一本の紐くろぐろと濡れながらうごめき出して蚯蚓となりぬ
(杉山春代)
まだ夜の領域にない水面にひらきはじめる蓮のはなびら
(猪幸絵)
或る秋は彼岸花咲く田居を過ぎ名を知らぬ山に入りゆきにけり
(酒井佑子)
月光(つきかげ)に虫の鳴く音もたかなりて扇風機しまふ一夏の果てに
(岡田幸)
八対二の割合で茂吉と啄木の影響を受けゐる小池光言ふ
(山寺修象)
病棟の五階のまどより見下ろせば最終電車はひかり曳きゆく
(関谷啓子)
透明な水が流れてゆく夢の水にわたしはわたしを流す
(高田薫)
ラウル・デュフィの海の色と決め花を買うわが誕生日雲ひとつなし
(木曽陽子)
頁繰るごとに近づく死はありぬ遺歌集を読む夏のいちにち
(加藤隆枝)
ああきれいキラキラふりくるあれはなに三歳(みつつ)のわれが見し焼夷弾
(竹浦道子)
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短歌人10月号、同人1欄より。
坂道の多き町なり風立ちてむかしのきみと擦れちがふ午後
(近藤かすみ)
(杉山春代)
まだ夜の領域にない水面にひらきはじめる蓮のはなびら
(猪幸絵)
或る秋は彼岸花咲く田居を過ぎ名を知らぬ山に入りゆきにけり
(酒井佑子)
月光(つきかげ)に虫の鳴く音もたかなりて扇風機しまふ一夏の果てに
(岡田幸)
八対二の割合で茂吉と啄木の影響を受けゐる小池光言ふ
(山寺修象)
病棟の五階のまどより見下ろせば最終電車はひかり曳きゆく
(関谷啓子)
透明な水が流れてゆく夢の水にわたしはわたしを流す
(高田薫)
ラウル・デュフィの海の色と決め花を買うわが誕生日雲ひとつなし
(木曽陽子)
頁繰るごとに近づく死はありぬ遺歌集を読む夏のいちにち
(加藤隆枝)
ああきれいキラキラふりくるあれはなに三歳(みつつ)のわれが見し焼夷弾
(竹浦道子)
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短歌人10月号、同人1欄より。
坂道の多き町なり風立ちてむかしのきみと擦れちがふ午後
(近藤かすみ)
わたしの歌は、夏に長崎へ行ったときの一首でした。
坂道の多き町なり風立ちてむかしのきみと擦れちがふ午後 近藤かすみ
詩人にとっては、現実や時のながれこそ幻想にすぎないのかもしれません。