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クチヒゲノムラガニの生態

退職し晴耕雨読的研究生活に入った元水族館屋の雑感ブログ

紀伊路紀行② 南部町内 20240525

2024-06-01 | 雑感

紀伊路南部町内の地図(赤線が古道:和歌山県提供の紀伊路マップから引用)



九十九王子と紀伊路の参詣経過(「いっしょに歩こう熊野古道:紀伊路・中辺路、わかやま絵本の会」より引用)




 紀伊路歩きの2回目は南部町名の3カ所の王子(三鍋王子、千里王子、岩代王子)を詣でた。総歩数は15000歩であった。今回は南部町内の有名な2つの梅林(千里、岩代)近くを歩いた。ちょうど収穫時期でこの時期ならではの風景を楽しめたが、やはりどうせ歩くなら花の季節。

 今回は手に持って歩けなかったが、古の参詣道を懐かしむことができる、もってこいのアイテムを手に入れた。それは「紀伊国名所図会後編全6冊」である。
 紀伊国名所図会は江戸時代後期に和歌山市内で本屋を営んでいた帯屋伊兵衛(高市志友)によって企画・制作された紀伊国の地誌で、そこには紀伊国の名所(城、社寺、旧跡、名勝)の由緒や来歴を優れた版絵と共に紹介されている。 このシリーズは、初編と二編(高市志友編:文化9(1812)年)、三編(加納諸平編:天保9(1838)年)、後編(加納諸平・神野易興編:嘉永4(1851)年、熊野編(昭和17(1942)年)がそれぞれ刊行されている。入手したのはこれらの内の後編(牟婁郡之部)で、刊行されたのは上述したように今から170年前、その2年後には黒船が来航している。後編の内容は以下のとおり。ご覧のように、当時と現在では郡名、郡内構成市町村が共に大きく異なっている。
  一之巻(若山補遺:和歌山市内)
  二之巻(海部郡・在田郡:海南市~有田市)
  三之巻(在田郡:有田市)
  四之巻(在田郡・海部郡:湯浅町~広川町)
  五之巻(日高郡:日高町~御坊市)
  六之巻(日高郡:御坊市~南部町)

 昭和以降、日本列島は甚だしく改変されてしまった。そのため、当時の風景はほとんど残っていないであろうが、当時と現在を比較出来る場所を見つけるのが、これからの楽しみである。


①南部駅とトレイナート(駅舎アート)
トレイナートとは紀の国トレイナートの活動によって、きのくに線の各駅舎に飾られた様々な作家によるアートのこと。当駅の駅舎はウミガメがたくさん。

②南部の駅前通りの今と昔
下段は「紀伊国名所図会」に掲載された170年前の南部驛の様子。

③三鍋王子
立派な王子社である。

④趣のある横道

⑤南部峠
右は梅林、左はトキワツユクサの群落(見事)

⑥千里ウミガメ館
千里王子のすぐ手前にあるウミガメの展示室、休憩もできる。産卵期には観察会もあるらしい。

⑥千里王子

紀伊路の王子はどれも立派である。

⑦千里の浜の今と昔
下図は「紀伊国名所図会」にある千里の浜。ここの景色は奇跡的に不変である。

⑧梅林の昔と今
上段は「紀伊国名所図会」の南部梅林、昔から梅の産地であったことが分かる。中段は梅林と主力の南高梅。下段はこれから並ぶであろう梅干し場。近年は大不作とのこと。

⑨岩代王子
ここと千里王子は浜を歩いて参詣するようになっている。

⑩岩代駅とトレイナート(駅舎アート)
この駅のアートは実にシュールである。このアートに関しては賛否両論あるらしい。

芳養駅とトレイナート
これからは紀伊路内きのくに線の全てのトレイナートも紹介したい。下段は紹介し忘れた芳養駅のアート。岩代駅と違って分かりやすい。

「紀伊国名所図会後編六之巻」
「紀伊国名所図会」は残念ながら解説が多く、挿絵は少ない。素人がいきなり古文を読むのは難しいので、とりあえず挿絵のみを参考にしている。

紀伊路紀行① 田辺市内 20240518

2024-05-22 | 雑感

紀伊路田辺市内の地図(赤線が古道:和歌山県提供の紀伊路マップから引用)


 熊野古道には6経路あるが、これらの中で平安時代に貴人の熊野三山詣でのために整備された、真の熊野古道と言えるのが紀伊路と中辺路である。
 紀伊路は京から水路で淀川(旧)を下り、淀川河口の渡辺津(摂津国)から和泉国を経て紀伊国口熊野(田辺)に至る街道を、中辺路は田辺から奧熊野を経由して熊野三山に至る街道をそれぞれ指す。ただし、この区分は便宜的なものであり、紀伊路と中辺路は本来は一続きの参詣道である。そのため、これらの経路にのみ、道中の所々に特別な王子(参詣貴人が祈願のために巡拝する社)が設けられていた。なお、本参詣道にある王子を総称して九十九王子と呼ばれたが、実際の数は101あり、この内、紀伊路側には68(大阪府内は23)あった。
 さて、中辺路散策(2021年2月~2023年5月)に続き、1年のブランクを経て、いよいよこの5月から紀伊路の王子巡りを開始した。基点は田辺で、ここから古の参詣者の帰り道を辿る。紀伊路はそのほとんどが市街地の中を通っているため、古道の面影をすっかり失っており、地面もアスファルトばかりである。そのため、中辺路と比べると魅力は乏しいが、所々でその痕跡を見つけるのが醍醐味となろう。また、その変貌振りを観察しつつ、往時の姿を想像するのも一興であろう。ただし、紀伊路は中辺路にない利点が1つある。それは、基本的に鉄道が平行して走っていることだ。そのため、駅近くに車を駐め、戻りは鉄道を利用する方式を採ることができる。本紀行では終点(摂津)まで向かうかは決めていないが、当座の目標は和歌山の県境である。

 初回は田辺市内にある2カ所の王子(出立王子、芳養王子)を詣でた。総歩数は21000歩、徒歩距離は約12kmであった。行程は和歌山県紀伊路マップに沿ったが、途中で道を逸れて天神崎を堪能した。何度も車で通ったことがある道であったが、徒歩は情報の収集量が格段に異なり、新たに発見することが多い。やはり歩いてみないと体感はできない。

 
①田辺市中心(北新町)にある古道の道標(道分け石)と旧街道
上段は始点となる三叉路で、上が和歌山方面(紀三井寺とある)、下が大辺路方面、右中央が中辺路方面。活気溢れる通りであったが、年々シャッターが増え寂れていく姿が痛ましい。


②田辺平野と集落を作った会津川


③会津川沿いで見つけたレトロなホーロー製の看板。小豆島のこの醤油はまだあるらしい。一度使ってみたい。


④道幅が贅沢に拡張され整備された旧街道。新しいのに、やはり寂れて活気がない。


⑤出立王子跡(王子番号68)
参詣者は地先の海岸で体を清め、ここから口熊野入りを覚悟したようである。りっぱな王子である。ここで詠まれた以下の感慨深い歌が残る。背子は夫のこと。
「我が背子が使来むかと出立のこの松原を今日か過ぎなむ」
(万葉集巻九:詠み人知らず)


⑥天神崎入り口の看板
昨今はウユニ塩湖と呼ばれるらしい。


⑦天神崎
ナショナルトラスト運動発祥の地として有名である。幾度となく訪れていたが、火成岩からなるこの大きな平磯は独特な趣きがある。潮が引くと岩礁に囲まれた池と化し、風がないと鏡のような水面となる。



⑧日和山
天神崎の生態系を守る山神様である。この山を切り崩してリゾート開発されそうになった時に、地元の生態学徒は立ち上がった。さすがは南方熊楠の郷土。一度登ってみたかった。遠くに連なるのは奥熊野の山々。


⑨元嶋神社の海上鳥居
撮影スポットとして有名。



⑩芳養一里塚跡
ここが田辺市街にある道標(道分け石)から一里の距離となる。


⑪芳養王子跡(王子番号67)
明治四年の神社合祀により現在の大神社として合祀されたそうである。芳養王子は大神社の境内の片隅に鎮座している。





熊野古道・小辺路は触りだけ

2024-05-19 | 雑感
 熊野古道は熊野三山を詣でる古の街道で、主に6経路、紀伊路(大阪~田辺)、中辺路(田辺~中辺路~熊野三山)、大辺路(田辺~串本~熊野三山)、小辺路(高野山~熊野三山)、伊勢路(伊勢神宮~熊野三山)、大峯奥駈道 (吉野~熊野三山)がある。せっかく地元にある歴史遺産であり、興味があったのでこれまで大辺路と中辺路(本ブログで紹介)は完全制覇した。次はどの古道を巡るか決めかねていたが、いよいよ今月より紀伊路の王子詣でに着手した。ただし、今回は先日訪れた小辺路のほんの触りについて紹介する。

 小辺路(こへち)は、高野山と熊野本宮大社を結ぶ約70kmの山岳経路で、奈良県を挟んで和歌山県を南北に縦走する。大峯奥駈道を除けば最も厳しく、道中の車での到達性が悪く、十分な登山の体力と装備が必要とされる。そのため、端から選択肢にはなかったのであるが、以前よりその冒頭に位置する果無集落の美しい景色には引かれていたので、ついでに立ち寄った次第である。果無集落は小辺路の始点である本宮大社から約13kmの距離に位置するが、そこから2km先には十津川温泉郷がある。そのため、最寄りの温泉に車を駐め、古道を2km歩いて果無集落を訪れ、その後は車道を歩いて車に戻った。所要時間は約2.5時間であった。


温泉から古道に入る手前にある吊り橋。個人的には果無集落よりもこの橋が気に入った。ただし、妻には「帰りは無理」と言われたので、大回りして帰った。


古道に入ると急な登りが続く。果無集落までは短い距離であったので難なく到達できた。初ギンリョウソウに感激。


果無集落。もしかしたらここらで最も高所の田んぼ?。プロが撮った写真を見ていたので「天国のよう」に思っていたが、あっけなく通過してしまった。


帰りは車道を歩いた。視界と眺めがよく、実に爽快であった。途中、美しい「めん滝」に遭遇。車道を歩かないと出会えなかった。

パラオのサンゴ(④サザナミサンゴ科以外のナミフウセン亜目) *** パラオに行った話

2024-05-09 | 雑感
 今回はコロール島岩山湾で観察されたサザナミサンゴ科以外のナミフウセン亜目の種を紹介する(表1)。これまでと同様に、同定には自信が無い。



Ctenactis echinata (Pallas, 1766) トゲクサビライシ


Danafungia horrida (Dana, 1846) ノコギリクサビライシ


Heliofungia actiniformis (Quoy & Gaimard, 1833) パラオクサビライシ

パラオの名を冠するだけあって、岩山湾においても普通種である。最後の画像の左端は固着した母個体で、周囲に娘個体を増やしている。

Herpolitha limax (Esper, 1797) キュウリイシ


Pleuractis granulosa (Klunzinger, 1879) ナミクサビライシ


Sandalolitha robusta (Quelch, 1886) ヘルメットイシ


Leptastrea purpurea (Dana, 1846) ルリサンゴ


Leptastrea transversa Klunzinger, 1879 アラルリサンゴ


Echinophyllia patula (Hodgson & Ross, 1982)


Lobophyllia hataii Yabe, Sugiyama & Eguchi, 1936 パラオハナガタサンゴ


和名はパラオの名を冠し、学名はパラオ熱帯生物研究所所長の畑井新喜司氏に献名されたものである。本種の認識は難しく、L. valenciennesii との区別が不明瞭である。

Lobophyllia hemprichii (Ehrenberg, 1834) オオハナガタサンゴ


最後の画像はテルオピスに浸食された群体。

Lobophyllia radians (Milne Edwards & Haime, 1849) ダイノウサンゴ


Plerogyra sinuosa (Dana, 1846) ミズタマサンゴ


Pocillopora damicornis (Linnaeus, 1758) ハナヤサイサンゴ



Pocillopora acuta と混同している可能性がある。最後の画像はこの種かもしれない。

Seriatopora caliendrum Ehrenberg, 1834 フトトゲサンゴ


Seriatopora hystrix Dana, 1846 トゲサンゴ


Psammocora albopicta Benzoni, 2006 ベルベットサンゴ


Psammocora contigua (Esper, 1794) ヤッコアミメサンゴ


Psammocora stellata (Verrill, 1866)



パラオのサンゴ(⑤サザナミサンゴ科) *** パラオに行った話

2024-05-09 | 雑感
 本シリーズの最後として、コロール島岩山湾で観察されたサザナミサンゴ科の種を紹介する(表1)。これまでと同様に、同定は画像解析によるものであり、信頼性は高くはなく、自信も無い。特にキクメイシ類はお手上げである。
 今回の観察によって78種のサンゴ(有藻性イシサンゴ類)が確認された。この結果は観光がてらの片手間の産物であり、しかも大半がスノーケリングによるものであるため、把握できたのは全体の一部に過ぎない。ただし、江口(1935)が岩山湾から記録したのは111種であるので、今回の確認種数が少な過ぎるというほどでもない。
 また、これまで日本で見たことがない種にたくさん出会えることを期待していたが、観察された種は日本で記録されているものばかりであった。これには少々がっかりとさせられたが、裏を返せば日本のサンゴの種多様性が著しく高いことを表していると言えよう。「日本を極めれば、インド・西太平洋域のかなりの部分を制することができる」。これは、テッポウエビの研究で経験した感触であるが、同様のものが分類群が大きく異なるサンゴでも得られたことは、今回の最大の成果かも知れない。
 末尾になるが、パラオでの生活・活動・調査、すべてにおいて支援いただいたTK氏に心より御礼申し上げる。



Astrea curta Dana, 1846 マルキクメイシ


Coelastrea palauensis (Yabe & Sugiyama, 1936) パラオカメノコキクメイシ


Cyphastrea chalcidicum (Forskål, 1775) コトゲキクメイシ





Cyphastrea microphthalma (Lamarck, 1816) トゲキクメイシ


Cyphastrea spp.


Dipsastraea pallida (Dana, 1846) ウスチャキクメイシ

Dipsastraea spp.


Echinopora pacifica Veron, 1990 タイヨウリュウキュウキッカサンゴ


Favites halicora (Ehrenberg, 1834) マルカメノコキクメイシ


Favites magnistellata (Chevalier, 1971) オオマルキクメイシ


Favites sp.


Goniastrea edwardsi Chevalier, 1971 ヒラカメノコキクメイシ


Goniastrea pectinata (Ehrenberg, 1834) コカメノコキクメイシ



Goniastrea retiformis (Lamarck, 1816) コモンキクメイシ


Merulina ampliata (Ellis & Solander, 1786) サザナミサンゴ


Merulina scabricula Dana, 1846 ウスサザナミサンゴ


Paragoniastrea australensis (Milne Edwards & Haime, 1857) ウネカメノコキクメイシ


Pectinia alcicornis (Saville-Kent, 1871) アザミウミバラ


Platygyra lamellina (Ehrenberg, 1834) ノウサンゴ


Platygyra pini Chevalier, 1975 ヒメノウサンゴ


Platygyra ryukyuensis Yabe & Sugiyama, 1936 リュウキュウノウサンゴ




Platygyra sinensis (Milne Edwards & Haime, 1849) シナノウサンゴ




パラオのサンゴ(③ミドリイシ科以外のシズカテマリ亜目) *** パラオに行った話

2024-05-09 | 雑感
 今回はコロール島岩山湾で観察されたミドリイシ科以外のシズカテマリ亜目の種を紹介する(表1)。なお、同定は撮影した画像に基づき、骨格は見ていない。さらに、専門外なので同定には自信が無い。特に塊状のハマサンゴ類はお手上げである。

Leptoseris explanata Yabe & Sugiyama, 1941 センベイサンゴ


P24, depth 28 m.

Leptoseris scabra Vaughan, 1907 ハシラセンベイサンゴ

上段:P24, depth 20 m. 下段:P24, depth 15 m.

Pavona decussata
(Dana, 1846) シコロサンゴ

P23, depth 1-4 m.

Pavona explanulata (Lamarck, 1816) ヒラシコロサンゴ

P28', depth 1-4 m.

Turbinaria mesenterina (Lamarck, 1816) スリバチサンゴ

P2, depth 2 m.

Turbinaria stellulata (Lamarck, 1816) ヒメスリバチサンゴ

P24, depth 17 m.

Galaxea astreata (Lamarck, 1816) オガサワラアザミサンゴ

上段:P24, depth 15 m. 中・下段:P33, depth 14 m. 備考:小笠原の個体群とは違う感じがする。

Pachyseris rugosa (Lamarck, 1801) シワリュウモンサンゴ


1段目:P26, depth 1-4 m. 2段目:P23, depth 1-4 m. 3-4段目:P33, depth 10 m. 備考:岩山湾の代表種、群体形の変異が著しい。

Pachyseris speciosa (Dana, 1846) リュウモンサンゴ

P28', depth 1-4 m.

Bernardpora stutchburyi (Wells, 1955) コハナガササンゴ

P23, depth 1-4 m.

Goniopora columna Dana, 1846 エダハナガササンゴ


P24, depth 20 m.

Goniopora cf. lobata Milne Edwards & Haime, 1851 ハナガササンゴ

P24, depth 23 m.

Goniopora sp.

P28', depth 1-4 m.

Porites cylindrica Dana, 1846 ユビエダハマサンゴ


1段目:P23, depth 1-4 m. 2段目:P26, depth 1-4 m. 3段目:P23, depth 1-4 m. 4段目:LIP, depth 3 m. 備考:岩山湾の代表種

Porites rus (Forskål, 1775) パラオハマサンゴ


1段目:P33, depth 3 m. 2・3段目:LIP, depth 2 m. 4段目:LIP depth 2 m. 5・6段目:P28', depth 3 m. 備考:和名のとおり、岩山湾の代表種で、群体形の変異が著しい。

Porites spp.

撮影地点省略。

パラオのサンゴ(②ミドリイシ科) *** パラオに行った話

2024-05-08 | 雑感
 パラオ・コロール島の岩山湾において様々な活動を通じてサンゴ(有藻性イシサンゴ類)の画像を撮影し、それを基に岩山湾のサンゴ相の一端を把握することができた。今回からは、分類群順にその成果を紹介したい。なお、調査の概要は前話(パラオのサンゴ(①調査の概要))を参照されたい。

 今回紹介するのはミドリイシ科の種である。内訳はミドリイシ属10種、アワサンゴ属0種、トゲミドリイシ属1種、アナサンゴ属0種、ニオウミドリイシ属1種、コモンサンゴ属10種の合計22種である(表1)。
 熱帯域に位置しながら、サンゴの中で最も種多様性が高いミドリイシ属とそれに次ぐコモンサンゴ属の種数が極めて少なく、アワサンゴ属やアナサンゴ属の種に至っては全く観察されなかったが、これは特殊な地形的環境下にある岩山湾におけるサンゴ相の特徴であるかも知れない。また、観察方法が主にスノーケリングによる浅場の調査に限定されたことも関係しているものと思われる。なお、ミドリイシ属の同定においてはKS氏に協力いただいた。



Acropora awi Wallace & Wolstenholme, 1998 フトヅツミドリイシ

LIP, depth 2m.

Acropora digitifera (Dana, 1846) コユビミドリイシ

LIP, depth 1 m.

Acropora echinata (Dana, 1846) トゲヅツミドリイシ

LIP, depth 3 m.

Acropora gemmifera (Brook, 1892) オヤユビミドリイシ

LIP, depth 1 m.

Acropora cf. halmaherae Wallace & Wolstenholme, 1998

P26, depth 2 m.

Acropora intermedia (Brook, 1891) トゲスギミドリイシ

LIP, depth 3 m.

Acropora loripes (Brook, 1892) マルヅツハナガサミドリイシ

P26, depth 2 m.

Acropora microphthalma (Verrill, 1869) コエダミドリイシ

LIP, depth 2 m.

Acropora muricata (Linnaeus, 1758) スギノキミドリイシ

上段:P23, depth 4 m. 下段:LIP, depth 3 m.

Acropora aff. tenuis (Dana, 1846) ウスエダミドリイシ

LIP, depth 2 m.

Anacropora spinosa Rehberg, 1892 トゲミドリイシ

上・中段:LIP, depth 2 m. 下段:P26, depth 3 m. 備考:本種はほぼ全て地点で観察された。岩山湾を代表するサンゴであるとみなされる。

Isopora brueggemanni (Brook, 1893) フトエダミドリイシ

上段:P26, depth 2 m. 下段:P26, depth 2 m.

Montipora altasepta Nemenzo, 1967 コツブエダコモンサンゴ

LIP, depth 1-2 m.

Montipora carinata Nemenzo, 1967 アカジマトゲコモンサンゴ


LIP, depth 1-2 m.

Montipora digitata (Dana, 1846) エダコモンサンゴ

LIP, depth 2 m.

Montipora efflorescens Bernard, 1897 ハシラコモンサンゴ

LIP, depth 1-2 m.

Montipora florida Nemenzo, 1967 ハナコモンサンゴ

LIP, depth 2-3 m.

Montipora hispida (Dana, 1846) トゲコモンサンゴ

1・2段目:P2, depth 1-2 m. 3段目:P26, depth 1 m. 4段目:LIP, depth 2 m.

Montipora stellata Bernard, 1897 シゲミコモンサンゴ


LIP, depth 1 m.

Montipora stilosa (Ehrenberg, 1834) コブトゲコモンサンゴ

LIP, depth 2 m.

Montipora sp. A

LIP, depth 2-3 m. 備考:カカンコモンサンゴに似ているが相違点が多い。

Montipora sp. B

LIP, depth 3 m. 備考:トゲコモンサンゴに酷似するが、枝がコブコブしている。


パラオのサンゴ(①調査の概要) *** パラオに行った話

2024-05-07 | 雑感


 パラオでは観光と共に、異世界であるパラオのコモンサンゴと、日本のサンゴ礁学を築いた先輩方を輩出した旧パラオ熱帯生物研究所のフィールド(岩山湾)を見たいという願望があった。そのため、今回のパラオ旅行では活動場所を岩山湾に絞り、当該海域における様々な活動を通じて海中を覗き、パラオのサンゴ相を垣間見ることができた。そこで、今回からはパラオのサンゴについて若干の知見を紹介したい。なお、サンゴの同定は撮影した画像に基づき、骨格標本は調べていないので、同定はかなり怪しいことを予め了解いただきたい。

 岩山湾(図1-3)はコロール島の南側に位置し、コロール島と大小40の島々に囲われ、さらに南の沖合は堡礁に取り囲まれ、外洋からの波の影響を受けない静謐な環境にある。ただし、潮汐流が生じるため、水道部は強い流れが生じる。各島々の周囲は急峻で、最大深度は40mに達する。

 パラオ熱帯生物研究所の初代研究員は岩山湾をA~Pの16の区域に分割して海中生物相の概要を把握し、さらに岩山湾に浮かぶ全ての小島にローマ数字を振り分け、かつ日本名を与えた(図1:Abe, Eguchi & Hiro 1937)。今回の調査地点は、この90年も前の資料に基づいて選抜した。ちなみに、地点33付近は竜宮湾と名付けられ、往時はサンゴ群集が特に美しかったことから、地点28’は月影潭と名付けられた美しい名称から、地点23と26は港からの到達性が良いことからそれぞれ選んだ。ただし、地点24の選択は、船長の誤認(本当はかつてサンゴの種多様性が最も高いとされた地点19を指定)のためである。

 図2に岩山湾における活動とその行程を示す。4月12日はパラオ国際サンゴ礁センターの船を用いて3地点(2、24、33)でスキューバを用いて調査を行った。13日はカヤックツアーを行ったが調査はなし。14日はスノーケリングで港周辺のマングローブを覗き、地点23を調査した。陸に上がった後に、地元のおばさんからクロコダイル(イリエワニ)が出るから気をつけるように言われたが、そのおばさんはさばいた魚のアラを海に捨てていた。どうりで。15日はサップに弁当と機材を積んでツーリングし、地点26と28’をスノーケリングで調査した。16日と17日は水路を挟んでパラオ国際サンゴ礁センター(PICRC)の対岸にあるロングアイランドパーク(LIP)前の海岸を、スノーケリングで調査した。なお、パラオ熱帯生物研究所(Palau Tropical Biological Station)跡地はPTBSとして記してある。

 図3にAbe, Eguchi & Hiro(1937)が設定した地点番号と小島名、ならびに今回の調査地点(赤丸)を示す。
 悲しいことに、岩山湾という伝統的な名称は、今は通用しない。かつて、岩山湾を見下ろす高台に日航ホテルがあり、ここから眺める眺めは「パラオ松島」と呼ばれ、やがてはその絶景から岩山湾を日航湾(Nikko Bay)の別名で呼ばれるようになったそうである。このホテルは2002年に閉鎖されたが、廃屋と共にその名称は湾の名前として今でも残っているのである。



図1. 90年前に作成された岩山湾の地図。岩山湾はA~Pの16の区域に分割され、岩山湾に浮かぶ全ての小島にローマ数字を振り分け、かつ日本名が与えられている(Abe, Eguchi & Hiro 1937)。


図2. 岩山湾における活動行程。


図3. 岩山湾の小島名と島番号、ならびに今回の調査地点(赤丸)。


図4. パラオ熱帯生物研究所跡。跡地は住民の住居になっていたが、門は今でも残っている。

図5. 往時のパラオ熱帯生物研究所。


図6. パラオ熱帯生物研究所研究員であった元田 茂氏の意思を継ぎ、弟子の大森 信氏が建てた碑。


図7. 現在のパラオ熱帯生物研究所とも言えるパラオ国際サンゴ礁センター。

図8. 高台からの岩山湾の眺め。かつて日航ホテルから見られたという岩山湾の絶景を求め、それが眺望出来る場所を探し回ったが、残念ながら見つからなかった。



図9. 小雨煙る日航ホテルの廃墟。放置されているのが不思議。


図10.岩山湾内。湾内は迷路になっており、地図なしでは彷徨うかもしれない。


図11. 90年前に記された島の識別番号が今もいくつか残っている。番号は29であるので、岩山湾内で2番目に大きなカイバック島であることが分かる。


図12. 地点2「タコノキ島前」の礁池内景観。岸寄りはリュウキュウスガモ?が群生し、深みにはキクメイシ類やトゲコモンサンゴが多く認められたが、ミドリイシ類は見られなかった。スガモは衰退傾向とのこと。


図13. 右は地点23「上之島」、中は地点24「中之島」、左は地点25「下之島」。


図14. 地点23「上之島」の海中景観。湾内部ではミドリイシが少なかったが、ここでは比較的多く認められた。どの地点も共通するがハマサンゴ類が優占する。


図15. 地点24「中之島」の海中景観。サンゴ被度や種多様性は高い。水深30mまで潜ったが、海底は泥が堆積し、サンゴはまったく見当たらなかった。


図16. 地点26「ほう島」と海中景観。キクメイシ類とハマサンゴ類が多い。パラオクサビライシは当地の名前が付くだけあって、ほぼ全ての地点で認められた。


図17. 地点28「’月影潭」とその海中景観。木々に囲まれ池のような神秘的な入り江で、わずかに口が開いている。静寂に包まれ、時間が止まっているかのように思われた。いかにもワニが出てきそうであったが、ワニはマングローブ域にしかいないとのこと。どの地点もパラオハマサンゴ(2段目)がやたら多い。また、テルピオス(黒色もしくは灰褐色のカイメン)が蔓延し、サンゴ群集はかなりの被害を受けていた。


図18. 地点33「双子島」の海中景観。サンゴの被度は高いのであるが、暗く殺風景で、竜宮湾と言われた面影は見られなかった。ミドリイシ類が皆無であったせいであろうか。見慣れぬ形のシワリュウモンサンゴ(1段目と2段目)とパラオハマサンゴの大型群体がが目立った。



図19. 地点LIP「ロングアイランドパーク」の海岸と海中景観。利用者が比較的多い公園で、駐車場やシャワーが完備されている。対岸にみえるのはパラオ国際サンゴ礁センター。水路に接しているため、船が猛スピードが往来するが、航路より岸側が一般に開放されている。強くはないが流れがある。岩山湾はミドリイシ類やコモンサンゴ類相が貧弱なためがっかりしていたが、期待しないで最後に入ったこの地点は、ミドリイシ類とコモンサンゴ類のパラダイスで、ミドリイシ類8種、コモンサンゴ類9種が確認された。2段目はスギノキミドリイシ、3段目は種不明のコモンサンゴ類(骨格を精査しないと種を特定できない)、最後はトゲミドリイシの大群落。水深2mでこのような群落に出会えるとは。

パラオの鳥 パラオに行った話(1) 

2024-05-03 | 雑感


 前話で述べたように、先日、妻とパラオに行ってきた。旅行を計画した年始の頃は、パラオへの航空便は、台湾かグアム経由しかなかった。グアム経由は週数便、台湾経由は週1便がそれぞれあり、今回は台湾旅行も兼ねて後者を選択した。
 滞在は台湾が合計2泊、パラオが7泊。時間の束縛をほとんど受けないゆったりとした旅行となった。今話からはその旅行譚を何回かに分けて紹介したい。

 最初はパラオの鳥の話。バードウオッチャーとしてはほぼ初心者であるが、パラオでも鳥の観察を楽しみにしていた。予め見られそうな鳥を予習し、日本にはほぼ分布しない以下の3種との出会いを優先候補として望んだ。①ナンヨウショウビン、②シラオネッタイチョウ、③ミツスイ。

 鳥見は早朝の散歩に集中させようと意気込んでパラオ入りしたのであったが、それが初端にくじけた。
 パラオの人はたいがい犬と鶏を飼う。犬は愛玩ではなく番用で、放し飼いである。しかも、どれも大きくて厳つい。さらに、何れもよく吠え、かつ人を追いかける。「犬が慣れれば吠えなくなる」と言われたが、現地人でもたまに噛まれるとも聞いた。また、狂犬病はないと言われたが、ちゃんと予防注射をしているとは思えない。この余所者を通りから排除するシステムによって、散歩は断念を余儀なくされ、鳥見は専ら宿泊した友人のベランダ越しとなった。

 そんな条件下ではあったが、上記の①と②を含む以下の14種を撮影することができた。ただし、ハチドリに似た花蜜食種のミツスイは、普通種とのことであったが、残念ながら出会は叶わなかった。
 種名表記は和名 学名(英名)現地名の順である。

①ナンヨウショウビン Todiramphus chloris teraokai(Collared Kingfisher)TENGADIDIK

なんという美しさであろう。光沢のある青緑。しいて上げればエジプト青か。普通種で、電線にとまっているのをよく見かけたが、近寄れなかった。額の白い模様が白目を剥いているように見えて、一瞬ギョっとした。

②シラオネッタイチョウ Phaethon lepturus(White-Tailed Tropicbird)DUDEX

パラオの海鳥の代表種。岩山湾でよくみかけたが、近寄れず、しかもじっとしてくれない。たぶん、とまっているよりも飛ぶ姿の方が美しい。

③セキショクヤケイ Gallus gallus(Red Junglefowl)MALKUREOMEL

ニワトリの原種。パラオでは各家庭で放し飼いしているし、野生化もしている。犬は襲わないとみえる。周年かもしれないが、どの雌も雛を連れていた。

④ネズミメジロ Zosterops finschii(Dusky White-Eye)CHETITALIAL

もし同定が合っていれば、パラオ固有種である。

⑤スズメ Passer montanus(Eurasian Tree Sparrow)

パラオで見かけると親近感がある。

⑥カラスモドキ Aplonis opeca oril(Micronesian Starling)KIUID

小型のカラスのように見えるが、ムクドリの仲間である。島にはカラスがいないが、生態学的位置は同じかもしれない。普通種だが、やはり寄れない。

⑦ナンヨウハシブトゴイ Nycticorax caledonicus pelewensis(Rufous Night Heron)MELABAOB

今回見た中では最も大形の種。海岸ではよく見かけた。飛ぶと美しい。

⑧クロサギ Egretta sacra(Pacific Reef Heron)SECHOU

ややこしいが、画像はクロサギの白色型である。

⑨パラオクイナ(仮称) Gallirallus philippiensis pelewensis(Buff-Banded Rail)TERIID

道路によく出てくる。パラオ固有亜種?。和名はないようである。

⑩ムナグロ Pluvialis fulva(Pacific Golden Ploveri)DERARIIK

海岸で最も目撃される種。あまり人を恐れない。

⑪シロハラコビトウ Phalacrocorax melanoleucros(Little Pied Cormorant)DEROECH

パラオの鵜は少し派手である。見たのは1回だけ。

⑫エリグロアジサシ Sterma sumatrana(Black-Naped Tern)KERKIRS

シロアジサシに似るが目の横に黒帯がある。

⑬ヒメクロアジサシ Anous minutus(Black Noddy)BEDAOCH

パラオでは最も多いアジサシ。冒頭の画像も本種である。

⑭シロアジサシ Gygis alba candida(Fairy Tern)SECHOSECH

シラオネッタイチョウと見間違うほど優雅に飛ぶ。

パラオに行く

2024-04-07 | 雑感
パラオはパプアニューギニアとフィリピンの間、赤道近くの太平洋上に位置する小さな島国である。先の大戦前、パラオは日本統治下にあり、様々な思惑によるものの、ここに小さいながら純粋にサンゴを研究するための研究所が建てられた。そして、後の海洋生物学を担う28名の若き生物学徒が数ヶ月から数年の任期で派遣された。彼らは当地で華々しい業績を輩出するものの、研究所は開戦によって短い生涯を終えた。さらに残念なことに、日本のサンゴ礁研究は、このパラオ熱帯生物研究所の終焉と共に、長い停滞期を歩むことになった。

かくして、パラオ熱帯生物研究所は伝説と化し、サンゴ礁研究に携わる者であれば、誰もがその名前に敬愛と憧れを抱く。

閑話休題。妻がこの3月で定年退職した。これまで、自分は調査や採集で各地を飛び回っていたが、妻にはいつも留守番ばかりをさせていた。そこで、妻への慰労を兼ねて、退職記念旅行を画策した。第一候補は妻が大好きなハワイであったが、彼の地は物価高騰で年金生活者には敷居が高くなり過ぎてしまった。ではどこが良いか。海外で、海がきれいな所。
そういえば、友人がパラオに出向中、任期は今年度一杯と聞いていた。また、パラオはサンゴ研究者の聖地。パラオに行かない理由はない。ということで、今月、パラオに行く。

ただし、悲しいかな、研究者の性で、ファンダイビングというものができない。潜ればついサンゴを探してしまう。今回も1日はパラオ国際サンゴ礁センターの船をチャーターして、画像撮影によるサンゴ相の記録を行う予定である。かつてのパラオ熱帯生物研究所のフィールドであった、そして先人達が青春を謳歌した岩山湾で。


パラオの位置


パラオの中心地であるコロール島


コロール島と岩山湾、ならびにパラオ熱帯生物研究所跡地




歴代の研究員が重用した岩山湾の測量図(Abe, Eguchi & Hiro 1937より)


研究員が描いた当時のコロール島(佐藤 2017より)