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クチヒゲノムラガニの生態

退職し晴耕雨読的研究生活に入った元水族館屋の雑感ブログ

コモンサンゴ類の形質を客観視する

2020-08-24 | 雑感
 コモンサンゴ類の記載では主観的な表現が多い。「大きい・小さい、多い・少ない、長い・短い、粗い・細かい」等々。具体的な数値が明記されていないと客観的な種間比較ができない。そこで、本格的な記載を始める前に、このような抽象的な表現は全て数値化することを試みた。今回はその1つである共骨の肌理の話。
 コモンサンゴ類の共骨は多孔質(スポンジ状)構造をなし、そのため網目状共骨とも呼ばれる。その表面の肌理、すなわち孔の大きさ(目合い)は種によって様々であり、分類形質として用いられることがあるが、肌理ついては従来から「粗い・細かい」という抽象的な表現が使われていた。というのも、目合いは0.01mm単位の世界であり、計測がたいへん面倒であったためである。私も今までこれに倣っていた。
 しかしながら、「粗い」って具体的に何?、「細かい」って何?、といったモヤモヤのストレスが溜まるに至り、この形質を計測してみた。
 幸いにも顕微鏡にUSBカメラを導入したため、このサイズの計測は大きな手間ではない。方法は1つの標本の中で全体を代表している部分を選び、顕微鏡で50倍程度に拡大し、視野の中の計測可能な孔の幅(短内径)を全て(だいたい20個程度)計測し、その平均値で標本の肌理を代表させた。とりあえず、疣状突起を持つイボコモンサンゴ種群の標本全ての計測が終わったので、以下のように評価した。


 計測した標本はコモンサンゴ類全体のほんの一部であるため、今後、多少の基準の変更は生じると思われるが、一応、モヤモヤの1つは解消した。




イボコモンサンゴ種群の中で最も共骨の肌理が細かいコイボコモンサンゴ Montipora conferta:全標本における目合い平均値は0.09mm。



肌理が細かいイボコモンサンゴ Montipora verrucosa:全標本における目合い平均値は0.14mm。



肌理がやや粗いデーナイボコモンサンゴ Montipora cebuensis:全標本における目合い平均値は0.18mm。



イボコモンサンゴ種群の中で最も共骨の肌理が粗いアラメイボコモンサンゴ Montipora sp. ARAME:全標本における目合い平均値は0.29mm。

SIOトープ~水木しげるの作品で癒やされる

2020-08-17 | 雑感
 中紀方面に行く機会があり、期待せずに御坊市塩屋にあるシオトープに寄ってみた。ここはメインの親水公園ではなく、展示されている水木しげるの作品に静かな人気ある。子供の頃は水木しげるワールドに浸った世代であるので興味があった。
 酷暑の日中ではあったが、公園を散策し、ベンチでランチをする。親水池は全く意味のないもので、また、公園のベンチのあちこちに野良猫?用に大量のペットフードがまかれていて気分を害したが、静かにたたずむゲゲゲ一族のオブジェには癒やされた。何でゲゲゲ達がここにいるのか理解しようと思ってはいけない。公園の雰囲気は悪くはない。ただ、親水池のレベルアップを望む。
 なお、写真を整理していて肝心の鬼太郎を撮り忘れていることに気がついた。また、寄ろう。



鼠男:憎めない奴だ

畳叩き:存在を知らなかった

猫娘:特に興味はない

牛鬼:これは好きだった、ここの目玉だ

河童:昔はよくいたものだ

モクリコクリ:川獺妖怪か?

カシャポ:和歌山県人?

ぬらりひょん:妖怪王、恐るべき奴

和名は学名に与えてはならない

2020-08-09 | 雑感


 顕著な特徴がないからと言って和名を安易に学名から作ると後々辻褄が合わなくなる。今回はそんな話。

 私が専門にするコモンサンゴ属(イシサンゴ目ミドリイシ科)の中で、これまでMontipora danae Milne Edwards & Haime, 1851の学名が充てられ、和名も種名に因んでデーナイボコモンサンゴが提唱され(白井, 1977)、このセットで長きにわたって親しまれてきた種がある。短径3mm以下の疣状突起を持つイボコモンサンゴの仲間で、群体周縁部に疣状突起やそれが接合した畝状突起が放射列を形成するのが大きな特徴で、国内では奄美大島以南のサンゴ礁域でよく目にする。なお、種名はアメリカの著名な科学者で、コモンサンゴ類について初めて総括的な研究を行ったJames Dwight Danaに献名されたものである。

白井 (1977)で掲載されたM. danae「デーナイボコモンサンゴの和名基準写真」

 ところで、スミソニアン博物館に所蔵されているM. danaeのタイプ標本の画像を確認したら、この種は短径が6mmにも達する巨大な疣状突起を持ち、これまでの認識とは全く違うものである事が分かった。タイプ産地はフィジーで、このような形態を持つ標本は日本から得られていない。

M. danaeのタイプ標本

 つまり、デーナ(デーナイボコモンサンゴ)はデーナ(M. danae)ではなかったのである。それでは、この和名を担う種は何か?。疣状突起を持つ全ての既知種のタイプ標本資料と手持ちの標本を吟味した結果、フィリピンのセブ島がタイプ産地のM. cebuensis Nemenzo, 1976であることが判明した。

M. cebuensisのタイプ標本

 ただし、この「種」は、国内外の代表的なサンゴ図鑑でM. danaeと共に掲載されており、また、セブコモンサンゴの和名が提唱されている(西平・Veron, 1995)。両者が別種として掲載されたのは、疣状突起や畝状突起の並びがより乱雑なのがM. cebuensis、より整ったのがM. danaeとして著者らがなんとなく分けたためであろう。

Veron (2000)で掲載されたM. danae


Veron (2000)で掲載されたM. cebuensis


西平・Veron,(1995)で掲載されたM. cebuensis「セブコモンサンゴの和名基準写真」

 さて、和名デーナイボコモンサンゴとセブコモンサンゴはホモニム(同物異名)の関係であることが分かったが、どちらを採択したら良いかいささか悩んだ。前者はより古くに提唱され馴染みが深いが、M. danaeという種は別に存在するので混乱を招き易い。一方、後者は学名との整合性は良い。結局、後述する理由で前者を採用した。

 そもそも、和名は種に与えるべきものであるのに、学名に与えた(学名を用いた)ことが間違いであった。学名は種の位置を表す名称で、決して不動なものではなく、分類の進展に応じて統合・細分されたり、種認識が変更されたりすることが少なからずある。そのため、今回のように学名の変更に伴って齟齬が生じる場合があり、また、学名の変遷に従って和名をコロコロと変えていたら、和名の安定性はない。ちなみに、学名との整合性が良い和名セブコモンサンゴであるが、こちらも学名に与えられたものなので、将来的に問題が生じる可能性がある。


西表島網取湾産デーナイボコモンサンゴ