小児アレルギー科医の視線

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新型コロナ、小児患者の治療(2022年1月現在)

2022年01月16日 22時15分50秒 | 新型コロナ
新型コロナのオミクロン株流行が席巻しています。
あちこちの中学・高校の部活レベルでクラスターが発生し、モグラ叩きの様相を呈してきました。

これから、ワクチンを接種していない世代(12歳未満)の新型コロナ流行が本格化すると思われます。

さて、小児患者はどう治療すべきでしょうか。

インフルエンザには抗ウイルス薬としてタミフル、イナビルなどが用意されています。
新型コロナに対してもラゲブリオ®(GSK社)が認可されましたが、
現状では適応は18歳以上のハイリスク患者です。
これから認可される薬パクスロビド(ファイザー社)もありますが、
それでも12歳以上が適応と、
小児に処方できる内服薬は今のところ存在しません。

現時点では、従来の対症療法で回復待ち、ということになります。
熱がつらかったら解熱剤、
咳がつらかったら鎮咳剤・・・

まあ、もともと小児は重症化しにくく、
オミクロン株はさらに重症化しない傾向がありますから、
それで済めば御の字です。

私は漢方薬に注目しています。
漢方薬は即効性がない体質改善の薬、というイメージが先行していますが、
漢方の原典である約1800年前の「傷寒論」は急性熱病の治療マニュアルなのです。

そこには、カゼの経過と共に適切な薬を選択して治癒に持っていく職人技が書かれています。
例えば・・・

1.風邪の引き始め
  ⇩
2.カゼが長引いて熱が上がったり下がったり
  ⇩
3.風邪がこじれて高熱が続く
  ⇩
4.回復せず体が冷えて命の危険

漢方的には1〜4を以下のように位置づけています。

1.太陽病期
2.少陽病期
3.陽明病期
4.太陰病期

という経過を辿るカゼの諸相に対応する薬が用意されています。
どのフェイズでも同じ咳止めが使用される西洋医学とはきめ細かさが異なります。

1.太陽病期→ 熱を出す手助けをして病原体をやっつける
2.少陽病期→ 身体の炎症の熱を冷ます
3.陽明病期→ 病気の元を身体から追い出す
4.太陰病期→ 身体を温めて免疫システムを回復させる

私はこの中でも、2.の少陽病期に注目しています。
新型コロナに罹った初期はカゼ症状ですが、
1週間後くらいに回復するヒト(8割)と重症化するヒト(2割)に分かれます。
重症化は免疫システムが暴走する「サイトカインストーム」が起きている状態です。
このフェイズに用意されているのは「柴胡剤」(例:小柴胡湯、柴胡桂枝湯)です。

私はふだんから風邪患者さんに対して、
熱が数日以上続いて治りが悪いときに処方しています(希望があれば、ですが)。




これは風邪の前半、やや長引くまでの病期ですが、
フェイズと体力により、すでに13種類の漢方薬を使い分けるべし、
と記されています。
・・・職人技ですね。
風邪の全経過まで入れると、使い分ける漢方薬の種類は、軽く20種類を超えるでしょう。
私は風邪の漢方を使いこなせるレベルが一人前の漢方医の目安、と考えています。




(解説文)
 これは大野修嗣先生の提唱されている「ハンス・セリエのストレス学説と傷寒論」の対応を改変したものです。セリエがストレス疾患の病期で治療法を変えたように,漢方治療においてもストレス疾患は病名ではなく病期によって治療法が変わります。
 副交感神経優位の太陽病期は実証なら「発表」により病邪を散じるため麻黄剤を使用し,虚証なら「解肌」により免疫を賦活するため桂皮を使用する。
 体がストレスに抵抗して交感神経優位の少陽病期なら,「和解」で炎症・緊張・興奮反応を適切に制御するため,「胸脇苦満型」には柴胡・黄芩を含む柴胡剤,「心下痞硬型」には黄連・黄芩を含む瀉心湯類が適応になる。
 体が疲弊して交感神経すら反応しにくい太陰病期には「温裏」で体を温め活性化する乾姜や桂皮,人参を使用する、などです。

かぜウイルスが体に入って起こす感染症も、
広く“ストレス反応”と捉えることが可能、ということですね。

西洋医学で少陽病期・太陽病期に適応するのは、
昔から使われてきたステロイド薬くらいしかありません。
ご存じのように、ステロイド薬はその使用のタイミングを間違うと、
病状が悪化する可能性があります。

前置きが非常に長くなりました。

先月(2021年12月)、日本小児科学会が「小児COVID-19 軽症から中等症の治療フローチャート」を発表しました。
さて、どんなことが書いてあるのか、読んでみましょう。
まずはフローチャートを引用させていただきます;


当院のような小児科開業医で診療する患者さんは、ふだん健康で酸素飽和度(SpO2)が正常範囲(>95%)に保たれていますから、基本的に経過観察・対症療法のみです。
まあ、思った通りですね。

酸素飽和度が正常範囲でも、重症化リスク因子がある患者さんはモノクローナル抗体(カシリブマブ/イムデビマブあるいはソトロビマブ)の投与を考慮します。ただし、年齢12歳以上、体重40kg以上かつ発症7日以内という条件が付きます。
まあ、これは病院に紹介して入院治療するレベルですので、開業医レベルではありません。

同じ条件を満たす患者さんで、胸部画像検査(X線撮影やCTスキャン)でCOVID-19に矛盾しない肺炎像を認めると、レムデシベルの登場です。

上記フローチャートの他に、忽那先生が作成したイラスト入りの経過表が掲載されており、こちらの方がイメージしやすいですね。



この図でもわかるように、軽症患者に使用されるモノクローナル抗体(カシリブマブ/イムデビマブあるいはソトロビマブ)は静脈注射薬のみなので点滴が必要です。

私はこの図の中の「軽症」の途中から「柴胡剤」を使えば、一定比率で重症化を抑制できるのではないかと期待しています。
江戸時代までの日本の医師であれば、おそらくそうしたでしょう。


<参考>
■ 「小児における COVID-19 治療薬に対する考え方:第1版」(日本小児科学会、2020年6月初出〜2021年12月最終更新)

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