小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

起立性調節障害の講演内容で、初めて納得できる内容でした。

2024年09月15日 09時28分00秒 | 小児医療
起立性調節障害は現代日本の思春期に巣くう病気であり、なかなか一筋縄ではいかず、患者さんも医療側も悩んでいる病態です。

近年は田中英高Dr.一派の診療が主流となり、
診断には持続血圧測定器が必要なため開業医レベルでは扱えなくなり、
正確に診断するためには病院での診療が必要になりました。

また診断後も「1日に水分2リットル、塩分12g摂取が必要」など、
医師として「?」と感じる治療内容など、
臨床経験30年以上の私には今ひとつピンときません。

先日(2024年8月)開催された日本思春期学会でも起立性調節障害の講演がありました。
オンデマンド配信で聴講した兵庫こども病院の小川貞治Dr.の講演内容が腑に落ちましたので、紹介します。

彼の起立性調節障害外来が抱える患者数は1200名!、日本有数の症例数です。
そのうち6-7割が起立性調節障害で、他の3-4割はそれ以外。

起立性調節障害の中ではPOTS(体位性頻脈症候群)と呼ばれる病態が最多、
小川Dr.はPOTSをさらに3つに再分類し、
その病態に合う生活指導と薬物療法を行い、
高い有効率を実績として出しています。

多量の水分と塩分が必要な脱水タイプは約半分で、全員ではないと説明され、
ここが一番納得できました。


▢ 起立性調節障害(OD、orthostatic dysregulation)のサブタイプ
1.POTS:postural tachycardia syndrome、体位性頻脈症候群
2.OH:orthostatic hypotention、起立性低血圧
3.VVS:vasovagal syncope、血管迷走神経性失神
※ ODは欧米ではOI(orthostatic intolerance、起立不耐症)と呼ばれることが多い。
・・・POTSが圧倒的に多く、不登校の原因になるのは主にPOTS。

▢ POTSの診断基準
1.立位時に、有意な血圧低下を伴わずに、心拍数が過度に上昇する(120/分以上、または臥位時よりも30-40回/分 以上上昇)。
2.頻脈に由来すると思われる症状(動悸、呼吸困難感、ふらつき、無力感、brain fog、運動耐容能低下、易疲労、頭痛、胸部違和感、胸痛、腹部膨満感、腹痛など)が持続(2-6ヶ月以上など)。

▢ POTSのサブタイプ
① Neuropathic POTS・・・Partial autonomic neuropathy:足(やお腹)の血管のしまりが悪い
② Hypovolemic POTS・・・Hypovalemia:全身の血液量が少ない
③ Hyperadrenergic POTS・・・Hyperadrenergic state:全身でノルアドレナリンが出過ぎる
・・・3つはまったく無関係で、バラバラなもの。でもゴールは一つ、「頻脈とそれに由来する症状」

▢ POTSサブタイプの比率
① Neuropathic POTS → 37%(単独は15%)
② Hypovolemic POTS → 46%(単独は25%)
③ Hyperadrenergic POTS → 39%(単独は20%)

▢ POTSサブタイプの特徴
                           ー起立試験ー
           (BMI)(飲水量)(CTR)(心拍数・血圧・下肢の色)(血中NA)
① Neuropathic POTS: ー    ー   ー   高い・低め・強い発赤  低値傾向(バラツキあり)
② Hypovolemic POTS:低い  少ない  小さい  高い・低め・白     普通 or 高い
③ Hyperadrenergic POTS:ー   ー  普通  とても高い・低くない・白 高い
※ 例外もたくさんある。

▢ POTSサブタイプ別治療(非薬物療法)
            (水分摂取・塩分摂取・有酸素運動) (下肢腹部圧迫・下肢筋力強化)
① Neuropathic POTS:        〇                〇
② Hypovolemic POTS:        〇                ー
③ Hyperadrenergic POTS:      〇                ー

▢ POTSサブタイプ別治療(薬物療法)
㋐ 心拍数を下げる:ビソプロロール「メインテート®」、プロプラノロール「インデラル®」、イバブラジン「コララン®」
㋑ 血管の締まりをよくする:ミドドリン「メトリジン®」、アメジニウム「リズミック®」、(フルドロコルチゾン「フロリネフ®」)、(輸液)
㋒ 血漿(と赤血球)を増やす:輸液、フルドロコルチゾン「フロリネフ®」、デスモプレシン「ミニリンメルト®」
㋓ 心拍数をしっかり抑える:メインテート/インデラル/コラランを十分量かつ長めの期間使う、(輸液)

① Neuropathic POTS:  ㋐+㋑
② Hypovolemic POTS:    ㋐+㋒
③ Hyperadrenergic POTS:㋐+㋓

▢ 治療目標〜不登校の解消
・毎日、3時限目・4時限目登校ができているならOK(つまり1時限目・2時限目は放棄してもよい)。
・しんどいならば、昼食前に帰宅してもよい。もちろん、体調的に化膿なら6時限目や部活まで滞在可。
 ↓
・いろいろな効果あり:
 ① 昼夜逆転を防ぐ
 ② 家にこもらせない
 ③ 勉強時間確保
 ④ 人と接することでメンタル面への影響
・3・4時限目登校ができていれば、いざというとき(定期試験、入学試験、新学期、新学年、新入学などのリセット時)にあっさり1時限目登校ができることがとても多い。

・・・西洋医学では起立性調節障害の治療薬はメトリジンが定番ですが、小川先生の分析ではこの薬剤が必要な患者は37%と半分以下にとどまることがわかり、臨床現場の実感と一致します。

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フルミスト、効くの?効かないの?

2024年09月02日 14時35分13秒 | 予防接種
2024/25シーズンから日本でも弱毒経鼻生インフルエンザワクチン「フルミスト」が使用できるようになりました。

喜ぶべきことですが、
実はフルミストの辿った経緯を知る小児科医は、
ちょっと複雑な気持ちなんです。

それは、鳴り物入りで2003年に登場したフルミストでしたが、
有効率が年々下がってきて、
とうとう2016/17シーズンはアメリカで勧奨停止を受けた歴史があるからです。

当時、
「生ワクチンが効かなくなるってどういうこと?」
とザワついて話題になりました。

当時の記事を読み直してみましょう。

<ポイント>
・2000年代はフルミストの効果は一般的な皮下接種ワクチンの約2倍高いとされ、臨床現場で小児へのフルミスト接種が急速に広がっていった。
・ACIP(米予防接種諮問委員会)報告では、2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%で、一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度だった。一方、2013-2014と2015-2016のシーズンは皮下接種の不活化ワクチンの効果が約60%なのに対し、フルミストが有意に低かった。
・「2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、2013-2014シーズンがマイナス1%、2014-2015が3%、2015-2016が3%。効果がマイナスとは、後からの集計でワクチン未接種の方が感染しにくいという解析結果だったことを示す。特にH1N1型への効果はほぼゼロだった。
・不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合は、すでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱くなる。この特性がフルミストにマイナスに働いた可能性がある。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに曝露されたことで効果が発揮されなかったのではないか。


■ CDCが2016-2017シーズンの勧奨を取り下げインフル用経鼻ワクチンが効かなくなった理由
西村尚子=サイエンスライター
2016/09/15:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2003年に米国で登場した、経鼻の弱毒生インフルエンザワクチンの「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」。発売当初は15歳以上だった対象年齢が2歳以上に引き下げられたことで乳幼児への接種例が増えてきた。これまで米CDC(米疾病対策センター)は「子どもへの感染予防効果が認められる」と勧奨してきたが、この6月に一転、「2016-2017シーズンは勧奨しない」と発表。・・・
 CDCの発表は、米予防接種諮問委員会(ACIP)の「2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、2013-2014シーズンがマイナス1%、2014-2015が3%、2015-2016が3%」などとする調査報告を受けたものだ。効果がマイナスとは、後からの集計でワクチン未接種の方が感染しにくいという解析結果だったことを示す。・・・
 ACIP報告では、2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%で、一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度だった。一方、2013-2014と2015-2016のシーズンは皮下接種の不活化ワクチンの効果が約60%なのに対し、フルミストが有意に低かったとされている。「報告書から、特にH1N1型への効果はほぼゼロだったことがわかる」と、新潟大学小児科学分野教授の齋藤昭彦氏は話す。
 フルミストは、弱毒化させたり低温馴化させるなどの処理を行ったウイルスの遺伝子断片を細胞に組み込み、再集合させてできたウイルスを鶏卵に感染させて作製する弱毒生ワクチンだ。2013-2014シーズン以降は、A型のうちH1N1型、H3N2型とB型の山形系統、ビクトリア系統を対象とした4価のワクチンとなっている。開発したのはMedImmune社だが、現在は、後に同社を買収した英AstraZeneca社の傘下で販売されている。
 欧州でも使われているが(商品名Fluenz Tetra)、英国からもこの数年は効き目が弱いと報告されていた。AstraZeneca社の研究者を筆頭著者とする論文においても、「市販後調査により2013-2014シーズンの米国では効果が弱かったことが明らかになった」と報告されている(Vaccine 2016;34:77-82)。ただし、この6月のCDC発表直後にAstraZeneca社は「2015-2016シーズンでは46%から58%の有効性が認められた。CDCは流行株とワクチンの型が合えば、一般的にワクチンの有効性は50%から60%だとしている。今後、データに基づき、CDCと協議を進めていきたい」とするリリースも出している。

▶ 上気道粘膜でウイルスの侵入を阻止する経鼻ワクチン
 インフルエンザにおいては、一般的な皮下接種の不活化ワクチンは乳幼児への効果が弱い。過去に感染歴があれば接種により抗原特異的な血中抗体(IgG)を速やかに産生できるが、感染歴がなければそのようなブースター効果を期待できないからだ(ただし、乳幼児でも脳炎や心筋炎などの重症化を抑制する効果はあるとされる)。一方、フルミストのような弱毒生ワクチンは体内で感染状態を作りだすため、乳幼児にも有効とされている。
 さらに、鼻に噴霧するフルミストには、体内でのウイルス増殖に対して起こる血中IgG産生だけでなく、上気道粘膜における分泌型抗体(IgA)の産生も誘導するという他にはない特徴がある。粘膜局所から分泌されるIgAには、いち早くウイルスを捉えて侵入そのものを食い止める効果が期待できる。
 2008年までの10年以上にわたって、米California大学San Diego校などで小児感染症の臨床現場を経験した斎藤氏は、「米国で小児感染症専門医として仕事をしていた頃、フルミストの効果は一般的な皮下接種ワクチンの約2倍高いとされ、臨床現場で小児へのフルミスト接種が急速に広がっていったことを覚えている。フルミストが日本でも中心的役割を担うようになるだろうと思っていたので、今回の報告は残念だ」と語る。
 北里大学の中山哲夫氏は「米国でここ数年、H1N1型が流行したことで生ワクチンの特性がマイナスに働いたのではないか」と推測する。

▶ 明確にならない、効かなかった理由
 不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合は、すでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱いことが知られている。国内でフルミストの臨床試験に関わる北里大学北里生命科学研究所ウイルス感染制御学特任教授の中山哲夫氏は、この特性がフルミストにマイナスに働いた可能性を指摘する。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに曝露されたことで効果が発揮されなかったのではないかというのだ。
 さらに、中山氏とともに、国立感染症研究所感染病理部部長の長谷川秀樹氏も指摘するのが、2013-2014シーズン以降のワクチンが3価から4価に変更された点だ。中山氏は「異なる型の生きたインフルエンザウイルスは互いに干渉し合うことが知られており、体内で増えなかった型のワクチン効果は下がることになる」と話す。ただし、「それでも、なぜH1N1型に対する抗体価が上がらなかったのかなど、謎が多い」と首をかしげる。
 前述のVaccine誌における報告では、特定の生産ラインにおける保存の問題、2〜8℃とされる推奨温度の妥当性、ウイルスのヒト細胞への結合能の変化など、複数の可能性が示唆されているが、齋藤氏は「AstraZeneca社内で検討されたものが多く、科学的な裏付けに乏しい。インフルエンザワクチンの効果判定に影響する因子は多く、原因の究明は本当に難しい」とコメントする。

▶ 国内では経鼻ワクチンの先行き不透明、皮内ワクチンに期待
 フルミストの開発は、2015年にAstraZeneca社と契約した第一三共が行っており、現在、国内製造販売申請中で、上市に向けた最終段階にあるといえる。中山氏は「現在、免疫応答についての再確認試験を行うところだが、今回のACIP報告がどのように影響するのかは不透明」とし、齋藤氏は「これまでのデータを総合的に見ると、現時点で日本の子どもたちに接種を推奨するのは難しい」と話す。
・・・
 未だ残暑が厳しい中、WHO(世界保健機関)はすでに2016-2017シーズンのワクチン推奨株4種を選定済みだ。それを受け、国内でも検討会議が終わり、まもなく生産に入る。AstraZeneca社は、4価のフルミストについて昨年同様に供給する予定だという。国内のみならず、世界の動向を注意深く見守っていく必要がありそうだ。


「生ワクチンを毎年繰り返し接種する」という他のワクチンでは未経験だったことが、
有効率低下の理由のかもしれない、とのこと。
なるほど・・・確かに、あるウイルスに対して免疫があると、
その生ワクチンを接種しても抗体価は高止まりであまり上昇しない、
という事実がありますね。

そして2017/18シーズン、CDCは勧奨を再開しました。
当時の記事も紹介します。


<ポイント>
・2~4歳未満の小児200例を対象に、2015/16シーズン用フルミストと2017/18シーズン用フルミストの、AH1pdm09に対する抗体価の上昇率を評価した。その結果、1回の接種で抗体価が4倍に上昇した子どもの割合は2015/16シーズン用が5%だったのに対し、2017/18シーズン用では23%だった。


■ 2016/17シーズンの推奨取り下げから一転インフル経鼻ワクチン、米国で再度接種推奨へ
古川 湧=日経メディカル
2018/03/03:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)は2月21日、インフルエンザの2018/19シーズンにインフルエンザ経鼻ワクチン「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」を米国で再度接種推奨することを決定した。・・・
 フルミストは鼻腔に噴霧するタイプの4価の弱毒生ワクチンで、A(H1N1)pdm2009(AH1pdm09)、A(H3N2)、B(山形系統)、B(ビクトリア系統)を対象としている。2003年の登場以来、米国や欧州で一般的に使用されており、日本では承認されていないものの医師が個人輸入して使用するケースがある。
 フルミストは2013/14シーズンからワクチン効果の低下を指摘されており、CDCは2016/17シーズン以降、同ワクチンを接種推奨リストから取り下げていた。
 ACIPの推奨再開は、販売元の英AstraZeneca社が米国で行った臨床試験の結果を受けたもの。2~4歳未満の小児200例を対象に、2015/16シーズン用フルミストと2017/18シーズン用フルミストの、AH1pdm09に対する抗体価の上昇率を評価した。その結果、1回の接種で抗体価が4倍に上昇した子どもの割合は2015/16シーズン用が5%だったのに対し、2017/18シーズン用では23%だった。接種回数を2回にすると、抗体価が4倍に上昇した割合は12%と45%となった。
 米国において2015/16、2017/18シーズンの流行の主流はAH1pdm09だった。2015/16シーズン用フルミストのワクチン効果は一般的な皮下接種不活化ワクチンと比べて有意に低かったと報告されており、特にAH1pdm09に対してはほとんど効果がなかったとされている。
 AstraZeneca社は臨床試験の結果について「2017/18シーズン用ワクチンのAH1pdm09株は、2015/16シーズン用ワクチンよりも有意に良好に作用することが示された」としている。国内では、AstraZeneca社と契約した第一三共がフルミストの開発を2015年から進めており、現在製造販売申請中となっている。

一つ目の記事の内容が確かだとすれば、
再開以降すでに複数年が経過しており、
また同じ現象が発生してもおかしくありませんが、
今ところ聞こえてきません。

結局、「有効率低下&有効率復活の理由」は迷宮入りなのでしょうか。

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小児の新型コロナ後遺症(lpng-covid)は年齢により違う?

2024年08月29日 05時58分04秒 | 新型コロナ
という興味深い記事が目に留まり、読んでみました。

最近は long-cpvid ではなくPASC(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection)と呼ぶようになったのでしょうか?
新型コロナ後遺症は呼び方も定義も何回か変わってきています。
日本でも今は「新型コロナ罹患後症状」ですね。

この報告の中では「感染後少なくとも90日以上で4週以上持続する症状」を採用し、
小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)に分けて比較しています。

結論から申し上げると、
・小児では神経認知症状、疼痛、消化器症状が多い
・思春期児では嗅覚や味覚の変化や消失、疼痛、疲労に関連する症状が多い
とのことでした。

はて、「神経認知症状」ってなんだろう?

■ コロナ後遺症、6~11歳と12~17歳で症状は異なるか/JAMA
ケアネット:2024/08/29)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 米国・NYU Grossman School of MedicineのRachel S. Gross氏らは、RECOVER Pediatric Observational Cohort Study(RECOVER-Pediatrics)において、小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)を特徴付ける研究指標を開発し、これらの年齢層で症状パターンは類似しているものの区別できることを示した。・・・

▶ 6~11歳の約900例と12~17歳の約4,500例について解析
・・・対象は2022年3月~2023年12月に登録された6~17歳の、初感染日が明らかなSARS-CoV-2感染既往者(感染群)と、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗体陰性が確認された非感染者(非感染群)であった。
 9つの症状領域にわたる89の遷延症状に関する包括的な症状調査を行った。
 主要アウトカムは、COVID-19パンデミック以降に発症または悪化した、調査完了時(感染後少なくとも90日以上)の4週以上持続する症状とした。4週以上続く症状を有していたが調査完了時に症状がなかった場合は、対象に含まなかった。
 小児898例(感染群751例、非感染群147例)および思春期児4,469例(感染群3,109例、非感染群1,360例)が解析対象集団となった。背景は、小児が平均年齢8.6歳、女性49%、・・・思春期児が14.8歳、・・・であった。初感染から症状調査までの期間の中央値は、小児で506日、思春期児で556日であった。

▶ 小児は神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児は嗅覚/味覚障害、疼痛、疲労が多い
 小児では感染者の45%(338/751例)、非感染者の33%(48/147例)、思春期児ではそれぞれ39%(1,219/3,109例)、27%(372/1,369例)が、持続する症状を少なくとも1つ有していると報告した。
 性別、人種、民族で調整したモデルにおいて、小児と思春期児の両方で非感染者と比較して感染者で多くみられた症状(オッズ比の95%信頼区間下限が1を超えるもの)は14個あり、さらに小児のみでみられた症状は4個、思春期児のみでみられた症状は3個であった。これらの症状はほとんどすべての臓器系に影響を及ぼしていた。
 感染歴と最も関連の高い症状の組み合わせを特定し、小児と思春期児のPASC研究指標を作成した。いずれも、全体的に健康や生活の質の低下と相関していた。小児では神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児では嗅覚や味覚の変化や消失、疼痛、疲労に関連する症状が多かった
 クラスタリング解析により、小児では4個、思春期児では3個のPASC症状表現型(クラスター)が同定された。両年齢群ともに症状の負荷が大きいクラスターが1個存在し(成人と同様)、疲労と疼痛の症状が優勢なクラスターも同定された。その他のクラスターは年齢群で異なり、小児では神経心理および睡眠への影響を有するクラスター、消化器症状が優勢なクラスターが、思春期児では、主に味覚と嗅覚の消失を有するクラスターが同定された。

<原著論文>
Gross RS, et al. JAMA. 2024 Aug 21. [Epub ahead of print]
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2023年秋、中国で流行した“謎の肺炎”はマイコプラズマだった…

2024年08月24日 06時45分01秒 | 感染症
…ことを思い出しました。
初めてこのニュースを聞いたときに、
「コロナとは別のパンデミックか?」
と驚きましたが、記事を読んでみると、
「それまで抑制されてきた他の感染症が猛威を振るっている」
状況と分析されていました。

この辺を扱った堀向健太Dr.のコメント記事を紹介します。

<ポイント>
・マイコプラズマは一般的な肺炎の20%から30%を引き起こす原因として知られており、特に6歳以上の子どもの肺炎では、半数以上がマイコプラズマが原因。
・マイコプラズマ肺炎は発熱、咳、倦怠感などが主な症状で、頑固な咳がもっとも有名、しかし症状が比較的軽いケースも多く、社会活動を続けるため「歩く肺炎」とも呼ばれる。
・潜伏期間が一般的な呼吸器の感染症を起こすウイルスに比較すると長めで通常2~3週間(インフルエンザA型が1.4日、RSウイルスが4.4日、多い鼻風邪の原因であるライノウイルスが1.9日)。
・2023年の秋、中国で「原因不明の肺炎」が流行しているという報道があり、その主因はマイコプラズマだった。北京では、外来患者の25.4%、入院患者の48.4%、呼吸器疾患患者の61.1%がマイコプラズマ肺炎に感染していた。
・マイコプラズマは肺炎だけでなく、体のさまざまな部位で感染を引き起こす可能性があるため、のどや鼻の検査だけでは見逃してしまう可能性がある。
・マイコプラズマ肺炎の治療には抗生物質が用いられ、しかし一般的な肺炎に使用される「βラクタム系」抗菌薬は効果がない。代わりに、「マクロライド系」や「テトラサイクリン系」の抗菌薬が使用されるが、中国でマイコプラズマが流行した際、マクロライド系抗生物質に耐性を持つマイコプラズマが多数確認され、治療に支障をきたした。
・マイコプラズマに対するワクチンはありません。

現在、臨床現場で困っているのは「薬剤耐性」と「抗生物質供給不足」ですね。
具体的にいうと、治療の際に「薬が効かない」「薬が手に入らない」という状況です。


■ 久しぶりに始まったマイコプラズマ肺炎の流行。先に流行した世界各地の状況はどうだったのか?
堀向健太:大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
2024/8/13:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 近年、コロナウイルス、インフルエンザ、溶連菌、アデノウイルスなど、さまざまな感染症が流行する中、新たに流行が始まったのが『マイコプラズマ肺炎』です。東京でも、マイコプラズマ肺炎が、大きく増えてきています。

マイコプラズマ肺炎の流行状況:東京都感染症情報センター 

 マイコプラズマは決して新しい感染症ではありません。
 一般的な肺炎の20%から30%を引き起こす原因として知られており、特に6歳以上の子どもの肺炎では、半数以上がマイコプラズマが原因だという報告もあります。

 ではなぜ、マイコプラズマ肺炎が注目されているのでしょうか?

▶ マイコプラズマ肺炎が数年ぶりに世界的に流行し、日本でも増加が予想されていました

 マイコプラズマ肺炎は通常、3~7年ごとに流行し、その流行は1~2年続くことが知られています。しかし、ここ数年はマイコプラズマ肺炎の流行がありませんでした。特に大きな流行としては8年ぶりです。

 他の感染症と同じように、コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、感染症対策を徹底して、感染が収まっていたことも一因でしょう。長期間流行がなかったため、多くの人がマイコプラズマに対する免疫を十分に持っていない状態になっているのです。これは、インフルエンザでも同様の現象が起きています。

 2023年の秋、中国で「原因不明の肺炎」が流行しているという報道があったことを覚えている方もいらっしゃるでしょう。

 この感染症の原因は、マイコプラズマではないかと考えられ、そして中国の北京では、2023年9月に患者数が急増したことが報告されました。実に、外来患者の25.4%、入院患者の48.4%、呼吸器疾患患者の61.1%がマイコプラズマ肺炎に感染していたとされています。

 さらに、マイコプラズマ肺炎の流行は世界各地、デンマーク、フランス、オランダなどの国々でも症例が増加しました。日本でも増加することが十分予想されていたのです。

▶ マイコプラズマ肺炎は軽症でも感染を広げる可能性があり、「LAMP法」という高精度な検査が保険適用となっています

 マイコプラズマ肺炎の症状は、一般的な肺炎と似ています。発熱、咳、倦怠感などが主な症状です。その中でも、頑固な咳がもっとも有名です。しかし、マイコプラズマ肺炎は「歩く肺炎」とも呼ばれ、症状が比較的軽いケースも多いため、気づかないうちに感染を広げてしまう可能性があります。

 最近まで、小児科外来でマイコプラズマ肺炎の確定診断を行うことは、時間と手間がかかる作業でした。しかし、最近になって新しい検査方法「LAMP法」が普及してきています。LAMP法は、マイコプラズマを高い精度で検出できる方法で、最近になって保険適用も認められました。最大の利点は、高い感度(検出力)にあります。つまり、マイコプラズマを見逃す確率が低いのです。しかし、LAMP法にも課題があります。この検査は通常、専門の検査機関で行われるため、結果が出るまでに数日かかることがあるのです。

 また、マイコプラズマは肺炎だけでなく、体のさまざまな部位で感染を引き起こす可能性があるため、のどや鼻の検査だけでは見逃してしまう可能性もあります。・・・

▶ マイコプラズマ肺炎の治療に必要な抗菌薬が不足気味です。大規模な流行になった場合、適切な治療が困難になる可能性をはらんでいます

 マイコプラズマ肺炎の治療には、抗生物質が用いられますが、一般的な肺炎に使用される「βラクタム系」抗菌薬は効果がありません。代わりに、「マクロライド系」や「テトラサイクリン系」の抗菌薬が使用されます。

 しかし、ここにも問題があります。中国でマイコプラズマが流行した際、マクロライド系抗生物質に耐性を持つマイコプラズマが多数確認され、治療に支障をきたしました

 日本でも過去に同様にマイコプラズマ耐性化が問題視されました。最近は耐性率が低下してきていますが、注意は必要でしょう。さらに、テトラサイクリン系抗生物質はマイコプラズマに有効性が高いものの、妊婦や8歳未満の小児への使用が難しいという課題もあります。

 そして、抗菌薬や咳止めなど、基本的な薬剤が不足していることも大きな問題です。大きな流行になるほど、適切な治療を行うことが難しくなることが予想されます。

 薬剤データベースを確認すると、最もよく使われる『クラリスロマイシン』の多くが、出荷停止や限定出荷になっていることがわかります。

▶ マイコプラズマは予防接種がありません。基本的な感染対策を行いながら、症状が続く場合は医療機関に相談しましょう

 残念ながら、マイコプラズマに対する予防接種はありません。しかし、手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策で感染のリスクを下げることができます。

 潜伏期間が、一般的な呼吸器の感染症を起こすウイルスに比較すると長めで、通常2~3週間です。例えば、インフルエンザA型が1.4日、RSウイルスが4.4日、多い鼻風邪の原因であるライノウイルスが1.9日であることを考えると、長く感じるでしょう。逆に、数日前に家族が発熱や咳があって他の家族が同じような症状が今日始まったのであれば、マイコプラズマらしくはないということも言えます。

・・・

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エムポックス(旧称:サル痘)の現在

2024年08月22日 06時30分43秒 | 感染症
ニュースで「エムポックス」という単語を頻繁に聞くようになりました。
日本では実感が湧きませんが、WHOは危機感を持って報道しています。

それを扱った記事を紹介します。
現在流行している株は致死率10%と従来の1%より高く、子どもの患者が多い、
なんと性感染する株も出現したとのこと。

既に撲滅された天然痘に対するワクチンが有効であり、日本でも認可されています。
日本人もこのワクチンを接種する日が来るのでしょうか。

<ポイント>
・エムポックスは人獣共通感染症であり、動物からヒトに感染する。1958年にデンマークの研究所にいたサルで初めて確認されたためサル痘と名づけられたが、実際の自然宿主はわかっておらず、アフリカの熱帯雨林に生息する小型哺乳類ではないかと考えられている。
・エムポックスウイルスは天然痘と同じオルソポックスウイルス属のDNAウイルスだが、エムポックスは天然痘よりはるかに重症度が低く、感染力も弱い。
・症状の特徴は、発疹(水疱や膿疱となって痛みやかゆみを伴う)、リンパ節の腫れ、発熱。
・コンゴ民主共和国では、2024年に入ってからの患者数が1万5600人以上にのぼり537人が死亡、ブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダなど、これまでエムポックスが確認されたことのない近隣諸国にも広がっている。
・アフリカの一部地域でのエムポックスの急増と、性感染しうるエムポックスウイルスの新しい株の広まりは、アフリカのみならず地球全体にとって緊急事態。
・エムポックスウイルスには「クレードI」と「クレードII」の2系統がある。現在の大流行を引き起こしているのはクレードIで、患者の10人に1人が死亡、クレードIIは2022年に流行したもので、致死率は1%未満。
・今回の大流行では「クレードIb」という新しいサブクレードが出現したことが緊急事態宣言の動機となった。また、コンゴ民主共和国での感染者と死亡者の多くが15歳未満であることから、特に子どもが影響を受けやすい。
・感染様式は接触感染(ウイルスに汚染されたモノを直接触る)、潜伏期間は3〜17日で、エムポックスの症状がある人は「発疹が完全に治癒し、新しい皮膚の層ができるまで」はほかの人に感染させてしまう可能性がある。
・2022年に流行した際は、男性と性交渉を行う男性の感染が圧倒的に多かった。
・WHOの予防接種に関する戦略的諮問委員会が推奨しているワクチンは3種類あり、いずれも本来は天然痘のワクチンで、現在、世界では「MVA-BN(ジンネオス)」と「LC16」の2種類が使われている。日本ではLC16が天然痘のワクチンとして承認されていたが、2022年にエムポックスの予防の効能が追加承認された。こちらは1回接種。


■ 「エムポックス」はどう広まる? WHOが「緊急事態」を宣言
旧称「サル痘」、2022年より致死率の高いウイルスが流行、子どもの感染や死亡が多い
2024.08.20:National Geographic)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 アフリカでのエムポックスの流行を受け、世界保健機関(WHO)は国際保健規則(IHR)に基づく緊急委員会を開催した。コンゴ民主共和国では、2024年に入ってからの患者数が1万5600人以上にのぼり、537人が死亡している。心配なのは、ブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダなど、これまでエムポックスが確認されたことのない近隣諸国にも広がっていることだ。この状況を重く見たWHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した。
 緊急委員会のディミー・オゴイナ委員長は声明で、「アフリカの一部地域でのエムポックスの急増と、性感染しうるエムポックスウイルスの新しい株の広まりは、アフリカのみならず地球全体にとって緊急事態だ」と述べた。
・・・
▶ エムポックスとは何か?
 エムポックスは最近まで「サル痘」と呼ばれていた。この病気を引き起こすエムポックスウイルスは天然痘と同じオルソポックスウイルス属のDNAウイルスだが、エムポックスは天然痘よりはるかに重症度が低く、感染力も弱い
 WHOによれば、エムポックスの症状の特徴は、発疹(水疱や膿疱となって痛みやかゆみを伴う)、リンパ節の腫れ、発熱だ。
 エムポックスウイルスには「クレードI」と「クレードII」の2系統がある現在の大流行を引き起こしているのはクレードIで、患者の10人に1人が死亡する。クレードIIは2022年に流行したもので、現在流行しているものに比べて致死率ははるかに低く、1%未満だ。
 今回の大流行では、「クレードIb」という新しいサブクレードが出現したことが緊急事態宣言の動機となった。また、コンゴ民主共和国での感染者と死亡者の多くが15歳未満であることから、特に子どもが影響を受けやすいと考えられている。
 エムポックスは人獣共通感染症であり、動物からヒトに感染する。1958年にデンマークの研究所にいたサルで初めて確認されたためサル痘と名づけられたが、実際の自然宿主はわかっておらず、アフリカの熱帯雨林に生息する小型哺乳類ではないかと考えられている。エムポックスウイルスは多くの哺乳類に感染することができるが、野生動物から分離されたのは2回だけだ。(参考記事:「年270万人が死亡する動物由来感染症 動物から人へどううつる?」)
 ヒトへの感染が初めて確認されたのは1970年で、コンゴ民主共和国の男児が感染した。以来、ほとんどの感染はアフリカの西部と中央部で起きている。

▶ エムポックスはどのように広がるのか?
 どちらの系統のエムポックスも、ウイルスに感染した動物や、ウイルスに汚染されたもの(衣類、寝具、タオルなど)に直接触れることで感染する。
 ウイルスに感染した人との濃厚接触によっても感染する。キス、会話によって飛び散る飛沫に触れたり吸い込んだりする、感染者の皮膚や口、性器にできた病変に直接触れるなどだ。
 病変の部位は「小さなウイルス工場」だと、米疾病対策センター(CDC)の疫学者であるアンドレア・マッコラム氏は言う。CDCによれば、潜伏期間は3〜17日で、エムポックスの症状がある人は、「発疹が完全に治癒し、新しい皮膚の層ができるまで」はほかの人に感染させてしまう可能性があるという。(参考記事:「飼い犬がサル痘に感染、初の報告、ペットや野生動物に広まるのか」)

▶ エムポックスは性感染症?
 2022年に流行した際は、男性と性交渉を行う男性の感染が圧倒的に多かった。公衆衛生当局にとって、このコミュニティーに汚名を着せることなく人々に情報を伝えるのは難しい課題だった。
・・・しかし、エムポックスは性行為だけで広まる感染症ではないことを示す証拠があると、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のウイルス学者であるバーナード・モス氏は言う。症状が出ている人がいれば、皮膚どうしの接触(性行為を含む)や、ベッドシーツやタオルや衣服との接触によって広まるのだ。
 実際、アフリカでの過去の集団感染では、あらゆる年齢層の女性や子どもや男性が感染している。・・・

▶ 検査は受けられる? ワクチンはある?
 エムポックスの検査は受けられる。検体の採取は、病変の部位を綿棒でぬぐうだけだ。CDCは、エムポックスと思われる発疹がある場合のみ検査を受けるよう勧めている。
 現在、WHOの予防接種に関する戦略的諮問委員会が推奨しているワクチンは3種類あり、いずれも本来は天然痘のワクチンだ。このうち、現在、世界では「MVA-BN(ジンネオス)」と「LC16」の2種類が使われている
 米国で使われているのはジンネオスで、4週間間隔で2回の接種が必要だ。米国保健福祉省は(感染した人との濃厚接触が疑われるなど)リスクが高い人に対して接種を奨励しており、必ず2回とも接種を受けるよう呼びかけている。
 日本ではLC16が天然痘のワクチンとして承認されていたが、2022年にエムポックスの予防の効能が追加承認された。こちらは1回接種だ。
 良い知らせもある。米保健福祉省によれば、すでにワクチン接種を完了している人や、以前にクレードIIのエムポックスに感染した人は、「クレードIのエムポックスに感染しても重症化しにくいことが期待される」という。
 しかし、AP通信によれば、ワクチンはエムポックスの流行地域であるアフリカの国々で足りていないという。WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したことで、WHOは加盟国にエムポックスへの対処法を勧告することが可能になり、資金援助や政治的な支援も始まることになる。

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マイコプラズマの薬剤耐性事情(2024年)

2024年08月20日 07時22分12秒 | 感染症
マイコプラズマが流行しています。
そして小児科医の間では、
「薬が効かない」
と囁かれています。

第一選択のマクロライド系の手応えなし、
第二選択のTFLX(オゼックス)の切れも悪い…
残るはテトラサイクリン系のMINOの出番か?
しかし8歳未満にはMINOは処方できない…。

マイコプラズマの薬剤耐性状況を今一度確認しておきましょう。

<ポイント>
・肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae: M. pneumoniae)は, マクロライド系抗菌薬, テトラサイクリン系抗菌薬, ニューキノロン系抗菌薬に感受性を有していたが, 2000年以降にマクロライド耐性M. pneumoniae株が出現して増加した。
・マクロライド耐性株の検出率は小児において高率なため, 推奨される抗菌薬を含めて診療ガイドラインの内容も年齢により差異がある。
・2011~2012年の流行時には, 83%がマクロライド耐性であったとの報告がある。
・マクロライド耐性率は, 2012年をピークに低下傾向にある。
・M. pneumoniaeは, P1タンパク遺伝子の相違により, 1型, 2型系統に分類され、1型系統はマクロライド耐性遺伝子の保有率が高かったが, 2型系統の耐性遺伝子保有は低率である。
・わが国の診療ガイドライン等では, M. pneumoniae肺炎外来治療の第一選択薬はマクロライド系抗菌薬が推奨され, 48時間以上臨床的に改善がみられない場合は, テトラサイクリン系抗菌薬(小児では8歳以上)や, ニューキノロン系抗菌薬(小児ではトスフロキサシン)に変更することがおおむね共通して記載されている。
・小児呼吸器感染症診療ガイドライン202212)では, Qプローブ法でマクロライド耐性遺伝子が検出されている場合は, トスフロキサシンやテトラサイクリン系抗菌薬を選択肢に考慮すべきとの記載がある。
・マイコプラズマ肺炎に関して, わが国の感染症サーベイランスのデータでは, 2020年4月以降ほとんど報告されない状況が持続したが, 2023年秋以降にわが国でもM. pneumoniae肺炎の報告がみられるようになった。
・1型あるいは2型のいずれが立ち上がってくるのか, マクロライド感受性について感受性株・耐性株のいずれが多くを占めるのかは,臨床現場に多大な影響を及ぼす可能性がある。

…マクロライド系抗菌薬耐性は、抗菌薬の使いすぎというより、流行するマイコプラズマのサブグループの影響を大きく受けるということですね。

■ 診療ガイドライン等に基づくマイコプラズマ肺炎治療の現況
(IASR Vol. 45 p10-12: 2024年1月号)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 感染症診療ガイドラインの策定には, 地域における年齢による病原微生物の検出頻度等の疫学データならびに, 各微生物の抗菌薬感受性に関する情報が必要である。肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae: M. pneumoniae)は, マクロライド系抗菌薬, テトラサイクリン系抗菌薬, ニューキノロン系抗菌薬に感受性を有していたが, 2000年以降にマクロライド耐性M. pneumoniae株が出現1-3)して増加したマクロライド耐性株の検出率は, 世界的に地域差があり, さらに小児において高率なため, 推奨される抗菌薬を含めて診療ガイドラインの内容も, 国内外および年齢により差異がある。さらに, 2020年以降世界的に流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は, 多くの感染症罹患率に多大な影響をきたした。M. pneumoniaeに関しても, COVID-19パンデミック前に比較して, 検出率が激減した報告4,5)が多い。

1. マクロライド耐性状況の推移
 2000年以降に小児科領域を中心に出現したマクロライド耐性M. pneumoniaeは, その後増加がみられ, 成人では当初マクロライド耐性株は検出されなかったが, 小児科領域を追随するペースで耐性株が増加した。2011~2012年の流行時には, 83%がマクロライド耐性であったとの報告2)があり, 大流行に関してマクロライド耐性M. pneumoniae株の蔓延が要因の1つと認識されている。マクロライド耐性率は, 2012年をピークに低下傾向にある。一方, M. pneumoniaeは, P1タンパク遺伝子の相違により, 1型, 2型系統に分類され, 1型系統と2型系統の交代期に大流行が起こる可能性も指摘6,7)されている。2011~2012年にかけて流行の主であった1型系統の検出比率が2015年後半より減少し, 代わって2型系統の検出比率が増加している。1型系統はマクロライド耐性遺伝子の保有率が高かったが, 2型系統の耐性遺伝子保有は低率である7)。これが, マクロライド耐性株の低下の主因と考えられる。
 マクロライド耐性M. pneumoniaeの検出率には世界的に地域差があり, 東アジアでの検出率が高く, 2017年頃までの状況は, Waitesらの総説1)に詳しい。その後のメタアナリシス等の報告を表18,9)に示すが, アジアを含めて西太平洋地域からの検出率が高い。わが国を含めて, 2010年代後半以降のマクロライド耐性率は減少傾向7)にある。

2. COVID-19パンデミック前後におけるM. pneumoniae検出状況
 2017~2021年の調査期間についてM. pneumoniae検出状況を比較したデータ4)によると, 2020年4月~2021年3月の期間では, 2017年~2020年3月までの期間と比較して, ヨーロッパ, アジア, アメリカ, オセアニアともにM. pneumoniaeの検出が激減していた。中国北京の小児病院において, 2016~2021年の期間にM. pneumoniae検出率を比較したデータ5)でも, 2019年は17.6%, 2020年は8.9%, 2021年は5.0%と激減している。

3. M. pneumoniae肺炎診療ガイドライン等
 現在, わが国で公表されている診療ガイドライン等で, M. pneumoniae肺炎の項を含むものは, JAID/JSC感染症ガイド2023(日本感染症学会・日本化学療法学会)10), 成人肺炎診療ガイドライン2017(日本呼吸器学会, 改訂中)11), 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022(日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会)12), M. pneumoniae肺炎に対する治療指針(日本マイコプラズマ学会)13)がある。海外では, American Thoracic Society(ATS)およびInfectious Diseases Society of America(IDSA)14)やAmerican Academy of Pediatrics(AAP)15)より, 市中肺炎やM. pneumoniae肺炎に対する抗菌薬療法が推奨されている。
 わが国の診療ガイドライン等では, M. pneumoniae肺炎外来治療の第一選択薬はマクロライド系抗菌薬が推奨され, 48時間以上臨床的に改善がみられない場合は, テトラサイクリン系抗菌薬(小児では8歳以上)や, ニューキノロン系抗菌薬(小児ではトスフロキサシン)に変更することがおおむね共通して記載されている。一方で, ATSとIDSAによるガイドライン14)には, マクロライド耐性M. pneumoniaeに関する記述や耐性菌感染症を考慮した治療についての言及はみられない。AAPによるRed Book 2021-202415)でも, マクロライド耐性M. pneumoniae株についての記載はあるものの, ニューキノロン系抗菌薬を使用することは推奨されていない。
 さらに小児呼吸器感染症診療ガイドライン202212)では, Qプローブ法でマクロライド耐性遺伝子が検出されている場合は, トスフロキサシンやテトラサイクリン系抗菌薬を選択肢に考慮すべきとの記載がある。当院で施行したQプローブ法(Smart Gene)に関する検討では, 細胞培養法(国立感染症研究所細菌第二部で実施)に対するSmart Geneの感度, 特異度は, 各々98.0%, 100%であった。さらに, 培養で得られた菌株を用いた23S rRNA遺伝子塩基配列分析によるマクロライド耐性遺伝子同定とSmart Geneによる耐性遺伝子変異検出とを比較すると, 感度, 特異度は, 各々100%, 97.4%であった。新型コロナウイルス病原体検出の過程で, Qプローブ法検査機器が以前より普及しており, 今後耐性遺伝子の有無を確認したうえで, より適切な抗菌薬療法に寄与することが期待される。
 マイコプラズマ肺炎に関して, わが国の感染症サーベイランス(本号特集および本号8ページ参照)のデータでは, 2020年4月以降ほとんど報告されない状況が持続したが, 2023年秋以降にわが国でもM. pneumoniae肺炎の報告がみられるようになり, 今後の流行が予測される。2020年春に, こつぜんと検出されなくなったM. pneumoniae感染症であるが, 再流行する場合に, 前述した1型あるいは2型のいずれが立ち上がってくるのか, マクロライド感受性について感受性株・耐性株のいずれが多くを占めるのかは, 感染症疫学的にも興味深いが, 臨床現場に多大な影響を及ぼす可能性がある。現在のわが国の医薬品流通状況に関して, 鎮咳薬, 去痰薬のみならず, 抗菌薬に関しても出荷制限が反復されている16-21)。このような状況下で, 2011~2012年や2016年のような規模でM. pneumoniae肺炎の流行が生じると, 処方薬不足など, 現場がさらに混乱する事態になることが危惧される。
(若葉こどもクリニック 山崎 勉)

もう一つ、ダイレクトにマクロライド耐性の記述がある記事も紹介します。

<ポイント>
・日本では, 1型と2型菌が10年程度の間隔で交互に優位になる現象が観察されている。1990年代は2型菌の分離が多かったが, 2000年代になると1型菌が優位になった。その後, 2010年代後半からは再び2型が多く分離されている。
・M. pneumoniaeの2つの系統の出現の割合は, マクロライド耐性の動向にも関連している。東アジア地域では, 2000年以降にM. pneumoniaeのマクロライド耐性化が問題となったが, 耐性菌の大部分は1型菌であった。
・これは1型の方が2型の菌よりも耐性化しやすいということではなく, 1型菌が2000年代に多く出現していたためであると考えられる。2000年代は分離株の耐性率が増加した時期で, 臨床でのマクロライド系抗菌薬の使用量が多かったと推測される。この時期に多く出現していた1型菌は, 2型菌よりマクロライド系抗菌薬による選択圧を受ける機会が多かったため, 2型菌より1型菌の耐性化が進んだのであろう。
・国内で分離される2型菌はマクロライド耐性化があまり進んでおらず, 2010年代後半からは2型菌の出現が増えたため, 分離株全体としてマクロライド耐性率が低下している。
・現在も抗菌薬の使用量が多いとみられる中国では, 2型菌もマクロライド耐性化が進んでいることが報告されている。

この記事の中では2010年代後半からは薬剤耐性率の低い2型菌が多いとされています。
では現在の耐性状況は?という疑問が残ります。

■ 肺炎マイコプラズマの遺伝子型別法と薬剤耐性の動向
(IASR Vol. 45 p6-8: 2024年1月号)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
これらの方法で分析するとM. pneumoniaeは2つの系統に分かれ, 遺伝子型は図1中の表のような関係になる。例えば, 実験室標準株として普及しているM129株とFH株は, ゲノム解析でT1-1とT2-Bクレードに属し, p1遺伝子型はそれぞれ1型と2型, MLVA型は4572と3662, MLST型はST1とST2である。M129株とFH株は1950~1960年代に分離された古い菌株であり, 最近分離される菌株の型は, これらとは少し異なっている。・・・
 ・・・本では, 1型と2型菌が10年程度の間隔で交互に優位になる現象が観察されている(図2)。1990年代は2型菌の分離が多かったが, 2000年代になると1型菌が優位になった。その後, 2010年代後半からは再び2型が多く分離されている。1990年代に分離されていた2型菌のp1遺伝子はFH株と同じ古い2型だが, 2010年代後半から出現している2型菌のp1遺伝子は, ほとんどが2c型か2j型で, P1とP40/P90のアミノ酸配列が少し変化している。したがって, 現在出現している2型菌は1990年代に出現していた2型菌と同じものが再出現しているのではない6)。
 M. pneumoniaeの2つの系統の出現の割合は, マクロライド耐性の動向にも関連している。東アジア地域では, 2000年以降にM. pneumoniaeのマクロライド耐性化が問題となったが, 耐性菌の大部分は1型菌であった。これは1型の方が2型の菌よりも耐性化しやすいということではなく, 1型菌が2000年代に多く出現していたためであると考えられる(図2)。2000年代は分離株の耐性率が増加した時期で, 臨床でのマクロライド系抗菌薬の使用量が多かったと推測される。この時期に多く出現していた1型菌は, 2型菌よりマクロライド系抗菌薬による選択圧を受ける機会が多かったため, 2型菌より1型菌の耐性化が進んだのであろう。国内で分離されるマクロライド耐性の1型菌は, T1-3またはT1-3Rクレードに属する株が多い。一方, 国内で分離される2型菌はマクロライド耐性化があまり進んでおらず, 2010年代後半からは2型菌の出現が増えたため, 分離株全体としてマクロライド耐性率が低下している。2型菌の出現が増加した正確な要因は不明だが, 2016年からの薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン等によって抗菌薬の使用が抑制され, 感受性菌による発症例が増えたことや, 1型菌に対して集団免疫が形成され, 流行菌が2型菌にシフトしたことなどが考えられる。一方, 現在も抗菌薬の使用量が多いとみられる中国では, 2型菌もマクロライド耐性化が進んでいることが報告されている7)。今後, 国内でも2型菌のマクロライド耐性の動向を監視するとともに, ゲノム解析によって分離株の系統関係を調べ, 伝播経路を追跡するべきであろう。
 (国立感染症研究所細菌第二部 見理 剛)
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魚アレルギーの症状はいろいろ

2024年08月17日 05時58分00秒 | 食物アレルギー
魚アレルギー、実はちょっと複雑で、
出現する症状にもバリエーションがあります。
なかなかひとことでは説明が難しい…
以前調べてこちらにまとめました。

ごく簡単に云うと、以下の3つに分けられます。
・一般的な魚アレルギー
・アニサキスアレルギー
・ヒスタミン中毒

さて、魚アレルギーを扱った記事が目に留まりました。
知識のアップデートとして読んでみました。

なかなかわかりにくい文章ですが、
原因となるアレルゲンコンポーネントが魚のパルブアルブミンの場合は、
感作経路が湿疹(アトピー性皮膚炎)を介した皮膚であると考えられ、
アトピー性皮膚炎の治療を行うと改善が期待できる、
といったところでしょうか。

<ポイント>
・魚アレルギーでは口腔アレルギー症候群(OAS)を呈することが多い。
・魚アレルギーには症状のバリエーションがある;
 ✓ 口腔アレルギー症候群(OAS)
 ✓ 即時型アレルギー(じんましんなど)
 ✓ 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)
・主な抗原として筋形質蛋白質であるパルブアルブミンやコラーゲンが知られているが、感作経路などにより臨床症状に違いが出る可能性がある。報告ではパルブアルブミンと魚ゼラチンを検査した。
・Cyp c 1(コイのパルブアルブミン)検出例では全例にアトピー性皮膚炎や手湿疹などの湿疹病変が認められた。パルブアルブミンによる魚アレルギーでは経皮的感作の可能性が高い。
・アトピー性皮膚炎の治療と食事指導を行った結果、Cyp c 1検出例のうち完治または軽快したのは16例中11例(69%)で、多くに臨床症状の改善が認められた。
・Cyp c 1検出群と各種魚(アジ、サバ、カレイ、マグロ、サケ、イワシ)特異的IgE抗体の関連についても検討した結果、Cyp c 1検出群ではアジ、カレイの粗抗原へのIgE抗体は全例で陽性だった。Cyp c 1 IgE抗体価のクラスとマグロ以外の魚種のIgE抗体価のクラスには統計学的に有意な相関が見られた。

こんなエピソードがあります。
近年、若者に魚アレルギーが増えているとの報告があり、
その原因を解析した結果、どうやら「居酒屋でのバイト」が関連しているらしい…
つまり、魚を手で触る機会が多い人たちに魚アレルギーが発症している。
そしてバイトを辞めると、徐々にアレルギー症状が出なくなっていくことが多い、
との報告も耳にしました。
どうやら“経皮感作”による食物アレルギーは皮膚の治療をしっかりすれば改善が期待できる、
という共通項がありそうです。

■ 魚アレルギー、原因抗原により臨床症状に違い
2024年8月:Medical Tribune)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 島根大学病院皮膚科の越智康之氏らは、同科を受診した魚アレルギー患者を対象に原因抗原同定と臨床症状および予後について検討。その結果、「Cyp c 1検出群では全例に湿疹病変の既往があり、パルブアルブミンが原因の魚アレルギーでは経皮感作が成立している可能性が高い」「原因抗原により臨床症状に違いが見られる可能性がある」ことなどを第122回日本皮膚科学会(6月1~4日)で報告した。

▶ 口腔アレルギー症候群が多い
 諸外国と比べ魚介類の摂取量が多く魚を生で摂取する機会も多い日本では、魚アレルギーの頻度が高い。魚アレルギーでは口腔アレルギー症候群(OAS)を呈することが多いが、蕁麻疹などの即時型アレルギー症状や食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)を呈することもある。
 魚アレルギーの主な抗原としては、筋形質蛋白質であるパルブアルブミンやコラーゲンが知られているが、感作経路などにより臨床症状に違いが出る可能性がある
 今回、越智氏らは同科を受診した魚アレルギー患者を対象に原因抗原、臨床症状、予後について検討した。
 対象は、2009~22年に同科を受診した魚アレルギー患者24例(男性8例、女性16例、平均年齢14.9歳)。各種魚によるプリック-プリックテストを実施し、CAP-FEIA法を用いて原因抗原およびコイのパルブアルブミンであるCyp c 1魚ゼラチンを検査。臨床症状や患者背景を明らかにするとともに予後を解析した。

▶ 24例中16例でCyp c 1を検出
 解析の結果、臨床症状はOASが12例、蕁麻疹が10例、口唇腫脹が2例、FDEIAが1例に認められた。越智氏は「蕁麻疹や口唇腫脹に分類した患者の多くは乳幼児であり、言葉を発せられないためこのように分類したが、実際にはOASから始まって蕁麻疹が出現した可能性が高いと考えられる」と説明した。
 基礎疾患としてはアトピー性皮膚炎が18例(75%)、乳児湿疹が2例、手湿疹が1例で、3例には基礎疾患が認められなかった。
 Cyp c 1は24例中16例で検出され、8例では検出されなかった。
 アトピー性病変および基礎疾患を有する症例ではその治療を行った上で、Cyp c 1が検出された症例に対してはパルブアルブミン含量に基づく食事指導を実施した。基礎疾患がなかった3例では皮膚テストで摂取可能な魚を検索して食事指導を行った。
 Cyp c 1検出の有無別に予後(完治:まったく食事制限が必要ない、軽快:食事制限が一部解除できた、不変:食事制限が全く解除できなかった)を検討したところ、Cyp c 1検出例では完治が6例、軽快が5例、不変が2例、不明が3例。Cyp c 1非検出例ではいずれも2例ずつだった。
 Cyp c 1検出16例では全例にアトピー性皮膚炎や手湿疹などの湿疹病変が認められた。一方、Cyp c 1非検出例では湿疹病変が認められたのは5例のみだった。同氏は「このことからパルブアルブミンによる魚アレルギーでは経皮的感作の可能性が高いと考えられた」と指摘した。

▶ Cyp c 1検出の7割で症状が改善
 Cyp c 1検出例のうち完治または軽快したのは16例中11例(69%)で、多くに臨床症状の改善が認められた。Cyp c 1非検出例のうち完治または軽快したのは8例中4例(50%)で、完治した2例はいずれも湿疹合併例だった。
 Cyp c 1検出群と各種魚(アジ、サバ、カレイ、マグロ、サケ、イワシ)特異的IgE抗体の関連についても検討した。その結果、Cyp c 1検出群ではアジ、カレイの粗抗原へのIgE抗体は全例で陽性だった。Cyp c 1 IgE抗体価のクラスとマグロ以外の魚種のIgE抗体価のクラスには統計学的に有意な相関が見られた。越智氏は「各種魚の特異的IgE抗体を測定することで、保険適用外のCyp c 1検査の代替になる可能性がある」と述べた。
 以上から、同氏は「今回検討した魚アレルギーの24例では22例に口腔周辺症状が認められ、24例中21例で湿疹病変の既往が認められた。Cyp c 1検出群では16例全例に湿疹病変の既往があり、これはパルブアルブミンが原因の魚アレルギーでは経皮感作が成立している可能性が高いという既報(千貫祐子ほか、Monthly Book Derma 2021: 307: 13)の結果を支持している。魚コラーゲンを原因抗原としている症例はFDEIAの臨床症状を呈しており、原因抗原により臨床症状に違いが見られる可能性がある。湿疹病変の既往がない3例はいずれもパルブアルブミン以外が原因抗原と考えられ、コラーゲンが原因抗原であることが判明している症例以外については今後アレルゲンコンポーネントを解析していく必要がある」とまとめた。

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ダイヤモンド・プリンセス騒動を振り返る

2024年08月16日 08時02分12秒 | 新型コロナ
新型コロナ・パンデミック初期の象徴的な“事件”として、
横浜港に入港したダイヤモンド・プリンセス号騒動が記憶されています。

まだ新型コロナの性質・正体が不明だった時点で、
日本政府と感染症専門家達が知恵を絞って対峙したエピソードは、
今後も起こるであろうパンデミック対策という視点からも、
反省・検証すべきものだと思います。

その渦中にいたひとり、高山義浩先生(沖縄県立中部病院感染症内科)の書かれた最近の記事を読み解いてみましょう。

当時話題になった、岩田健太郎Dr.の動向と背景が書かれていますね。
指揮系統が統一されていない混乱と、
現場の状況が十分にわからない分、
SNSでの炎上拡大が止まらず、
社会現象になった現代社会の病理が見え隠れします。

混乱の主因は、数千人単位の隔離が必要な“事件”が発生した場合の対策が、
法的にも現実的にもまったく準備されていなかったことであると感じました。

異なる感染対策を取った3つの豪華客船の比較もされています。
どれが“正解”だったのか…
やはり予定をキャンセルして乗客全員を下船させ隔離したグランド・プリンセス号でしょうか。

このエピソードを教訓に、また来るであろうパンデミックに備えることの必要性がヒシヒシと感じられました。

<ポイント>
・DP号には乗客2666人と乗員1045人、合計3711人が乗船しており、最終的に712人(感染率 19.2%)について陽性を確認し、14人(致死率 2.0%)が亡くなった。
・修正すべきシステム上の課題;
①新興感染症に感染した乗客の存在が判明してから、即座に感染対策が取られなかったこと。今回の経験を基に、国際的なルールが定められるべき。
②入港後に速やかな全員下船ができなかったこと。
・パンデミック早期におけるクルーズ船3隻のアウトブレイクから言えることは、感染拡大の規模を規定するのは、いかに早期探知できるかであり、イベント中止の決断を下せるか。
・船内で集団生活をしている乗員を守り、感染者を安全にケアするためには、速やかな全員下船が望ましいが、地域への2次感染を防ぐためにも隔離施設を整備することが望ましい。
・他の豪華客船のアウトブレイク事例;
グランド・プリンセス号
3月9日、米国カリフォルニア州のオークランドに入港したグランド・プリンセス号には、3533人が乗船していた。3月4日に感染者が乗船していることを知った船長は、その後の予定をキャンセルして、速やかに船内の感染対策を強化している。米国政府は、3月12日までに、ほぼ全ての乗客に当たる2042人を下船させて隔離した。その結果、感染者123人(感染率3.5%)と死亡 5人(致死率4.1%)に留まっている。ただし、乗客の多くが拒否したため、PCR検査が実施できたのは1103人に過ぎない。このため、感染者数は過少に評価されている可能性がある。
ルビー・プリンセス号
3795人が乗船していたルビー・プリンセス号でのアウトブレイクでは、反面教師とすべき教訓が残されている。航海中より100人を超える乗客が上気道症状を訴えていたが、船内で実施された対策は有症状者の自己隔離のみだった。3月19日にオーストラリアのシドニーへ入港したとき、港を管轄する州保健省は船内隔離を実施しないと決定した。そして、その日のうちに乗客らを下船させ、14日間の自己隔離を求めた。乗客らへのPCR検査は実施されなかった。その後、少なくとも感染者 907人(感染率23.9%)と死亡29人(致死率3.2%)が確認されている。

★ 3つの豪華客船の比較;
              (感染率) (死亡率)
ダイヤモンド・プリンセス号    19.2%   2.0%
グランド・プリンセス号      3.5%     4.1%
ルビー・プリンセス号     23.9%   3.2%


■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号の入港
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/06/28:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)が、神奈川県の横浜港へ出港したのは2020年1月20日のことだった。中国政府が「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は武漢で封じ込められる」と自信を見せており、その取り組みを世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が賛美していたころのことだ。このクルーズ船は、鹿児島(1月22日)、香港(1月25日)、那覇(2月1日)を経由して、2月3日に横浜港沖へと到着した。
 しかし、1月25日に香港で下船した乗客が30日に発熱。さらに2月1日には新型コロナウイルスに感染していることが確認され、DP号内での感染の可能性も示された。深セン滞在歴のある香港在住の方が飛行機で来日し、片道のみのクルーズを楽しんで香港に戻ったようだ。香港で診断された乗客が下船したのは、発症する5日前のことだ。本当にそうなら、船内で感染を広げたとは考えにくい。この乗客は船内で感染しただけであって、他にインデックスケース(最初の感染者)がおり、もっと前から船内での流行が始まっていたのではないだろうか。ただ、4年たった今、もはや真相は闇の中だ。
 国際保健規則に基づいて、中国政府から日本政府にこの症例についての通報があり、2月3日、那覇検疫所は那覇港での入国検疫を失効すると船長に通告した。入国を取り消して、改めて横浜港で検疫をできるようにしたわけだ。同日20時40分、横浜港沖に停泊する同船に対して、横浜検疫所による臨船検疫が開始された。このときDP号には、乗客2666人と乗員1045人、合計3711人が乗船していた。・・・

▶ DP号から想定以上の陽性者が
 2月4日の夜、厚労省対策推進本部では、DP号の乗客のうち先行してPCR検査を実施した31人の結果を待っていた。いずれも有症状者やその濃厚接触者であり、数人の陽性者は覚悟していた。しかし、22時過ぎに国立感染症研究所から届いた報告は衝撃的なものだった。陽性者10人というのだ。 
 クロノロ(クロノロジー;経時活動記録)を記載するホワイトボードの前で、「そんなにいるのか? ヤバいんじゃないか」と幹部が声を上げた。たしかに、これはマズい……。検疫官による聞き取りは始まったばかりだが、既に症状のある者や濃厚接触者は100人を超えていると聞く。このままでは、数百人規模の集団感染が明らかになるかもしれない。
 取りあえず、DP号から下船する感染者の入院先調整を引き取った。10人の患者リストを見ると、日本人 3人、中国人 3人、米国人 2人、台湾人 1人、フィリピン人 1人という構成だった。多くが高齢者だ。COVID-19というだけでも混乱しかねない状況なのに、患者が日本語を話せないと伝えたときの病院側の困惑が目に浮かぶようだった。
・・・
 DP号の支援に関わった役人や専門家と、当時を振り返ることがある。「次に同じことがあれば、全員下船させるべきだ」との意見がほとんどだ。しかし、当時、4000人近い乗員乗客を受け入れられる施設が見付からなかった。分散して受け入れるにしても、周辺住民への説明などで困難を極めることは明らかで、船内隔離を続けざるを得なかった。 
・・・
 それから連日、乗員乗客の陽性報告が続いた。2月5日は10人だったが、2月6日は41人となり、もはや神奈川県のキャパシティーを超えてしまった。僕は、東京、埼玉、千葉、静岡と周辺都県の感染症病床を有する病院に電話をかけて、文字通り、頭を下げながら受け入れを依頼した。
・・・
 2月7日の陽性者は3人。2月8日は6人。このまま収まるかと、淡い希望的観測……。しかしそれは、2月9日、65人の陽性を確認して打ち砕かれた。この日のことは、思い出しただけでも寒気がする。これまで乗員乗客439人を検査して、実に135人が陽性だった(陽性率 30.8%)。検査能力が限られていたので、全員検査が終わるのはまだまだ先のことだ。いったいどこまで増えるのか? 医療班には、がくぜんとした空気が漂いはじめていた。
 既に感染者の搬送先は、長野や愛知にまで広がっていた。受け入れ自治体からは、「厚労省からの紹介患者で、当県の感染症病床が満床になってますが、大丈夫なんですか?」と、質問という体裁での苦情が寄せられるようになってきた。間もなく国内流行が始まろうとしているのに、DP号への対応だけで関東および近郊の感染症病床が埋まりつつあった。国内流行が始まる前から、明らかに厚労省本部は行き詰まりかけていた。

■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号の限界
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/07/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)が横浜に入港して1週間が経過した。船内で隔離されている乗客の皆さんはもちろん、直接ケアする乗員や災害派遣医療チーム(DMAT)など船内で活動するチーム、厚生労働省対策推進本部から後方支援する僕たちにとっても、長い長い1週間だった。
 とにかく下船を進めなければならない。PCR検査で陰性を確認した高齢者については、希望があれば政府が用意した宿泊施設へと移動できるようになり、2月11日、まずは55人に下船していただいた。世論には「絶対に降ろすな」との声もあると聞くが、船内で新興感染症のハイリスク者たちを見守るのは限界だった。
 客室間の空気感染を防止するため、2月5日から空気循環を止めていたこともあり、窓の少ない船内の換気は悪かった。しかも、動線は狭く入り組んでいる。さらに、船は生活排水の放出や真水の精製のため、数日おきに外洋に出て半日航海しなければならない。その間は携帯電話すらつながらない状態となる。海上保安庁のヘリポート付き巡視船が並走して緊急対応に備えているらしいが、こんな綱渡りの対応で持ちこたえられるだろうか?
 悪いことは重なるもので、新たに深刻な問題が持ち上がった。高齢の乗客たちを狭い客室に1週間隔離したため、介助なしには歩けない乗客が増えてきたのだ。不安やストレスを訴える乗客も少なくない。認知症が進んでいるのか、下船の約束時間に迎えに行っても、荷造りが全くできていない乗客もいて、現場のスケジュールは混乱を極めた。
 とはいえ、この2月11日には良い動きもあった。日本環境感染学会の災害時感染制御支援チーム(DICT)が乗船したのだ。これまでも長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床感染症学分野教授の泉川公一先生など専門家が乗船して指導していたが、とりわけDICTは災害対応のプロフェッショナルである。災害時感染制御検討委員会委員長(当時)の櫻井滋先生ら4人が乗船し、3日間にわたってリスクアセスメントを行い、独特の船内事情に合わせた感染対策のマニュアルを作成し、ポスターや動画を用いて現場での周知を行ってくださった。
 専門的見地に基づく感染対策がDP号に定着し、特に乗員たちが守られるようになった。彼らは、キッチン、ランドリー、ボイラー、ゴミ処理など、様々な持ち場で密集して働き、窓のない狭いデッキで集団生活を続けていた。指揮権がなく遠慮がちだった検疫官に代わって船舶会社に説明し、乗員たちを守る感染対策を受け入れてもらったことは大きかったと思う。
 その後の分析では、船内で2次感染はほとんど発生しておらず、横浜港に入港する前の感染によるものとされている1)。ただし、夫婦など同室者における2次感染は防げていなかっただろう。今となればだが、入港時に確認した濃厚接触者と有症者の273人については、先行して降ろすべきではなかったかと思う。
・・・
▶ 搬送中に容体が悪化していた初期のCOVID-19
 2月12日の早朝、神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎先生からメッセージが届いた。岩田先生は、自他ともに認める感染症のプロである。「お手伝いしますよ」とのこと。既に11日からDICTが入っていたので、そちらに合流いただくことをお勧めした。この頃、多くの感染症の専門家らが、迫りくるパンデミックへの不安にかられていた。不確かな情報が飛び交い、それが不安に拍車をかけていたと思う。
 DP号から下船した患者を受け入れた病院の医師らも、診療への不安に直面していた。未知の感染症であり、治療法も暗中模索の状態だった。当時、厚労省対策推進本部に多かった問い合わせ、というかお叱りは、「軽症ということで受け入れを了承したのに、来院時のSpO2が80%台で、胸部X線は両側真っ白だ。船では一体どういうトリアージをしているのか!?」というものだった。特に、静岡県など遠方の医療機関から、「初期アセスメントと異なる」という訴えが多発していた。
 当初、僕も混乱して、船内スタッフに何度も確認の電話をかけてしまった。現場も混乱しているのだろうが、入院先に頭を下げて調整している側のことも考えてほしいものだ。しかし、確認を重ねるうちに、搬送中に容体が悪化していることが分かってきた。当時の武漢株は、陽性判明から数時間で急速に悪化し得る感染症だった。だから、横浜港から離れた場所にある医療機関ほど、到着時に重症化していることが起きていた。
 搬送先の病院での重症管理が増え、「感染症のエキスパートにつないでほしい」との相談を受けるようになった。そこで、2月13日、 国立国際医療研究センター 国際感染症センターの大曲貴夫先生や忽那賢志先生(現大阪大学大学院医学系研究科感染制御学教授)らに参加をお願いして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を受け入れた病院医師と感染症の専門家との意見交換のためのメーリングリストを立ち上げた。
 ロピナビル・リトナビル配合剤(商品名カレトラ)やトシリズマブアクテムラ)を使用しても良いか? ウイルス性肺炎へのステロイド使用は推奨されるか? 治験段階の薬品を公費負担で使用できるか? ICUにおける個人防護具(PPE)はどうすべきか? 退院基準はどう考えたらよいか? 当時、国内未承認だったレムデシビルベクルリー)の治験参加医療機関の募集もこのメーリングリストで行われた。同年5月下旬までに250通を超える質問や意見を交わす場として運用され、発生早期に多くの先生方の助けとなったのではないかと思う。
・・・
▶ 岩田先生が1時間余りでDP号を下船させられた背景
 DP号の話に戻る。2月15日までに930人にPCR検査をして285人が陽性であった。うち無症候者は73人であり、この感染症、重症度に大きなバラツキがあることも分かってきた。既に70歳以上の乗客全員の検査を終えていた。全ての乗員乗客の検査を目指しているが、乗員乗客の出身地は56もの国と地域にまたがっていることもあり、個別の説明に時間を要していた。とにかく、検査陰性を確認しながら順次下船させていくことだ。
 2月18日、神戸大学の岩田先生から重ねての問い合わせ。DICTへの合流は断られたようだ。本部の数人で相談して、現場を見ていただくこととした。DICTの船内活動は2月15日に終了しており、別の視点で見てもらえることには意義がある。個人で乗船することはできないが、岩田先生に確認すると「僕は神戸大学のDMATですよ」とのこと。
 同日、横浜検疫所と調整し、DMAT活動ということで乗船いただいた。ところが、残念なことに1時間余りで下船させられてしまった。現地からの連絡によると、船内の指揮系統から外れて、感染対策を指導して回ったとのこと。岩田先生は日本DMAT隊員養成研修を受講しておらず、DMAT側が船内活動を認めなかったらしい。
 岩田先生によると、DMATの担当者から「感染対策をやっていただけばいいでしょう」と言われたとのこと。ただ、船内の感染対策はDMATの担当ではないので、改めて感染対策の担当者につなぐ必要があった。やはり、岩田先生は感染症の専門家である。その立場で入れるように僕が詰めるべきだった。結果的に岩田先生をはじめとして、多くの方にご迷惑をおかけしてしまった。
 そして、その夜、岩田先生がDP号を「COVID-19製造機」であるとYouTube上で告発した。船内の感染対策がずさんであるとの趣旨であった。動画が公開されたのは夜更けだったが、僕はまだ、厚労省の本部で仕事をしていた。

[参考文献]
1)Mizumoto K, et al. Euro Surveill. 2020 Mar;25(10):2000180.

■ 2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号が残した教訓
高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長)
2024/08/15:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2020年2月18日の夜、ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)を「COVID-19製造機」だと告発する神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎先生のYouTube動画を見ながら、僕は自分のデスクでしばらく考え込んでいた。
 告発の仕方は「炎上狙い」のようで賛同できなかったが、僕自身が船内を直接見てないので、その指摘が妥当かどうか分からなかった。ただ動画を見る限り、 岩田先生が船内にいたのは2時間足らずで、ラウンジ周辺しか見てないらしい。船全体の対策について、ここまで断定的に言及することが可能なのだろうか?
 ともあれ、指摘されたことは確認すべきだ。厚生労働省対策推進本部で「船内を確認してきてもいいか?」と提案してみた。ダメと言われると思っていたが、驚いたことに翌日から船の対策指導に入れることになった。

▶ ダイヤモンド・プリンセス号に乗船して気づいたこと
 2月19日、午前8時30分、大黒ふ頭客船ターミナルからDP号に乗船した。巨大な船体だった。船の長さは300メートルもあり、高さも50メートルを超える。その白い船体には、地中海ブルーの優雅なフォントで"Diamond Princess"と書かれていた。風は冷たかったが、晴天だった。
 船の側面に設置された野営テントのレセプションで受け取った名札には、「臨時検疫官」と書かれていた。船内ミーティングに参加した後、検疫官の案内で船内の各フロアを視察し、医療室で船医らと意見交換し、彼らが有する医療情報を共有した。
 クルーズ船内では日本の法律が及ばず、乗客の生命を守る責任は船長に集中している。日本政府の役割は、その船長をサポートすることにある。検疫官ら政府職員とDMAT(災害派遣医療チーム)など外からの支援チームが、乗客の健康を見守り、検査を実施し、検疫法に基づく下船のオペレーションを運用している。
 日本環境感染学会の災害時感染制御支援チーム(DICT)が作成した感染対策ルールが、メインロビーの入り口など各所に掲示されていた。支援チームのメンバーは限られた船内環境において最善を尽くしているものの、個々人の感染対策の遂行能力は十分とは言えないこと が、ラウンジを見ただけで伝わってきた。岩田先生がツッコミを入れたくなる気持ちも理解できなくはない
 例えば、支援チームの中にフルPPE(個人防護具)を着用したままグリーンゾーンを走り回っている人もいた。もちろん、レッドゾーンから戻ってきた人ではないが、許容しているとレッドゾーンからPPEのまま戻ってくるようになりかねない。こういうところから、感染対策は崩れてくるものだ。この点は修正するようフィードバックしておいた。
 さらに、乗員の感染対策は、かなり怪しいと言わざるを得なかった。マスクをずらして鼻を出している乗員も少なくない。下層のデッキで集団生活をしており、職員食堂は混みあっていた。ただし、彼らなしでは船は維持できない。複雑な船の運用は理解しにくく、入国予定ではない乗員たちの行動に対して、検疫官も介入しづらいようだった。
 現場で活動するDMATには知り合いもいて、意見交換させていただいた。岩田先生の動画による動揺が広がっており、船内活動が続けられなくなることを懸念していた。職場からは「そんなに危険なら下船して帰ってこい」と指示され、既に下船を余儀なくされている人もいた。このままでは船を見捨てることになりかねず、乗客の命が危険にさらされてしまう。職場と現場の板挟みに苦しみ始めていた。

▶ 批判に熱中する人々と支えてくれた人々
 テレビでは、まるで見てきたかのような顔で、専門家が「船内では空気感染予防策が取られていない」とデマを流し始めていた。確かにDICTや国立感染症研究所は、「空気感染のリスクが高くない」と報告していたが、だからといってDP号で空気感染予防策を取っていないわけではない。DP号の構造と支援チームの能力に限界はあったが、可能な感染対策は取られていた。横浜港への停泊後、流行が収束したことからも明らかだった。
 厚労省の公表の仕方にも問題があった。検査によって新型コロナウイルス感染陽性が判明した数を順次公表していたが、報道で数字だけを知らされる人々に、船内で感染が拡大し続けているとの印象を与えてしまった。有症状者や接触者を優先しながら、1日に数百人ずつ検査を実施しているが、それでも全員検査が完了するのには2週間はかかる。公表日は感染日ではない。しかし、妄想は暴走していった……。説明不足は明らかだった。
 そうした中、岩田先生の動画が流出してしまったわけだ。そして、反撃がないと見ると、一斉に群がるようにたたき始める人々がいた。彼らは、後に自分が間違っていたことに気付いても、謝罪も修正もしない。「誤解させた人が悪いのであって、自分は悪くない」とのことだ。まあ、今回のパンデミックで繰り返された光景である。そういう世界に、僕たちは暮らしているのだ。
 この日は15時に下船して、霞が関の本部に戻って打ち合わせ。感染対策上必要と思われた幾つかのリソースを報告し、船内支援チームとの連携について確認した。既に野党が岩田先生にヒアリングを実施しており、国会では、DP号対応へと批判の矛先が向けられている。このまま政治問題化すると、その都度報告が求められるようになり、現場本位で臨機応変に対応するオペレーションが難しくなる。
 医療班の中には、重たい空気が立ちこめていた。自分が書くしかないだろうと思って、じっくり2時間ほどかけて岩田先生への回答を書いた。午後10時20分、Facebookに公開投稿。岩田先生の動画で「厚労省の人」と紹介された人間について、記事中で「これ、私です」と繰り返し念押しした。岩田先生の乗船に関わった医系技官らが、自らの身を案じているとは思わなかったが、心中するのは僕ひとりで十分だった。そして、最後にこう結んだ。

ーいま、私たちの国は新興感染症に直面しており、このまま封じ込められるか、あるいは全国的な流行に移行していくか、重要な局面にあります。残念ながら、日本人は、危機に直面したときほど、危機そのものを直視せず、誰かを批判することに熱中し、責任論に没頭してしまう傾向があると感じています。不安と疑念が交錯するときだからこそ、一致団結していかなければと思っています。ー

 その一致団結とは、船内のアウトブレイク対応に追われる現場だけの話ではない。既に多くの医療機関や検査機関、専門家の協力を得ながら鎮圧に向かってはいたが、それを見守る市民にも、デマに振り回されず、拡散させず、下船する人たちを差別しないという団結が求められていたと思う。
 3月1日、すべての乗員と乗客が下船したことを確認し、ジェナロ・アルマ船長が下船した。最終的に712人(感染率 19.2%)について陽性を確認し、14人(致死率 2.0%)がお亡くなりになっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に限らず体調不良者が発生したため、769人もを救急搬送するオペレーションとなった。その半数以上が外国人だった。
 その搬送先は、宮城県から大阪府までの広範囲にわたり、160もの医療機関が受け入れて下さった。本当に多くの人々の支えの中で、この難局を乗り越えることができたと思う。

▶ クルーズ船アウトブレイクからの学び
 DP号のアウトブレイクに当たって、個々の乗員や支援者は最善を尽くしたが、修正すべきシステム上の課題は明らかだった。
 まず、新興感染症に感染した乗客の存在が判明してから、即座に感染対策が取られなかったこと。2月1日に香港当局からDP号の運航会社に感染者が乗船していたことが伝えられたが、2月3日まで乗客たちには伝えられず、船内ではショーやパーティーが通常通り行われていた。この間に、DP号では爆発的な感染が生じていたと推定されている(J Clin Med. 2020 Feb 29;9(3):657.)。今回の経験を基に、国際的なルールが定められるべきだと思う。
 次に、入港後に速やかな全員下船ができなかったこと。当初から厚労省本部でも全員下船のオペレーションが議論されたが、結局、すべての乗員と乗客を受け入れられる施設が見付からなかった。クルーズ船の大型化や災害級の検疫事態に法の運用が追い付いていなかったわけだ。今後のパンデミックや災害に備え、数千人規模が迅速に受け入れられる簡易宿泊コンテナと人員確保計画が日本には必要だと思う。
 ところで、この時期、世界では、DP号の他に2隻のクルーズ船で大規模なアウトブレイクが発生していた(Euro Surveill. 2022 Jan 6; 27(1): 2002113.)。
 3月9日、米国カリフォルニア州のオークランドに入港したグランド・プリンセス号には、3533人が乗船していた。3月4日に感染者が乗船していることを知った船長は、その後の予定をキャンセルして、速やかに船内の感染対策を強化している。おそらくDP号の経験が生かされたのだろう。
 そして、米国政府は、3月12日までに、ほぼ全ての乗客に当たる2042人を下船させて隔離した。その結果、感染者123人(感染率3.5%)と死亡 5人(致死率4.1%)に留まっている。ただし、乗客の多くが拒否したため、PCR検査が実施できたのは1103人に過ぎない。このため、感染者数は過少に評価されている可能性がある。
 一方、3795人が乗船していたルビー・プリンセス号でのアウトブレイクでは、反面教師とすべき教訓が残されている。航海中より100人を超える乗客が上気道症状を訴えていたが、船内で実施された対策は有症状者の自己隔離のみだった。3月19日にオーストラリアのシドニーへ入港したとき、港を管轄する州保健省は船内隔離を実施しないと決定した。そして、その日のうちに乗客らを下船させ、14日間の自己隔離を求めた。乗客らへのPCR検査は実施されなかった。その後、少なくとも感染者 907人(感染率23.9%)と死亡29人(致死率3.2%)が確認されている。
 パンデミック早期におけるクルーズ船3隻のアウトブレイクから言えることは、感染拡大の規模を規定するのは、いかに早期探知できるかであり、イベント中止の決断を下せるかだった。そして、船内で集団生活をしている乗員を守り、感染者を安全にケアするためには、速やかな全員下船が望ましいが、地域への2次感染を防ぐためにも隔離施設を整備することが望ましいということだ。
 さて、岩田先生との一件で、厚労省から「お前はクビだ」と言われると思ったが、残念ながらそうはならなかった。医療班では、国内における感染拡大への備えとしての医療体制構築に取り組むことになる。刻々とその時が近づいていることは誰もが理解していた。・・・

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新型コロナ・パンデミックを振り返る

2024年08月16日 07時36分56秒 | 新型コロナ
2019年末に始まった新型コロナ・パンデミック。
2023年5月に“感染症法第五類相当”に格下げされ、
季節性インフルエンザと同じような扱いとなりましたが…
今でも高齢者がかかると命に関わるし、
医療者にとっては、とても“ふつうの風邪”とは思えません。

今後、我々はこのウイルスとどう対峙していくべきでしょうか?
今までを振り返り、将来に備えることが必要です。

ご意見番の忽那先生の考えを聞いてみましょう。

<ポイント>
・欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。
・日本での流行の特徴は、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していること。
・日本ではオミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた。
・日本は他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性がある。
 ✓ もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少した。
 ✓ 新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加している。
・日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう。
・コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返されたが、現在でも医療従事者数の確保については欠落している。
・パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要。感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要。

総じて、日本の新型コロナ対策は成功した、という論調です。
感染対策+ワクチン接種の両輪で、他国より死亡者数を抑制することができたのは事実だと思います。

その成功の影には、社会機能を麻痺させるほどの感染対策を続けたための影響が浮かび上がりました。
婚姻数減少〜出生率低下〜少子化速度進行、社会的孤立〜自殺者増加…
これらが判明した今、また来るであろうパンデミックに向けて対策を練っておく必要がありそうです。


■ 忽那氏が振り返る新型コロナ、今後の対策は?
ケアネット:2024/08/07)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・大阪大学医学部感染制御学の忽那 賢志氏は、これまでのコロナ禍を振り返り、パンデミック時に対応できる医師が不足しているという課題や、患者数増加に伴う医師や看護師のバーンアウトのリスク増加など、今後のパンデミックへの対策について、6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会合同学会にて発表した。

▶ 日本ではオミクロン株以前の感染を抑制
 忽那氏は、コロナ禍以前の新興感染症の対策について振り返った。コロナ禍以前から政府が想定していた新型インフルエンザ対策は、「不要不急の外出の自粛要請、施設の使用制限等の要請、各事業者における業務縮小等による接触機会の抑制等の感染対策、ワクチンや抗インフルエンザウイルス薬等を含めた医療対応を組み合わせて総合的に行う」というもので、コロナ禍でも基本的に同じ考え方の対策が講じられた。
 欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。オミクロン株拡大前もしくはワクチン接種開始前に多くの死者が出た。一方、日本での流行の特徴として、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していることが挙げられる。忽那氏は「オミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた」と分析した。

▶ 新型コロナの社会的影響
 しかし、他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性があることについて、忽那氏はいくつかの研究を挙げながら解説した。東京大学の千葉 安佐子氏らの日本における婚姻数の推移に関する研究では、2010~22年において、もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少したことが示されている。また、超過自殺の調査では、新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加していることが示された。忽那氏は、「日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう」と述べた。

▶ パンデミック時、感染症を診療する医師をどう確保するか
 コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返された。政府が2023年に発表した第8次医療計画において、次に新興感染症が起こった時の各都道府県の対応について、医療機関との間に病床確保の協定を結ぶことなどが記載されている。ただし、医療従事者数の確保については欠落していると忽那氏は指摘した。OECDの加盟国における人口1,000人当たりの医師数の割合のデータによると、日本は38ヵ国中33位(2.5人)であり医師の数が少ない。また、1994~2020年の医療施設従事医師数の推移データでは、医師全体の数は1.47倍に増えているものの、各診療科別では、内科医は0.99倍でほぼ横ばいであり、新興感染症を実際に診療する内科、呼吸器科、集中治療、救急科といった診療科の医師は増えていない。・・・

▶ 医療従事者のバーンアウト対策
 日本の医師と看護師の燃え尽きに関する調査では、患者数が増えると医師と看護師の燃え尽きも増加することが示されている。米国のMedscapeによる2023年の調査では、診療科別で多い順に、救急科、内科、小児科、産婦人科、感染症内科となっており、コロナを診療する科においてとくに燃え尽きる医師の割合が高かった。そのため、パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要だ。忽那氏は、所属の医療機関において、コロナの前線にいる医師に対して精神科医がメンタルケアを定期的に実施していたことが効果的であったことを、自身の経験として挙げた。また、業務負荷がかかり過ぎるとバーンアウトを起こしやすくなるため、診療科の枠を越えて、シフトの調整や業務分散をして個人の負担を減らすなど、スタッフを守る取り組みが大事だという。
 忽那氏は最後に、「感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要だ。今後の新型コロナのシナリオとして、基本的には過去の感染者やワクチン接種者が増えているため、感染者や重症者は減っていくだろう。波は徐々に小さくなっていくことが予想される。一方、より重症度が高く、感染力の強い変異株が出現し、感染者が急激に増える場合も考えられる。課題を整理しつつ、次のパンデミックに備えていくことが重要だ」とまとめた。

▢ 参考
1)内閣感染症危機管理統括庁:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて(2024年8月2日)
2)千葉 安佐子ほか. コロナ禍における婚姻と出生. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年12月2日.
3)Batista Qほか. コロナ禍における超過自殺. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年9月7日
4)清水 麻生. 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-. 日本医師会総合政策研究機構. 2022年3月24日
5)不破雷蔵. 増える糖尿病内科や精神科、減る外科や小児科…日本の医師数の変化をさぐる(2022年公開版)
6)Hagiya H, et al. PLoS One. 2022;17:e0267587.
7)Morioka S, et al. Front Psychiatry. 2022;13:781796.
8)Medscape: 'I Cry but No One Cares': Physician Burnout & Depression Report 2023


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あなたに合う食物線維は?

2024年08月13日 06時47分03秒 | 医療問題
「便秘対策には食物線維をたくさん摂りましょう」
と繰り返し言われてきました。近年は、
「不溶性食物線維だけでなく水溶性食物線維も大切です」
という論調になってきました。

そして最近ようやく、食物線維の種類について言及されるようになりました。
以下の記事を紹介します。

結論は、
「腸内細菌叢は人それぞれなので、その人に合った食物線維も人それぞれ」
(食物繊維の摂取によって短鎖脂肪酸の産生が増えるか否かは、その人の腸内細菌叢によって左右される)
という、収拾のつかないものでした。

■ 最適な食物繊維は人それぞれ
HealthDay News:2024/07/31:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 これまで長い間、食物繊維の摂取量を増やすべきとするアドバイスがなされてきているが、食物繊維摂取による健康上のメリットは人それぞれ異なることが報告された。単に多く摂取しても、あまり恩恵を受けられない人もいるという。・・・
 食物繊維は消化・吸収されないため、かつては食品中の不要な成分と位置付けられていた。しかし、整腸作用があること、および腸内細菌による発酵・利用の過程で、健康の維持・増進につながる有用菌(善玉菌)や短鎖脂肪酸の増加につながることなどが明らかになり、現在では「第六の栄養素」と呼ばれることもある。また糖尿病との関連では、食物繊維が糖質の吸収速度を抑え、食後の急激な血糖上昇を抑制するように働くと考えられている。そのほかにも、満腹感の維持に役立つことや、血圧・血清脂質に対する有益な作用があることも知られている。
 本研究では、食物繊維の一種である難消化性でんぷん(resistant starch;RS)を摂取した場合に、腸内細菌叢の組成や糞便中の短鎖脂肪酸の量などに、どのような変化が現れるかを検討した。59人の被験者に対するクロスオーバーデザインで行われ、試行条件として、バナナなどに含まれている難消化性でんぷん(RS2と呼ばれるタイプ)と化学的に合成された難消化性でんぷん(RS4と呼ばれるタイプ)、および易消化性でんぷんという3条件を設定。5日間のウォッシュアウト期間を挟んで、それぞれ10日間摂取してもらった。
 解析の結果、難消化性でんぷんの摂取によって腸内細菌叢や短鎖脂肪酸などに大きな変化が生じた人もいれば、あまり変化がない人、または全く変化がない人もいた。それらの違いは、腸内細菌叢の組成や多様性と関連があることが示唆された。研究者らは、「結局のところ、ある人の健康状態を腸内細菌叢へのアプローチを介して改善しようとする場合、どのような種類の食物繊維の摂取を推奨すべきか個別にアドバイスしなければならない」と述べている。
 論文の上席著者であるPoole氏は、「過去何十年もの間、全ての人々に対して一律に食物繊維の摂取を推奨するというメッセージが送られてきた。しかし今日では、個人個人にどのような食物繊維の摂取を推奨すべきかを決定する上で役立つであろう、精密栄養学という新しい学問領域が発展してきている」と述べている。今回の研究でも、食物繊維の摂取によって短鎖脂肪酸の産生が増えるか否かは、その人の腸内細菌叢によって左右される可能性が浮かび上がった。また意外なことに、難消化性でんぷんではなく易消化性でんぷんの摂取によって、短鎖脂肪酸が最も増加していた。短鎖脂肪酸は、血糖値やコレステロールの改善に寄与することが明らかになりつつある。
 研究者らは、個人の腸内細菌叢の組成を把握することで、その人がどのようなタイプの食物繊維に反応するのかを事前に予測でき、その結果を栄養指導に生かせるようになるのではないかと考えている。「食物繊維や炭水化物にはさまざまなタイプがある。一人一人のデータに基づき最適なアドバイスを伝えられるようになればよい」とPoole氏は語っている。

<原著論文>
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