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クチヒゲノムラガニの生態

退職し晴耕雨読的研究生活に入った元水族館屋の雑感ブログ

霧笛が聞こえないのはコロナの影響?

2020-06-27 | 雑感
 最近霧がよく出る。今日も早朝から町は霧の中。近くにあるホテルや鉄塔は姿が見えない。


散歩道のある里も里山も。



里道を抜け海(橋杭岩)に出ると風が流れ視界が開けたが、それでも対岸の大島は未だ隠れたまま。


 大島もしくは潮岬のすぐ沖合は船が密集する航路となっているため、霧がでると普段は霧笛がこだまする。ところが最近、霧笛が聞こえない。霧なのに静かなのは何か変だ。コロナの影響で船の往来が激減しているのか。

スプリッターからランパーに変わる

2020-06-21 | 雑感

ムラサキコツブコモンサンゴ(コツブコモンサンゴのムラサキ型):奄美大島産
この標本は色彩ではムラサキコツブコモンサンゴ、形態ではコツブコモンサンゴに同定される。

 年頭から本格的な記載準備のために、コモンサンゴ類全標本の再精査に取り組んでいるが、次第にこれまで構築してきた「コモンサンゴワールド」(日本産コモンサンゴ類相)が揺らぎ始めた。
 標本数が少ない間は各形態類似群は明瞭な種として容易に認識され種多様性の高さに酔いしれていたが、標本数の増加に伴う形態変異幅の増大によって種の境界がぼやけ出し、今回の再精査によって未記載種と思われていたものが別種として分ける合理性を徐々に失いつつある。コモンサンゴ類のような種内変異幅が大きな分類群は、「1種につき数個のみの資料解析では不十分であり、正しく種を理解するためには多数の標本に基づく変異幅の精査が不可欠である」、ということだ。
 ところで、分類学者の性向として2つの型があると言われている。それは、種をやたらに細かく分ける細分主義者(スプリッター)と、やたらにまとめたがる統括主義者(ランパー)である。そして、上述したように、コモンサンゴ類の場合、1種に関わる資料が少ないと、シノニムを乱発するスプリッターに陥る危険性が高い。これまで本類の分類に携った研究者らの論文を読むと、いずれも新種記載に用いられた資料数は極めて少ない。従って、有効名と言えどもそれを鵜呑みにするのは危ない。
 自分の研究史を振り返ると、初期は無謀なスプリッターで、今はランパー化しつつある。この道のりは、私のような凡庸な研究者が進化するためには不可避であった。とにかく、適格な分類に迫れればスプリッターでもランパーでもかまわない。「コモンサンゴワールド」の再構築へは精進あるのみ。

 末尾に、2日前に整理を終えたばかりのコツブコモンサンゴ Montipora tuberculosa (Lamarck, 1816) について、ランパー化の例として紹介したい。
 コツブコモンサンゴは進化論で有名なラマルクによって提唱された種であるが、原記載は短く(わずか数行)、図も添付されなかったことから現在まで種解釈の混乱が続いている。本種を認識する上で役立ったのは、コモンサンゴ類分類の父と言えるバーナードが1897年に著したモノグラフで、彼はラマルクのタイプ標本を見つけ出して再記載を行い、本種の最重要な分類形質について以下のように具体的に記した。「疣状突起の径は0.75mm、高さは1mm、高くエレガントで相称、ただし幾分疎らな柱状」。しかしながら、バーナードは種を見分ける能力は抜群であったが、記載に主観を交えるのが難点で、「共骨は羊毛状」とか、「個体は星形」などの抽象的表現がしばしばなされるため、理解に苦しむことが多い。ここでは「エレガントな疣状突起」とあり、イメージが湧かない。そこで、何かヒントになるものはないかとネットサーフィンをしていたら、あった。あるホームページに「エレガントと形容される日本女性は美智子様だけである」と書かれていた。そこでひらめいた。本種の疣状突起はスレンダーである。バーナードはこれを雅な女性の立ち姿に見立てたに違いない。個人的には吉永小百合さんでもよいと思う。




コツブコモンサンゴ Montipora tuberculosa (Lamarck, 1816):西表島網取産
最もエレガントな疣状突起を持つ標本を選んだ。


 ところで、コツブコモンサンゴに形態が酷似するものの、必ず疣状突起の上半部が紫色を呈し、共骨と疣状突起の肌理は粗く(コツブは細かい)、1次隔壁は短く(コツブは長い)、色彩も形態も異なる個体群が国内から見出され、形態差が明瞭であることから未記載種であると判断してムラサキコツブコモンサンゴの和名を与えた。この「種」は標本が少ない間は矛盾はなかったのであるが、標本を集めるに従い両者の中間型が多数見つかるようになり、今回改めて比較するとこれまでの識別形質が役立たず、他に両者を区別する形質も見つからない。そのため、ムラサキコツブコモンサンゴは種ではなく、コツブコモンサンゴの中の1形態群に過ぎないと数日前に判断された。



ムラサキコツブコモンサンゴ(コツブコモンサンゴのムラサキ型):ケラマ群島阿嘉島産
明らかに未記載種であると信じていたのであるが。。。。



ヒオドシチョウの羽化率は50%

2020-06-19 | 雑感

 散歩コースのバリエーションにはいくつかあるが、週一程度で訪れるのがここカワセミポイントである。ここの川端でカワセミを目撃したのでそう名付けたのであるが、残念ながら遭遇率は極めて低い。

 カワセミポイントの近くにエノキの木があり、5月のある日、ここで悲惨な光景を目撃した。毛虫が大発生し、葉が食べ尽くされて木が丸裸状態だったのである。




 次にここを通過すると、毛虫が一斉に蛹になっていることに気づいた。枝に鈴なりになっている所もあるが、多くは主幹に集中し、しかも帯状に美しく整列していた。さらに、蛹の姿がトゲウオのようでもあり、ゴジラの背中のようでもあり、とてもかっこいい。これがどんなチョウに化けるのか、その羽化した姿にたいへん興味を覚えたので、学術観察?のために2個ほど持ち帰った。



 蛹を虫かごにセットし、研究室の目の届く所においてチラチラ見の観察を開始した。変化は1週間後に訪れた。なんと、1cm程の別の(寄生昆虫の)蛹が虫かごの中に落ちているではないか。どちらか一方のチョウの蛹の身を食べてウジの姿で外に脱出し、素早く蛹になったものであろう。チョウの蛹は今後どうなる?。
 結果はその翌日に分かった。一方の蛹から、美しいチョウが羽化し、一方は観察を打ち切る2週間後まで蛹の形のまま、さらに、寄生昆虫の方も羽化せずに終わった。



 羽化したチョウの正体はヒオドシチョウ、タテハの仲間で全長は5cmほど、羽裏は地味な隠蔽色であるが、表は鮮やかな橙色、羽を開いた時に発するこのど派手な色彩は捕食者に対しフラッシング効果があるのであろう。羽化したばかりのチョウは全く動かなかったので、庭の花に止まらせて放置していたら、いつのまにか飛び去っていた。ちなみにオドシ(縅)とは甲冑に用いる鎧の部分。



 後日、カワセミポイントのエノキを訪れると、羽化したばかりのチョウが蛹の横のそこかしに止まっていた。さらに後日、ここを訪れると、チョウはいなくなっていたが、羽化した色の薄い蛹(殻)と羽化しなかった色の濃い蛹が残ったままになっており、両者の比は、虫かご内と同様にほぼ1:1であった。



 資料によると、ヒオドシチョウの毛虫は毒々しいが、これは見かけだけで毒はないため鳥や肉食昆虫の餌食になるそうである。また、特殊なハチやハエの寄生を受け、かなりの被害を受けるそうである。そして、虫かご内に落ちていた蛹は寄生バエのものであった。


 ところで、今回、感嘆したのはヒオドシチョウの羽化ばかりではなく、エノキの生命力である。丸裸になっても1ヶ月で見事に復活を遂げていた。長い進化史の中で、これしきの食害で怯んでいたら種は残せないということだ。



あなたの名前は何?

2020-06-01 | 雑感


 ちょうど1年前、河原に大型のキク科の黄色い花が咲いているのを見つけた。丈は1m、花は10cmにもなり、たいへんエレガントである。こんな目立つ花、種名はすぐに分かると思い手元にある図鑑類を当たったが出ていない。最後の頼みである娘に画像を送り彼女の花検索ソフトにかけてもヒットしない。そこで、どうせ外来種であろうと決め込み、名前調べはお蔵入りとなった。
 ところが1年して、本種の新たな、比較的広範囲にわたる群生地を見つけた。そこで、再挑戦、今度はウエブで「キク科の黄色い大型の花」で検索していたら意外と簡単に見つかった。その名はハンカイソウ。
 歴史好きなのですぐにその名の由来は分かったが、ソフィアローレンのようなゴージャスな姿とはあまりにもギャップがある名に驚いた。というのも、ハンカイとは、漢王朝を築いた劉邦の武将である「樊噲」の事であり、「花の名は堂々とした姿を歴史上の豪傑に例えた」とされている。
 しかしながら、樊噲よりも有名な猛将は、劉邦の宿敵であった項羽や、三国志で馴染み深い関羽や張飛等、中国にはあまたいる。しかも、和名なので(さらに学名は日本)、加藤清正とか上杉謙信や本多忠勝に例えてもよかったはずである。わざわざ中国の渋い武将に例えたのは、命名者がよほど樊噲に美学を感じていたためであろう。やはり命名者は牧野博士であろうか。


ハンカイソウ
学名: Ligularia japonica
英名: Chinese Dragon
花言葉:わずかな愛
キク科の多年草、東アジア地域の固有種で静岡県以西から九州に分布し、山地の湿った環境を好む。本種とマルバダケブキとの交雑種は、本種と対比させてチョウリョウソウ(張良は劉邦の参謀)の名が付けられている。



廃林道横の河原の日陰で人知れず咲くハンカイソウ