弱い文明

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キング・クリムゾンの「RED」

2011年07月03日 | 音楽

 キング・クリムゾンはいわずと知れた英国プログレッシヴ・ロックの大御所(というか、ほとんど“創始者”)で、アルバム「レッド」は1974年に発表された、スタジオ版としては通算7作目の作品。ファンにとっては、超人的な名作であるデビュー・アルバムに並ぶ、もう一つの傑作との呼び声高いアルバムである。また、ジョン・ウエットン、ビル・ブラッフォード、デヴィッド・クロスという才能豊かな名手を擁したいわゆる「第二期」最後のアルバムであり(といってもD・クロスは直前に脱退していて、正式にはトリオでのリリースになっているが)、これよりのちに再結成されて以降のクリムゾンなんかクリムゾンとは認めない!と主張するファンまでいる。・・・まあともかく、昔からとても人気の高いアルバムである。

 高校生の時、このアルバムを初めて手にして、音楽そのものはもちろん、アルバムの裏ジャケットにある写真(上写真)に強く惹かれた。車か何かの動力機関のタコメーター(回転数計)らしいのだけど、それが文字通り“レッド”・ゾーンを振り切っている。その写真を見て、また一曲目のタイトル・ナンバー「Red」の重苦しい旋律を聴いて、これは人間の文明がレッド・ゾーンに突入した、そういう警告ではないかと直感的に思った。
 クリムゾンがスタートしたのは60年代の末頃だが、70年代に入って「先進国」の行き詰まりはさらに進んだ。デタントの時期とはいえ冷戦は続き、米ソは人類を何十回でも絶滅させることができるだけの核兵器で武装している。物質中心主義の矛盾がそこかしこに現れ、人々は病的に引き裂かれている。この狂気の時代をどう生きるのかという問いに、誠実なアーティストであればあるほど、おのおの答えを出そうとしていた。クリムゾンが出した答えはアルバム全体を貫く沈痛なムード、そして人知を超えた破局への転落を思わせるような重い音、最終曲「Starless」で表現される暗黒の世界。このアルバムを発表直後、クリムゾンは解散した。

 タイトル曲「Red」は、80年代以降再結成されたクリムゾンにおいても、数少ない往年の演目として、ライヴで演奏されている。リーダーのロバート・フリップはその理由を「この曲と「Larks' Tongues in Aspic PartⅡ」(邦題「太陽と戦慄パート2」)だけは、今演奏しても曲を作った時と同じアドレナリンがほとばしる」みたいな、つまりまったく古くなっていないという感触を自身が持っているからだと、インタビューで答えていた。
 確かに、この曲は古くなりようがない何か、を持っている。ほとんど錆びることのない金属のような。僕はいつの頃からか、広島の原爆忌が近づくとこの曲を思い出す、あるいは原爆ドームの写真を見ると思い出すという、変な癖がついているのだが、フクシマ以降は、あの屋根が吹き飛んだ建屋を見ても思い出すようになってしまった。
 「Red」は「核」か。核の「臨界」だろうか。ちっとも新しくはない、しかし古くもならない。
 そして今、スリーマイルを経て、チェルノブイリを経て、フクシマまで来た。越えてはならない一線を越えてしまった、起きてはならないことが起きてしまった。この戦慄、絶望が古くなってくれたらいいのに、と思いつつ、それはこの時代、当分は無理だろうという予感にもうなされる。
 「Red」はインスト・ナンバー。聴く人それぞれが違った絵を思い浮かべるだろうけど、この際「なぜ我々はこんな目に会うのだろう・・・?」という問いとともに耳を傾けてみたら、と思う。

 http://www.youtube.com/watch?v=YVkKEYcRa4g

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4 コメント

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重さが違う (tokoro)
2011-07-04 00:13:09
John Wetton加入後のKing Crimsonって今聴いても全然古臭く感じないのが不思議なんですよね。
何時まで経っても刺激的と言うんでしょうか。
80年代の曲もアレはアレで好きなんですけれども、心にキックを入れてくれる重さはWettonがいる頃のほうがあるように感じます。

Robert Frippの活動は最近全然追いかけてないのでわからないんですが、
YesとVan Der Graaf Generatorの新譜は買いました。
二組とも全く変わりないのが驚きでした。
結構皆良いジイサンになっているのになぁ・・・。
まあなかなか俗っぽくならないからこそ続けられるのかもしれませんが。
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>重さが違う (レイランダー)
2011-07-04 11:09:43
80年代以降のクリムゾンは、よい意味での軽さ、柔らかさを備えていて、それが文法としての狙いなんだろうとは思うんですが、聴き比べると、やっぱり70年代の方がアグレッシヴかつ古さがなくて、しかも「自然の気」が濃厚な感じがするんですよね。僕がそういう年代だからに過ぎないんでしょうか…?そうなら、あまり強弁できないんだけど(笑)。

いずれにしろ、90年代以降なら、NINとかTOOLとかマーズ・ヴォルタなんかの方が、70年代クリムゾンの言うなれば後継とも言うべき「重さ」を引き継いでる気が、個人的にはしてます。
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いろいろ妄想 (talkingdrum)
2011-07-06 14:20:13
「暗黒の世界」の"Fracture"は、なぜか”突破口”みたいな邦題がついてましたけど、普通に”裂け目”って意味だと思うんですね。歪みと圧力が高まって最後に裂け目が生じて崩壊していくイメージ。
「偉大なる詐欺師」で始まって、"裂け目"で終わるアルバムはなんと今の(311に至る)日本にぴったりなことか。そして”RED”は崩壊以降を生きる私たちの、、、なんて、暑さのせいかいろいろ妄想してしまいます。

それはそうと、私がロックきく時、まずドラムの音に耳が行くんだけど、そういう聞き方をするようになったのがこの時期のクリムゾン(と、あとはTho Whoのライブ盤)のせいで、人の音楽の聞き方を変えて(歪めて?)しまった迷惑なやつらです。(笑)
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>いろいろ妄想 (レイランダー)
2011-07-06 23:30:24
"Fracture"は僕も最初の頃、邦題に引きずられてイメージしているところがありました。大人になってから、石橋克彦さんの本で、大地震が起きるプロセスとして、最初小さな亀裂があちらこちらでピチピチと始まって、その生成が爆発的になって、無数の亀裂がつながって一つの岩盤の大破壊に至る…ってな描写を読んで。実はそれで"Fracture"の曲の構成を連想しました(笑)。
地下の岩盤も破壊したし、圧力容器も、格納容器も壊れたし…もっと大きな、科学が人類を救うという信仰の崩壊をクリムゾンは検知していて、それが「Starless and Bible Black」というタイトルにつながっているような気もします。
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