弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

院内集会:石橋克彦教授の話

2011年04月28日 | 原発 3.11 フクシマ
 次から次から、途方もないニュースが入ってくる。被曝上限の撤廃を示唆するなど、正気を疑う政府の対応一つ一つに気が滅入ったり、怒りに震えたりしながらも、できることを粛々とやっていくしかないと心を落ち着けたり。同時に、首都圏の人間として、ある種の覚悟を求められる局面がいよいよかもな、と腑に落ちたり。何でもいいから、とにかく子供だけは救わねば、と思ったり。
 京大助教・小出裕章氏の昔の講演記事を読んでいたら、宮澤賢治の「個性の優れる方面に於て、各々止むなき表現をなせ」という言葉が紹介されていた。励まされる言葉だと感動しつつ、しかし俺のブログなんか誰かの役に立っているんだろうか?という疑問が常々浮かんでいる。同時に、いや誰かのためかどうかは知らんが、自分が正気でいるのに必要だからなくそったれ、と思っている自分もいる。
 誰かがどこかで言っていた。将来、この2011年3.11から続く数ヶ月の日々が、日本の歴史においていかに、絶望と希望のないまぜになった奇妙な日々だったか、回顧する時が来るだろう、という──そうかも知れないな、と思う。と同時に、そんなことを冷静に想像してる場合か、という焦りもあり・・・・やっぱり、奇妙な日々なのだった。

 26日、参議院議員会館講堂で、原子力資料情報室が主催する二つの院内集会に連続参加してきた。
 最初はお昼頃の「チェルノブイリから25年 いま福島原発事故を考える」で、ロシアのチェルノブイリ事故被曝地から来日中のパーベル・ヴドヴィチェンコさんと、広河隆一さんの二人を講師に迎えたもの。広河さんはこれまでのチェルノブイリ取材で撮りためた写真と今回の福島で撮った写真を並立して見せながら、事態が今どこまでいっているのか、鋭くえぐるようなリポートをしてくれた。
 パーヴェルさんの話は25年経った今でも終わりが見えない被曝の後遺症のことを中心に、いかに行政が信用ならないか、というテーマを盛り込んだものだった。ちょっと通訳の人が原発関係の事柄に暗いのか、うまく通訳できていない感じがあったのが残念だったが…。
 二人合わせて一時間の、駆け足の講演だったが、内容は濃かった。

 ただもちろん御二方の話、とても重要なものであることは言うまでもないのだけど、この日に限っては、僕が永田町までやって来た目的は午後の二つ目の講演、地震学者・石橋克彦教授による『「福島原発震災」後の日本の原子力政策を考える』の方に重きがあった。
 阪神・淡路大震災の年に名著「大地動乱の時代」を読んで以来、石橋教授は僕にとってとてもマブしい存在というか、憧れの「師匠」のような存在。その石橋氏にやっと会える、「生」石橋をやっと拝める(笑)というのが、この企画だった。

 実物の石橋氏は何度か写真で見たとおり、話し方も朴訥としていて、予想通りのおだやかな印象の人だった。ただ、思った以上にユーモアのセンスがある人で、地震学では押しも押されぬ「巨匠」クラスの人なのに、ひょうひょうとした語り口、立ち居振る舞いが印象的だった。
 いきなり出だしから面白かった。かつて軍国主義だった日本は、今は「原発主義」の時代。軍国主義と同じくらい、暗い時代であると。
 そんな中、反原発は「反」という文字がつくというだけで、世間ではネガティヴに思われることが多い。これを何とか覆したい。そこで、自分は酒好きなので、思いついたのがアルコール・フリーならぬ「原発フリー」。これだと、推進派は「反・原発フリー」となり、「反」がつくのは向こうになる。ざまあ見なさい、と(そうは言わなかったけど)。

 続く内容も、どこをどう紹介するか迷うくらい、内容が濃かった。いくつか重要と思われるポイントを思い出してみると、

○先の戦争の敗戦に至る過程と今の状況は酷似している。
「根拠のない自己過信」「失敗した時の底の知れない無責任さ」「起きてはならないことは起こらないことにする意識」…政府は半世紀にわたる失政で国民に加害を与えている、そして諸外国に甚大な迷惑をかけている。

○福島事故は津波による被害の前に、地震動によって再循環系の破断があってLOCA(冷却材喪失事故)が起こっていた可能性が高い(1号機)。つまり、津波の想定以前に、地震に対する想定も甘かった。

○浜岡は原発震災を起こす可能性が高い、全電源喪失事故が起きると警告した石橋論文に対し、「原子力工学的にありえない」「石橋氏は原子力の分野では聞いたことがない人だ」と答えた静岡県の原子力アドバイザーが、現・安全委員会委員長斑目春樹。「専門外のくせに、根拠なく言及している」と退けたのが現・内閣参与の小佐古敏荘(4/29抗議辞任-下注2参照)。だが、石橋氏の警告は福島で全部的中した。

○「浜岡は地盤が悪い」と指摘したら、中部電力の人が気色ばんで、「東電の福島や柏崎の方がもっと悪いですよ!」と反論した(笑)。

○若狭湾は後から後から見つかる活断層の巣。国はとうとう「活断層の上」ということの定義を変えてしまった。原子炉建屋の真下に断層がなければ「上」ではないと。

○福島事故後、各地の原発で福島タイプの地震・津波が来た際の安全対策の強化を始めて、それをメディアに得意顔で発表しているが、マンガの世界だ。そんな災害が予想される場所に、そもそも原発を建てるのが狂気の沙汰。法的にも、原子炉立地審査指針から外れている。つまり、「安全対策を強化したからOKです」ではなくて、そんな強化が必要な場所には建ててはいけないはずなのだ。

 などなど。
 僕が石橋氏を好きな理由は、もちろん優れた地震学者であると同時に、いやだからこそというべきか、自然との共生に根ざす人類文明のあり方を見据えていて、その文明観にまったく共感するからだ。今回も当然結論はそこにあったわけだが、やはり今の事態、犯罪的な事態の進行ということをふまえていればこそ、いわゆる専門家の中の「戦犯」と言うべき連中に対し、「公職追放はありうる」という強めの言葉も出た。
 学者の世界という象牙の塔に閉じこもることのない、石橋さんや京大の小出さん・今中さんのような人たちに注目が集まることを期待しつつ、こちらはこちらで一市民としてやれることをやっていこうと、あらためて勇気付けられた。
 それにしてもたっぷり3時間ノンストップの講義をしながら、「5時間でもわたしはいいですよ」とケロっとしていた石橋氏。本当に、5時間くらい、一緒に酒を飲みながらいろんな話をしまくれたらなあ、と思ってしまう先生だった。

 上にあげた内容は、石橋氏作成のパワーポイント資料として、いずれ原子力資料情報室でダウンロードできるようになる(らしい──まだなってないけど)。
 一部話が飛んでいる(スタッフが間違って電気を落としてしまい、中断した時間もあった)ところがあるが、一応録画はこちらから、計4本にまたがっているみたい。

 http://www.ustream.tv/recorded/14283493
 http://www.ustream.tv/recorded/14283895
 http://www.ustream.tv/recorded/14283928
 http://www.ustream.tv/recorded/14284465
※注 4/29午前現在、アーカイヴから消えてます。原因は分かりません。ツイッターで書き出しの情報を友人からもらいました。以下転記:
「@nixe_sc (Nixe ニクセ)さんを探してください。ツイッターのアカウントを持っていなくても、見れます。その人の4月26日のところまで遡ると「石橋克彦先生の中継を待つ」というようなのが現れて、書き取りが出てきます。https://twitter.com/ 」

※注2 子供の被曝限度20ミリシーベルトに抗議、辞任。最後の最後で人間に戻ったか。
「容認すれば学者生命は終わり。自分の子どもをそういう目に遭わせたくない」
 http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110430k0000m010073000c.html

付記:
webDICE-骰子の眼-4月27日付の小出助教へのインタビューは、今エントリーの石橋教授の主張と対になるような、本当に素晴らしい内容。一人でも多くの人が読んでほしい。
「どうしても放射性廃棄物を捨てるなら、東京に」原子力の識者がなぜ反原発を掲げるのか、京都大学原子炉実験所・小出裕章助教に聞く

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5 コメント

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Unknown (パドメ)
2011-04-28 22:43:59
石橋先生のお話を聞かれたのですね。うらやましいです。
私も「大地動乱の時代」を読んで、いつか直にお話を聞きたいな~と思ってますが、なかなか時間があわなくて…。
ほんとに、今は毎日、心ざわめく日々ですが、こちらのブログは、少なくとも私には、重要な情報源です。応援してますので!
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応援してます (リーサ)
2011-04-30 04:11:21
今回の記事も情報満載で、感嘆しました。前置きの文は、ぜひ、全国民に読んでいただきたいです。新聞に投書しても、採用されないのかな・・・

投票にちゃんと行く50歳以上の人は、新聞は熱心に読むけれど、ネットサーフィンはしない人がすごく多いです。マスコミの情報しかいかない・・・私が所属しているサークルでは、誠意のあるひとりが目覚めて教えてくれたので、みんなが情報を集めるようになりましたが(私もそのひとり)、なかなかそういう風に草の根的に広がるのは、むずかしいですよね。

でも、今回もせめて周りの人には伝えますね。がんばってください!
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いつも反対するだけの簡単なお仕事です (Unknown)
2011-04-30 13:52:29
いつも反対するだけの簡単なお仕事です
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ありがとうございます (レイランダー)
2011-04-30 14:34:05
パドメさん、リーサさん、ありがとうございます。

僕は本当に単なる一般人ですので、情報発信とか言ったって、誰かの情報を横流ししてるに過ぎないわけですが、それだけでもやらなくちゃ、と焦ってしまう、今はそういう局面なんですね。
早くそんな局面から抜け出したいですけど…いつになるやら、展望が定まりません。お互い、腰を落ち着けて、やっていくしかないですね。あまりへこみ過ぎないように。社会の中で、かつてない、いい面も現れてきてますからね。
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>いつも反対するだけの・・・ (レイランダー)
2011-04-30 14:42:16
君がね。
いや、俺にとっては反対するだけでも簡単ではない。根っから怠け者の自分としては、できれば遊び呆けていたいのよ。今いい季節だしね、本来は。

だから、簡単だというなら君がそれをやってくれたらいいのに、と思う。実際、いつもコメントするだけの君も、たまには何かやってよ。頼むから。
やり方わかんなければ、少しぐらいアドバイスするよ。俺の知識の範囲内で。
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