散歩コースのバリエーションにはいくつかあるが、週一程度で訪れるのがここカワセミポイントである。ここの川端でカワセミを目撃したのでそう名付けたのであるが、残念ながら遭遇率は極めて低い。
カワセミポイントの近くにエノキの木があり、5月のある日、ここで悲惨な光景を目撃した。毛虫が大発生し、葉が食べ尽くされて木が丸裸状態だったのである。
次にここを通過すると、毛虫が一斉に蛹になっていることに気づいた。枝に鈴なりになっている所もあるが、多くは主幹に集中し、しかも帯状に美しく整列していた。さらに、蛹の姿がトゲウオのようでもあり、ゴジラの背中のようでもあり、とてもかっこいい。これがどんなチョウに化けるのか、その羽化した姿にたいへん興味を覚えたので、学術観察?のために2個ほど持ち帰った。

蛹を虫かごにセットし、研究室の目の届く所においてチラチラ見の観察を開始した。変化は1週間後に訪れた。なんと、1cm程の別の(寄生昆虫の)蛹が虫かごの中に落ちているではないか。どちらか一方のチョウの蛹の身を食べてウジの姿で外に脱出し、素早く蛹になったものであろう。チョウの蛹は今後どうなる?。
結果はその翌日に分かった。一方の蛹から、美しいチョウが羽化し、一方は観察を打ち切る2週間後まで蛹の形のまま、さらに、寄生昆虫の方も羽化せずに終わった。
羽化したチョウの正体はヒオドシチョウ、タテハの仲間で全長は5cmほど、羽裏は地味な隠蔽色であるが、表は鮮やかな橙色、羽を開いた時に発するこのど派手な色彩は捕食者に対しフラッシング効果があるのであろう。羽化したばかりのチョウは全く動かなかったので、庭の花に止まらせて放置していたら、いつのまにか飛び去っていた。ちなみにオドシ(縅)とは甲冑に用いる鎧の部分。

後日、カワセミポイントのエノキを訪れると、羽化したばかりのチョウが蛹の横のそこかしに止まっていた。さらに後日、ここを訪れると、チョウはいなくなっていたが、羽化した色の薄い蛹(殻)と羽化しなかった色の濃い蛹が残ったままになっており、両者の比は、虫かご内と同様にほぼ1:1であった。
資料によると、ヒオドシチョウの毛虫は毒々しいが、これは見かけだけで毒はないため鳥や肉食昆虫の餌食になるそうである。また、特殊なハチやハエの寄生を受け、かなりの被害を受けるそうである。そして、虫かご内に落ちていた蛹は寄生バエのものであった。
ところで、今回、感嘆したのはヒオドシチョウの羽化ばかりではなく、エノキの生命力である。丸裸になっても1ヶ月で見事に復活を遂げていた。長い進化史の中で、これしきの食害で怯んでいたら種は残せないということだ。