獲得免疫システムが始動する。

・B細胞は「抗原そのもの」を食べる
 B細胞はT細胞と異なり、ヘルパーとかキラーの種類はない。
 リンパ節にあるナイーブB細胞は、表面のB細胞抗原認識受容体にピタッとくっついた抗原を食べる。
 B細胞抗原認識受容体の形状は1000億個以上もあるので、どのような抗原が流れ着いたとしても、それにピタッとくっつくB細胞抗原認識受容体をもつナイーブB細胞が必ずいる可能性が高い。
 自己細胞の死骸がリンパ節に流れ着いた場合はピタッとくっつくB細胞抗原認識受容体をもつナイーブB細胞はほとんどいない。これはT細胞抗原認識受容体と同じであるが、大きな違いは、T細胞抗原認識受容体は「MHCクラスII+抗原ペプチド」とくっつくが、B細胞抗原認識受容体は「抗原そのもの」にくっつく点である。
 抗原を食べた後にB細胞がすることは樹状細胞と似ている。抗原を構成するたんぱく質を酵素の力でペプチドにまで分解し、MHCクラスII分子に乗せて細胞の表面に提示する。
 B細胞が抗原提示する相手は誰か? ・・・答えは(リンパ節に残っている)活性化ヘルパーT細胞である。
 抗原を食べた時点でB細胞抗原認識受容体から刺激が入り、B細胞は少しだけ活性化している。さらに完全に活性化するために活性化ヘルパーT細胞に出会いたいのだ。

・B細胞抗原認識受容体は抗体が細胞膜に発現したものである
 B細胞の役割は、B細胞抗原認識受容体にピタッとくっつく抗原の侵入を感知後、その抗原に対する抗体を大量生産して体中にばらまくこと。
 樹状細胞は自分が活性化して抗原提示を士、ナイーブヘルパーT細胞を活性化する。
 一方、B細胞は少しだけ活性化した状態で抗原提示を士、活性化ヘルパーT細胞に完全に活性化してもらう。
 活性化ヘルパーT細胞によりB細胞が活性化されるための条件3つ:
1.T細胞抗原認識受容体がB細胞の「MHCクラスII+抗原ペプチド」にピタッとくっつく
2.補助刺激分子の結合(マクロファージ:活性化ヘルパーT細胞=「CD80/86:CD28」と「CD40:CD40L」)
3.サイトカイン
・・・これは樹状細胞がナイーブヘルパーT細胞を活性化したときと同じ構図である!

・B細胞とヘルパーT細胞は抗原の違うところを見ている
 B細胞抗原認識受容体は抗原そのもののどこか特定の構造を見ている。
 T細胞抗原認識受容体は抗原を構成するたんぱく質が分解されたペプチドとMHCクラスII分子のセットを見ているのであり、抗原そのものを直接見ているのではない。
 両者はまったく違うものを見ていながら、同じ抗原を認識している。

・活性化したB細胞はプラズマ細胞になる
 活性化したB細胞は増殖して数を増やし、「プラズマ細胞」と呼ばれる抗体産生細胞になる。一部はプラズマ細胞にならず「記憶B細胞」になる。
 活性化B細胞が、最終的にプラズマ細胞になって抗体を大量に放出するまでには、「親和性成熟」と「クラススイッチ」が必要である。

・B細胞の親和性成熟は突然変異による
 B細胞抗原認識受容体と抗原の結合力は弱〜強までさまざまである。親和性を増すためにワンステップが必要であり、それがB細胞抗原認識受容体の突然変異である。
 活性化B細胞は増殖して数を増やすときに、B細胞抗原認識受容体の抗原結合部位に突然変異を起こす。
 結合力を判定するため、リンパ節には抗原(流れ着いた病原体の破片)のショーウインドウがある(濾胞樹状細胞:FDC, follicular dendritic cells)。
 B細胞抗原認識受容体の抗原結合部位に突然変異を起こしながら増えた活性化B細胞は、抗原のショーウインドウに行って判定を受ける。このとき、抗原にピタッとくっつくB細胞抗原認識受容体をもつ活性化B細胞だけが、プラズマ細胞(抗体産生細胞)になることを許される。

・B細胞のクラススイッチ
 抗体(免疫グロブリン:Ig, Immunoglobulin)のクラスが変わることをクラススイッチと呼ぶ。
 B細胞の細胞膜に発現している抗体はIgMであり、プラズマ細胞になったとき産生する抗体はIgGに変わっていることが多い。抗原に対する効果は圧倒的にIgG>IgMである。しかし最初はIgMでないと、B細胞がどうも上手く成長できないらしい。
 親和性成熟とクラススイッチを経て、活性化B細胞はプラズマ細胞(抗体産生細胞)になる。一部のプラズマ細胞は骨髄に移動し、大量の抗体(IgG)をつくって、体中に放出しはじめる。このとき、病原体の侵入からは1週間以上経っている。

・抗体(IgG)の働きは「中和」と「オプソニン化」
1.中和
[毒素の中和]・・・抗体が細菌毒素に結合すると毒素の形や性質が変わり、毒性がなくなる(受容体に結合したり、細胞に取り込まれたりしなくなる)。最終的には、抗体が毒素に結合したものを食細胞が食べて処理する。
[ウイルスの中和]・・・抗体がウイルスに結合すれば、ウイルスは細胞表面に上手く吸着できなくなり、もぐり込むこともできない。最終的には抗体がウイルスに結合したものを食細胞が食べて処理する。
2.オプソニン化
 IgGのY字形の根元のFc領域に、食細胞が表面に持っているFc受容体が結合する。すると、抗体を介して食細胞と抗原が結合する形になるので、食細胞は激しく抗原を食べるようになる。抗原にたくさん抗体が結合すれば、食細胞はたくさんの箇所で抗原と結合でき、食欲が増す。この作用を抗体によるオプソニン化という。

・細胞に感染したウイルス、細胞に寄生する細菌(クラミジアやリケッチア)の担当はキラーT細胞
 これらの病原体に対して、抗体は無力である。
 ヒトの体は感染した細胞をまるごと破壊する戦略をとった。担当するのはキラーT細胞である。
 樹状細胞が食べたものをMHCクラスⅠ分子のお皿に乗せてナイーブキラーT細胞に抗原提示する。
 抗原提示からナイーブキラーT細胞が活性化するまでの話は、ナイーブヘルパーT細胞が活性化するまでの話とほとんど同じであるが、2点だけ異なる。
1.ナイーブヘルパーT細胞のT細胞抗原認識受容体の結合部位が「MHCクラスII+抗原ペプチド」であるのに対し、ナイーブキラーT細胞のT細胞抗原認識受容体の結合部位は「MHCクラスⅠ+抗原ペプチド」である。
2.その活性化のために活性化ヘルパーT細胞がサイトカインを浴びせる。

・活性化キラーT細胞の活躍
 活性化したキラーT細胞は増殖して数を増やし、感染を起こしている組織に向かう。
 活性化キラーT細胞は2つの方法で感染細胞を破壊する;
1.特殊なたんぱく質を放出して感染細胞に穴を開ける。次にその穴から酵素を投入し、感染細胞にアポトーシス(細胞の自殺)を誘導する。
2.相手細胞が出しているアポトーシスのスイッチを直接押してアポトーシスを誘導する。
 以上のように感染細胞を木っ端微塵に破壊するのではなく、アポトーシスを起こさせることがポイントであり、アポトーシスを起こした細胞はまるごと食細胞が処理してくれる。

※ MHCクラスとそのお皿に載るペプチドの大きさの違い;
MHCクラスⅠ分子にのるペプチドはアミノ酸が8-11個くらい。
MHCクラスII分子に載るペプチドは10-30個くらい。


・NK(ナチュラルキラー)細胞
 キラーT細胞の働きを補完する自然免疫細胞。
 NK細胞は次の2つの条件が揃ったときに相手の細胞を破壊する;
1.病原体の感染をTLRなどが完治したり、あるいは病原体のタンパク質合成のために細胞にストレスがかかったりして、細胞の表面にCD80/86やNKG2Dリガンドなどが出ている。
2.病原体が邪魔をして、MHCクラスI分子が細胞の表面に出ていない。
 NK細胞が感染細胞を破壊する方法は2つあり、これらはキラーT細胞と同じである(どちらも感染細胞にアポトーシスを誘導する)。

・ヘルパーT細胞は3種類(1型/2型/17型)ある
1型:ウイルスと細胞内寄生細菌の排除
2型:寄生虫の排除
17型:細胞外細菌と真菌の排除
に働く。

[1型]
3つのことを行う:
1.末梢組織に行って、抗原特異的にマクロファージをさらに活性化する。
2.抗原特異的にB細胞を活性化し、IgGを放出させる。
3.ナイーブキラーT細胞が活性化するのを助ける。
・・・活性化1型ヘルパーT細胞を起点とする免疫反応は、最終的に食細胞や活性化キラーT細胞、NK細胞が中心となりッ病原体の排除にあたる。そのため「細胞性免疫」と呼ばれる。

[2型]
3つのことを行う:
1.抗原特異的にB細胞を活性化し、IgGを放出させる。 → 「中和」「オプソニン化」
2.抗原特異的にB細胞を活性化し、IgEを放出させる。 → マスト細胞(肥満細胞)の表面に結合する。寄生虫の排除の役割があるが、その誤作動がアレルギー疾患である。
3.好酸球を活性化する。 → これも寄生虫の排除の役割。
・・・活性化2型ヘルパーT細胞を起点とした免疫応答は、ほとんどの場面で抗体が関わっており、抗体が体液中に溶け込んでいることから「液性免疫」あるいは「体液性免疫」と呼ばれる。

[17型](21世紀に入ってから見つかった)
末梢組織に行ってサイトカインを放出し、ケモカインの発言を誘導して好中球を集積させる。
活性化17型ヘルパーT細胞のサイトカインは、腸管の上皮細胞に働いて、細菌に対する防御物質である抗菌ぺくちどを腸管内に向けて放出させる。

・3種類のヘルパーT細胞の働きはオーバーラップする
 ウイルス感染の場合、感染細胞を排除する活性化したキラーT細胞が出動するには1型を起点とする免疫反応が必要、しかし細胞から飛び出したウイルスを中和する抗体を放出するには2型を起点とする免疫応答も必要である。
 17型がまだ発見されていなかった頃は、1型と2型のバランスで全てが説明されていた。1型に偏りすぎると自己免疫疾患が発症し、2型に偏りすぎるとアレルギーを発症すると言われていた。17型の発見により、バランス理論で説明されていた疾患の多くが17型の亢進で説明可能となり、バランス理論は衰退しつつある。

・制御性T細胞
 坂口志文らにより発見された。
 自己反応性のナイーブT細胞と競合的に働いて反応を抑制する細胞。
 制御性T細胞はCD4陽性のT細胞であり、競合する相手はCD4陽性のナイーブヘルパーT細胞とCD8陽性のナイーブキラーT細胞である。制御性T細胞はCD4陽性T細胞全体のおよそ10%を占める。
 制御性T細胞は自己抗原(「MHCクラスII+自己ペプチド」)に対する結合力が強い。
 制御性T細胞は自己抗原に結合するだけでなく、免疫応答を抑制的にコントロールする働きを持っている。制御性T細胞表面のCTLA4という分子は、活性化した樹状細胞が出している補助刺激分子CD80/86に非常に強く結合し、樹状細胞に対して抑制性のシグナルを送る。すると樹状細胞の表面での補助刺激分子の発言が減るので、自己反応性でないナイーブT細胞の活性化も抑えられる。さらに制御性T細胞はIL2と強く結合する受容体を発現しており、活性化T細胞の誘導に必須のIL2を競合的に奪い取ってしまう場合もある。
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