弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

NINE INCH NAILSに癒されて

2007年06月11日 | 音楽
 先々月発売されたナイン・インチ・ネイルズ(以下NIN)の新作『イヤー・ゼロ』は、評判どおりの力作だ。このところ毎日のように聴いている。
 「15年後の近未来を想像して作った」という本作からは、この時代にロック・ミュージシャンとしてマスに向かって発信することの責任というものを深く自覚しつつ、なおかつそれを活力に置き換えていくような、いい意味でのふてぶてしさを感じる。グラムシの言う「認識においては悲観的に、意志においては楽観的に」を地で行っているようなレコードだ。

 トレント・レズナーと彼のプロジェクトNINについては、僕の場合まだ知識が不足しているところもあり、作品論・アーティスト論などをぶち上げるのは遠慮したい。少しだけ触れさせてもらえば、彼は人としてごくまっとうな神経を持ったアーティストであり、音楽メディアを中心に今でも語られる「特異にヘヴィーな感性の持ち主」というような(カリスマ化を煽る)もてはやし方は、そろそろやめるべきではないかと、僕は考えている。
 また、無機質なエレクトロニクス・サウンドを大胆に取り込んだいわゆる「インダストリアル・ロック」の旗手という側面についても、他の「インダストリアル」と比較できる材料がないので詳しくは論じられないが、NINの特性はまさにその無機質な音を使いながら、そんじょそこらの「アコースティックな」「人間味のある」「ハートウォーミングな」(笑)音楽などより、はるかに濃厚に血の通った作品を作り上げることにある。非人間的な文明の中に這いつくばって生きねばならない者にとって、NINこそは健全な癒し系ではないかとさえ思う。
 
 その辺の話はさておき、ここではNINのビデオに注目したい。
 僕は洋楽邦楽を問わず、いわゆるプロモーション・ビデオというものがあまり好きではないのだけど、NINのビデオには、ハズレが少ない。優秀な監督を起用しているせいなのか、レズナーのアイデアが秀抜なのか。曲によっても事情は様々だろうが、優れた作品はその楽曲に「フィットさせる」というより、映像自体として「突き抜ける」ことを志向している点で共通している。特に衣装や小道具に凝った、ゴージャスな作りのものより、むしろシンプルな設定のものほど優れたものが多い。
 超有名なアーティストだから、僕が今さら紹介するまでもないものばかりだが、僕個人の思い入れでいくつかセレクトしてみたい。少しでも興味を持った人の参考になればと思う。
 なお、以下はどれもYouTubeのリンクだが、NINの公式サイト内VISUALS のページからもいくつか観ることはできる(オリジナルだから当然画質がいい)。ただしこちらは、環境によってはダウンロードしづらかったりする。

 「Survivalism」
 最新アルバム『イヤー・ゼロ』からのシングル。NINのビデオはモノクロが多いが、これもモノクロが効果的な作品。

 「March Of The Pigs」
 1994年発表のセカンド・アルバム『ザ・ダウンワード・スパイラル』から。
 単一カメラの長回し(モンタージュ一切なし)。レズナーは、たたずまいだけで語れる稀有な男であることがよくわかる。

 「Hurt」
 『ザ・ダウンワード・スパイラル』の最終曲。背景にビデオを使ったライヴでの映像。ラストに出現する“奇跡”が、とにかく感動的。

 「Only」
 2005年の前作『ウィズ・ティース』から。
 曲はさほどお気に入りでもないが、個人的に、今までに観たすべての“プロモーション・ビデオ”の中で、これほどぎょっとしたものはない。また、これほどNINの音楽の個性をうまく絵で言い表した映像もない、という気がする。未見の人は、できれば画像が鮮明な上記公式サイトの方で観てほしい。

 「We're In This Together」
 1999年のサード・アルバム『フラジャイル』から。
 曲自体が僕はめちゃめちゃ好きだが、映像のアイデアも面白い。

おまけ
 「In This Twilight」
 『イヤー・ゼロ』からの曲。
 これはNIN側が制作したビデオではなく、ファンの自作ビデオである。複数の映画のシーンなどを組み合わせて作ったそうだが、技術的にはもとより、アメリカの手になる新世界秩序がどんな未来をもたらすかという、レズナーの焦燥感を真摯に受け止めた上での、一つの解釈だ。ファンの自作ものは他にも数点あったが、今のところこれが一番完成度が高いように思う。


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7 コメント

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Unknown (羅閃)
2007-06-11 19:23:16
トラックバックありがとうございます!!そのお礼に……とは思ってみたものの、ナインインチネイルズは全然知らんので突っ込めませぬ。ああ私の無知の哀れorz



ただ、1回だけCS局でライブ映像を見たことがあって、面白いバンドだなと思ったことはありました。しかし、番組で扱われたのはライブの1曲だけで、パーソナリティに関する面は全くわからず終い。結局放置。



興味が湧いたので、イカレ気味のPCの復旧後にオススメ映像も探して見てみます。感想も後ほど。
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Unknown (rei)
2007-06-11 23:18:50
NIN新作お気に入りのようで。
私も購入以来ほぼ毎日聞いています。
ご指摘の通り、トレントに対しては『孤高のカリスマ』みたいなレッテルを貼ってしまいがちですが、ここ数年のインタビューを読んでみると、本人がアルコールやドラッグの中毒から抜け出たこともあってか、本当に知性的で人間味溢れる普通の青(中?)年だなと感じます。

一通りアルバムをチェックなさったのなら、ライヴ版の『AND ALL THAT COULD HAVE BEEN.』がオススメです。『The Fragile』後の作品なので最近の2作に収録されている曲は入っていませんが、スタジオ作品には無い躍動感があり、初期の作品もヘヴィにアレンジされていてとても素晴らしいです。
ちなみに映像では『The Perfect Drug』が私のお気に入りです。

内向的な歌詞で『暗黒のカリスマ』と呼ばれた彼が、不惑の歳を迎えた後で政治や社会問題に目覚めてそれらに真っ向から挑んでいく姿には私も勇気づけられます。
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トラックバックありがとうございました。 (和法)
2007-06-12 08:05:35
レイランダー様
はじめまして、和法と申します。
ホームページ拝見させていただきました。パレスチナに関心を持っていらっしゃるのは嬉しいです。チョムスキー(フォービキナーズ)も読んだところです。(サイードと一緒に勉強中です。)
最近のロックは詳しくなくて申し訳ないのですが、どうぞよろしくお願いいたします。
記事とは関連の薄いものですがトラックバック送らせていただきました。
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Unknown (どっこい)
2007-06-12 17:59:07
2000年の東京ベイN.K.ホール行きました。
オフィシャルサイトのピーター・マーフィーとのプライベート・ギグもいいっすよ
新譜、俺も買おうっと。
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みなさんまとめてありがとう (レイランダー)
2007-06-13 20:39:41
みなさんまとめてありがとう

>羅閃さん
レズナーは明らかにSOADなんかにも影響を与えた、90年代以降のミクスチャー隆盛の背後にいた「親玉」っぽい人だと思います。人によっても違うでしょうが、僕の場合SOADのようにいきなりガツンときたというより、だらだらくり返し聴いているうちにジワジワハマッていた、という感じです。

>reiさん
「Only」のビデオを2~3年前に観てぶっ飛んで以来、これはやっぱりちゃんと聴かなきゃなあと思ってはいたんですが、今年に入るまでなんだかんだ先延ばしにしていたみたいな。
ただ今度のやつはさすがに、一個のレコードという枠を超えても、無視できないところが多い。インナーのデザインも独創的だし、YouTubeの方には謎のプロデュース動画(ニュース音声と音楽が合体したような)が上がってるし。ライヴ会場で床にわざとUSBメモリをばらまいておいて、発見した客に持ち帰らせたりしてる、とか。そういう仕掛け全体でアルバムのコンセプトを展開してるっていうあたり、彼は本当の前衛ですよ。
『AND ALL THAT COULD HAVE BEEN.』はまだ未聴ですが、『フラジャイル』は大のお気に入りなので(特にLEFTサイド)、トライしてみます。

>和法さん
はじめまして。わざわざコメントありがとうございます。
以前からちょくちょく読ませていただいていました。ちょっとトラックバックはエントリー違いかなって気もしたんですが、広い意味で「1984」的な世界に対抗する、反権力の文化を結集するという視点で、送らせてもらいました。『イヤー・ゼロ』というのはまさにそういうストーリーのレコードなので。
今後ともよろしくです。ちなみにジョニ・ミッチェルも僕は好きです。

>どっこいさん
オフィシャルは、なんか僕の環境では使いづらいところがあって(本文で書いた「Only」realplayerヴァージョンも観れなくなってるし・・・)、まだ全体に目を通してないんですよ、実は。しかしあのサイト、デザインは本当にクールですよね。
最新の来日はつい先月にあったばかりだから、当分ないでしょうね。バンドとしての大掛かりなものじゃなくても、ぶらっとゲリラ的になんかやりに来てくれればいいのにな、と思ったりして。

テンプレ変えたら絵文字のパターンも増えてますな・・・^^。
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Unknown (rei)
2007-06-17 22:27:59
確かに「The Fragile」は非常に完成度が高い作品ですね。彼の凄い所は作品毎に音楽性を次々に変えながらも、どの作品も耳に馴染んでしまう所だと思います。しかし、決して安上がりなポップスではなく何度も繰り返し楽しむことができる。

ところで、『Asian Dub Foundation』はご存知ですか?私も最近チェックしてみたのですが、政治性・音楽性ともにもの凄いです。未チェックならば是非!
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ASIAN DUB FOUNDATION (レイランダー)
2007-06-19 02:17:12
>reiさん

ASIAN DUB FOUNDATIONは名前だけは何となく知ってましたが、詳しいバイオグラフィーなんかは知りませんでした。こんなに濃いー活動をしてる人達だとは(確かに人種構成は濃いーけど)。
「UKダブ」っていうくくりを耳にすると、どうしても80年代くらいの古いイメージしか基本的に湧かないんですけど、よりテクノっぽくてなおかつエスニックな要素が強い印象ですね。昔フランスに「カルト・ド・セジュール」っていう、やはり移民二世を中心にしたバンドがあったんだけど、それと匂いが似てます。
さらにマッシヴ・アタックなんかとつながりがあるんだとすると、エイドリアン・シャーウッド~OnU~マーク・スチュアートにもつながってはいるのかな?といっても、そっち方面自体あまり詳しくないんですけど。いずれにしても、英国の中でも相当にラディカルな部分を代表している集団なんでしょう。
さっき東芝EMIの視聴ページからサンプルを聴いたけど、なかなか個性的ですね。要チェック項目にリストアップしておきます。
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