「足の負担を少なくする動き方」ってどんな動き方? 体全体を使った動き方を学ぶ
サッカーの動きは前に進むだけではない
「みなさんがやっている『腕を大きく振り、足をダイナミックに動かして走る』動作は下半身、特に足に疲れが溜まりやすく、膝に負担がかかりやすい動きです。そういう動作を長く続けたらオスグッド病などの原因にもなってしまう恐れがあります。一見、この走りは体全体を使っているように思いますが、上半身と下半身をうまく連動させられていない場合が多いです。
そもそもサッカーは真っ直ぐに走るスポーツではありません。左右、前後、斜めにより素早く動けたほうが実践に生きます。私はいま整形外科に勤務していますが、小学生で病院を訪れる子の多くは足を踏ん張って走ったり急な方向転換を続けたりした結果、オスグッド病などのケガに悩まされて診察に来るケースが大部分を占めています」
松井氏は、このような実技講習会を開いている主な理由を説明した。続けて、次のように語った。
「足は骨盤に対し下から、垂直ではなく大腿骨の先の部分で角度を付けて斜めについてます。『足を動かす時に腕を振れ』とよく言いますが、詳しくは腕ではなく骨盤(肩甲骨)を動かすことなんです。
この骨盤と、連結してる足の構造上、足を前に振り出すには骨盤を前後に動かすのではなく、上下に動かす事により、足の筋肉の最小限の力で、足が自然に前に振り出されるのです。
体の仕組みでいえば、骨盤(肩甲骨)を上に引き上げると足は自然に前に出る。右側の肩甲骨を引き上げてみて下さい。そうすると、右の足が引き上げられて右足が前に出るはずです。つまり、人間の動作には肩甲骨と骨盤が密接に関係しています。
ここで切り離せないのが、姿勢です。よく守備時に『腰を落とす』『重心を低くする』などの言葉を耳にすると思います。でも、その体勢からの動きは足の力だけで体を運んでいるから、試合の中では0コンマ何秒の遅れが出てしまう。この動作は行きたい方向に進む前に、逆足で勢いをつけて走っているはずなんです。
例えば、守備で左に対応したい場合、勢いをつけるために右足で『ヨイショ!』という感じで地面を蹴って左に進んでいる方も多いのではないでしょうか。左に進みたいのに一度右足で勢いをつける動作自体、そもそも無駄な動きが一回入っているんです。
しかも腰を落とせば当然、猫背になって骨盤に上半身が乗っていませんから下半身の力だけで動くことになる。イメージしてみて下さい。勢いをつけるために膝をたくさん曲げ、足の力だけで自分を動かし続けたら……。ジュニア年代の選手の膝が悲鳴をあげるのは想像できるはずです」
上半身と下半身をうまく連動させて走るには?
松井氏が指導する「上半身と下半身をうまく連動させて走るための基本」を整理したい。
1.上半身を骨盤に乗せる姿勢(ゼロベース)を作る
2.背中を上手く使い骨盤を左右に引き上げて動く
この2つのポイントが基本動作になる。そのためには肩甲骨と骨盤を連動させる筋肉の柔軟性を養う必要があり、そのためのウォーミングアップを教えてくれた。松井氏が言葉を多く発したのは“背中を上手く使う”ということである。この部分を柔らかくすることで「肩甲骨と骨盤の連動していることが“より”感じられるようになる」という。
001
【腰の部分の反りを保持し前傾する】
002
【腕と骨盤をつないでいる背中の筋肉を意識しながら手を耳の高さまで上げる】
003
【お尻を突き出し、背中の反り、背中に刺激を感じながら手の上げ下げを行う】
「背中の部分の筋肉がしっかりほぐれないと動きがぎこちなくなります。肩甲骨と骨盤がうまく連動させて動くということは、つまり、上半身と下半身を連動させて体全体を使って動くこと。だから、その接点である背中部分を柔らかくすることは重要なことなんです。さらに体への負担というよりは動くためのパワーを『肩甲骨まわり、背中部分、骨盤まわり』と3つに分散させているから少なくて済みます。
この動き方は、前に出た足が自然に次の動きにつながるように骨盤の下にくるため、上半身が骨盤にうまく乗る形になっています。なので、これまでのように足に力を入れて踏ん張らなくても走ることができます」
そして、参加者は20分程度のウォーミングアップ後に約1時間、上記に記した基本を意識しながら動く練習を行った。
「ゼロベース、骨盤を左右に上げる、足が前に出る」の繰り返し
「動くときに大切なのは、下半身を動かすのではなく、まず上半身を意識して動かすことです。そうすれば、人間の体は自然に行きたい方向が定まるから進むんです。極端な話、ゼロベースの姿勢で右に動きたければ左肩を右に引き上げたらいい。肩甲骨は動きの合図を出す役割も果たしているんです。基本姿勢のまま、肩甲骨を前後左右斜めに引き上げたら進みたい方向に足が出ていきます。これが『足に負担のない、体全体を使った動き方』です。
実技講習会ではポイントを絞って指導しているので、みなさん最初は違和感を持たれているようですが、少し練習をして、これまでの走り方をやってもらうと『足が疲れる』とほとんどの方が口にされます。ようするに、足を使って動いている証拠なんです。
動きの原理として順を追うと『上半身が骨盤に乗る → 骨盤(肩甲骨)を引き上げる → 同時に足が引き上げられて前に足が出る → その流れで、再び上半身が骨盤に乗る → 逆の骨盤(肩甲骨)を引き上げる …』という流れになります。
例えば、速くなりたいからと足を大きく使って走る方がいますが、それではある程度のところまで速くなってもそれ以上は望めないでしょう。なぜなら、足を大きく前に出せば体をそこに進めるため、後ろ足に力を入れて一生懸命に蹴り出さないといけないので結果としてブレーキがかかった状態になってしまいます。実際に歩幅を限界まで大きく使って前に進んでみたら理解できます。
当然、勢いがつけば歩幅を大きくなりますが、それは自然に起こることであって無理に意識してやろうとすれば体に無駄な力を使うことになり、かえって逆効果です」
今回は、松井氏が指導する動きの基本的なことだけを書いた。もちろん、そこに付随することはまだたくさんあるのは言うまでもない。ただ強くうったえていたのは、足の力だけに頼った動きをしていればケガをする可能性があるということだ。だからこそ体の仕組みを理解した上で、基本的な動きをマスターしサッカーをプレーしてほしい。サッカーは前に進むだけのスポーツではないのだから。
http://jr-soccer.jp/2017/02/28/post59849/