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クチヒゲノムラガニの生態

退職し晴耕雨読的研究生活に入った元水族館屋の雑感ブログ

Dive Extreme DL2001を試す

2020-11-29 | 雑感



 サンゴ分類においては、まず生時の色や形といった生体情報が重要な形質となるため、水中撮影機材は大切な商売道具である。ただし、水中ではそれ以上に標本を採集するのが主目的であるため、撮影は採集に大きな負担をかけられない。そのため、気軽に持ち運べ撮影できるオリンパスのコンパクトデジカメTGシリーズを愛用しているのであるが、撮影結果は当然ながら「それなり」であり、かつて一眼ハウジングを使用したことのある者としては、常に不満はあった。
 それでも、画質の向上を目指しコンデジの付属品には絶えず試行錯誤しているのであるが、今年はいろいろと「二度とない調査」が予定されていたため、思い切って撮影装備を大きく増やした。今回紹介するTGシリーズ専用リングライトDive Extreme DL2001も今年初めに購入していたのであるが、コロナ禍の影響で調査が全て中止もしくは延期となり、じっくりと試す機会を失っていた。そんな中、昨日、おそらく本年最後となるであろう潜水を串本町内で行いDL2001を試用したので、その結果を以下に披露する。



 カメラは顕微鏡モード、被写体とはほぼ接する距離まで接近して撮影。ご覧のようにマクロ撮影としては満足できる結果が得られた。ただし、分かる人はもはや少なくなったが、ニコノスに80mmレンズと接写装置を組み合わせた結果と使用感。これは40年も昔。世の中は果たして進歩したのか、不思議な印象を抱いた。
 ストロボ同調機能が付いているので、本当はこれを使いたかったのであるが、いかんせんカメラ(TG6)のバッテリーの持ちが悪いので、この機能の使用は断念し、全てライトとして中間(目盛3)の光量で撮影した。ただし、もう少し被写界深度が欲しかったので、次回は光量をフルにして試してみたい。なお、ライトのバッテリー消耗を考えこまめに電源をオンオフしたのであるが、その操作がグリップを握った手だけで行えなかったのは唯一の難点であった。
 蛇足ながら、DL2001は2020年度グッドデザイン賞を受賞したそうである。お墨付きである。めでたし。



コモンサンゴ分類の再スタート

2020-11-07 | 雑感

 コモンサンゴ類は種多様性が著しく高く、未記載種は山のようにある。ただし、種内形態変異も異常に多く、種の線引きが困難である。試行錯誤の形態分類の末にタクソンを分けても、本当にそれが正しいかどうか確信が持てず、独りよがりの人為分類に至らないかが懸念される。
 それを払拭するために、遺伝子を扱うサンゴ研究者に協力していただき、ミトコンドリア遺伝子を用いた系統解析も行っている。これまで解析にかけたサンプルは500個を越え、つい先日、この3年間に採り貯めた212個を加えた全741個ものサンプルの解析結果が届いた。
 その系統樹は、4mもの長さの、圧巻の印刷物となった。送られて来たサンプルごとの系統樹を、これまでに解析した形態種ごとにまとめてコンパクトにしても、なお、2m程の長さがある。
 結果として、さらに系統分岐は複雑を極め、同種と思われたものが多数の系統に分散する1方で、1つのクレードに多数の種が並び、遺伝子を用いても種の解釈は容易にはいかない。また、サンプル数が200以上も増えたことで系統分岐の形も様変わりした。
 当初は、遺伝子解析を用いれば、形態分類での悩みは解決できるるものと安易に考えていた。ところが、遺伝子解析の基本であるミトコンドリア解析では、様々な雑音が生じ、系統の信頼性には問題があることが後に分かった。そのため、さらに高度な核ゲノム解析の必要性が生じているが、それには技術的な問題や労力に制限がある。
 そうは言っても、そろそろ結果(論文)を出さねばならない。ミトコンドリア解析は核ゲノム解析に比べて信頼性は劣るものの、属内の大まかな系統はよく表現している。これまで、ミトコンドリア系統と、個人的に把握した形態種との相互フィードバックによって、遺伝子からの「目から鱗」的な示唆が度々あった。ミトコンドリア系統に形態的異質性が加われば、自然分類に近づけよう。何よりも日本中の海から1400ものコモンサンゴ類の標本を採集し、その内の半分は遺伝子を解析でき、今、その結果が出た。機は熟した。今日から、コモンサンゴ類分類の再スタートである。


ミトコンドリア遺伝子解析によって描かれたコモンサンゴ類サンプル(741個)の系統樹。長さは4mにもなった。


種毎にまとめてコンパクトにしてもなお2m以上ある。


ミトコンドリア遺伝子の解析結果に基づいた日本産コモンサンゴ類の系統の概要
 コモンサンゴ類は、霜柱状突起(papilla)を持つ群(クレードII)とそれ以外とに分けられる。大きな群はクレードI、II、IVで、それぞれ同じような大きさを示す。形態的にはIとIVは似ており、それぞれを分ける独特な形態形質は見出せない。III、V、VIはそれぞれ系統的に他と大きく異なった独立群であるが、どれも小編成。各クレードに対応する群名はクレードを代表する種名を用いてある。


クレードI内の1つの末枝
 数字はブーツストラップ(分岐信頼度)で最高は100。大文字は未記載種。この枝に出現する種は基本的に他の系統と重複しないが、M. mollisM. monasteriataは他の系統に主体が分布する。悩みは、形態的相違差が互いに些少なKOMON、M. turgescensM. venosaが同じクレードに並列することである。このように、遺伝子では確証が得られないものは、形態で確実な相違点を示すしか種を分けられない。

楯ヶ崎の柱状節理

2020-11-04 | 雑感


 和歌山県から三重県にまたがる紀伊半島南東部の海岸付近では、1500万年前程前に活動したマグマに由来する火成岩層が至る所で独特で雄大な地形を形成し、それぞれ歴史ある名所旧跡となっている。その1つとして、三重県熊野市に楯ヶ崎の柱状節理(ちゅうじょうせつり)がある。
 柱状節理とは、 マグマが急激に冷える際に収縮して柱状の節が生じた地層の事を言い、節に沿って割れるため、裸出した面は角柱状の岩が連なる。楯ヶ崎の柱状節理は角柱の幅が1m以上と大きく、また、範囲が広いのでたいへん見応えがある。
 当地には、二木島海域公園が指定されている関係で、10年以上前から毎年サンゴの調査で訪れ、当地の最大の名所である楯ヶ崎にも馴染んでいたが、妻はまだ見たことがなかったので、昨日の日帰り旅行の日程の1つに加えることにした。
 楯ヶ崎は潜水調査の移動コース中にあるため、これまで船上からばかり眺めていたのであるが、今回は初陸路となった。国道311号脇に標識と駐車場(トイレは少し手前に設置されている)があり、楯ヶ崎はそこから徒歩40分(約2km)の距離にある。歩道はよく整備され、また、特別保護林に囲まれ、たまに樹木名のプレートも認められ、この点においては申し分なかったのであるが、階段が巨人の歩幅用に作られているため、快適に歩くことができず、ふくらはぎがすぐに痛くなり、無事に往復できるか心配になった程であった。
 当日は無風快晴、楯ヶ崎は陸からの眺めも素晴らしく、また、直に柱状節理に触れれることができてよかった。ただし、その壮観を十分に堪能するためには、船上観覧は欠かせない。じつは、柱状節理は楯ヶ崎だけではなく、付近一帯に広くひろがっている。また、海からの方が、外観を把握しやすい。漁船仕立ての観光船が今でも出ているので、波酔いOKな人にはお薦めする。

トイレ横の案内表示


歩道内の表示

樹木表示

楯ヶ崎

楯ヶ崎に隣接する千畳敷からの眺望

二木島側から見た楯ヶ崎方面の遠望

海側から見た楯ヶ崎とその隣接海岸