先生の力なんて5〜10%
フィギアスケートのコーチの存在について、山田満知子は持論を語る。
「先生なんてさ。そりゃあ初心者の時は、先生の力は大きいと思うんですよ。いつも山本草太にも言っているんですけど、お料理に例えれば私なんか、お塩やこしょうを振ったりするだけ。本人の力が80~90%。先生の力なんか5~10%、足してあげているだけで。
あれぐらいの選手なら、自分のことは自分でよく分かる。なぜこうなっちゃったとか、踏み切りがどうのこうのっていうのは」この日も草太のレッスンがあったが、ほとんど黙って見ていたと明かす。
「失敗すると、ちょっと呼んで『今こうなっていたけど、良い時はこうだから」って伝えると、選手も「ああ、そうかもしれませんね』みたいな感じで。ほとんど本人さんですよ」
その上で、スケートリンクへ行く。理由を続けた。
「私が行った方がね。一人で練習していても拍手する人もいないし。私は跳べれば拍手してあげるし、先生がいないより、いた方がいいと思うから行くだけであって。本当に、うん」満知子の視線が大きいと。
「そうだと思う。子どもたちが張り切れる。現実に、大須のリンクにいるちっちゃい子なんか、私が行くと突然、張り切り出すからね。時々、泣いてる子がいて、お母さんに聞くと『先生にいいところを見せようと思ったのに、うまくいかないから泣いちゃったんですよ』って。あら、そうなのって。私なんか、そんなもんよ」そこにいる。そして、じっと見ている。その大切さを満知子は、かみ締めている。
「ちっちゃい子の時は手取り足取り教えますが、大きくなったらじっと見てる時が多いかな。それこそ『待つ、待つ、待つ」。自分で気づくのを待っている」
そんな「極意」を得たきっかけが、駆け出しのころにあった。
放任ではなく、矯正でもない。
見守るよりも、観伸ばす。