外交のスペシャリストである著者の文章は起伏が少なく、ややもすると退屈な印象を受ける本編200頁ほどの本だが、強烈な内容である。恥ずかしながら、「ひよわな花」の国で生まれ育った人間には、学ぼうとしなければ想像もつかない「リアル」を覗くことができる。
フィンランドの近現代史を国際関係の視点から描いた本作から見えてくるのは、大国に挟まれた国が独立と民主主義を守るために行ってきた努力と払ってきた犠牲。近年日本で再発してきた、幼稚なヒロイズムや見栄張り、(寄らば(見かけ上)大樹の陰的な)絶対君主制回帰志向等に基づく「お国のため」ではなく、個々人が尊重されたうえで協力し合って運営してゆく共同体を国家レベルで維持するための、それは極めて現実的な生き残りの歴史である。
それを成し遂げるための武器は、つまるところ、
知恵と勇気。
現実を直視し理解することから逃げず、考え、努力することをやめないこのタフな「集団」。「環境」がもたらしたものが大きいのは承知の上で、本当に感心する。
もちろん民族主義的なものが根底にあったりと、決して全く問題・課題がないわけではないし、そっくりそのまま日本でも真似しようというのは論外である。が、テクノロジーの発達により、世界は見た目よりずっとずっと狭く、国々はお互いが近く存在する。今までの奇跡のように恵まれた環境にただ寄りかかり、ただ全て失ってゆくのではなく、自分の目で見、自分の耳で聞き、自分の頭で考え、自分の口で語り、自分の足で歩く選択をする個人や集団であってよいのではないか。それが「できない」とか「もう遅い」と言うのは醜悪な結末への加速である。