弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

横浜国際フォトジャーナリズム・フェスティバルから①

2007年09月12日 | パレスチナ/イスラエル
 昨日11日、仕事を休むことができたので、横浜で開催中の横浜国際フォトジャーナリズム・フェスティバル2007および併設のイペント「9.11とパレスチナ」に行ってきた。
 「フェスティバル」の方は、赤レンガ倉庫1号館(上写真)の2Fスペースをいっぱいに使って、最近の世界の、特に大手メディアの報道から抜け落ちている、忘れ去られている部分に焦点を当てるような、気鋭のフォト・ジャーナリストたちの写真を一堂に会するような展示である。といっても、実行委員長が広河隆一さんであることからもわかるとおり、雑誌「DAYS JAPAN」の読者にはおなじみの写真群がほとんどだ。
 もちろん大きく引き伸ばしたそれらの写真は、雑誌で見るのと違う迫力がある。ただ僕の場合、以前に新宿のコニカミノルタプラザで開催された「DAYS JAPAN」の写真展に2度まで足を運んでいるので、その系統の写真展示については、特に新しい印象を想起させられるほどではなかった。正直、これだけだったら──電車賃片道千円近くかけて、横浜くんだりまでのこのこやってきたことを後悔しただろう(まあ実際は、久しぶりに会う友人たちと落ち合って中華街で飲み食いする予定もあったから、別に構わないのだが)。

 むしろ意外にも感動してしまったのは、併設展示されていた、横浜市内の小学生とろう学校の生徒たちが撮ったという、数十点の写真の方だ。
 これは「生きる」というテーマで何でもいいから写真を撮ってくるように、「写るんです」を手渡された子どもたちが、勝手気ままに撮ったスナップショットから選ばれたものだそうだ。被写体は友達・家族・近所のおっちゃんから、金魚・猫・とかげ・ゴキブリ・・・・公園・道路・空にいたるまで、てんでんバラバラなのだが、どれも信じられないくらいに生き生きしていた。信じられない──なんて世界は美しいんだ。ありふれた風景が、こんなに美しいなんて。「美しい」という活字すら必要でないくらい美しい。子どもたちはこんな世界を見ているのか。そういえば自分も見ていた気がするが・・・・。
 単に目線の低さから来るものだけではないだろう。これらの写真には「いい写真をとってやろう」という作為がまったく感じられない。というより、「いい写真」という概念を知らない者たちが撮った写真なのだ。知らないということと、知らなくても撮れる使い捨てカメラの簡便さが、こんなにみずみずしい「世界」を切り取ってくることを可能にしたのだ。
 普通、こうした写真をわざわざ大きく引き伸ばして見ることがないから気づかないけれど、子どもというのは皆、写真の天才ではないのか。─そこに、「写真」というものの秘密の一端を垣間見たような気がした。

 そんな写真を見た後で、「DAYS JAPAN」の方の写真を見ると、どうしても窮屈な感じがしてしまう。いずれもプロフェッショナルなカメラマンたちの、渾身の作だ。その渾身ぶりが、被写体が何であろうと──雄大な海であろうと山河であろうと──ある種の窮屈さを生んでしまう。
 だが、それは仕方がないのだ。窮屈さを逃れようとして、「子どもの純真な目」を追及したとて、本物の子どもにはかなわない。大人は大人の目で、窮屈さも引き受けつつ、その中でいさぎよく勝負するべきなのだ。
 時として、プロの写真の中にも、「子どもの純真な目」が宿ったかのような写真は存在する。だが少なくとも「フォト・ジャーナリズム」の分野で重要なのは、それが宿っているかどうかではなく、宿っているものを打ち沈めてでも「ここを見て!」と指差す意思と、裏腹にある痛みに耐える意思の強さだと思う。大人は大人にしかできないことを、ちゃんとやる責任がある(喜びも)。
 ただそんな中でも、僕としては絵画的な構図やミザンセーヌ(絵の中の人物配置)を狙っている「静的」な写真より、キャパじゃないけれど「偶然撮れてしまった」ような、構図もへったくれもない写真の方が、その瞬間の現場の動きがダイレクトに伝わってくるようで好きだ。
 写真に関しては一介の素人でしかない僕が、そんなにわか写真論を展開したくなるほどに、子どもたちの写真とプロの写真との一筋縄ではいかないコントラストが、僕にはけっこう衝撃だった。

 「横浜国際フォトジャーナリズム・フェスティバル」は今週末16日まで開催し、土曜には『踊れ、グローズヌイ!』の上映(予約制)、日曜には広河氏の出演する対話集会などのイベントもある。横浜近在で興味のある方は、調べて行ってみてください。
 併設イベント「9.11とパレスチナ」についてはエントリーをあらためて。

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