
今週初めに潮間帯の魚類群集を研究されている知人が、九州からはるばる来られた。コロナ禍の中ではあるが、生態学者にとっては昨年に続き2年間ものデータの空白は許されない。大げさではあるが、決死の覚悟で、かつ予防には細心の注意を払い、串本をベースにして紀伊半島南部の海岸を1週間にわたり調査されている。
私はその調査地点を決めるための下見調査に案内のために同行した。早朝6時に出発、三重県との県境である新宮市からめぼしい磯をチェックして回り、潮岬を中間として最終候補地点である田辺市天神崎を終えたのが16時、合計13地点を慌ただしく飛び歩いたが、一度にこんな広範囲の磯を歩いたのは初めてであった。
何処の地も地質形成には悠久のドラマがあり、その土地ならではの特色ある地形が見られる。中でも紀伊半島はプレートの合流や、古の活発な火山活動に伴うマグマや大カルデラの面影が海岸のそこかしこに残り、特異な地形の宝庫としてジオパークに認定されている。その代表は三重県の鬼ヶ城や串本の橋杭岩、白崎の石灰岩脈等であるが、そんな天然記念物級の大物はなくても磯毎の地形の特徴が堪能でき、また再発見もし、たいへん有意義な同行であった。

1 新宮市三輪崎鈴島横:鈴島は火山岩質であるがその横には熊野層群と呼ばれる堆積岩の平磯が広く張り出している。

2 那智勝浦町弁天島前:泥ダイアピルと呼ばれる特殊な貫入地形の海岸とのこと。

3 那智勝浦町オジャウラ:熊野層群の磯で、地形はダイナミックで地質も変化に富んでいる。

4 串本町荒船:オジャウラに似た堆積岩海岸である。

5 串本町宝島(ほうじま):熊野層群の平磯で、やや起伏がある。

6 串本町姫:典型的な熊野層群の平磯。

7 串本町潮岬波の浦:潮岬と大島はマグマにより形成された火山岩でできており、紀伊半島南部の隆起堆積岩地質を東西に分ける形でその中に貫入している。火山岩の海岸は基本的に断崖となるが、波の浦だけは火山岩質でありながら平磯が発達している。

8 串本町錆浦:規模は小さいながら平磯が発達する。ここの波打ち際には高さ数mになるサンゴ骨格の堆積地形が見られる。ジオパークの人達にはその価値をスルーされたのが不思議である。

9 串本町江田:潮岬の東側の堆積岩地質は田辺層群と呼ばれる。ここの海岸は地質が水平ではなく斜めを向いており、すさまじいばかりの大地の圧力を感じ取ることができる。

10 串本町田子:田辺層群の平磯であるが、ここには「さらし首層」と呼ばれる特殊な地層が見られ、その方面では特に有名である。潮がちょうど首の所まで来ると、遠目から見た時に首が晒されているように見える。昔はもっと首の数が多かったように感じる。

11 すさみ町見老津:すさみ町の海岸は、やたら岩盤がくねくねとねじ曲がる褶曲(しゅうきょく)地形で有名である。その姿をここでも見ることができた。

12 白浜町志原海岸村島磯:志原海岸は美しい砂利浜であるが、その中にこの平磯が突き出ている。全く平坦な磯である。
13 田辺市天神崎:美しい平磯で、日本ナショナルトラスト運動発祥の地、近年は日本のウユニ湖として有名である。調査の最後で気が抜けたか、写真撮影を忘れました。